トップページ
日本プロ麻雀協会について
日本プロ麻雀協会 競技規定
タイトル戦/公式戦情報
チャンピオンロード
関西協会プロアマシリーズ
過去の観戦記
協会スケジュール
対局会場 案内
協会員名簿

や・ら・わ
日本プロ麻雀協会 プロテスト
協会チャンネル
ゲスト/メディア情報
協会員ブログ
日本プロ麻雀協会 麻雀教室
お問い合わせ
ゲスト/麻雀教室 の依頼
日本プロ麻雀協会公式HP プライバシーポリシーお問い合わせよくあるご質問リンクサイトマップ

順位
名前
TOTAL
1日目
6回戦
7回戦
8回戦
9回戦
10回戦
1
鈴木 たろう
78.6
157.3
9.1
67.2
-49.1
-46.1
-59.8
2
須田 良規
9.8
14.5
-19.4
4.4
8.8
-13.3
14.8
3
金 太賢
-12.8
-74.4
59.8
-52.7
-12.3
8.7
58.1
4
鈴木 達也
-79.6
-99.4
-49.5
-19.9
52.6
50.7
-14.1

【2日目観戦記】  | 1日目観戦記 | 3日目観戦記 | 最終日観戦記 | 

神楽坂駅のホームは、晩秋の穏やかさを湛えていた。
人々が暖かな装いに身を包み、麗らかな木々の芽生えに想いを巡らすのも、そう遠い話ではないだろう。
私は携帯のディスプレイを一瞥し、足早に改札をくぐり抜けた。

間も無く雀王決定戦、その2日目が催される。
初日は、結果だけ見れば圧倒的な鈴木たろうのゲームだったようだ。
だが、他の3人もその姿勢、持てる技術で最高の対局を作り上げた、という声も耳にしている。

今日、私はプレイヤーとしてその地に向かうわけではない。
言ってしまえば、ただの傍観者だ。
闘いに加わる権利は与えられていない。
にも関わらず、対局前のように神経は尖り、やり場のない熱が体内を駆け巡っていた。
―いや、参加出来ないからこそだろうか。
私はそれを少しでも冷まそうと、息を大きく、深く吸い込む。

傍観者、結構じゃないか。
ならば特等席で見せてもらうとしよう―

ふぅ、と吐いた息の熱さは、まばらな人並みの、その誰にも知られる事無く往来に霧散して―
静かに佇む街並みだけが、ただじっとそれを見ていた。

---------------------------

会場では、四者がそれぞれの面持ちで時を待っていた。

鈴木たろうはリラックスしたムードで、観戦者と談笑している。
現時点で大差をつけてのトップ。プレッシャーがかかる場面にも関わらず、そんな様子を欠片も見せない。

須田良規もやや固い表情での登場だったが、周囲とにこやかに会話しているあたり、緊張した様子はない。
積み重ねてきたものの重さが、逆に彼らの肩を軽くしているのだろう。
まさに、百戦錬磨。練達の打ち手だからこそ、それが可能なのだ。

しかし、経験ではそれに勝るとも劣らないはずの鈴木達也はそうではなかった。
一見すれば平然としているように見えたが―
短い期間ではあるが、同じ職場で苦楽を共にした私には、達也が緊張していることが手に取るように感じ取れた。
やはり、ここまでのビハインドは彼にとっても大きな重圧なのか―

そしてただ独り、会場の隅で瞑想する金太賢。
そう、彼だけが経験という面では後れをとっていると言えるだろう。
初日は無難とはいかないまでも、なんとか戦える位置で終えることが出来たが、
果たしてこの猛者達相手に、どこまで平静を保つことが出来るのか。
それとも、この程度のプレッシャーは彼にとって勝負を楽しむためのスパイスでしかないのか。
真価が問われるのはこれからだ。

私が全員の様子を書き留めると、程なく会場が静謐に満ちていく。
会場の全員が見つめる中、立会人が厳かに第二幕の始まりを告げた―

 

★第6回戦★(たろう→須田→金→達也)

開局早々、たろうが仕掛ける。
ほぼ方向性の決まった配牌は、3巡であっという間に形になった。
たろう(北家、3巡目)
 ツモ ドラ
。どう見ても、ここが一番早い。
だが、親の達也も負けじと食い下がっていく。
達也(東家、6巡目)
 ツモ ドラ
イーシャンテンのここで、打
なるほど、テンパイチャンスは減るが張ったところでリーチのみ。
ならば少しでも手役の可能性を追っていこうというわけだ。
実際は直後にをたろうがポンして、回ってきたツモが
構想とは少し違うが、迷わずリーチに行った。

