第3期関西雀王決定戦観戦記 最終日

第3期関西雀王決定戦観戦記 最終日

【担当記者:山本司】

任侠映画も真っ青の高打点どつきあい合戦!勝利の女神が微笑んだのは誰だ!?

2023年1月8日、将棋のタイトル戦の一つ、第72期王将戦が幕を開けた。
迎え撃つは藤井聡太王将(5冠)、今を時めく天才棋士にして昨今の将棋ブームの火付け役である。
対するは、羽生善治九段。
いわずと知れた将棋界の第一人者、タイトル独占に加え国民栄誉賞をも受賞した『生きる伝説』だ。

しかしながら、このカードによるタイトル戦は『実現不可能』とまで言われてきた。
藤井5冠がプロ棋士になったころ、羽生九段はタイトルを3つも保持していた。
当時はそう遠くない未来にこの二人によるタイトル戦がきっと実現する、だれもがそう心をときめかせた。

しかしながら藤井5冠が着々と力をつけタイトルを奪取する一方、羽生九段は棋士人生始まって以来のスランプともいえる不調に陥る。
次々とタイトルを失い、棋士の最上位に位置するA級順位戦も陥落。
いつしかタイトル戦の挑戦者争いからも遠ざかっていった。

弱冠二十歳そこそこで伸び盛りの藤井5冠と、衰え著しく齢五十を超える羽生九段。
この二人が相まみえるひのき舞台の実現は難しい、将棋を知るだれもがそう思っていただろう。

しかしながら、羽生九段はその『不可能』を実現して見せた。
かつての天才は、奇跡の復活を遂げて見事挑戦者としてタイトル戦の場に舞い戻ってきたのである。
衰え行く自分の能力を言い訳にせず、決してあきらめなかった。

第1局は熱戦の末、藤井王将が防衛に向けて幸先の良いスタートを切った。
しかしながら羽生九段も決して内容では引けを取らなかった。
この戦いの行く末がどうなるのかは、素人の筆者にはわからない。
しかしながら、間違いなく後世でも語られる最高の名勝負が繰り広げられるはずだ。

そして、その1週間後の1月14日。麻雀界でもその戦いに負けない熱い勝負がついに決着の日を迎えようとしていた。

第3期関西雀王決定戦最終日
協会関西の頂点をかけて己が持つ力を出し切った男たちの、熱い記録。そのすべて–

2日目終えて首位をひた走る奈良。今日も朝早くから香川を出てやってきたうどん県の住人。
2日目途中からやや不調気味だが、自他ともに認める守備型のため、築いたリードはそう簡単には渡さないはず。スタートからゴールまで先頭で駆け抜けたい。

確実に、着実に少しずつではあるがプラスを重ねている堀。遠かった奈良の背中をついに視界にとらえた。その戦い方は、同じ守備型の奈良とはまた似て非なるもの。巧みにゲームを回し、決して相手に楽をさせない。応援してくれている麻雀教室の生徒さんたちのためにも負けられない。

2日目スコア1位となり、プラスに転じた中村。一時は300を超えていた差が、現実的なものになってきた。成績がなかなか安定しないが、それもまた中村の売りだろう。奈良ほどではないが遠方から通う中村、今日は帰り時間を気にせず連荘しまくってくれるだろう。

2日目最後にようやく初トップをとれた柴。しかし、あまりにも不運に見舞われすぎている。リーチしても勝負手を聴牌しても、即座に追いつかれるのはもはや呪いレベル。しかしながら奈良と4回トップ・ラスを決めれば可能性は見えてくる。逆境を力に変えられるか。

11回戦(奈良-中村-堀-柴)
-さあ、戦いを始めよう。中村、渾身のホンイツ-

東1局1本場
2巡目 中村 

に加えがトイツになる。

を引いた次巡にをポンし、ホンイツ一向聴に。

さらにを引き入れ万全の形に。
あわよくばトイトイまでつけられるか。

を引き入れあっさり聴牌。
ホンイツとは断定できない捨て牌だ。

堀がを引き入れる。
の選択だが、ここは打
ドラ引き聴牌を逃す形ではあるが、を序盤に打っているのが中村と柴、奈良は2巡目に打
は堀から3枚見えなのでが山にあると見たか。
さらにを柴、奈良の2人が切っておりは山にいそうにも見える。

