順位 |
名前 |
TOTAL |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
1 |
木原 浩一 |
152.5 |
-14.2 |
18.1 |
8.3 |
73.4 |
66.9 |
2 |
阿賀 寿直 |
16.5 |
48.1 |
-30.1 |
49.1 |
6.0 |
-56.6 |
3 |
鍛冶田 良一 |
-2.4 |
-40.6 |
65.0 |
-18.0 |
-15.7 |
6.9 |
4 |
鈴木 たろう |
-166.6 |
6.7 |
-53.0 |
-39.4 |
-63.7 |
-17.2 |
【1日目観戦記】 | 2日目観戦記 | 3日目観戦記 | 最終日観戦記 |
ようやく秋の気配を感じ始めた10月17日、雀王決定戦が始まった。
今期の注目はやはり、3連覇中の鈴木たろうがその数字を「4」に伸ばすかどうかだろう。
そして、阻むとしたら誰が阻むのか……
挑戦者のうち木原浩一は11、12期と連続してたろうに敗れ、鍛冶田良一は昨年まったくいいところなく敗れている。
この二人の雪辱の思いはかなり強いはずだ。
もう一人、阿賀寿直、協会屈指のハードパンチャーである。Bリーグに落ちていたこともあって、決定戦は第6期以来8年ぶりの進出となる。
そのため、今回の顔ぶれのなかではたろうとの対戦は少なく、決定戦で戦ったこともない(たろうは第7期にAリーグ入り。決定戦進出は7、9、10、11、12、13期)。言い換えれば、たろうにとってもっとも情報量の少ない相手である。
他の誰もなしえていない雀王連覇の数をたろうが伸ばすのか?
カギは阿賀が握っていると予想し、私(五十嵐)はこの日の解説席に座っていた。
★1回戦(座順・たろう→木原→阿賀→鍛冶田)
起家を引いたたろう、東1局4巡目にテンパイ。
ドラ
かを引いたら、たろうなら「まだ5巡目、余裕の時間」として、タンピン三色を狙ってテンパイをはずすだろうと見ていたら、すぐにを引いた。値段に不満はあるだろうが、親で5巡目に三単吊(サンタンチャオ=3メンタンキ待ち)のリーチが打てるのだから上出来。
2巡後にあっさりをツモって裏ドラで2000オール。文句なしの滑り出しである。
1本場この局、違和感を覚えた。といってもマイナスな意味合いではない。
客風のから仕掛けた木原、自風も叩くも、鍛冶田がリーチ
ドラ
木原
ポン ポン
で追いつく。を持ってくるも、をツモ切ってカンのまま。
実況の松嶋桃が驚く「がリーチの現物なんですが、通ってないを切りましたね」
解説の伊達「ん〜、カンによほど自信があるか、場に1枚切れのを見て枚数を取ったか……」
そう言いながら伊達も首をひねっていた。
木原はを持ってきてマチカエ、チャンタも付いたカン。
松嶋「あ、この変化がありましたね」
が上下対称形だが、木原は早くにを切っていて下への変化はフリテンの危険があるので、チャンタの変化を見るなら確かに切りであった。
鍛冶田ツモ切り。木原アガリを逃したかに見えたが、鍛冶田が再びを持ってくる。
木原、満貫のアガリ。この積極的な打ち方を見ると、やのチーでさらに仕掛けてのチャンタ変化も取るつもりだっただろう。
チーの場合⇒ チー ポン ポン
チーの場合⇒ チー ポン ポン
「木原にしては積極的だなあ」これが感じた違和感である。
それはこの局がファースト・インプレッションであり、この後何度も感じることになる。
それは隣の席の伊達も同様だったはずだ。
「えっ、ここで打ってるの本当に浩一?」
「浩一、こんな打ち方するの?」
この日、何度も伊達の口から洩れた絶叫である。
東2局は全員ノーテン。
東3局、西家のたろうが、をポン。最終的にはドラ・カン待ちのチャンタ満貫手にするのだが、その手順が大胆。
第1、2打といきなりのリャンメン落とし。
をポンした後にと、またリャンメンを払うこの手順は、たろう以外に誰が発想できるだろう。
木原32300、たろう31000と、トップまで1300点差ながら、とりあえず2000点でトップに立とうという気がない。
単に木原をかわすだけでなく、満貫にして突き放したいという考えだ。
このたろうに、木原もポンで追いすがるが、親の阿賀も黙ってはいなかった。
マンズのホンイツに見えるこの仕掛けにと払ってドラまわりをと厚く持った阿賀が待望のドラを引き入れて切りリーチ。