しかし、達也の想定よりもたろうの手は早く、高くまとまっていた。
リーチを受けて一旦は様子を見るも
達也のツモ切ったに反応しテンパイを入れる。
12巡目、達也がを掴んで開幕はたろうに軍配が上がった。
たろう(北家、12巡目)
 ポン ポン ロン ドラ

達也は倒されたたろうの手牌を眺め、平然とした面持ちで点棒を卓上へ置く。
見ている私のほうが気落ちするほどの出だしにも関わらず、達也にそんな様子は微塵も見えない。
遠めには心中を察し難いが、間違いなく穏やかではないであろうにも関わらず、だ。

超一流、か。
ポーカーフェイスなど、勝負事に於いては基礎中の基礎。
だが、言うとやるでは大きな差だ。

それを横目に須田が、頬に手を当てながら2回瞬いて―静かに牌を落とした。

その須田がテンパイ流局、1500は1800と連荘して、場は東2局2本場になろうとしている時だ。
達也がちらりとこちらを見た。
まだ余裕がありそうな表情だが、ドリンクを飲むペースが早い。
やはり、消耗の度合いが大きそうだ。まだ1半荘目の東場だというのに―
対して三者はほとんど身動ぎもせず、伏せ目がちに卓上を注視する。
特にたろうは、獲物を狙う猛禽のように―その眼を他者に向けていた。

果たして、ここでは達也すらが獣達の食餌となってしまうのだろうか。

しかし、この局餌食となったのは金だった。
またしても、たろうの手が軽い。
たろう(西家、7巡目)
 ツモ ドラ
7巡でイーシャンテンに一番乗りすると、打のポンテンを拒否してドラを温存した。
多くの打ち手が手拍子でドラを打ってしまいたいこの局面、たろうの打牌が怜悧な名刀のように鋭く光る。
直後留めていたドラを重ね、10巡目に刀はより一層冷たい輝きを増した。
たろう(西家、10巡目)
 ツモ ドラ
でダマテン。リーチもなくはないが、7巡目の選択を考えれば当然と言えば当然か。

その妖しくも美しい刀身に魅かれるが如く、金が飛び込んだのは13巡目。
金(南家、13巡目)
 ツモ ドラ

巡目も深くたろうは手の内からターツ落とし。
456が見えるイーシャンテンとはいえ四者四様の濃い捨て牌相。
ドラのも抱えている以上、を合わせ打って手仕舞いにするべきというのは、所詮岡目八目であろうか。
をツモ切った金、致命傷とはいかないが手痛い失点。
これでたろうは40000点を越えた。

須田(東家、13巡目)
 ドラ

たろうのロン牌を抱えながらイーシャンテンまで漕ぎ着けた須田が、ひとつ咳払いを入れる。
瞬間、その穏やかな息吹すら咎められたと感じたのか―空調までもが、呼吸を止めた。

東3局0本場、親の金がやおらを打ち出す。

金(東家、1巡目)
 打中 ドラ

何としても、先刻の失点を取り返さんとする意気込みの表れだろう。
金の眼は増々、爛々とした生気を放ち始める。

だが、それでも先行するのはたろうだ。

たろう(南家、5巡目)
 ツモ 打 ドラ

5巡目にツモり四暗刻のイーシャンテンになるやいなや、達也からのでポンテンを取る。
直後金も追い付くが、三色の待ち牌は既に3枚枯れ。

金(東家、8巡目)
 ツモ ドラ

とりあえず打で役ありのダマテンにし、
9巡目にツモ切りの両面リーチに打って出る。

すぐに現物のを抜いたたろうに対し、腕を組んでいるのが達也だ。
達也(西家、12巡目)
 出る ドラ

金のツモ切ったに反応し、押し返す。

更にもポンして完全に勝負を賭けた達也。
ここから持ち前の膂力を発揮するのかと思いきや、結果はどちらもアガれず。
終局間際、冷静に形式テンパイを入れた須田を含め、3人テンパイで流局。

金が右手で髪を掻き上げ、ひとつ間を入れる。
それとは別に、いつになく力ない様子の達也。

続く1本場、またしても先行したたろうがあっさり三面張をツモアガり。
たろう(南家、10巡目)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