柴が一気通貫を見切って一向聴に構える。
しかしが出て行く形に。

堀、狙い通りを引き入れリーチ。

しかし直後、なんとか攻めたい柴がを掴んでツモ切り、中村の和了となる。
わずかに残る可能性すら絶たれそうな痛恨の満貫である。
神は柴に微笑まないのか…。

東4局
-怒涛のマンズ、マンズ…。この半荘は中村のためにあるのか?-

奈良が苦しい。
聴牌こそ入るものの2度の放銃と、なかなか流れに乗り切れない。
このままズルズル行かないためにもなんとかしたいところだが、ここでも中村が立ちはだかる。

中村、配牌と第一ツモで萬子が10枚に。さらにドラドラ。

7巡目に首尾よくが鳴けると、

数巡後、なんとさらにドラを引いて聴牌。
やや分かりづらいが待ちの五門張である。

同巡、奈良がタンヤオ、平和の待ちでリーチ!
…も宣言牌が
中村、なんと珍しいドラを独占してのチンイツ。
この倍満で奈良は一気に箱下へ転落と、波乱の予感のする最終日。

南3局
-息をひそめて、闇からの一閃-

3巡目 柴
この形から打
ホンイツへと向かう決意の一打だ。柴としてはもう1半荘たりともトップを他には渡せない。
少々の無理も押し通したいところだろう。

次巡を引き入れ手が進む。

そしてポン、2枚切れの打とした。
ここで2人の安全牌であるを切らないことでホンイツを少しでもぼかそうということだろう。
相変わらず抜け目がない。

だが中村が後ろからひたひたと迫ってくる。
ドラを引き入れ三色ほぼ確定の一向聴。
局を消化したい中村はチーして聴牌もいれる構えだろう。
この辺りは天鳳強者の中村、お手のものか。

柴がここでの加カン。新ドラはとなる。

数巡後、堀が辛抱たまらんと新ドラをチー、一向聴にとる。

ホンイツへ向かっていたはずの柴、ツモで長考し、2枚切れの打とした。
仕掛けが早いと見たか、ここは堀の連荘阻止に切り替える。

この後を引き、のくっつき聴牌の形に。

次巡、堀は待望のが鳴けて聴牌。仕掛けた柴の現物待ちのため拾える可能性は高いか。

柴、ここでを引きくっつきが強くなる。

ところで並びをもう一度確認してほしい。
堀の上家は中村である。
これだけ親の堀に鳴かせたのだから、当然中村も勝負形ができていた。
中村、待望のを引き入れついに聴牌。
仕掛けている柴の現物かつ堀に通りそうな待ちという絶景の待ちである。

ここに飛び込んでしまったのはまたも奈良。
ドラドラの一向聴が長く続き、ここから打
奈良の目線だと柴がホンイツを聴牌したようにも見えるので、新しい筒子の筋は打てないということだろう。
そして仕掛けている2者には通りそうかつドラも出て行かない。
絶好の選択のはずが中村に捉えられてしまった。

中村が奈良とのトップ・ラスを決めて射程圏内に。
この展開は堀も満足か。
一方奈良はほぼ箱ラスでここまでのリードを溶かしてしまった。
柴はここから4連勝してもタイトル獲得は厳しい状況になってしまった。
しかしなんとかベストを尽くしてほしい…。

12回戦(奈良-柴-堀-中村)
-中村よ、しかし思い通りにはやらせんぞ!-

東4局1本場

堀、2巡目にしてドラドラ。
次巡には嵌を引き入れ早くも一向聴。

だがこの状況にも待ったをかけるのはやはり中村。
6巡目にを引きいれる。
一見のみだが、中村の特技が発動する。

中村、柴からをポン。
とし一気にトイトイへ。
打点を見た思い切った仕掛けが中村の真骨頂といえる。

このポンを受けて大物手の雰囲気を感じ取ったか、奈良がチーして打待ち聴牌へ。
ややもったいない気もするが、ダブやドラも見えていないことから下手すれば中村に6000オール、8000オールと言われかねない。

このチーが中村にを引き寄せる。
数巡前にはのみにしかならなそうな手があっという間のマンガンクラスに成長。
近年の麻雀のトレンドをよく抑えた素晴らしい攻めだ。

柴も奈良同様、中村の気配を察してかをポンして一向聴。
としてドラが出ていかないようにした。

そして堀、長いこと手が進まなかったがついにリーチ!
のシャンポン待ちとなり、北家の堀はどちらでアガッてもマンガンからである。

だが中村、を重ね着々と高打点へ。
一気のカウンターか!?

