第22期雀王決定戦観戦記 3日目(11回戦)

第22期雀王決定戦観戦記
3日目 11回戦

【担当記者:中島由矩】

(矢島-浅井-堀-仲林)

2024年1月に第100回を迎え、箱根駅伝の愛称で国民に親しまれている東京箱根間往復大学駅伝の、放送に関するドキュメンタリーを見たことがある。そこでは、「順位が変わる瞬間は必ず視聴者に見せるようにする」と言っていた。

第22期雀王決定戦も、往路(前半10回戦)が終わり今から復路(後半10回戦)が始まる。駅伝とは異なりすべて1人が打つ麻雀だが、日が変わり月が新しくなると、それまで勝っていた者が急に苦しくなったり、反対にそれまで苦境に立たされていた者が一気によくなったりすることはあるものだ。

現在+207.0ptで2位の仲林圭が、+273.1ptで首位を走る堀慎吾をとらえる瞬間を、この11回戦で読んでいただけるかもしれない。

そんな筆者の思いを知ってか知らずか、先制リーチは矢島亨。リャンメン・リャンメンのイーシャンテンからスムーズに麻雀牌:四索を引き、麻雀牌:三筒を横に曲げた。リーチ・ピンフ・ドラ1で打点は5800から、待ちは麻雀牌:一萬麻雀牌:四萬だ。

その矢島のリーチを受けた仲林が、鋭く踏み込んでいく。麻雀牌:白麻雀牌:中と2つ仕掛け、役役ホンイツ8000のイーシャンテンとなっている仲林は、一発で無スジの麻雀牌:四筒をプッシュ。

勝負に見合う手ではあるものの、さりとて親リーチに一発でドラまたぎの無スジを切るのは怖いもの。一発目はとりあえず現物の麻雀牌:六萬を切り、麻雀牌:一萬麻雀牌:八萬ポンできたときのみ麻雀牌:四筒を勝負する、という選択をしてもよかったように思えた。

しかし麻雀の神様は、蛮勇を奮い自分を貫き通した仲林に微笑む。麻雀牌:六萬を残したからこそ有効牌となったカン麻雀牌:七萬を引き入れて、麻雀牌:二萬麻雀牌:五萬待ちテンパイを入れると、

麻雀牌:五萬を力強く引き寄せて、2000/4000。

仲林はさらに一気呵成にたたみかける。

ドラ3の手牌を丁寧に育て、8巡目にリーチを宣言すると

ピンフがついて3000/6000となる麻雀牌:四筒をツモ。この11回戦トップ目であるのはもちろんのこと、トータル順位でも堀に並びかける。

仲林はトップ目に立ってからも、決して緩めることなく加点し、

矢島が堀からチンイツの18000をアガって追いすがってきた後も、

むしろ堀の着ダウンを追い風と考え、1300/2600をツモアガリ。

南3局3本場の時点では、

東家・堀5700

南家・仲林52200

西家・矢島18300

北家・浅井23800

と、盤石のリードを築いた。

しかし、ここで逆襲のヘラクレス・浅井堂岐がやって来る。親番もすでに落ちた浅井が、この11回戦でできるアガリは最大でもあと2回だ。ここで結論を書こう。浅井はたった2回のアガリで仲林を逆転する。

まずは、浅井自身「もっとも打点上昇効率がいい」と気に入っている、ツモリ三暗刻のテンパイを入れると、

そのままツモアガリ。出アガリだとタンヤオのみの1300は2200なのだが、ツモアガリの場合はツモ・タンヤオ・三暗刻で2000/4000は2300/4300。実に4倍以上の収入を得、縦長の展開に持ち込み、3着目矢島、4着目堀の動きを封じる。

続く南4局0本場、

東家・仲林49900

南家・矢島16000

西家・浅井32700

北家・堀1400

浅井は3着への着落ちがほぼなくなったことに加えて、配牌にも恵まれる。

それでも麻雀牌:白麻雀牌:発・ドラドラの8000では、トップ目の仲林を直撃しても足りないため、ホンイツもしくはトイトイをつけてなんとか12000や16000に…と思っていたところに、4枚目の麻雀牌:白を持ってきて暗カンすると、

新ドラが麻雀牌:白になって、風雲急を告げる。これで現状麻雀牌:白・ドラ6の12000が確定し、

カン麻雀牌:八筒に引き続きドラの麻雀牌:三萬も引き入れてシャンポンテンパイ。リーチをせずとも、麻雀牌:発でも麻雀牌:八萬でも16000という大物手に仕上がった。こうなると、矢島・堀からは見逃し、トップ目の仲林から直撃もしくはツモアガリを狙いたい。

タンヤオを本線に手を進めていた仲林のもとに、11回終了の合図となる麻雀牌:発が舞い降りた。

浅井の手が倒される。麻雀牌:白麻雀牌:発・ドラ7のダマ倍満直撃でゲームセット。

東場では、トータルスコア2位の仲林が、首位の堀を追い抜く姿を書くことになるかと思っていたが、南3局・南4局のたった2局で11回戦のトップ者が仲林から浅井へと変わる場面を書くことになった。

改めて思う。麻雀は何が起こるか分からない。

放銃した仲林の感情が目に、

アガった浅井の感情が口元に、

それぞれ出ているのが印象的な、そして大きな交代劇が見られた11回戦だった。

11回戦トップは浅井。逆襲のヘラクレスは、28400もの点差をたった2局でひっくり返し、自身の周囲に立ち込める暗雲を一蹴して見せた。

2着になった仲林は、そのこと自体は無念であるものの、トータル首位だった堀を逆転し、初戴冠に向けて暫定首位の座についた。

3着には矢島。矢島はこの11回戦開始前のインタビューで「2日(全10半荘)で8トップが必要」と語っており、それを「残り9半荘で8トップ」と修正して次戦に臨む。

4着には、開始前のインタビューで「下2人(浅井・矢島)を味方につけて、仲林とのマッチレースを楽しみたい」と語っていた堀。視聴者としても、いったん逆転を許してからの堀の残り9半荘が楽しみだ。