あまりにも、あまりにもあっさりと引かれた2000・4000。
平然と牌を流す須田に対し、
金は眉間に皺を寄せ、四者の中で初めて苦しそうな表情を見せる。

たろうの独走―
徐々にではあるが、そんな空気が会場を支配しようとしていた。

それに待ったをかけたのは、苦しげな表情を見せていた金だった。

打点は伴わないが、たろうの親を流すアガり。
達也はリーチの現物待ち、ピンフドラドラのテンパイからの放銃。
仕方ないと言ってしまえば仕方ない放銃か。

南1局、そんな達也の親番。
先ほどのアガりで気を良くしたのか、金が序盤から仕掛ける。
金(西家、1巡目)
 出る ドラ

これをポンして打
それに対抗するかのように、達也も前に出る。
達也(東家、2巡目)
 出る ドラ
ポンして打、イーシャンテンだ。
その後金はホンイツに渡り、達也はを引き入れドラを使い切れる形になる。

しかし、一番早かったのは須田だった。
須田(南家、6巡目)
 ツモ ドラ
若干の逡巡はあったが、場を見渡せばはかなり待ち頃に見える。
を暗カンし、リンシャン牌のを空切りリーチ。

だが、の切り出しが早いたろうに暗刻。
金も迂回しながら闘おうとするが、
覚悟を決めたように牌音高く一打一打を打ち出す達也がここは気迫で勝る。
達也(東家、15巡目)
 ポン ロン ドラ
この5800を須田から打ち取り、達也はようやく10000点台に復帰するが―
それでも、まだラスな事に変わりはない。
眉間に皺を寄せながら闘う達也は、手負いの獅子を想わせる。
一方の須田、まるで意に介していない。
結果と過程は別物、これがデジタルの強みか。

1本場。
本来の雀風なのか、オタ風のから仕掛ける金。
次々とピンズを引き入れ、僅か4巡でこのテンパイ。
金(西家、4巡目)
 チー ポン ドラ

更にを加カンして、攻めの姿勢を崩さない。リンシャン牌はツモ切り。
その金のツモ切られたを、たろうが叩いた。
たろう(北家、7巡目)
 出る ドラ

しかし、打ったは金に8000の放銃となる。
新ドラが乗ったとはいえ、生牌のをツモ切っている金に対してこれはあまりに無謀すぎたか。
これで点差は大きく縮まったが、まだまだたろうが有利な状況。
金が忘れていたかのように、久しぶりにドリンクを口に運んでいる。

会場は徐々に観戦者も増え、決定戦らしき熱気を帯びてきた。
達也が暑そうに、シャツの胸元を摘まむ。
私もそれに倣うように、スーツを脱いだ。

南3局、その達也がまたしても窮地に立たされる。

2軒リーチに挟まれ、親の金へ一発放銃という最悪の結果に。
ともあれこれで金がたろうを逆転する形となった。

続く2本場は須田がたろうとのリーチ合戦を制し、2600は3200のアガリ。
オーラスは達也が早い三色テンパイをそのまま引き、2000・4000。
達也(南家、15巡目)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

雀王決定戦2日目、その初戦は金が制した。
 
金+59.8 たろう+9.1 須田▲19.4 達也▲49.5

6回戦終了時トータル
たろう+166.4
須田 ▲4.9
金  ▲14.6
達也 ▲148.9

たろうが2着に残ったため、一人浮きになってしまった。
苦笑いを浮かべているのは達也。既に300p以上の差がついている。
どうも調子が出ていないが、このままでは優勝圏外まで差をつけられかねない。
一方のたろうは周囲を静かに見渡している。
その視線の先には、一体何が見えているのだろうか。
須田は変わらぬ様子で眼鏡を手にし、にこやかに談笑している。
まるでプレッシャーとは無縁と言わんばかりのポーズだ。

そんな中、ただ独り無言の金は何を想うのか―

 

★第7回戦★(たろう→達也→金→須田)

たろうを追う一番手に名乗りを上げるのは、須田か金か。
まずは須田が先手を取る。
オタ風のから仕掛け、戦闘態勢。
3巡目にはをポン。
しかし手牌はまだバラバラだ。
須田(北家、3巡目)
 ポン ポン ドラ