ドラ
一発でをツモり、裏ドラで6000オールの号砲。一気にトップへ。
続く1本場もこの3人がせめぎ合う。
東家・阿賀
ポン ドラ
西家・たろう
阿賀の仕掛けにたろうはヤミテンのまま。が阿賀の現物である。
しかし、14巡目におもむろにツモ切りリーチを敢行。
豹変の理由は、ホンイツ仕掛けの阿賀がをツモ切り、テンパイ気配を漂わせたこと、また木原がドラをツモ切ったことにあると思う。
木原の手はまだ、
とイーシャンテンだったが、たろうからすれば、「どうせ二人が押してくるのなら、打点を上乗せしよう」ということだろう。
木原は次巡、たろうのロン牌をアンコにしてテンパイしたがヤミテン。
この瞬間、阿賀のより待ちが1枚少なくなったたろうであったが、をツモり上げ、裏ドラでハネ満に仕上げた。
これでたろうがトップ目に。
そして問題の東4局。木原がリーチ。
ドラ
木原からが3枚見え、はいかにも山に寝ていそう。しかし、だからこそ私なら確実にを拾うためにヤミテンにする。
木原のリーチを受けた親の鍛冶田、
長考の末、打とした。
しかし、木原アガらず。ここで伊達の最初の絶叫が出る。
私も二度目の違和感とともに感動を覚える。
「この男、馬鹿を承知で倍満をツモりにいっている」と。
木原がツモ切り直後、鍛冶田引きテンパイ。ここでの打牌はもちろん。
たろうがいま通ったばかりのを切る。たろう親マン放銃。
最初のは強い。この瞬間ならたろうは鍛冶田を警戒しただろうが、次のはすでに通した牌である。たろうの警戒も緩んでいた。
木原のツモ切り、鍛冶田のテンパイ、どちらが1巡ずれていてもたろうの放銃はなかっただろう。
なにしろたろうは七対子のイーシャンテンから安牌の対子を落とし、手バラ(手の中バラバラ)になっていたのだから。
このとき、鍛冶田もたろうも木原の思惑を知るよしもない。ただ一人経過を知る木原は、この結果をどう思っていたのだろうか?
1本場は阿賀が三色同刻、それも「3」という珍しいアガリ。
ポン ポン ドラ
でもアガれる王手飛車。を放銃したのは木原。
ドラのは阿賀が切っており、安手なのは見えていた。
しかし、たろうの親満放銃で一人3万超えとなっていた阿賀にとっては十分な加点であり局潰しである。
南1局はたろうがリーチ・ツモ・ピンフ。裏も乗せて2600オールで息を吹き返し、阿賀に1500差と迫る。
そして迎えた1本場、たろうの配牌にはドラのが2枚。
ドラ
これが6巡目にはこうなった。
チー
誰もがたろうの親満和了と思えたこの局面、鍛冶田がピンズで仕掛け返す。ツモでマチカエしたためまで鳴かせてしまい、ツモからマンズホンイツに渡ったたろうがで放銃してしまう。
たろう
ツモ→打 チー
鍛冶田
ポン ポン ポン
この局はたろうにとって逸機だったと思う。
もしもたろうがホンイツに一直線に向かっていれば、あるいはピンズの切り順がちがっていれば、ちがう1局になっていたはずだ。
南2局は親の木原が鍛冶田からタンヤオの2000点。1本場は鍛冶田がこの日2度目の三色をツモって満貫。南3局は2人テンパイ。
そして、同1本場は木原がドラアンコの手をリーチツモって満貫。
このアガリで、
阿賀29100、たろう27700、木原21800、鍛冶田21400
と、打撃戦でありながら縮まった点差でオーラスを迎える。
ここでまた、木原が伊達を唸らせた。
9巡目リーチ。
ドラ
14巡目、親の鍛冶田が一通のテンパイで追いつくが、そのテンパイ打牌がだった。
ツモ→打
しかし、木原は平然と見逃したのである。
「ツモって裏が乗ればトップ」
「鍛冶田からの出アガリでは裏が乗っても3着止まり」
「すでに14巡目、流局でもう1局の可能性が高い」
―――理屈ではわかる。しかし、相当危険のともなう見逃しである。
見逃した直後に木原がツモ。裏ドラはで乗らず、3着のまま。
「ほ〜ら、結局3着のままじゃない。危なっかしいから、鍛冶田ので素直にアガッてたほうがいいよ」
―――そう忠告するのは簡単だ。しかし、我々は東4局の見逃しから漂っていた木原の覚悟を感じざるを得なかった。
「どんな評価をされたって構わない。狙えるトップは全部取りに行く」
木原とは一言も交わしていないが、思いは十分に伝わって来た。
阿賀+48.1 たろう+6.7 木原△14.2 鍛冶田△40.6
