第21期女流雀王決定戦観戦記1日目(1回戦)
第21期女流雀王決定戦観戦記
1日目 1回戦
【担当記者:庄司麗子】
数年前、将棋の世界に【観る将】という言葉が生まれた。
オンラインの各種動画配信サービスの普及が一因である。
麻雀界もここ10年、対局を放送する専用スタジオの整備などが進み選手が自分の麻雀を披露するチャンスは一気に増えた。
時代の変化と共に、女流雀王戦にもひとつの新しいシステムが生まれた。
【5人打ち制】の決定戦が始まるのである。(雀竜位決定戦では数年前から採用されている)
たった1つの席が増えただけの話だが、そこを目指す選手たちにとっては確実に門戸が広がったと言える。
日頃の研鑽・自分の麻雀を披露する舞台は増え、視聴者にとってはより多くの選手を見る・応援する・共感することができる。
実に良い時代である。
女流Aリーグの上位4名に現女流雀王を加え、5名による決定戦15半荘を戦うことになる。
一日目・5回戦(一人4半荘)
二日目・5回戦(一人4半荘、トータル5位がここで敗退)
三日目・5回戦(一人5半荘)
見られている意識、無意識の緊張。
偶然の幸運、不運な結末。
応援してくれるファン、不特定多数の観戦者。
多くのものを背負ってこの舞台に5人が立つ。
その大きさや種類で勝敗が決するものではないが、置いてきたもの、出来なかったこと、後悔。
見せたいもの、挑戦したいこと、希望。
胸に秘めた思いを精一杯ぶつけ合う、そんな戦う姿を見てほしい。
刮目せよ!
1回戦(佐月-中月-澄川-逢川 抜け番:水崎)
全10局(流局1局)
5名の選手を紹介すると共に、各選手目線で半荘を見ていこう。
■佐月麻理子(決定戦進出回数:6回目)
・女流Aリーグ2位
・第14・19期女流雀王
東1局は逢川の先制リーチを受けたが、親で押し返して追っかけリーチ。
待ちの–は山に2枚、相手の逢川の待ちはが残り1枚だったがその1枚を佐月が掴んでしまう。
以後、南3局までテンパイの瞬間すらなかった。
東1局以降ラス目のままだったが、満貫ツモでラス回避ができる点棒状況でオーラスを迎える。
そこでも先制リーチの中月の当たり牌を掴み、一向聴での放銃となった。
とくかく一回戦目は苦しい展開や、まとまりのない手牌が目立った。
この恵まれなかった初戦の負債を跳ね返すパワーはまだ残っている。
やることはただ一つ、次はトップを取るだけだ。
■中月裕子(決定戦進出回数:3回目)
・女流Aリーグ1位
東2局に親番を迎えるが、8000をあがった直後の逢川がドラ色のマンズで染めている。
ツモで打とし、雀頭なしの一向聴で受け入れの広さを選んだ。
ここが分岐点となった。
下家の澄川も1フーロで手出しがドラの、テンパイだろう。
その直後ツモで単騎のヤミテンを選択するも、二巡後テンパイ直後の逢川へで満貫の放銃となってしまう。
本人もツモのところでの雀頭固定としておけば、アガリがあったことを分かっている。
分かっているからこそ、『押してダメなら押してやる』 中月の火がついた。
東3局1本場は無難な進行で親の澄川のリーチを捌く。
東4局はドラドラの手牌を役牌から仕掛け、さらにドラポンで仕上げた2000/4000の加点。
南1局はまとまった手牌をもらい文句なしのリーチでまたもや2000/4000の加点で3局連続のアガリ。
南3局ではひとりノーテンで失点するも、トップ目の親の逢川と7000点差でオーラスを迎えた。
逢川の暗カンにより打点上昇を期待してピンフ高目タンヤオをリーチ。
安目のを佐月から出アガリ、裏ドラをのせて3900点の加点。
東1局、逢川の先制リーチと親の佐月の追っかけリーチを受けた一発目にの暗カンをした場面では度肝を抜かれたが、必殺の一撃が戦局を大きく変える決定戦、そして今期の新レギュレーション。
リーグ戦ではなく決定戦を打つんだ、という意識を見せた選択だった。
■澄川なゆ(決定戦進出回数:2回目)