ここでより先にを離し、ドラトイツを演出する須田。
細かいところだが、これだけで他家は非常にやりづらくなるものだ。

達也もを鳴き、須田をケアしながらもピンズに寄せていく。
がトイツのたろうもを仕掛け、激しい空中戦に。

お互いを牽制し合う中、11巡目にたろうが動く。
たろう(東家、11巡目)
 ポン ポン ツモ ドラ

ここから一旦形式テンパイに取るではなく、を打つ。
これを達也がチー。
達也(南家、11巡目)
 チー ポン ドラ

こちらは当然のテンパイ取り、打
これをたろうがポンして打、今度は須田がポンして打
須田(北家、12巡目)
 ポン ポン ポン ドラ

一瞬にして、三者テンパイ。場が一気に緊迫する。
そして、決着も一瞬だった。
13巡目に達也がを掴み、須田に2600の放銃。

結果的には、たろうがギリギリまで優先してケアした須田の勝ち。
しかし、敢えて形式テンパイに受けなかったたろう。
そのどこまでも冷たい読みは、機械のような精確さを見せている。

東3局の金。
金(東家、3巡目)
 ツモ ドラ

金はここからのトイツを落とし、高打点を狙う。
しかし、たろうがその僅かな間隙を突いた。
金も追い付くが、今回はこの一手遅れが致命傷となり、痛恨の満貫親っかぶり。

しかし、そのたろうも思うようには打てなくなってきている。
東4局はたろうがペンチャンチー、のダブルバック仕掛け。
が、既に並びを意識し始めている達也と金は一気に守勢に周り、
たろうはテンパイすら出来ず仕舞い。
早くも決定戦ならではのトータルポイントを意識した攻防だ。

迎えた1本場は達也がリーチしてツモアガリ。
宣言牌のにたろうがポンテンを入れ一瞬ひやっとしたが、今回は達也に軍配。

流局を挟んで南2局、その達也が単騎でリーチ。
1回戦に続いて、チートイの字牌単騎。
当たり前と言えば当たり前のリーチだが、
いつも観る者の想像を遥かに超えてくるのが鈴木達也だったはずだ。
ここまでの達也は、「ファンタジスタ」とまで呼ばれる打ち筋が影を潜めている。
温存か、出せないだけなのか。
ともあれ、ここも達也が押し切る。

が、問題は次局。
中盤、何かに気付いたように手牌を伏せた達也が呟く。

「…地震だ」

確かに、気付けば少し揺れていた。
苦笑しながら、あるいは無表情のまま達也にならい手牌を伏せる三者。
対局は瞬間中断したが、すぐに何事もなく再開した。

―悪夢は、この僅かな水入りの直後だった。
すぐにテンパイし待ち変えしたたろうに、達也はリーチ宣言牌で満貫を打ち上げてしまう。
たろう(北家、15巡目)
 ポン ロン ドラ

―達也は親番で更に加点したいとはいえ、現状はトップ目だ。
明らかにテンパイで、打てば満貫以上の可能性が高いたろうに突っかかる形だろうか?
デジタルに考えればこのリーチは打たないほうが有利のように思える。
それとも、達也の感性がそうさせたのか。
いずれにせよ―やはり、達也の連覇には暗雲が立ち込め始めているように感じた。

南3局、金が2本場まで粘る。
しかし、たろうはあくまでも冷たく、牌を引き寄せる。
たろう(西家、8巡目) 
 リーチツモ ドラ 裏ドラ
下位を引き離す、跳満のツモアガり。
寒気すら感じた私は、無言でスーツに袖を通した。

オーラス、須田も最後まで抵抗するが及ばず。
たろうのトータルポイントは、遂に200pを越えた。

たろう+67.2 須田+4.4 達也▲19.9 金▲52.7

7回戦終了時トータル
たろう+233.6
須田 ▲0.5
金  ▲67.3
達也 ▲168.8

たろうは口元に手を当て、ようやく少し疲れたような表情を見せた。
が、他の3人はそれ以上に険しい顔をしている―
トータル2位の須田でさえ、200p以上の差だ。
まして達也に至っては、400pを越える大差がついている。

「そろそろアブノーマルで行くかな」

達也は変わらず苦笑いをしながら、そんなことを言っていた。
金は無言で一人集中を深めている。
須田も飄々とした雰囲気を纏ってはいるが、時折鋭くホワイトボードを見据えていた。
―まだ、何も終わっちゃいない。
そんな3人の声が聞こえるようだった。

