第20期雀竜位決定戦観戦記 1日目(2回戦)
第20期雀竜位決定戦観戦記
1日目 2回戦
【担当記者:中島由矩】
2回戦(下石-吉田-秋山-富永)
この観戦記を書くにあたり、2つの言葉を調べてみた。
1つ目は【真打登場】・【トリを取る】。これはどちらも寄席に関する言葉で、1番最後の出演者(最も技術のある者)がまとめてギャラを受け取り、各出演者に分配することから来ているそうだ。
1回戦が抜け番だった富永にとって、この2回戦が初陣となる。
5人の中で最後の登場ということで、文字通りトリを取ることができるか。また、コロナ禍で日程がズレ込んだ雀竜位戦としても、現雀竜の登場は視聴者をワクワクさせることだろう。
2つ目は【スタッツ】。これは主にスポーツでプレーの成績をまとめたものだそうだ。Mリーグでも2021-2022シーズンから、対局終了後にスタッツが表示されるようになった。
この2回戦における、とあるスタッツを下に書くので、何のことか考えてもらいたい。正解は、この観戦記の最後に発表することにしよう。
下石6
吉田7
秋山3
富永2
東1局が、親の下石と南家の吉田の2軒テンパイで流局した後の1本場。大きな先制劇があった。
この局、ファーストテンパイは親の下石。
のポンから発進すると、道中を暗刻にし、オタ風のも鳴けて、安めのなら3900、高めのダブなら12000という形に。
無念の放銃に回ってしまったのは秋山だが、これはやむなしだった。というのも、秋山自身メンホンのイーシャンテンで、チートイツはもちろんのこと、ペン引きでもとのシャンポンになる受け入れの広い形だった。秋山にしてみれば、このダブはロンではなくポンであってほしかったところ。
一方、下石の立場から見てみると、自力でツモれるのが最高なのは言うまでもないこととして、次善はこの秋山のように勝負してくれるところにこのが行くことだった。今局はそれが結実した形だ。
下石劇場はまだ終わらない。というより、今開幕したところといった方が正確だろう。
ツモ ポン ドラ
を仕掛けていったん役牌・ホンイツ–の7700テンパイに取ると、ツモでトイトイもつけ12000に。ツモればさらに三暗刻もついて6000オールという大物手に仕上がった。手牌が生き物のように成長して、高く大きくなっていく。
他家から見た場合、下石のこのテンパイの厄介なところは、仮にホンイツだとして、ソーズなのかピンズなのかが曖昧になっているところ。実際北家の富永は下石のこの仕掛けに対し、ではなくのトイツ落としを敢行している。このは7700だった時の当たり牌でもあり、紙一重の戦いだ。
この局は、先ほどの12000放銃を挽回したい秋山が11巡目に–待ちでリーチをかけるものの、
をつかんでしまい勝負あり。下石は12600の加点に成功し、点棒は東1局にして5万点オーバーとなった。
ロン ポン ドラ
1回戦の鬱憤を晴らす下石のアガりラッシュだが、他家も黙って見ていたわけではない。東1局3本場では、北家の富永が絶好のドラ表示牌カンを引き入れて–リーチを打つと、
西家の秋山がこれに応戦。を暗刻にしてとのシャンポンリーチで前に出る。ツモれば三暗刻もつくし、さらには
の暗カンで打点を引き上げにかかる。
この勝負は、秋山がをつかんで決着。新ドラや裏ドラこそ乗らなかったものの、3900は4500で富永が反撃の狼煙を上げた。
富永が攻守の絶妙なバランスを見せたのは、東3局1本場のことだった。
ドラ
まずはタンヤオ・三色・ドラ1の8000をテンパイ。すると、次巡親の秋山が二盃口となるツモを引き入れてカンテンパイ。ドラのをリリースし、まずはダマテンに構える。
それまで役なしでカンのテンパイを入れていた下石だったが、秋山二盃口テンパイの次の手番で、ピンズが–の両面になるドラのをツモってリーチ。2着目と14900差のトップ目でも、まだ守りには入らない。
すると、それを見た秋山はツモ切りリーチを選択。一気に場が沸騰した。