しかし、この局は奈良がアガりきって決着!
起死回生のツモアガりである。

この12回戦は堀のあわや地和(UFOは出ないそうな)というダブルリーチからのアガりが飛び出すも、辛くも奈良が逃げ切り!
さらに中村とトップ・ラスを決めアドバンテージを取り戻す。
堀は接戦をものにできず、痛恨の2着となった。
それでも着実に差は縮めている。
残り3戦、栄冠は目の前だ。

13回戦(中村-奈良-柴-堀)
-好手か悪手か!?ツモ切りリーチの行方やいかに?-

東3局

中村に怒涛の縦ラッシュが訪れる。まずはを暗刻に。

2巡後、あっさりとも暗刻に。

8巡目、さらにも暗刻で三暗刻完成。
即リーチとはせずツモり四暗刻変化を求めダマテンとした。

だが2巡後、ここで何かを感じたかツモ切りリーチとする。
おそらく中村のなかで、この手の四暗刻手変わりと両面三暗刻でのリーチを打つ損益分岐点が10巡目だったのだろう。
だが、ツモ切りリーチだと待ちが外側(1・9や2・8)にかかるならわかるが、今回は真ん中(3~7)の両面のため、他家が『愚形だろ?』と舐めて向かってきてもなかなかアガりが期待しづらい。
やや疑問にも見える選択だった。

早速お仕置きとばかりに柴がダブを暗刻にして追いかけリーチ。

中村、さらにリーチ後にをツモってしまう。
もちろん結果論だがこれでもし柴に放銃となったら中村の心情はいかばかりか…。

しかし麻雀はよくできているのかいないのか。
流局寸前、柴が不幸なことにまたも当たり牌をつかんでしまう。
この決定戦で何度目かわからない柴の放銃。
今の柴にはお祓いが必要かもしれない。

南4局
-配牌ドラドラの呪縛を解き放て!-

親の堀、配牌でドラドラ。それなりにまとまっておりリーチ、仕掛けなんでもできそうだ。
だがこの決定戦において配牌ドラドラ以上ある選手はなかなかアガりに結び付いていない。
堀は呪縛から逃れることができるだろうか?

一方トップ目の中村、ここは最速のアガりがほしいところだが手はやや重たい。
本当はやりたくないところだろうが、ここでの最速はホンイツと言わんばかりに打とした。

中村、をポンし嵌ターツを払う。
ホンイツまっしぐらだ。

堀もさらに手が進む。を引き七対子、メンツ手とも二向聴。
中村の仕掛けもあるが構ってはいられない。

ここでツモ、をトイツ落としし5ブロックに。
トイツ手は見切るも万全の体制か。

中村も負けていない。
を引き嵌重なりの一向聴。
絶望的に見えた堀との速度差が一気に縮まる。

ここで堀に選択が訪れる。
ドラを引き入れ何を切るか。
熟考した堀が選んだのは
が入るか待ちになれば一盃口、刻子が増えれば三暗刻やトイトイ、引きでも聴牌となる。

そして怒涛の引きで打
一気の四暗刻まで見えてきた。これは堀のターン到来か?

しかしこのは中村のド急所。
なんと中村が先に聴牌にたどり着く。
さらに待ちは堀の現物である単騎。
あっさりこぼれるかも…。

ところがこのは奈良にトイツ。
さらに同巡に奈良よりリーチがかかる。
奈良も堀にトップを取られるくらいなら中村トップもやむなしか。
現状リーチのみなので中村からのロンでも躊躇なく倒すだろう。

直後、堀が持ってきたのは唯一の裏目…。
これは奈良にはとても切れる牌ではない。
かといって現物のや中筋のを打つと復活は難しい。
長考の末堀が選んだのは、奈良のロン牌だった。
愚形には当たりづらく、シャンテン数や形を維持できる。
堀もの危険度は百も承知だがやむを得ない、とはこのことだろう。
呪縛から逃れることはできなかった。

一方、中村は最善を尽くし最後は出場所最高の横移動決着。
どんな局でもあきらめずやれることをやり尽くすことの大切さを見せつける1局だったと思う。

13回戦が終了し、なんと3者が上下20ポイント以内にひしめく大混戦に。
1日目を終えた段階では奈良の圧勝かと思われた今決定戦の行方は、ここにきて混沌を極めようとしていた。
胸倉をつかみあってのインファイト、殴り合った末に最後まで立っていられるのは奈良か、中村か、はたまた堀なのか?

