第23期雀王決定戦観戦記 3日目(13回戦)

【担当記者:坪川義昭】
A1リーグや決定戦を観ていると『なんかよくわからないけど、凄い』という場面に遭遇します。
選手の方々も全てをインタビューで説明する時間はありませんし、視聴者も長時間観ていると凄かったけど忘れてしまうシーンなんてものは数え切れないくらいあるでしょう。
今回は世の中にもっと知られて欲しい一打を紹介します。

東3局1本場
なんと2巡目にして田幸さんがチートイツ・ドラ2のヤミテンを入れています。
一先ず仮テンの単騎に受けました。


単騎に受け変えた次巡
と悩んだ末、ツモ切りリーチを打ちました。
一段目に全員がを切っているので、山に残っていそうですし、掴んでも使い切りにくいので出やすい待ちとも言えるでしょう。

この一連のムーブを見て、オヤの仲林さんはスッとを押します。
序盤にが切られているリーチの本命と呼ばれる待ちですね。
では、なぜ仲林さんはいとも簡単にを通せたのでしょう。
答えはツモ切りリーチだったことが大きく関係しています。
ツモ切りリーチにはいくつか種類があります。
・待ちや打点に不満があり、一旦変化を待ったが変化する枚数や種類が減った場合
・ヤミテンでも十分な手だったが、出アガリしにくい状況変化が起きた場合
・ヤミテンに受けてはみたが、リーチの方が良かったと判断しなおした場合
基本的にはこの3点です。
今回は待っていたのが1巡ということもあり、出アガリがしにくくなるような状況変化は起きていません。
ということは、おそらく愚形待ちでヤミテンを選択したがリーチの方が有利と思い直してリーチをした可能性が高いと予想できます。
が当たるケースはリャンメン待ちだとしても、シャンポン待ちだとしても薄い待ちなわけでもないですし、即リーチとなっているはずです。
圧倒的にヤミテンの方が良い手牌であるならばヤミテン続行となりますしね。

を引いたところで仲林さんに選択が訪れます。
手牌はタンヤオになっているので、マンズのカンチャンに手をかけたいところですが、どちらもリーチに通っていません。
ソーズのカンチャンは両方とも現物となっていて、安全に手を進めることができます。

危険牌を連続で切って前進することを選びました。
マンズを残すとリーチのみになりますが、こうするとタンヤオになって手牌の価値が高まります。とはいえ、なかなかできる選択ではありません。は先程の
と同様でツモ切りリーチには当たりにくい牌となっていて、勝負しやすいという理由が大きいようです。

ちなみに堀さんも同様の読みを入れて、両無筋であるを放っていきます。この辺は対局者全員一致の見解なのでしょう。

こうなれば勝負です。は愚形に当たりかねない危険牌ですが、リーチと出ました。
待ちのは現物なのに1枚しか出ていないので、まだ山に生きていそうです。


終盤に手が詰まってしまった吉田さんから打ち取り、見事なアガリとなりました。
常人では拾えないアガリではないでしょうか。

南2局
面白い局をもう一つご紹介します。
13巡目に吉田さんが安全牌のを手出しして8000点のヤミテンを入れました。

すると、ラス目のオヤである田幸さんがドラ単騎のチートイツを大きく振りかぶってリーチと出ました。

さて、堀さんの切り番です。
安全牌のを切ればタンピン高めドラのイーシャンテンなので、テンパイすれば
も勝負していくことでしょう。

ドラ受けのリャンメンを払ってカンチャンを残す不思議な打牌ですね。
これは安全牌を切った後、親リーチに全く通っていないを勝負した吉田さんのヤミテンを警戒した一打です。
確かに田幸さんのリーチだけ見ると、ピンズに手をかけたくなりますがは吉田さんに危険牌です。
ヤミテンを続行していることを考えると、現物待ちの可能性が高いので、二人ともに通りやすい打としました。

仲林さんの切り番です。
堀さん同様に現物待ちを警戒して当然には手をかけません。
ノーテンバップも惜しい局面ですので、粘りたいのですが浮いている牌は危険牌です。

この終盤にノーテンからワンチャンスとはいえ無筋のを押しました。
不思議と思いませんか?
これにも当然理由があります。
田幸さんのリーチはとリャンメンを払ってのリーチです。
ここからわかることは、払われたリャンメンよりも価値のある待ちが残っているということです。
巡目を2巡遡って考えてみて下さい。
既にが4枚切られてしまい、
–
というのはかなり弱い待ちとなってしまっています。
もしも、リャンメン待ちを選んでいるならば、捨て牌にはと並ぶはずなのです。
そこをしっかりと認識してを切り飛ばし、イーシャンテンを維持しています。
結果には結び付かなかったのですが、興味深い一打ですよね。

この後、絶好のカンチャンを引き入れた堀さんは追っかけリーチを放ちます。

しかし、田幸さんが天高く振りかざした指先にはラス牌のがいました。
裏ドラも乗せて8000オールの大逆転です。
これには田幸さんも興奮を抑え切れない状態。

オーラスは仲林さんが吉田さんとの捲り合いを制して2着に浮上し、ゲームセットとなりました。

地味なプレーの中にも卓越した技術を駆使した一打が存在します。
こんな素敵な麻雀をいつまでも観ていたいものですね。