トップ目下石からの先制リーチ、そして親の秋山からのツモ切りリーチを相次いで受けた富永が、持ってきた牌は。筆者ならツモ切り追いかけリーチを打つが、そうした場合下石への放銃となってしまう。また、関連牌としては、吉田の河にが2枚並んでいるのも気になるところだ。
ここで富永の選択は打。テンパイを崩してしまった。しかもすぐ次の手番である下石がツモ切った牌はで、が下石の当たり牌であると知らない富永は、さぞかし肩を落としたのではないかと推察される。
ところが富永は、次巡秋山のアガり牌であるを持ってくると、打で「これが最終形だ。」と言わんばかりのリーチ宣言。
下石からのを一発でとらえ、リーチ・一発・タンヤオ・ドラ1の8000は8300を手にし、ついにトップ目に立った。
ここまであまり名前が出てこなかったが、南2局は吉田の独壇場だった。役牌のがトイツであることと、ピンズのホンイツを見てのポンから積極的に仕掛け、
秋山からドラ暗刻でとのシャンポンリーチを受けるものの、
このは、吉田ではなく下石がキャッチ。下石はタンヤオのみのイーシャンテンで、生牌のが出るような魅力のある手ではなかった。東1局で秋山からが出たのに、この局で下石からが出なかったのには、こういった理由があったのだ。
一方吉田は、アガり牌以外すべてツモ切りすることになったリーチ者秋山からもポンできて、親番をつなぐ嬉しいテンパイ。
残念ながら流局となり、アガりにはつながらなかったものの、待ち変えの選択でチャーミングなポーズが見られたので紹介しておこう。この時以外も、吉田は終始笑顔で対局しており、麻雀が楽しいテーブルゲームであることを思い出させてくれる。
今やオリンピックでも「自分らしく楽しんできます!」と、インタビューに応じる選手がいる時代だ。楽しむ吉田は、このあと怒涛のラッシュを決める。
南2局1本場では、連続形になっているマンズを巧みに変化させ、
ドラのをトイツにして打点を作ると、を払ってタンヤオに決め、
最後はドラのをもう1枚重ねて暗刻にし、打で––テンパイ。
直後にのポンテンを取りにいった下石からをとらえて、12000は12300のアガりとなった。
下石をかわして2着目に躍り出た吉田は、続く南2局2本場でもカンを引き入れて気持ちのいい–リーチを打つが、
これは3者が慎重に対応して流局。
南2局3本場では、タンヤオのみの1500は2400だが、トップ目の富永を直撃し、瞬間トップ目に立った。
南2局4本場では、秋山が意地を見せ、三暗刻テンパイ取らずからの四暗刻を目指したが、大願成就とはならず。
また、同様に吉田のカンリーチも実らなかった。
吉田のノーテンにより親が流れた南3局6本場では、供託も3本貯まり、縦長な展開ながらも各者アガりに大きな意味を持つ場面になった。親番の秋山は、1巡目にをポン。連荘に意欲を見せる。
一方、トップに照準を合わせている富永は、ダブをトイツにしており、ホンイツやドラのを絡めなくてもアガりたい。というわけで、強い–受けのターツや、重なったも大切にしつつの進行とする。
最後は秋山の大ミンカンからの–テンパイを振り切り、
トップ目吉田からのリーチをかいくぐってをとらえ、2000は3800を直撃。吉田自身のリーチ棒にプラス供託3本も手中に収め、再びトップ目に立った。
さて、冒頭のスタッツクイズだが、分かった人はいただろうか。この観戦記の中にも、わずかだがヒントはあった。
下石6
吉田7
秋山3
富永2
これは、各者が行った親番の局数をカウントしたものだ。東1局は下石の、南2局は吉田の、それぞれ大きな連荘が見られた。しかし、この2回戦を制した真打は富永で、下家の下石に対してはリーチに押し返して一発のアガりを2回、対面の吉田に対しては、6本場供託3本でリーチ棒つきの直撃を奪い、効率よくトップ目に立った。
昔の寄席では、トリを取った者が出演者たちにギャラを分配したというが、富永は3回戦以降でこの点棒を配ることがあるのだろうか。今後の展開に目が離せない。