第5回関西チャンピオンシップ決勝観戦記

第5回関西チャンピオンシップ観戦記

【担当記者:比嘉 秀仁】

「関西チャンピオンシップも、もう5回目か」

私がこの決勝の観戦記を書くことになったとき最初に思ったことである。
前身のウエスタンチャンピオンシップ(協会員限定の大会)からだと10年以上も続いている関西の歴史を作ってきた大会だ。
関西チャンピオンシップになってからはオールカマーの大会となった。
私自身も一度決勝に残ったことがあり、思い入れのある大会である。
そんな関西チャンピオンシップの第5回目、決勝に残ったのが以下の4名だ。

■松尾 将太(RMU)

プロになったのが2022年。
ルーキーの勢いを見せつけ決勝進出である。

■井上 泰秀(日本プロ麻雀連盟)

連盟関西本部に所属し、今期関西覇皇トーナメントを制した実力者だ。

■永井 孝典(最高位戦日本プロ麻雀協会)

準決勝では国士無双を和了し決勝の座をもぎ取った。

■新田 友一(日本プロ麻雀協会)

関西チャンピオンシップ主催の協会所属。
本戦で散っていった協会員たちの想いを背負っている。

奇しくもそれぞれ異なる団体から1名ずつの選出となり、関西版四神降臨のような決勝となった。
団体の看板を背負うような形となり、皆負けられない気持ちが一層強くなるだろう。

解説陣のインタビュー時には、四人とも気合い十分。
気力に満ち溢れた中で闘牌開始である。

■1回戦

誰もが最初に和了って主導権を取りたい。
しかし麻雀で1局に和了できるのは一人だけだ。
この決勝でその最初の和了をきめたのは親の松尾だった。

ダブ東暗刻のドラトイツ、三面張の12000。
申し分のない和了と言える。
しかし、惜しむらくは立直がかかっていないことだ。

松尾は永井のを見てトイツ落としかもしれないと思い、立直をせずに確実に12000を獲りにいったのかもしれない。
だが協会ルールのポイント配分かつ決勝となれば、いつも以上に皆ガンガン攻め立ててくるだろう。
つまり、12000のリードだけでは心許ないのである。

実際、次の局を見ていただければお分かりいただけるはずだ。

西家の井上が先制リーチを打った松尾を掻い潜り、立直一発でピンフドラドラを直撃。
あっという間に松尾を超えていく。
協会ルールとは、そして決勝とはこういうことが起こる場なのである。

東1局に手痛い放銃を食らった永井以外の3人が小場で局を進めていく。
皆決定打が欲しい。そんなときに手が入ったのが新田だ。

タンヤオ三色をテンパイすると、決定打とするため即立直。
愚形だが迷い無し。東1局の松尾とは対照的。

井上も負けじと追いつき立直。
だが、しかし…

裏は乗らなかったが供託も入れて突き抜ける結果に。
嬉しすぎる和了だろう。

そしていよいよ1回戦は終盤へ。

南3局井上の親番。
ここでなんとか新田に追いつきたい松尾が6巡目に先制立直。
その攻撃を掻い潜り、上手く和了をものにしたのが親の井上。

丁寧に回し打ち連荘の権利を得る。
そしてこうなると加点チャンスが巡り来る。

軽いタンヤオ仕掛けと思いきや、ドラを執念深く残し終盤で重ねていく。
このときまで井上が良形と打点を見込んでシャンテン数を戻す場面を何度も見た。
このような打ち方は巡りが悪いとジリ貧になることも多いが、上手くハマるとこのように大チャンスとなるわけだ。

カンにより新ドラもでダブルドラになった瞬間、しっかり重ねて新田を捲る機会を得る。
そして新田は…

牌の巡りにより、テンパイした瞬間を放出し12000の放銃。
残っているソウズの形からを先切りするわけにもいかず、悲しき運命の放銃だ。

井上は好機とみてさらに点棒を積み上げに行く。

ここぞとばかりにメンホン役牌イッツーを手作り、永井から18000を直撃。

永井はこの半荘あまりにキツい展開だ。
しかしこのままやられ役ではいられない、せめてもの抵抗を見せる。

箱下からの倍満。
これでさっきの18000はほぼ帳消しだ。
まだ1回戦、ここでラスでも次に繋がる大きな和了だ。

オーラスは井上が静かに役ありテンパイをものにし、そのまま終了。

■2回戦

東場の前半は静かで大きな動きを見せず、淡々と局が流れていく。
東4局でようやく親の松尾が連荘。

松尾が1人抜け出した。
3本場まで積んだ後、南場に入る。

状況は上記のような感じだ。
1回戦トップだった井上を沈めたいのは井上以外の共通認識だろう。
松尾はそこまで無理をしないだろうが、新田と永井は自分が2着になってから井上をラスに沈められるのがベストだ。
残り3局での振る舞いが重要である。

