第22期新人王戦決勝観戦記(3回戦)
第22期新人王戦決勝観戦記
3回戦
【担当記者:坪川義昭】
1回戦と真逆の順位を引いた4者は正にヨーイ!ドン!状態。
一旦リセットして始まったこのゲーム。
残り3戦ということはこの回のトップ者は4回戦目にどんな順位を取ろうが最終戦優勝の可能性を持って戦える優位な状況を得ることができる。
細かい点棒のやり取りを重ねて勝負所は南3局。
まずは親番の柊がドラのをアンカンして圧力をかけていく。
微差のトップ目である晃平はリーチとを横に置いた。
ラス目の親番柊がドラをアンカンして臨戦態勢の上、他者としても待ち構えていたシチュエーション。
山にいるかもわからない何の根拠もないリーチのみのペンリーチ。
単純に先制を取れて役がないのであればリーチをかけた方が『マシ』という選択だろう。
彼にはこれを選ぶことが出来る強さがある。
競技麻雀をかじっていくとドンドンこの選択が出来なくなっていくのだ。
・ドラのアンカンをしている親が追いついたらどうしよう?
・カンドラを乗せた他社が追っかけリーチをしてきたら?
・周りのスピード感はどうだろう?
知識が付けばつくほどに悪い結末が見えてきて、今この時点で自分が有利ということよりも将来の不安に駆られていくものだ。
親の柊はなかなかテンパイしそうにもないイーシャンテンだった。
しかし、同巡に藤井が追っかけリーチ。
をアンカンして待ちは立派なものではないもののドラは計6種類。ここが勝負所だ。
黒田もテンパイし、理想形とは言えないもの3者の中では一番有利な捲り合いだ。
決着はすぐに着いた。
藤井が力無く河に置いたのは。
晃平の手はこれだけカンが入っても1300点。
3者から『なんだよ…そんな手で…』そんな声が聞こえてきそうだった。
これで勝負あり。
晃平はトップをもぎ取り次ラスを取ったとしても優勝争いに絡むことが確定した。
先のアガリを見て、しょーもないアガリじゃないか!観戦記に取り上げるようなアガリじゃない!と思う読者もいるかもしれない。
しかし、彼が優勝した時はきっとこのアガリが優勝を決めたアガリだ。
読者の皆様は『鈍感力』という言葉を知っているだろうか?
麻雀界で初めて『鈍感力』が日の目を見たのが、第7期雀王決定戦10回戦だろう。
この年は天才鈴木達也からAリーグ1年目の小倉孝が雀王を奪った年なのだが、記事にもなっていないような1局が存在する。
大量リードを持った小倉はこの局他家に放銃するのだが、この時鈴木達也が国士無双のテンパイを入れていた。
後からその局を聞かれても鈴木達也が国士をやっていたことすら気付いてない。
故に普通に手を進めて普通に他家に放銃したのだ。
優勝は最終戦ノーテン罰符の差で優勝が決まる接戦だったため、上記の局は記事として取り扱われることもなく最終戦だけが取り上げられた。
知識はあっても今一歩及ばない人間と、優勝を掴む人間の差はここに存在するのではないだろうか?
たくさん理を並べれば将来不利になる。
でも、この瞬間は有利ならば牌は横に置くべき。
確かに美しいアガリ形とは言えないかもしれないが、筆者の目にはこのアガリはとてつもなく美しく見えた。