第23期雀王決定戦観戦記 1日目(1回戦)

【担当記者:中島由矩】

第1節1回戦(吉田-仲林-堀-田幸)

「己の心の弱さに負けないように打ち切りたい。」

愛する妻と娘たちを長野の自宅に置いて、新幹線でやってきたその選手は、

「初日・1回戦・東1局、最初を大切に考えている。やらかしがちなので。」

と、控えめに語った。

田幸浩、第23期雀王戦A1リーグを首位で通過してきた男である。

A1リーグ2位通過の堀慎吾、

「いつも通りやります。行くぞ、という感じですね。」

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A1リーグ3位通過の吉田基成も、

「いつも通りやろうと思う。」

と、それぞれ自然体を強調した。

いつもの麻雀に、今シーズンのリーグ戦に、それぞれ自信と手応えを感じている現れだろう。

第22期雀王として迎え撃つ立場の仲林圭だけは、唯一

「この5人の中で、連覇できるのは自分だけなので。」

と熱っぽく話した。

お互いの意地とプライドが卓上で交錯したシーンを3つ見ていこう。

まずは、三軒リーチが激しくぶつかった東3局1本場。

先制リーチは田幸。自身の手は高めイーペーコーだが安めだとリーチのみ。ドラの麻雀牌:東が1枚も見えていない中、積極的に前へ出る。

そこに勝負していったのは仲林。麻雀牌:一筒麻雀牌:三筒麻雀牌:三筒にカン麻雀牌:二筒を引き入れると、無スジの麻雀牌:三筒を切って追いかけリーチ。田幸の一人旅にはさせない。

ここで3人目の男がやってきた。ドラの麻雀牌:東を2枚内蔵している堀だ。麻雀牌:八萬麻雀牌:八萬麻雀牌:九萬にツモ麻雀牌:七萬でテンパイすると、麻雀牌:八萬を切って三軒目のリーチを宣言した。トータルポイントに上下がない1回戦らしい、三者三様のフラットなリーチ合戦だ。

この勝負の結末は、田幸が高めイーペーコーとなる麻雀牌:六索をツモって、1000・2000は1100・2100。リーチ棒2本も大きく、幸先のよいスタートを切る。

次は、三軒リーチとはいかなかったものの、1牌の後先で大きく展開が変わったであろう南2局0本場。

まずは親の仲林が麻雀牌:一筒を暗カンすると、新ドラ表示牌に麻雀牌:九筒が顔を現す。これで仲林は、ソーズで雀頭ができての麻雀牌:五萬麻雀牌:八萬待ちのみならず、マンズで雀頭ができてのカン麻雀牌:六索待ちでも即リーチに行きやすくなった。ツモれば6000オールからだ。

対照的に、子方は親のドラ4に震え上がることになるわけだが、吉田が13巡目にチートイツ・ドラドラをテンパイ。打点のある豪華な「かわし手」を入れ、ダマテンに構えて息をひそめる。

しかし、ここも田幸が制した。役がないメンゼンでツモのみアガれるペン麻雀牌:七索を、見事ツモアガリ。値千金の300・500を手にし、吉田のチートイツ、仲林のドラ4を未然に封殺。

現雀王の仲林も思わず顔をゆがめた。

最後は、前回第22期雀王決定戦経験者の2人が二軒リーチで火花を散らしているところに、トップ目の田幸が斬り込んだ南3局0本場。

まずは田幸がチーして両面テンパイ。堀の親を落としつつ、ドラドラで3900の加点を目論む。

田幸に自由に打たせたくない親の堀は、麻雀牌:三索麻雀牌:五索麻雀牌:七索のリャンカン形に高め三色になる方のカン麻雀牌:四索を引き入れると、即リーチで押さえつけにかかる。高めの麻雀牌:三筒をツモれば、裏ドラを見ずとも4000オールとなる勝負手に育てた。

堀の親リーチに対し、次巡、田幸が持ってきたのは麻雀牌:一筒。堀の河にピンズは1枚もなく、トップ目の田幸にはここでオリる選択肢もあった。

しかし、ここは田幸が鋭い踏み込みを見せ、この麻雀牌:一筒をプッシュ。

「俺はここで勝負するために卓についてるんだ。」

という声が聞こえたような気がした。

しかしこの勝負は、田幸のアガリ牌である麻雀牌:七筒を引き入れた仲林が、追いかけリーチすると、

堀がドラの麻雀牌:二筒を一発でつかんで放銃。

リーチ・一発・タンヤオ・ピンフ・ドラ1で、裏ドラが乗れば12000だったが、ここは乗らずで8000。仲林が田幸ににじり寄る。

オーラスは、吉田が二副露からのツモアガリで、熱戦にピリオドを打った。

1回戦トップは田幸浩。リーグ戦の勢いそのままに、この決定戦での大暴れを予感させる戦いぶりだった。
2着になったのは仲林圭。トップ獲りよりも連対に重きを置く、仲林らしい結果となった。
3着には吉田基成。手が思うように入らない中でも、南2局0本場で見せたチートイツ・ドラドラの切れ味は鋭かった。ここからの巻き返しに期待できる。

無念の4着になったのは堀慎吾。しかし第18期雀王で、前回第22期雀王決定戦経験者でもある堀は、あわてず騒がず「いつも通り。行くぞ、という感じ」で、今後ギアを上げていくことだろう。

抜け番の橘哲也を入れた五者の戦いは、今その幕が切って落とされたところだ。