・女流Aリーグ第4位
東3局、開局から下家の逢川が連続であがっている。
迎えた親番で役なしドラなしのカンテンパイをリーチとした。
この選択が正解、裏はなしで1300オールの加点。
その後も2回のリーチを打つがあがれず。
南3局の親番でテンパイ料をもらうだけの加点にとどまり、大きな放銃はなかったが3着で終了した。
東2局での選択。
カンチーで打、待ちは–
下家の逢川が役牌を仕掛けてマンズで染めている。
その上家でドラのを河に置ける選手がどのくらいいるだろうか。
逢川がまだテンパイではないと読める根拠があったのだろうか。
シャンポン待ちのは待ちとしてかなり優秀で、逢川にこれ以上の加点をさせないために自分が捌くという意思が感じられた。
■逢川恵夢(決定戦進出回数:5回目)
・現女流雀王(第17・18・20期)
東1局はリーチして親の佐月から8000の出アガリ。
東2局は仕掛けて親の中月から8000の出アガリ。
現女流雀王としては、最高のスタートダッシュを切った。
挑戦者の佐月は直近のライバル、中月・澄川も決定戦で闘った経験がある。
水崎もAリーグで何度も対峙した。
「今年も守備寄りになりそうな相手が出てきた」と語っている。
その相手を前に先手を取ったは良いが、やはり楽してトップを取らせてはもらえない。
この半荘では中月が行く手を塞いだ。2回の満貫ツモで逢川に並ぶ。
中月に加点させずに、オーラスを余裕の点数で迎えたい。
南2局ではピンフのみでヤミテンを選択、澄川から打ち取り中月の親を流す。
南3局では誰もテンパイをいれていない無風状態で、形式テンパイを目指して仕掛けて失点を回避。
解説の新雀王・浅井が「(リーチして)ラクすることを選ばない、ラクしないでちゃんと対応している」と称賛していた。
南3局1本場。
ダブを仕掛けてこの形。
単騎のテンパイで引いてきたをノータイムでツモ切り。
暗刻のを利用したマンズの複合形テンパイを最終形に見据えながらも、亜リャンメンの–よりも単騎が良しとした選択。
結果、ドラのとスライドした澄川からを打ち取る。
毎局・毎巡思考を止めない、手を緩めない。
東場の2度の満貫アガリも評価されるところだが、南場での逢川は強さの真髄をさらに見せつけ初戦トップを掴み取った。
(抜け番)
■水崎ともみ(決定戦進出回数:4回目)
・女流Aリーグ第3位
対局前インタビューでのコメントが印象に残った。
「今日は楽しく麻雀が打てればいいなと思っています」
戦略がものを言う麻雀という競技で、それを楽しむ余裕をもって座る決意。
ふわりとしたコメントの中にみなぎる闘志を感じたのは私だけではないだろう。
決定戦の出場回数も多く、競技歴も長い水崎。
女流雀王決定戦2位が過去に2回、あと一歩だったあの悔しさはもう十分。
勉強はたくさんしてきた。今年は忘れ物を取りに行く。
【総評】
初の決定戦だという選手がいない、入会5年以内の新人やAリーグ1年目という選手もいない。
全員が一度はこの舞台を経験している。
特に逢川と佐月は、2強時代ではないかと思えるくらいのここ数年の決定戦常連。
この1回戦では早くも、注目のふたりの明と暗がはっきりと別れた。
5人打ちというレギュレーション変更にともない、初日のポイント差が2日目に尾を引きかねない。
まだ初戦とは言っていられないのだ。
ただ思い出してほしい。
佐月が第19期女流雀王に戴冠したあの瞬間を。
第15期の決定戦初日、佐月の初アガリもそう、四暗刻だった。
役満という最終兵器は負債を一瞬で返済したり、トータル順位の並びをその一回のアガリで全てひっくり返すことができる。
この瞬間はもちろん、誰の元にも平等に訪れるのだ。
蓋を開けてみるまではわからない。
それが例え役満でなくても、小さな条件の積み重ねであったとしても
細い細い糸を懸命にたぐり寄せている選手たち。
その一挙手一投足にこれからも目が離せない。