第22期雀竜位決定戦観戦記 3日目(12回戦)
【担当記者:中島由矩】
12回戦(秋瀬-原田-真田-吉田)
ままならない。麻雀は本当にままならない。
どうしても勝ちたい半荘で勝ち切れずに昇級できなかった者、連対すれば次の試合ができたはずの半荘で大きな横移動がありわずかに届かなかった者、大きなラスでさえなければよかったのに箱下のラスを引いて失意のうちに会場を後にした者、そんな数多の敗者たちの死屍累々の光景を経て決定戦は行われている。
あと5半荘を逃げ切ってぜひとも雀竜位を戴冠したい真田槐は、11回戦3着に沈んで足踏みをし、その真田を追う原田翔平は4着になって、差がさらに大きくなった。トップを取った秋瀬ちさとも、トータル首位の真田までは82.2pt差で届かず、 吉田知弘は依然としてポイントがマイナスだ。
4者が4者とも、自身の思い通りの麻雀がしたい。早くて高いリーチを打ち、悠々とツモアガリたい。相手のリーチは、さばいてかわしたい。次々と有効牌を引き、プラスポイントを重ねたい。しかし、懸命に手を伸ばしたその先に、思い描いた未来はなく、じりじりした展開が延々続く。突き抜けたい真田と、そうはさせたくない秋瀬・原田・吉田の意地が卓上で激しくぶつかる。
東4局0本場で、全員がテンパイを入れてめくり合うシーンがあった。配牌から見ていこう。
親番の吉田。ソーズの三面張を軸に、タンヤオ・ピンフを目指す。ドラ表示牌のがあるので、ドラを絡めて12000に仕上げたい。
南家は秋瀬。場風のがトイツで、マンズがやや多めの印象だ。ツモに聞きながら方針を決め、少しでもリードを広げて南場を迎えたい。ここでアガリが決まれば、真田の着順を気にする余裕も出てくるかもしれない。
西家の原田。マンズで両面ターツができ、自風のから切り出してタンヤオを本線に手を組む。トイツが3組あるので、チートイツやトイトイをねらう展開になる可能性も含んでいる。トップ目の秋瀬まではあと2600点。離されずについていきたい。
この決定戦が3年連続になる吉田が先手を取る。
前巡タンヤオのテンパイを入れると、ツモで空切りリーチに踏み切る。待ちはカンと心もとないが、すでにを仕掛けてマンズ模様の秋瀬、を仕掛けて動き出したばかりの真田ら子方にプレッシャーをかけていく。
本命はを仕掛けて・ホンイツの8000、次善はカンやカンを仕掛けて・ホンイツの3900両面待ち、…と思っていた秋瀬の元にやってきたのはドラのだった。秋瀬の動きが止まる。
このはリーチの中スジではあるものの、タンキやシャンポンの可能性は否定できないし、なによりを仕掛けた真田がを勝負してきたところだ。こちらからロンの声がかかっても文句は言えないところ。
秋瀬の選択は打勝負だった。このを抱えて手を崩すよりも、今は一刻も早くアガリを求めたい。上家の吉田がリーチに来ている関係で、ツモ切られた有効牌は全てチーできるという利点もあった。
瀬の希望を乗せて河に放たれたを真田がポン。・・ホンイツ・トイトイ・ドラ3で倍満のテンパイを入れる。
は秋瀬とモチモチながら、は残り1枚山にあるし、なによりラス目の現状から倍満の16000点を加点すれば、この12回戦のトップ、ひいては雀竜位戴冠に向けて大きく前進できる。
親リーチの吉田、ドラを勝負して広いイーシャンテンをキープした秋瀬、そのドラをポンして倍満テンパイを入れた真田。そこに最後の役者がやってくる。
秋瀬が上家・吉田のリーチを利用して鳴きを入れるのと同様、原田も上家・真田の捨て牌を利用し、激しく仕掛けてテンパイを入れた。待ち牌は、奇しくも秋瀬と同じカンだ。
牌図で状況を整理しよう。
東家・吉田
ドラ
南家・秋瀬
ドラ
西家・原田
ドラ
北家・真田
ドラ
全員が全員の危険牌をツモ切るロシアンルーレット。・・のいずれかが顔を出したら終わりだ。決着は、真田がを加カンして新ドラになった次の瞬間に訪れた。
吉田のを秋瀬がとらえる。・ホンイツに新ドラ1で8000。無念の頭ハネに泣いた原田は、このをどんな気持ちで見ていたのだろう。
頭ハネのことを直接原田に聞くことはかなわなかった。しかし、原田はその後のプレイで魅せてくれる。教えてくれる。「東4局の件は確かに痛かったけど、この12回戦トップを取るのは俺です」 と。
南2局0本場の親番で先制リーチをかけると、
高めのをツモアガリ。2000オールでトップ目に立ち、
続く南2局1本場は、真田のリーチをかわして2900は3200を加点。
南2局2本場は流局したもののテンパイ料を手にし、
南2局3本場は吉田のリーチが真田のリーチ宣言牌を一発で召し取って8000は8900。原田は、自身がトップ目に立つだけでなく、トータル首位の真田をラスに沈めることにも成功。東4局の倍満を空振りした真田、1日目・2日目とずっと守り続けてきた首位の座が危うくなってきた。
【南4局0本場・親番吉田】
東家・吉田知弘16000
南家・秋瀬ちさと32100
西家・原田翔平39300
北家・真田槐12600
真田を除く3者にとって、真田がラスである方が望ましい。しかし、秋瀬に限っては、仮に吉田からであっても8000をアガる価値はある。8000が48ptの意味を持つ。
「ロン、2000」
12回戦終了の合図となる発声をしたのは原田。東4局痛恨の頭ハネに負けず、南2局の親番で加点し、都合のいい横移動もあって、真田とのトップラスを鮮やかに決めた。会心で渾身の12回戦となった。
激闘の余韻が冷めやらぬ中、原田が牌を選っている。何をしているのかと思って見ていたら、次の13回戦に向けての場決めの準備をしているのだった。
「はよ次やりましょ」
というわけだ。サッカーの試合において、負けているチームのストライカーが、ゴールを決めたボールを小脇に抱えてセンターサークルに向かって走る姿が頭に浮かんだ。
ままならない麻雀において、それでもじっと耐え、理不尽な目に遭い、恐怖を押し殺して前に出てつかみ取ったトップ。しかし、そのトップをゆっくり味わう間もなく次に向かう気力。雀竜位決定戦に出るためには、雀竜位になるためには、このくらいのパワーが必要なんだと、原田は画面を通して私たちに教えてくれる。
12回戦トップは原田。しかし、雀竜位戴冠に向けてはようやく三つ巴に持ち込んだところだ。残り3半荘で死力を尽くす。
2着になったのは秋瀬。トータル首位まであと22.7pt。歓喜の瞬間はすぐそこだ。13回戦は気合を入れ直し、衣装チェンジして臨む。
12回戦
13回戦
3着は吉田。トップこそ取れなかったものの、真田をラスに沈めポイント差を詰めた。最低限の仕事はできたか。
4着になったのは真田。大物手が目前で霧消し、リーチ宣言牌がつかまり、思ったように手牌がまとまらず、辛く苦しい12回戦となった。
136枚の麻雀牌と、それに苦悩する4者が織り成す物語から、1秒たりとも目を離すことができない。