第21期雀王決定戦観戦記 1日目(2回戦)
第21期雀王決定戦観戦記
1日目 2回戦
【担当記者:坂本太一】
1回戦、トップを獲ったのは何度も高打点をアガり切った若武者・松本吉弘。
対して現雀王・渋川難波は4着と苦しいスタート。
2回戦は、その渋川の親番からスタートする。
・東1局0本場 親番:渋川 ドラ
軽快にダブ東から仕掛けていく渋川。ダブ東のみになりそうな点は不満だが、門前で進めても高打点はあまり見込めない。連荘狙いで仕掛けていく。
ようやく渋川が聴牌を入れるが、この終盤から怒涛の反撃を受けることになる。
聴牌気配のある渋川には切り辛い。しかし、よく見れば三元牌()はすべて場に生牌。なおかつ、自分以外の全員が変則的な河になっており、渋川以外の2人が三元牌を抱えている可能性はかなり高いと思われる。
ならば自身の手牌価値から切るに見合うと判断し、浅井がを切って立直をかける。
このを仕掛けて仲林も聴牌を入れる。出アガリで跳満、ツモれば倍満の大物手。
3人が聴牌を入れた、この局の結末は…
力みを感じさせることのない、軽やかなモーションから仲林が倍満をツモアガる。
・東2局0本場 親番:仲林 ドラ
先ほど倍満をアガった仲林が、親番で畳みかけるように先制立直をかける。
このまま点棒を積み重ね、独走態勢にもっていきたいところ。
しかし、そう簡単にはいかない。
ドラ2枚保有の一向聴だった浅井が、親の立直一発目に持ってきた牌は。
自身の目から、–の筋は5枚見えている。
切り辛い牌を持ってきたしまった浅井。
しかし、その表情はむしろ笑っているように見えた。決定戦を楽しんでいる。
いつも通りのモーションで、そっとを河に放つ浅井。
一見切り辛いだが、読みを入れるとそこまで危険ではないのが分かる。
↓少しマニアックな読みの話になるので、興味ない人は飛ばしてください
を切った後、よりは安全度の高そうなをツモ切った後の切り立直なので、を手牌で使いたかった可能性は高い。
まずが関連牌だとすると、よくあるが放銃になるケースは
A「」からを切ってのとXのシャンポン待ち
B「」「」からを切っての–待ち
C「」からを切ってのカン待ち
になるが、
Aは、が場に1枚切れていることからを切ってカン待ちにしそう。シャンポンの相方が役牌の場合(今回の場合は)は発生しうるが、仲林の捨て牌は極めて普通。役牌を持っているというより、手牌を内に寄せているタンヤオ系の捨て牌にみえるため可能性はそこまで高くない。
Bは、を切っているとはいえ、「」からを切ったことになり、これはおかしい。「」は可能性として残るが、自身の目からは既に2枚見えているため可能性は低い。
Cは、の手出しから切り立直のため、考え辛い。「」からを切ったことになる。
が待ちに関連していない–が放銃になるケースは
D「雀頭をと入れ替えたかった–待ち」
E「待ちの聴牌が不満で、切って聴牌を外して–待ち」
F「三色同順のためにを持っていた–待ち」
Dは、「」からをツモ切ったことになる。否定はできないが、麻雀が基本的には牌を繋げていくゲームである以上を切ることが多い気がする。
Eは、たとえばからを切り、を持ってきての–待ち。このケースは十分ある。ただ、逆に言うとこのケースしかない。からを切りを持ってきたケースは、を切っていることから考えられない。
Fは、234の三色同順をみていた場合だが、「」から234の三色同順のためにを持つ打ち手はなかなかいないだろう。
勿論、他にもいろいろなケースがあるが、A~Fのケースを考えるとの放縦率は高くない。むしろ、何の情報もない無筋より切りやすいように感じる。
↑読みの話終わり
ここまで書いてきたが、実はあまり選択には関係していないだろう。
・危険牌だが安全牌は0
・自分はドラドラのチャンス手
この2点の要素が大きいため、浅井はを切っているはずだ。
では何故、こんなに長々と読みの話を書いたか。
今回の対局者、いやA1リーガー全員が上記の読みくらいは考える。
他団体と比べ、協会はトップが偉いルールなため高打点の打ち合いになることが多い。そのため、一見大味な麻雀を打っているように見え易い。
しかし、実際は違う。
ただ殴り合っているのではない。
深く読んだうえで、殴り合っているのだ。そのことを紹介したかった。
・東2局1本場 親番:仲林 ドラ
前局は仲林の一人聴牌で進んだ東2局1本場。
渋川がを切って単騎待ちの立直をかける。
立直七対子ドラ×2。ツモれば跳満からだ。
渋川の立直宣言牌をで鳴いて聴牌をとる仲林。
対々和を狙っていたが、渋川にアガらせまいと方向転換。
仲林は高打点狙いからの下方修正が非常に上手い選手だ。
仲林に続いて躱し手の聴牌を入れていた松本。
ここで渋川に放縦となるを持ってきたが、きっちり止める。
自身の手が安いこと、通っている牌が多いこともあるが、渋川の手出しをみて変則手の可能性が高いと判断したのだろう。流石のベストバランス。
この局は、渋川が仲林に2000は2300点の放銃となった。仲林の勢いが止まらない。
・東2局2本場 親番:仲林 ドラ
ここまでフラストレーションが溜まっているであろう渋川に、またしてもチャンス手が入る。