14回戦(柴-堀-中村-奈良)
-これがナンバーワンの実力-

奈良がをポンして積極的に動く。
ついに尻に火が付いたこの状況、もう静観というわけにもいかないところか。

堀も動く。
をアンカンして積極策。
すでにドラが1つあるのでアガればマンガンになりそうだ。

奈良はさらにもポン。
あわよくば役役トイトイを目指しての大勝負。
上家中村にプレッシャーを与える意味もあるだろうか。

11巡目、親の柴からリーチを受けるも、堀は『関係ねぇ!』とばかりに果敢な追っかけリーチ。
カンで乗った新ドラを2枚引き入れマンガン以上が確定。

が、やはりこの男をやってくる、中村だ。
この局は得意の鳴きではなくしっかりと門前で作り上げてリーチを打った。
役なしの両面待ちだが、すでに見た目6枚切られている。
これは中村がどちらかに打って戦線離脱か…。

はい、申し訳ございませんでした。
見事な一発ツモ。
これが関西雀王戦3期通算+1,000越えの実力か。

南4局
-麻雀プロとして、この場に座るものとして 柴卓司の矜持-

柴が意地を見せここまでトップ目。
この半荘は3者がトップをとるかではなく、何着で終えられるかに焦点が集まりそうだ。
さらに堀・中村目線で言えば、柴トップなら最終戦はトップ取り条件となりそうなのでここはあっさり終わらせることもあるだろう。
しかし3着目の奈良に配牌ドラ3という超好配牌!
13回戦のオーラスでもこの展開見たような…。
果たして奈良はこの手をまとめきれるのか?

3巡目にして早くも選択。
奈良の選択は打
ドラを暗刻で確定させようという判断か。

ここからうまくまとめ待ちの変則待ちに構えることに成功した。
ここでマンガンをアガれば柴をかわしこの半荘トップに立つ。
さらに堀と2着順、中村とトップ・ラスとなるので最終戦は2名に条件をつきつけることができる。
これはさすがに奈良で決まりか?

しかし、奈良のこの手は成就しなかった。
それどころか、16000点も払わされること羽目になった。
決定戦残り2戦のオーラスという命運を分かつ場面で役満を仕上げて見せたのは…。

柴であった。
柴がこの四暗刻をあがったところで最終戦に現実的な条件はほぼないと言ってよい。
だが、親リーチを受けてから丁寧に対応しつつも簡単にオリる選択をしなかったからこそ生まれた役満である。
今決定戦、あまりにも不運に見舞われていた柴だが、それでも決してあきらめず己ができることを最後までやりきった。
この四暗刻は、柴のプロとしての矜持だ。

1回戦から首位をひた走ってきた奈良がついに、ついに陥落した。
とらえたのは堀。
我慢が続く展開ながら2着をキープし続け着実にプラスを積み重ねた。
試合巧者らしい見事なゲームメイクである。
最終戦は堀、奈良とも着順勝負である。

一方、中村は痛恨のラス。
好手もあったが出入りの激しい麻雀で、なかなか突き抜けられない。
最終戦は自身がトップを取ったうえで堀、奈良と並びを作るか素点で上回る必要があるため厳しい戦いになるだろう。

15回戦
2か月の長きにわたった第3期関西雀王決定戦もいよいよ最終戦である。
守備型の堀・奈良の2名が攻めざるを得ない中村の間隙を突くのか。
はたまた攻撃型の中村が2名をしばりつけて最後まで攻め倒すのか。
まったく予想のつかない最終戦、おそらくはかなり拮抗した勝負になるであろうと私は戦前考えていた。