 

★第8回戦★(須田→達也→たろう→金)

全員が点差を意識した動きをすることは間違いない。
とはいえ、下位の3人にとっては自身のトップも譲ることは出来ない。
まずはたろうのトップを阻止し、出来ることならば自身がトップを取る―

そんな東1局、いきなり金に最大のチャンスがおとずれる。
ポンから入ると、3巡目にすぐさまツモで大三元の種が揃う。
はこの時点で須田に1枚、しかも須田は三色含みの早い手恰好。
早巡の決着なら、可能性はある―

しかし、須田が5巡目に引いたのはそのそのものだった。
ここは運に助けられた須田、そのまま三色に仕上げて6000オール。

1本場、今度は須田にあわや四喜和の手が入る。
しかし、これは些か無理が過ぎたか。
上手くツモを利用したたろうが、金から6400。
たろうも簡単には点棒を減らさない。
本当にこの男を落とすことが出来るのだろうか、とすら感じてしまうほどだ。

しかし、東2局は流局したが東3局では金が満貫のツモアガリ。
金(南家、8巡目)
 ツモ ドラ
ドラドラのツモり三暗刻、金はを打ってダマテンに取る。
喉から手が出る程打点が欲しい金としては即リーしたくなるところだったが、
堪えて待ち変えからの一発ツモ。
金(南家、10巡目)
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
たろうに親っかぶりをさせ、自身は2着へ返り咲く。

須田がちらちらとホワイトボードでポイントを確認している。
そんな須田が、達也へ8000の放銃。

―平素の麻雀なら、リーチの必要はないだろう。
もちろんリーチの選択もあるが、ダントツならダマテンで十分のはずだ。
アガり競争に参加する必要はない。

だが、今回は少し事情が違う。
言ってしまえば、仕掛けている金か達也がアガる分には構わないのだ。
その分、たろうをラスに近づけることが出来る。
それを加味したリーチ。リーチひとつにも、トッププレイヤーの思考が窺える。

ただし、自身のトップを譲ってしまっては話が変わる。
たろうが沈んだ今、もはやトップを取ることは優勝する為の必須条件。
南1局はたろうの仕掛けへ丁寧に対応し、ノーテンで親番を終えた。

すると、南2局。
先行リーチの金に、たろうが満貫を放銃。

をポンし5200点の両面テンパイを取っての放銃。
金の河も強く、これは致し方ないところか。
しかし、3人にとっては願ってもない展開。

あとはトップを決めるだけとばかりに、
南3局はその3人がぶつかり合う。

ここは4面張の達也が勝ち、一躍トップに踊り出た。

オーラス―
たろうが点差を確認し、僅かに首を揺らす。
金  25200
須田 29400
達也 32600
たろう 12800

たろうは跳満ツモもしくは金から満貫直撃で着順を上げることができるが、
こうなればトータル2着の須田にトップを取らせなければ御の字といったところか。

しかし7巡目、その須田が牌を横に曲げた。
須田(南家、7巡目)
 ドラ
このリーチ、打った時点で待ち牌は山に4枚。
須田の勝ちだ―観戦者の誰もがそう思ったに違いない。

だが、既に1副露していた親の金も必死で食い下がる。
後のないたろうがチートイツイーシャンテンから押したをポン。

直後、を持ってきた須田がオーバーなモーションでツモ切る。
金の最終手出しは、待ちとしてはもうその両面か―

11巡目、更に大きなモーションで須田がを叩きつけた。
金「ロン」
金(東家、9巡目)
 ポン チー ロン ドラ

そう、このシャンポン形しかない。
実は金もテンパイ時点で待ち牌は残り3枚。
とはいえ不運な放銃には違いない。須田が、一瞬だけ苦笑いをした。

1本場、なんとその須田が配牌イーシャンテン。
須田(南家、1巡目)
 ドラ
しかしドラもなく手役も遠く、リーチのみが関の山。
ならば―と第一ツモに力を込めるが、ツモは
4巡目にはを引き三暗刻の目も出るが、次巡のツモは
仕方ない、という感じで一息ついて、須田はリーチを宣言する。
結果これをたろうからでアガり、裏も無しの1600は1900。
達也、自力とはいかなかったがようやくのトップ。
ドリンクを一息に飲みこみ、ふぅ、と溜息をついた。

