第23期雀王決定戦観戦記 最終日(21回戦)

【担当記者:中島由矩】
21回戦(吉田-田幸-仲林-堀)

麻雀は「頭脳スポーツ」と呼ばれるが、野球・サッカー・バレー・陸上競技など、一般的なスポーツならもっと視聴者に対してストレートに伝わりやすかっただろうに…、と思うことがよくある。
この21回戦も、もしバスケットボールならダンクシュートが炸裂し、もしボクシングなら血しぶきが飛んでいたであろうシーンが随所に見られた。
また、この21回戦からはいよいよ終盤戦でもある。首位仲林(+234.8pt)から4位堀(△26.6pt)まで261.4pt差の、しかも優勝にしか価値のない特殊な戦い。当会の頂点に手をかけている4選手の、特にオーラス南4局の選択を、それぞれ見ていこう。
【南4局0本場】
東家・堀慎吾 21800
南家・吉田基成 12900
西家・田幸浩 33500
北家・仲林圭 31800

2着目で迎えた南4局、オタ風のから発進したのは、トータル首位の仲林圭。この21回戦トップ目の田幸まで1700点差をまくるには、ホンイツのみで十分だ。

一方、4着目の吉田基成は、場風のを持ってきて選択。
をポンしている仲林は、河にソーズを3枚並べており、ホンイツならマンズかピンズかが不明なのに加え、役牌のバック仕掛けもありえるところ。場風の
と仲林の風牌
は「ポン」と言われてしまう可能性がある。この
を安易に切り、仲林のトップ率を上げるようなことは、あってはならない。

吉田はこのを河に放つ寸前に思いとどまり、

手を戻して、再び思考の海へと深く潜っていった。ここは、ドラ表示牌のを1枚外す。

吉田はその後、5巡目にドラのを重ねると、満を持して
をリリース。どこからも声はかからない。トータル2位の吉田、トップ目の田幸まで20600点差はさておき、いやむしろトップは田幸に取ってもらって、自身は8900点差の3着目・堀をまくりにいく。

他家の動向を見てきたトップ目の田幸は、ポンから発進してタンヤオへ。この21回戦をトップで終え、いよいよ雀王初戴冠を目指した戦いに向けて、ギアを切り替えたい。

■仲林はマンズのホンイツへ
■吉田は満貫ツモを目指してドラドラ
■田幸はトップを確定させるタンヤオ
最後に真打登場、上の全ての動きを門前で見ていた親番・堀の選択だ。
自風のを暗刻にして、しかしチートイツのイーシャンテンでもある手牌。ここでの堀の選択こそが、SNSのタイムラインを、それ一色に染め上げたのだった。

ドラの切りだ。この
は仲林が5巡目に放しており、単純に見た目の枚数で選んだようにも思えるし、その仲林に対して5巡目に
を勝負してきた吉田の河に
があることから、吉田のドラトイツを看破したようにも見える。

もちろん吉田はポン。まず打点を確保し、後はピンズの一気通貫で役をつけにいく。

ここで、堀がテンパイ。暗刻のを1枚外して、
タンキにねらいを定めると、

仲林が1枚つかんで手の内にとどめ、

吉田が一気通貫のテンパイを入れ、

田幸がトップを確定させるテンパイを入れた後、

堀は、こともなげにラス牌のをツモってみせた。裏ドラが乗り、6000オールで、一気に逆転。

■昇級できるように頑張ります。
■全力を尽くして勝ちにいきます。
■最後まで集中力を切らさないようにします。
と、人は言う。しかし、本当の意味で「麻雀を頑張る」というのは、こういうことを指すのかもしれない。そして、もしそうなのだとしたら、筆者にはできない。
場面は変わって、南4局1本場
東家・堀慎吾 39800
南家・吉田基成 6900
西家・田幸浩 27500
北家・仲林圭 25800

ここでの田幸の選択もまた、「麻雀を頑張る」「雀王を目指す」を体現したものだった。チートイツをテンパイした田幸は、

ちょうど前巡仲林が切ったを見て、
切りでリーチ。ションパイの
タンキに照準を合わせる。

–
ツモ、もしくは
出アガリでこの試合を終わらせられる吉田が、
をツモ切ったが、田幸は一瞥もくれなかった。
また、吉田は吉田で、もしこの手をリーチして、田幸からでアガった場合、仲林が2着に上がってしまう。そういう未来を拒否するダマテンだったのだろう。
田幸・吉田ともに決定戦バランスで戦った結果、この局は流局で終了。親の堀も無理な連荘は目指さなかった。
21回戦トップは、堀慎吾。ずっと苦しい4着目だったが、南3局・南4局と跳満を連続でものにし、一躍トップに立つと、そのままゴールインした。

南3局は、一気通貫になる高めのが山に4枚残っており、堀はこれを一発でツモアガリ。リーチ・一発・ツモ・ピンフ・一気通貫の3000・6000とした。チートイツのラス牌をツモった南4局とは対照的な、これはこれで爽快なアガリだった。
2着は、田幸浩。東2局親番でのリーチに、雀王になるんだという強い決意を感じた。ダマテンでも高め出アガリ18000の手をリーチし、果敢に8000オールをツモりにいった姿勢は、多くの視聴者の胸を打つ。リーチ・タンヤオ・ピンフ・ツモ・ドラドラ・裏ドラの6000オールで、混戦から一気にトップ目に駆け上がった。

3着になったのは、仲林圭。追う立場だった昨年とは異なり、今回は首位でこの最終日を迎えている。しかし、先制リーチを受けても、ドラ切りで追いかけリーチを打つなど、ファイティングポーズは崩していない。22回戦から先も、アグレッシブな選択を続け、雀王連覇にますます意欲を見せるだろう。

無念の4着になったのは、吉田基成。自身のポイントは大きく減らしたものの、トータル首位の仲林にトップを取られることはなかったのが、不幸中の幸いと言えよう。今後必ずやってくるチャンスを確実にとらえるべく、今はただただ次戦を見据える。