しかし、『新たなる王』はそれを許してはくれなかった。

すべて東場が終わるまでに出たアガリである。
『新たなる王』による独り舞台、まさに蹂躙といった言葉がふさわしい圧勝劇であった。
ここで詳しくこの模様を書くのはきっと蛇足でしかない。
あえて割愛させていただこう。

■第4位 柴 卓司 ▲269.4
柴の表情には明らかに疲労の色がにじんでいた。
事前の予想では優勝の大本命とされながら、初日から大不振を極めて不運に見舞われ続け、最後は黒子的な立ち回りを求められた。
関西の若手協会プロたちは、一度柴の後ろ見をさせてもらうべきだと私は思う。
柴の麻雀は今の協会のトレンドを忠実に抑えている。
ぜひとも勉強してもらいたい。
そして柴にはこの場に戻ってきてほしい、そう切に願って健闘をたたえたい。

■第3位 堀 良三 +51.0
普段の堀はひょうひょうとした、つかみどころのない独特の雰囲気を持っている。
だが、決定戦を終えた堀の表情には後悔の色が強く出ていたように感じた。
4名の中で最もベテランであり、麻雀のスタイルもある意味最も古いと言えるかもしれない。
だが、それでも戦えることを示した。
その結果が最終戦前に首位に立つというゲームプランを忠実に実行できたことに表れている。
しかし、あと一歩、わずかに届かなかった。
来期の堀は、そのあと1歩を探し求めるのかもしれない。
その一歩で『関西雀王』に届くことを、願ってやまない。

■第2位 奈良 篤志 +72.7
最終戦を終えインタビューを受ける奈良の表情には、どこかすがすがしい、晴れやかな印象を受けた。
悔しくないはずがない。
もっとやれた、あの時こうしていれば、そんな思いも胸中に去来していることであろう。
だが、奈良は前を向いていた。
13回戦が終わるまで関西雀王に最も近い位置にいたのは間違いなく奈良であったし、今決定戦を盛り上げたのは間違いなく奈良の奮闘あってこそだ。
更なるパワーアップを遂げて再びこの舞台に戻ってきてくれるに違いない。

■優勝 第3期関西雀王 中村 一 +145.7
最終戦の『新たなる王』にふさわしい麻雀を見せつけたのは中村だった。
中村はリーグ戦では圧倒的な成績を残しながら、なぜかタイトルには縁がなかった。
今決定戦の前半は不調にも見舞われた。
しかし、プロ活動に加え麻雀店で勤務しネット麻雀でも活躍する『麻雀愛』は間違いなく誰よりも強かったのだと思う。
一時はあった400近い差を大逆転できたのは、奇跡でも何でもない。
中村の愛が、己を信じぬく力が運命を導いた当たり前の結末だったのかもしれない。

こうして第3期関西雀王決定戦は、中村一の優勝で幕を閉じた。
中村はこの優勝により、来年度より雀王戦・B1リーグへの特別昇級が決まった。
中村にとっては初めて到達する領域である。
甘い相手など一人もいないだろう。
関西でのリーグ戦のように圧倒的な成績を打ち出すことは難しいかもしれないが、中村ならきっと良い結果を残してくれるはずだ。
少なくとも、この決定戦で見せてくれた内容ならばそれを期待せずにはいられない。

この決定戦が始まったころには冬の訪れを感じさせるかのような、凍てつく寒さが足音を立てて近づいてくるのを感じていたが、年が明けたこの最終戦はこの時期にしてはやや暖かい気候であった。
もしかすると中村の攻めがその寒ささえ切り裂いたのであろうか。
あるいは天が中村に笑いかけたのであろうか。
中村の進む道はこれから先、協会トップに上り詰めようとする猛者たちを相手に勝っていかねばならないいばらの道である。
渇望する『雀王』へと至る道はこれまで以上に過酷だ。
それでも新たなる王は進み続ける。たどり着きたい場所があるのなら、そこに牌があるのなら手に取ってしまうのが麻雀プロの性なのだ。

結びに。
冒頭触れた羽生善治九段、氏の座右の銘に触れたい。

『運命は勇者に微笑む』

中村はこれからも己の麻雀道を歩み続けるだろう。
関西の新たな王として、どんな困難な状況にも折れない最強の勇者として。
運命は、切り拓き続けなければ決して微笑まないのだから。

===更新準備中。掲載までしばらくお待ちください。===