達也+52.6 須田+8.8 金▲12.3 たろう▲49.1

8回戦終了時トータル
たろう+184.5
須田 +8.3
金  ▲79.6
達也 ▲116.2

あと、300p。
達也の目が、捕食者のそれに変わったように見えた。

 

第9回戦★(たろう→須田→達也→金)

東2局。
前局須田に1000点を放銃した金が吠える。
金(西家、7巡目)
 リーチロン ドラ 裏ドラ

飛び込んだのはたろう。
たろう(北家、7巡目)
 出る ドラ
このを少考し、チーしてからの打
安全牌ゼロではやむなし、といったところ。
だが、またしてもたろうが沈み、三者にとっては望むべき展開。
たろうは拳を頬に当て、視線は虚空の点を見据えている。
その覇道はまだ、彼の眼前に続いているのだろうか。
それとも、既に蜃気楼の如く揺らいで消えてしまったのか。

東3局も金vsたろう。
金がリーチ宣言牌で打ち出したドラのにたろうもポンテンを入れるが、
またしても勝ったのは金。

安目だがたろうの本手を潰す。
たろう、今度は僅かながら椅子に沈み込み、消沈した様子を見せる。
大勢は、今やたろうのものではなくなっていた。

東4局、今度は達也だ。
11巡目、仕掛けを入れていたたろうと金を一瞥すると、
獰猛な獣のように低く、重く咆哮する。
「…リーチ」
直後、一発で引き寄せたが手中から雷鳴を轟かせ卓上へと滑り落ちた。
達也(12巡目、北家)
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ

その佇まいだけで気圧されてしまいそうな程、圧倒的なプレッシャーを放つ達也。
ようやく、彼本来の膂力を発揮し始めたようだ。
しかしそれを意に介さず、スコアボードにちらりと目をやり、小さく頷く須田。
金は少し憔悴した表情で、椅子に座り直した。

南1局、須田が5200点のアガり。
またしても放銃したのは、たろう。
金の仕掛けをケアし、フリテンにまで受けたが須田に捕まった。
少しだけ、首を傾げるたろう。

それでもたろうには、焦りや不安、疲労の色はほとんど見えない。
ただ変わらず一定のペースで打牌を繰り返す、その姿は達也とは対照的だ。

南3局、この半荘3度目のたろうvs金。
今度はたろうが、音もなくを卓上に置いた。
たろう(西家、12巡目)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

通常、ドラ3の勝負手ともなれば嫌でも気合いが入るもの。
だが、たろうはまったく普段と変わらない。
何点の手だろうと同じ動作、同じ表情で淡々と「処理」していく。

だが、それでもたろうはこの半荘一人沈み。
最後は達也が、激しいアガリ争いを制した。

ようやく少し笑顔を見せる達也。
つい先程までは悠遠とも思えた道程、それをたった2半荘で半分にしたのだから、それも当然か。

達也+50.7 金+8.7 須田▲13.3 たろう▲46.1

9回戦終了時トータル
たろう+138.4
須田 ▲5.0
金  ▲70.9
達也 ▲65.5

 

★第10回戦★(たろう→達也→金→須田)

達也の所作にも余裕が窺えるようになった。
対してここまでラスもトップもない須田、少しフラストレーションが溜まっている様子。
この東1局も達也が先制リーチを打つ。
達也(南家、6巡目)
 ドラ
ノーマルな両面リーチだが、これを中々ツモれない。
受けに回った三者をじろり、と見渡す達也。
その動きはまさに狩る側のそれで、開始時とは様相がすっかり逆転している。
しかしここは獲物が逃げ切り、達也の一人テンパイで流局。

それにしても、たろうにとっては厳しい展開が続く。
金に1300・2600をツモられ、
1000点をアガって迎えた東4局では、須田に5800の放銃。
仕掛けた親と別の色で両面待ち。
くらいは押しても文句を言われないところだ。

続く1本場は300・500は400・600と局を潰すも、
南1局最後の親番で、今度は金に8000放銃。

これは些か押しすぎの感がある。
「もうあのの時はダメだったな―」
と対局後に呟いていた。
目には見えないところで、精密機械のような押し引きバランスは崩壊していたようだ。