しかし現実はそう甘くない。
親の井上から1段目リーチが放たれる。
そこに手がやっと入ったのが永井。

ドラのが重なり、現物のを打っても後が続かなさそうだ。
そうなればまっすぐいくしかない。
永井は打を選択するが、それが井上のロン牌。

2900で済んだものの、この状況で井上を2着にあげ自分は4着目に。
このままだとかなりキツイ。
南2局1本場は松尾が役無し仮テンをツモ。

南3局、永井の親番。
ラスを引くとかなりしんどいので、ここは死に物狂いで和了しにいく。

なんとか連荘にこぎつけたものの、1本場はすぐに流され微妙な点差のオーラスへ。

現状ラス目の新田、なんとか2着に浮上するため立直。
が3枚切れており、和了した時にはタンヤオがついていることが多いため2着は目の前だ。

ここで永井も追っかけリーチ。
ドラドラのあるシャンポン立直だ。
悲しいかな山にはアガリ牌はもういないが、井上がテンパイ出来ずに流局すれば永井は値千金の2着となる。

各自がお祈りをする中、誰の和了も出ず流局。

上下で約120pt差。
井上の2連勝を阻止出来たのは大きい。
まだまだ協会ルールなら挽回可能である。

■3回戦

東1局、是が非でもトップを取りたい永井が親で先制リーチを打つ。

メンタンピン一盃口の王道手。
ここまで耐えてきた見返りが欲しいところだが、現実は甘くない。

ホンイツで仕掛けていた井上が手替わりし、トイトイまで付いてハネ満。
これは心が折れてもおかしくない。

しかしまだ3回戦だ、諦めてはいられない。
東2局、永井は不屈の闘志で続いて先制立直を入れる。

結果は…

井上から3900直撃。
井上は親で立直宣言牌での放銃とやむを得ないだろう。
1回戦でもそうだったが、優勝の価値が高い決勝ではこういう殴り合いが見られるのが楽しくもある。

続く東3局、松尾の捨て牌がなんだか派手だ。
見てみると、

タンヤオ三色テンパイ。
現状ライバルの井上が加点しているので負けてはいられない。
しっかりと捨て牌を作りにいき、狙い澄ました一撃を喰らわせるつもりなのだろう。

そこにを持ってきたのが井上だ。

面白いことに、井上は序盤にを切っている。
チートイツなら捨てたい牌なのだが、残した結果重ねて放銃回避。
松尾のアガリは封殺され、麻雀の「妙」が見られた一局であった。

偶然が織りなす展開が面白い。
人間が運命を感じるのもこういう偶然の「妙」への捉え方なのだろう。

そこから状況はあまり変わらないまま南場へ。
ここで大きな変化が起こる。

まずは井上の先制立直、トップ確保に向け動く。
そこへドラを暗刻にしてテンパイした親の永井が追いかけ立直!!
三面張をツモりあげ、裏ドラをめくった瞬間。

なんとドラがダブル乗り。
8000オールの倍満のアガリをものにし、永井が一気にトップ目に浮上。

こうなるとより苦しい立場に置かれたのが新田だ。
さすがにここでラスのままだと最終戦で目無しになる可能性もある。
なんとか反撃の狼煙を上げたいが。

続く南2局、松尾からの先制立直が入る。

これに対して新田が勝負を賭けての追っかけリーチ。

松尾は両面、対して新田は2枚見えのカンチャン。
分は悪いのはわかっているが、勝負を賭けていかねばならないという判断なのだろう。

しかし結果は無情…
井上からののアンカンが入り、これで勝負はわからなくなったと思ったところに新田がを掴んでしまう。

南3局、まずは井上が先制。

ひっかけ含みの並びシャンポンだ。
あまりこういう立直を打たなそうだと思っていたが、ここが勝負時と思ったのかも知れない。

それに続いて親の松尾が立直。

ここで苦しいのは永井、一番放銃したくない場面だ。
だが両方に通る安全牌は持っていない。
両者の捨て牌を見て一番通りそうなのは…

だ。
中筋ひっかけになっている井上のリーチにズドン。
さらに裏ドラが乗り5200、痛恨の一撃。

一気に井上が永井に迫る。
その差僅か100点。
緊迫のオーラス、3回戦はどうなるのか?

