第20期雀王決定戦観戦記 1日目(1回戦)

日本プロ麻雀協会 第20期雀王決定戦観戦記 1日目

第20期雀王決定戦観戦記
1日目 1回戦

【担当記者:武中進】

いよいよ始まった今期の雀王決定戦。
出場選手はいずれも協会を代表する名プレイヤーゆえ不要かも知れないが、簡単に紹介していきたい。

【矢島 亨】
・現雀王
・6期後期入会・本部所属
・昨年の雀王獲得により雀王・雀竜・日本オープンの協会グランドスラムを史上初めて達成した男。

【小川 裕之】
・5年ぶり2回目の雀王決定戦
・8期前期入会・本部所属
・A1リーグ通算7期の強豪、そしてその体格から「いのしし」と呼ばれる男。ただし麻雀のスタイルは猪突猛進とはまるで異なる、あらゆる状況に高いレベルで対応しつつ、時にみせる自分の読みに重きを置いた独特のフォームで知られる。

【渋川 難波】
・2年ぶり2回目の雀王決定戦
・10期前期入会・本部所属
・「魔神」の名で知られる協会最強候補の一人。
高い守備力で有名ではあるがそれ以外も無論高いレベルでこなし、特に序盤の大胆な打点構想力は彼の特徴の一つと筆者は見ている。
もし彼が雀王を獲得すれば矢島に続く2人目の協会グランドスラムの達成者となる点も注目。

【仲林 圭】
・3年ぶり2回目の雀王決定戦
・7期前期入会・本部所属
・今年度の最強戦ファイナル出場を決めており、近年の協会で一番波に乗っている男の一人。
元々その卓越したバランス感覚に基づく最高峰の実力は協会内外で広く知られており、筆者は常々「強くなりたいならまず仲林の麻雀を見るべき」と勧めていたりする。

矢島の連覇か、他3人の初栄冠。
どのような結果になっても違和感の無い、協会最高峰の実力者のぶつかり合いが始まる。

■一回戦(小川-矢島-渋川-仲林)

好調なスタートを切ったのは仲林。
東1局にトイトイのみ2600を親リーチをしていた小川から和了してファーストヒットを決める。

途中四暗刻まで見えた事を考えると打点的には少々不服ともいえる結果だが、小川だけでなく渋川にも聴牌が入っていた局面ゆえその価値は十分。
そして次局も渋川のメンタンピンドラ1の3面張をかいくぐってチャンタ・白・ドラ1の3900を矢島から和了。
こちらも渋川の絶好手をつぶしている点数以上に大きな和了。

相手のチャンス手を効果的につぶしつつ加点を続け、更に南1局では恵まれた手牌とツモをよどみない手順で進め、3000/6000をツモアガり一気に抜け出す。

一方で苦しいのがラス目の矢島。
ある程度手が入りはするが、仲林や渋川との競り合いに負けて失点を続ける展開。
だが無論このまま黙っているわけはない。南2局の親番で大物手が到来。

タンピンドラ2、ダマでも親満確定の手だが堂々のリーチ宣言、マンズの場況も悪くない中で一気に6000オール以上を狙いにいく。
しかし、この局手が入っていたのは彼だけではなかった。
矢島と同じくここまで苦しい戦いを強いられていた小川が直後にリーチ宣言、矢島が直後にをツモ切るとその手牌が開かれる。

リーチ・一発・ピンフ・イーペーコー・三色・裏1で12000、矢島をダンラスに叩き落し自身は2着に浮上。
そして続く南3局、前局の勢いのまま先制の3面張リーチ。

だが、普段だったらノータイムでリーチをかけるであろうこの局面に小川にあった数秒の間、この時彼が後に起こりえる展開とその対応をあらかじめ考えていたのは容易に想像できた。
3巡後、その局面が実際に訪れる。

10巡目に親の渋川が打った、これを小川は平然とスルーした。
理由は現在の仲林との点差13900点である。ここで1300の和了だと仲林の親で迎えるオーラスにその差12600点。
つまり満貫ツモでは届かない状況でほぼ1局勝負をする事になるわけだ。

無論ここでロンという手もあった。
裏ドラが乗れば満ツモOKでオーラスを迎えられる、何より現時点では渋川との点差もわずか3200点で2着も危うい。
そして矢島がダンラスである以上渋川はこの親番ひたすら前に出てくる可能性が高く、見逃した後に大きなリスクを抱えることにもなる。

だが小川は見逃した。
多少のリスクはあるがリターンも十分な局面、ましてやこれはただ一人の勝者を決めるタイトル戦決勝である。
数巡後に渋川がリーチを宣言。
フリテンになった後の渋川の反撃という小川にとって一番恐れるべき事態だったが、その直後に彼の手元に訪れたのは念願の和了牌だった。

リーチ・ツモ・タンヤオに裏も乗って会心の2000/4000、
リスクを恐れずその先にあるリターンを求めた小川がつかみ取った大きな和了。
これにより仲林に2900点差まで詰め寄りオーラスを迎える。

そしてオーラス、小川が点数条件をきっちり満たす3200を和了してトップを奪取。
2600のツモ・直撃条件のテンパイから、条件クリアを確実にする大明槓が見事な差し切りだった。

さて、雀王決定戦での「見逃し」と言えば筆者を含めた何人かの選手が良く覚えていると思われるのは第14期の雀王決定戦の木原浩一だろう。
木原はこの期の1回戦で2回の見逃しを行い多くの観戦者を驚愕させた。
明らかに普段の木原と異なるバランス感覚に戸惑う一方、雀王にかける彼の硬い意志を感じさせた内容だった。
半荘自体の結果こそ3着だったが、その後も執念とも言えるような木原の雀王にかける選択が身を結び、彼はその期に悲願の雀王獲得を成し遂げている。

個人的には小川の選択がこの期の木原にちょっとダブって見えた。
実際、今回の彼の見逃しは木原の時ほど大胆な物ではないのだが、勝利にかける執念がそれを彷彿とさせたのである。
今期にかける小川の思い、ひょっとしたらこのまま彼もあの時の木原のように悲願を達成するかもしれない、と。

まだ始まったばかりの雀王決定戦、無論他3人もこのまま黙っているはずはない。
だが自らの意志により最高のスタートを切った小川の今後に注目したい。