第21期雀王決定戦観戦記 1日目(4回戦)

日本プロ麻雀協会 第21期雀王決定戦観戦記 1日目

第21期雀王決定戦観戦記
1日目 4回戦

【担当記者:中島由矩】

4回戦(渋川-浅井-松本-仲林)

浅井堂岐から、目が離せない。

まずここまでの浅井の雀王決定戦のスコアを見ると、1回戦から3連続2着で、トータルすると首位に位置している。
一般に「トップが偉い」と形容される協会ルールにおいて、これは異例の結果と言えるだろう。

昨年、浅井がA1リーグへの昇級を決めた際、目標を聞くと

「決定戦や決勝戦に出たい。長期のリーグ戦よりも5回戦で1位だけ決めるみたいなシステムが得意だから」

と言う。今回の決定戦進出は、その念願がかなった形だ。

浅井は、14期~20期までA2リーグ(18期にB1リーグから名称変更)に在籍し、昇級することも降級することもなく、自らが「昔からあんまり変わらない」と語る麻雀を打ち続けた。

そんな浅井に、転機が訪れる。
2021年第20期A2リーグ+497.7(1位)
2022年第21期A1リーグ+565.7(1位)

この2度にわたる大爆発で、自身初の雀王決定戦に、今期コマを進めた。

対する現雀王の渋川難波はKADOKAWAサクラナイツに、渋川と同じく2年連続でこの決定戦を戦う仲林圭はUーNEXTPiratesに、それぞれ指名を受け、先日デビュー戦を戦ったばかり。松本吉弘が、渋谷ABEMAS5年目になるのもご存じの通りだ。ちなみに、松本も浅井と同じく、今回が初の決定戦となる。雀王戴冠に向け、期するものはあるだろう。

【雀王決定戦の洗礼】と言わんばかりに、渋川が強烈な一撃を放つ。東1局1本場の終盤。

   ツモ ドラ
自分以外の三者にテンパイ気配がないことを確認すると、渋川は上の牌図から打
場に1枚も切られていないション牌のドラは、ノーテンから切れる牌ではない。中途半端な手形の者を降ろし、返す刀で次巡自身最後のツモ番で形テンが入る確率を上げている。

実際、次巡ツモで狙い通りテンパイを入れたところまで含めて、渋川のプレイは完璧だった。
ところが、そうはさせじと真っ向から立ち向かったのが仲林。

 ドラ
この14枚から打でリーチを打つと、渋川からのを一発で仕留め、リーチ・一発・イーペーコーの5200は5500をアガリ切る。

先輩Mリーガーとして、負けていられないのは松本。東2局0本場7巡目に

 ツモ ドラ
このツモ・タンヤオ500/1000のツモアガリを拒否。打として、好形・多面張を目指す。

しかし、結果的にこの松本の思惑を阻止したのも仲林だった。仲林のリーチ宣言牌が松本の仮テンにヒットし、宣言牌ならばと松本は牌を倒す。1300の出アガリ。4者の思考が複雑に絡み合い、大きなアガリが出ないまま局だけが進んでいく。

そんな均衡を浅井が破ったのは、続く東3局1本場のこと。

ドラのを引き入れると、待ちリーチで勝負に出る。

3巡後、をツモリ上げてリーチ・ツモ・タンヤオ・ドラ1の2000/4000は2100/4100を和了。
一躍トップに躍り出た。

南4局を迎えて、4者の点棒状況は下の通り。
東家・仲林27000
南家・渋川28300
西家・浅井31200
北家・松本13500

3着目・親の仲林は、1300オールツモでいったんトップ目に立てるものの、アガリ止めがないため次局以降も続けなければならない。伏せることを考えたら、2600オール以上のツモが理想か。

2着目・南家の渋川は、トップ目まで2900点と迫っているが、下を見れば3着目まで1300点という現実もあり悩ましい。

トップ目・西家の浅井は、自風のがトイツで心強いものの、数牌はバラバラで戦いにくい状態。放銃に回れば、一気に3着まで覚悟しなければならない。こちらも戦い方は難しい。

ラス目・北家の松本は、2000/4000ツモで誰もまくれない。誰かを8000直撃するか、ツモなら3000/6000で2着まで。着順ダウンの心配がない分、大きくねらって手を組んでいきたい。

そんな4者の思惑が交錯する中、【門前派】とも言われる浅井がいきなり仕掛けた。3巡目渋川のにポンの声をかけ、必死に牌を組み合わせていく。のトイツがやや守備に役立つか…

と、筆者が思案を巡らせている間にも、今度はをポン。完全に臨戦態勢だ。麻雀はゲーム中に自分の思考を語ったりしないゲームだが、浅井はプレイで示した。「この局を制して、オレが勝つ」と。

そんな浅井の構想に、牌も応え始める。ツモで、のどちらを外すかの選択だが、

浅井が残したのは。そして筆者が「守備に役立つか」と前述したにも迷わずポンの声をかけ、いわゆる4センチのカンテンパイに。

ただこの、実は仲林が暗刻にしていて、

バックのテンパイを入れていた。打点こそのみの1500点だが、連荘となれば次にどんな配牌と巡り合うか分からない。特にこの半荘は、東1局0本場に仲林、南2局0本場に浅井のダブリ―がそれぞれあった。

そんな中、浅井に待望の待ち替え。ツモでトイトイに変化した。

バックで追いついていた仲林は、ション牌のをつかんで打。テンパイを維持しつつ連荘を目指す。

最後の1牌を制したのは浅井。
西・トイトイの1300/2600をツモアガリ。

本人は「(雀風は)全然似てない」と言うが、第19期雀王の矢島亨を彷彿とさせる仕掛けで、見事にトップを取り切って見せた。確かに今局は打点が必要ない場面ではあったものの、遠いところから仕掛けて手役に寄せ、山にある牌を探し当てて見事にアガる姿は矢島のそれと重なる。

将棋界では、里見香奈女流五冠が将棋界初の女性棋士誕生を目指して、条件である5戦3勝を目標に奮闘している。Mリーガー3人を相手に4戦1トップを含む全連対という浅井の結果は、現段階で【合格】にふさわしいと言えるのではないだろうか。

とは言え、全20戦ある雀王決定戦はまだ20%が終了したばかり。浅井の躍進とともに、渋川・仲林・松本の巻き返しにも期待したい。