第23期雀竜位決定戦観戦記 3日目(15回戦)

【担当記者:五十嵐毅】

最終戦を迎えてのポイント状況
真田+112.5 安藤+99.1 吉田+5.3 矢島△33.6

首位争いをしている真田と安藤の間には1着順差もないので、ここは単純に着順勝負。100点でも上の方が優勝だ。同点の場合は現状の差が残るので真田が優勝。
吉田はトップを取り、安藤を3390点差の3着、真田をラスにすれば優勝だが、無理をしなければならない矢島がラスになる可能性が高い。その場合は1着順分の点差20000点をプラスして3着安藤と53900差としなければならない。
矢島が優勝するためには、吉田の条件にさらに38900点上乗せという超困難な条件だ。

座順・矢島―吉田―安藤―真田

大量得点を目指す吉田が東1局から飛ばす。
流局連荘の後の1本場、6巡目にドラ麻雀牌:北を切ってリーチ。
イーペーコーとなる高目を一発でツモり、裏ものせてハネ満。

東2局親番、麻雀牌:発アンコの手でリーチ。裏ドラ麻雀牌:三萬をのせて4000オール。

2局で24300点の収入。吉田の条件が俄かに現実味を帯びた展開となる。

南1局、真田がリーチ。
後がない最後の親番・矢島はホンイツで必死に3フーロするもテンパイできず。矢島の雀竜位戦は実質的にここで終わり。
この時点で点棒状況は、
吉田52800 安藤23200 真田23100 矢島1900 (供託1000)
吉田と安藤は29600点差。
親番の終わった矢島のラスはもう確定だろう。となると、安藤2着、真田3着の並びを変えないまま、吉田はさらに24300以上加点しなければならない。

それがわかる安藤は次局、吉田の親を蹴りに行った。オタ風麻雀牌:西からポン。
さらに麻雀牌:六萬ポン、麻雀牌:四萬をリャンメンでチーと3フーロ。チーしたときの打牌は麻雀牌:八萬で、麻雀牌:九萬タンキは見え見えの範疇だが、これをツモって吉田の親を終わらせた。

これで吉田もほぼ終わり。残るラス前、オーラスは常識的に見て安藤、真田の一騎打ちである。
ラス前、親の安藤が麻雀牌:発アンコの手で8巡目に麻雀牌:二索麻雀牌:五索のノベタンリーチ。
2巡後に真田がカン麻雀牌:八萬で追っ掛けるも、安藤ツモで2600オール。2人の間は20400差と開いた。

1本場、真田が8巡目にリーチ。高目がドラでタンピンになる麻雀牌:六索麻雀牌:九索待ち。
4巡後に超安目の麻雀牌:九索をちょっと考えてツモ。

誰も出て来ていない、出てこられない局なので、高目ツモを考えてツモ切りの手もある。しかし、麻雀牌:六索をツモって仮に裏ドラがのってもまだ逆転はしない。ならば、得点効率のいい親番での連荘に賭ける。そんな思いの渋々のツモアガリ。実は麻雀牌:六索は3枚残りだったのだが……。

オーラス、膠着するような局だった。両者なかなかテンパイしない。真田は16巡目にやっとテンパイ。ノーテン終了が懸念される巡目だけに真田はホッとしただろう。安藤も最後のツモでやっとテンパイ。

1本場、真田にようやく早いテンパイが入る。ドラ麻雀牌:二萬を1枚使った麻雀牌:一索麻雀牌:四索待ち。

これをツモれば勝負の行方がわからなくなるところだが、真田は14巡むなしくツモ切り続けた。1人テンパイ。

2本場、驚愕の大団円が訪れる。先ほど「ほぼ終わり」と書いた男に国士テンパイが入ったのだ。イ―シャンテンは頭ナシだったので受け入れは13種。さらに欠けている麻雀牌:九索がこの時点で4枚残りと、アガリが約束されたようなイーシャンテンだったのである。麻雀牌:九筒を重ねてさすがに13面待ちとはならなかったが、4枚残りの麻雀牌:九索待ち。吉田はリーチと行った。

値段は変わらないのに「こっちにも手が入ったんだ。向かってくるなら覚悟してね」とわざわざ警鐘を鳴らしてあげたのだ。こういうのを「優しさリーチ」というらしい。
残る4枚のうち1枚目がすぐに吉田の手に訪れた。

集計は⁉ 真田は捲っている! 安藤は? 6.4ポイント届かない!
もちろん準優勝止まりなのは吉田にはわかっていた。アガリ方で優勝があるのならば、それこそヤミテンだっただろう。

ツモられたとき、真田は一瞬放心したようだった。こんな終わり方もあるんだな、という表情にも見えた。
この日の真田はリーチしてもほとんど裏ドラがのらず苦戦を強いられていた。しかし、12回戦で矢島から出た麻雀牌:五索を見逃すなど、戦略に長けたところを見せ、さすがと思わせてくれた。

結局、矢島は4位で終わった。だが、この日開始前のあのポイント状況から3連勝し、観る者を(そして矢島自身も)楽しませてくれたのは間違いない。最終日を盛り上げた功労者である。

一騎打ちムードから一転、国士で準優勝に飛び込んだ吉田。安藤とは6.4P差。道中でなんとかならなかったのかという感は否めないが、自身もまさかこんな結末が訪れるとは予想していなかっただろう。
そういえば。10回戦終了時にこんなやりとりをしたことを観戦記に書いた。
「決定戦終わって16ポイント差で優勝逃したら?」
「そのときはこの局がだめだったんだなと反省するだけですよ!」
スマン! まさかこんな形で言霊になるとは!
しかし、彼を20代前半の頃から知る者として、歳を取ってから強くなったなあと感心している。若い頃はこんな力強い麻雀を打っていなかった。私も見習います!

打っている間は無表情の安藤だが、終わった瞬間は苦笑いのようだった。優勝したけれど自分でケリをつけたわけでないし、大喜びが憚られると感じたのかもしれない。

2年前は完璧といっていい内容で圧勝。連覇が期待された昨年は一転、絶不調で屈辱の途中敗退となった。そして今回は、終わってみればトップは出だしの3連勝のみという省エネ優勝。この辛勝はもうひとつの勝ちパターンとして幅を広げてくれると思う。今度こそ連覇に期待したい。