そして、たろうの受難はまだ終わらない。南2局は須田への8000。

またしても、不用意な放銃。
だが、今回は道中のでチーテンを取らなかった須田を褒めるべきか。
「(テンパイを)取ろうかどうか迷ったけど、打点が欲しいからね」と語った須田。
南場まで出番もなく、唇を噛み締めるような様子を見せていただけにこれは嬉しいアガりだっただろう。
これでたろうは残り3200点と、気付けば3連続ラスがほぼ確定的に。

気を良くした須田は南3局、更に畳み掛ける。

だが、結果は流局。
たろうが崩れている今、誰かが首に鈴をつけたいところだが、
三者とも中々勢いに乗ることが出来ない。

そして、オーラス。
7回戦のオーラスでテンパイ出来ず歯痒い思いをした須田、
ここでその鬱憤を晴らしたいところ。
やや疲労を感じているのか、椅子にもたれかかるように座り点差を確認する。

金  36600
須田 36300
達也 24400
たろう 1700

ラス親の須田はとにかく連荘するしかない。達也は満貫をツモれば2着。
たろうは素点を少しでも戻して、3日目以降に繋げたいところ。

そのたろう、配牌からマンズに寄せていく。
打点との兼ね合いもあるが―ただ漫然と手なりで進めるよりも、
こちらのほうがトータル2位で親番の須田を苦しめることが出来るからだろう。
須田も当然それを承知でマンズを切り飛ばす。
だが、重苦しい気配がそれぞれの手の進みを圧迫するかのように、
誰もテンパイを入れられないまま淡々と場は進んでいく。
業を煮やしたように、金が動いた。

金(北家、12巡目)
 出る ドラ

チーして打、12巡目にしてようやくイーシャンテン。
次巡、あっさりとテンパイを手繰り寄せるが―

金(北家、13巡目)
 チー ツモ ドラ

ツモってきたのは役のつかない
それでもノーテンでは一瞬交わされてしまう。渋々といった感じでテンパイに取る。

一方の須田も苦しい。メンツ手に移行しようとするも手が中々まとまらず、
チートイツのイーシャンテンのまま巡目がどんどん深くなっていく。
須田(東家、17巡目)
 ツモ ドラ

「たろうさんの捨て牌のせいでマンズが高くて、悪く見えたから―」
が達也さんにポンされた時は、よーし俺天才、と思ったよ」

そう笑いながら語った須田。
実際にはどれも残り1枚だったのだが、
を達也がポンすると、なんと次巡達也のツモは
無情なる牌の巡りに翻弄された須田、この日2度目のオーラス親番ノーテン終了となった。

金+58.1 須田+16.3 達也▲15.6 たろう▲59.8

10回戦終了時トータル
たろう+78.6
須田 +11.3
金  ▲12.8
達也 ▲81.1

「最大400p離れてたんだぜ?これで十分だろ―」
対局後、達也はそう言って満足気に会場を後にした。
たろうは一人、黙ってスコアボードを眺めている。
須田は開始前と同じように若手と談笑していて、
金は黙々と身支度を済ませ、気付けば既にそこにはいなかった。

私は少し会話に加わってから、会場を後にする。

--------------------------

総じて、レベルの高い闘いだった。
たろうは後半崩れたものの道中でその持てる鋭さを幾度となく見せつけ、
須田はトップ1回と苦しみながらも、プラスで前半戦を終えた。
金はとても初の決定戦とは思えないほど落ち着いて自分のゲーム運びをし、
達也もトータルラスには沈んでいるものの、楽な展開を作らせない。

これだけのメンツが揃っているんだ、面白くならないはずがない。

物言わぬ街並みはやや冷たさを増し、木々はこの闘いの行く末を想い、ざわめいている。
それでも―私の体に宿った火は消えることなく、爛々と燃え盛っていた。
来年からは、私も役者の一人としてこの舞台に立つ権利が与えられるのだ。

願わくば、主役として―
いや、まだまだそれには早すぎる。
それよりも、早く彼らと闘いたい―

様々に浮かんだ想いを、ひとつひとつ打ち消すように。
私は神楽坂駅への階段を、一歩一歩下って行った。

 

〜3日目に続く〜

(文:綱川 隆晃)

 | 1日目観戦記 | 2日目観戦記 | 3日目観戦記 | 最終日観戦記 | 

▲このページのトップへ


 

 

 

当サイト掲載の記事、写真、イラスト等(npmのロゴ)の無断掲載を禁止します。(c) 日本プロ麻雀協会. ALL Rights Reserved. 管理メニュー