ここからを切った。東も三色同順も全て追う強欲の一打。
しかし、ここから手が進まない。
14巡目に仲林がを鳴いて打。
–が場に5枚見えたため、仕方なく形式聴牌を入れたようにも見えたが、
なんと仲林が満貫のツモアガリ。
門前で進めても–待ちが残ってはアガりきることは難しい。
ならば、ネックを解消しつつ形式聴牌をとり、あわよくばアガりきろうという仕掛け。
仕掛け始めからこの形は想定したであろうが、最高の形で仕上げてみせた。
これで仲林の持ち点は60000点を超える。
・東2局3本場 親番:仲林 ドラ
ポン ポン ドラ
松本が400/700は700/1000点をツモアガり、仲林のジャガジャガタイムを終わらせる。
・東3局0本場 親番:浅井 ドラ
ドラ
親の浅井が好配牌から2600点オールのツモアガリ。
・東3局1本場 親番:浅井 ドラ
親の浅井がドラ×2内臓の先制立直をかけるが、一人聴牌で流局。
・東3局2本場 親番:浅井 ドラ
またこの男が先制立直。高めをツモれば「メンタンピンツモサンショクドラドラ」の呪文が唱えられる超勝負手。
しかし、ここも一人聴牌で流局してしまう。
・東3局3本場 親番:浅井 ドラ
またまたドラ×2が手牌に組み込まれている浅井。ドラを飼いならしている。普段何を食べているのだ。
ここでは一向聴とらずの打。
最終形マイスター浅井堂岐、ドラを切ってのつまらない一向聴には拘らない、らしい一打。
––待ちで聴牌する仲林。その聴牌打牌であるをポンする浅井。
ドラをポンした親の浅井に、仲林がどこまで押していけるかが注目と思われたが、
ここでを持ってきた渋川。
打とし、発・中・チャンタの5200点聴牌を入れると、
松本がを鳴いてタンヤオの聴牌。
親がドラポンしているのに、子3人全員が聴牌を入れている。
そんなの見たことない。
松本が、浅井から1000は1900点(+供託2000点)のアガり。
現状2着目の浅井に、これ以上の加点は許さないと積極的に仕掛けた好判断が光った。
・東4局0本場 親番:松本 ドラ
を切れば–待ちで聴牌。
しかし、立直のみになってしまうことを嫌い、聴牌崩しの暗槓。
まだ巡目早い。手牌の価値をもっと高めにかかる。
この後を引き–待ちの立直をかけるが、
ここでは仲林が「平和・ツモ・ドラ1」の700/1300点をツモアガる。
・南1局0本場 親番:渋川 ドラ
ドラ
浅井が松本から「一盃口」1300点をアガり、渋川の親番を無情にも終わらせる。
・南2局0本場 親番:仲林 ドラ
ドラ
渋川がお手本のような聴牌外しからの立直。仲林から「立直・タンヤオ・平和」の3900点をアガる。
・南3局0本場 親番:浅井 ドラ
お世辞にも良いとは言えない仲林の配牌。しかし、ここからの仲林の進行は見事だった。
ここから面子をぶち壊す切り。
浅井の捨て牌が
と、手牌が整っている可能性が高い。自分の手牌は間に合いそうにない。
ここで、3枚目のを切ることで自分の手牌の安全度を高めると共に、浅井に鳴かせようとしている。
怖いのは親立直。浅井がソーズのホンイツ模様なら切りはしないが、ここからなら鳴かれた後の対応もし易い。仲林の必殺技「親の門前崩し」である。
ここでは、極端な捨て牌模様の西家渋川にを鳴かせようとする。
この時の渋川の手牌は
ドラ
で、渋川はを鳴いて打とピンズのホンイツに向かう。
親番のない4着目の渋川がアガることは仲林にとっても局が進むので嬉しい。
Winwinの関係。仲林の必殺技2「他家コントロール」である。
の加槓も入り、ここで仲林はとし、渋川に放銃しにいく。
仮に満貫放銃となっても2着目とは23500点差でオーラスを迎えられる。さらに渋川が8000点の加点をすれば、オーラス親の松本とは500点差の4着目になり、渋川ががむしゃらに安い手でもアガりにくる=オーラス連荘される可能性が低くなる。
という緻密な計算の元だ。
仲林の必殺技3「満貫でも差し込んでやんよ」。今回は不発となったが、トップ目の進行として、この局の仲林の進行は教科書に載せたいほど完璧だった。
この局は渋川の一人聴牌で終わるのだが、最後にこの選択を紹介したい。
2巡前に、
加カン ドラ
この形からを切った渋川がアガり逃しとなるを引いてきた場面。
自身のツモ番はあと1回。ここで渋川は長考に入る。
・他3人は降り模様。出アガれるメリットはないに等しい。
・–は山に生きているか不明
・全員がを合わせてこなかった=山にが生きているのではないか
上記の読みで、ここで渋川はを切りだす。
アガリ逃しの牌を引いたとき、熱くなりパッとツモ切ってしまうことはないだろうか。
雀王は、ここまで苦しい展開が続いてなお、考えることをやめていなかった。
・南4局0本場 親番:松本 ドラ
ツモ ドラ
オーラスは仲林が400/700点をツモアガり、終戦。
東場10局・南場4局の計14局。
序盤のリードを危なげなく守った仲林が、1時間34分の激闘を制した。
發王を獲得し、今年から念願のMリーグ入りを果たした「龍を継ぐ者」仲林圭。
この勢いのまま、雀王をも手中に収めるのか。
そして、鳴り物入りで同じく今年からMリーグに参加した「魔人」渋川難波はこのまま終わってしまうのか。
3回戦も目が離せない。