井上があっさり勝負を決める。
永井にとってがっくり肩を落とす展開と結果になった。

井上が大量リード。
1番下の新田は残り2半荘で約220差をまくる必要があるため、次戦かなり噴かないと厳しい。
松尾と永井は少なくとも井上を沈めつつ自身がトップを取りたい。
逃げる井上、追う3人という構図になった。

■4回戦

東1局は後の無い新田がリーチし1000/2000をツモ和了。

続く東2局もリーチを打ち、テンパイしていた永井から3900。
井上を沈めたくはあるが、贅沢を言っていられない。
しかし東3局の親番ではテンパイもできず親流れ。

東4局、ここで手のぶつかり合いが見られる。
まず親の井上がピンフの先制立直。
ここで和了するとかなり大きい。

そう簡単に安全圏にいかれてたまるかと、永井と新田が反撃に出る。

まずは永井のドラ単騎。
しかしこれは新田に暗刻。

新田のカンも永井がブロックしている。
つまりアガリの可能性があるのは井上しかいない。
王牌に最後のが眠っていることを祈るしかない。

しかしそんな願いを他所に、スルッと最後のを井上が手繰り寄せた。
ここまで抽選に恵まれてきた井上、今回もきっちりツモっていく。
この半荘トップを取られてしまうと実質コールドといえる状況。
他の3人はそれだけは阻止したい。

続く1本場、大事件が起こる。
まずは松尾がドラ単騎テンパイで立直。

これに追いついたのは永井。

ここにきて国士無双のテンパイだ。
立直など知らぬ!といったように危険牌を河に置く。
そして松尾から切られたその牌に、永井の手が倒される。

井上から和了したいものだがさすがにそうも言っていられない。
とにかくこれで永井は大浮上。
一方で松尾は脱落の危機に立たされる。

そして4回戦後半へ。

どぎつい痛手を負わされた松尾、もちろんその目に諦めはまだ見えていない。
逆転を目指し、しっかりと手作りをしていく。

親の永井からダメ押し立直が打たれてはいるものの、一段目でメンホンテンパイ。
待ち取り、立直判断の選択がある中、松尾が選んだ選択は?

切り立直。
役満までの伸びは諦めるが、三暗刻を残しハネ満〜倍満コース。
この選択が功を奏するか?

しっかりをツモりあげ3000/6000。
なんとか地上には復帰できた。

そして迎えた親番、ここで噴けばいいだけだ。
しかしそれを阻む井上の先制立直。

ダマでサラッと流してしまっても良さそうだが、まだトップは十分見えるためしっかり攻めて自分の有利を積み上げていく考えだろう。
松尾も負けてはいられないので、なんとか押していき10巡目に追いかけ立直を打つ。

ここでハプニング。
新田がツモる場所を誤り進行ストップ。
立会人の裁定の結果、本来のツモの順番が変わることになる。
そしてその牌が…

井上の和了となり、なんと裏ドラ3枚。
一気に永井に迫ることとなる。

もちろんどんな牌が自分のツモ牌にあるかは誰にもわからないので、誤ったせいでこうなったというわけではない。
あくまで結果は偶然なのだが、本来のツモだと違う結果になっていたかも知れないのも確かである。

南3局は是が非でもトップを死守したい永井が松尾の先制立直を掻い潜りあがり切り、オーラス井上との一騎打ちに持ち込む。

ラス親の井上、ドラトイツに役牌一組。
「勝ってくれ」と言わんばかりである。

永井もなんとかテンパイにこぎつけ、自身のトップを確定しようとするが…

無情にもで井上に振り込み、コールドゲームまであと一歩というところまで追い込まれる。
最終局、永井がなんとか逆転できる手をテンパイするが残念ながら流局。

一番近い松尾でさえも井上とは196.7pt差。
トップラスを決めても116,800点差をつけないと逆転できない。
事実上のコールドゲームといえる。

■5回戦

淡々と局が進んでいく。
井上は無理せず、テンパイした時はひたすらダマ。
新田が47700点まで稼ぐが、井上の積み上げた貯金を切り崩すことはできず。
そのまま井上の優勝となった。

牌の巡りに助けられはしたが、しっかりと高打点・好形を求め、勝負どころでは前に出て、優勢になればきっちり守る。
当たり前に見えてなかなか実行するのが難しい麻雀の王道を往く打ち方を実践した井上、天晴である。

他の3人も善戦していたが、ここまでワンサイドゲームになってしまうことがあるのも麻雀だ。
途中投了ができるゲームではないので、最終戦はその心のうちのつらさが察せされた。

だが、これが麻雀というゲームである。
そして、また次挑戦しようという気持ちを持ち続けられるのが麻雀プロだ。
優勝者を讃え、今度は自分を優勝することを夢見て。

ここに今年の関西チャンピオンシップは幕を閉じる。