★2回戦(座順・木原→たろう→阿賀→鍛冶田)
東1局、親の木原は配牌にドラが1枚ポツンとあるだけだったが、2、3巡目に続けて引いてアンコにし、7巡目に阿賀から出アガリ。
木原
ロン チー ドラ
東3局1本場では、
木原
ツモ ドラ
ヤミテンから絶好のツモ、打リーチ。
親の阿賀がカンのタンヤオで追っかけるも、木原が高目のをツモってハネマン。
この2回の12000で独走する木原を、鍛冶田が東ラス、ドラのタンキ待ち七対子をリーチツモ6000オールでまくる。
南場はトップを狙うだけの木原と鍛冶田、ラスを押し付け合おうとする阿賀、たろうという図式になり、オーラス、阿賀が三色リーチ。
ドラ
が通っており、場にが3枚見えというという局面で、たろうがアンコのに手をかけてしまった。
たろうのこれほど痛恨のオリ打ちは、ここ3年間記憶にない。
鍛冶田+65.0 木原+18.1 阿賀△30.1 たろう△53.0
★3回戦(座順・鍛冶田→木原→たろう→阿賀)
1回戦は全14局、2回戦は全16局と長かったが、この3回戦は全10局と短く、打撃戦だった前2回とは様相を変えていた。
トップを取ったのは阿賀だが、アガリは供託棒3本をかっさらった東2局2本場のタンヤオのみと、ラス前のタンヤオ・ドラ3の2回だけ。
剛腕・阿賀の新しい一面か?
阿賀+49.1 木原+8.3 鍛冶田△18.0 たろう△39.4
★4回戦(座順・阿賀→たろう→木原→鍛冶田)
1回戦目から気迫を見せていた木原だが、ここまでトップなし。空回りしているように感じられたのだが……。
一方、3万点に満たない(+50Pに満たない)「らしくない」トップ2回の阿賀が、ここでも好スタート。
東1局1本場、親の阿賀は10巡目、
ツモ ドラ
ここからテンパイトラズの打。
次巡ツモ、打でヤミテン。
これに、たろうが即で放銃してしまった。
最高形役満なので、こう打つ人は結構いるだろうが、親でもあり、最初のツモリ三暗刻のテンパイでリーチとするのが過半数ではないだろうか。
それならば一発ツモで4000オール。しかし、四暗刻を目指した阿賀の手順で、12000をたろうが一人払うことになってしまった。
割を喰った形のたろう。阿賀の捨て牌にあるを見れば経緯は一目瞭然。
「4000オールでいいじゃないの。トータルラスから12000取るより、そのほうがいいじゃない!」と思っただろうか?
しかし、MAX打点を狙うこういった手順はたろう自身の好みでもある。文句の言える筋合いではない。
ああ、そうか。
「そこまでやったら、ツモに賭けて見逃すか、せめてリーチしてよ!」か。
しかし、この半荘の主役は阿賀ではなかった。ついに木原が出て来たのである。
木原のアガリを記してみよう。
東1局3本場・喰い三色ドラ1(供託2本)
東2局1本場・リーチツモドラ2裏1
東3局(親)・リーチツモピンフ
南2局・ピンフイーペーコードラ2
南3局(親)白
南3局1本場(親)・南ホンイツドラ2
特に最後のアガリは、
チー ポン ドラ
という苦しいドラ表待ちだったが、
リーチの阿賀(西家)が、
最後のツモでを掴んで放銃というものだった。
木原にすれば、競っていた阿賀からの出場最で、5万越えのダントツとなった。
木原+73.4 阿賀+6.0 鍛冶田△5.7 たろう△63.7
★5回戦(座順・たろう→阿賀→木原→鍛冶田)
ここまでのトータルは、
木原+85.6 阿賀+73.1 鍛冶田△9.3 たろう△149.4
と、トップなしのたろうが一人引き離された格好である。
大きなトップ一発で阿賀をまくって首位に立った木原がここでもハネ満ツモの好スタート。
一発ツモ ドラ 裏ドラ
東3局、さらに追加点を狙う木原がリーチ。
木原
ドラ
しかし、これは実らず。阿賀のアガリ。
ツモ チー
ただし、このアガリにはたろうがひと役買っている。
6巡目に切りながら、9巡目のリーチ打牌が。
これは高確率でのパターンだ。
が打ち切れないたろうはオリるのだが、ただリーチに通っているからという理由でを切ったわけではない。
明らかにマンズ一色の阿賀にあわよくば喰ってもらい、木原の喧嘩相手を作りにいったと思われる。
木原にツモられるのを待つ展開から、あわよくば横移動で被害ゼロ。というよりは木原、阿賀、どちらかにケガしてもらいたいという思惑であろう。
「黙って死ぬのは嫌い。アガれないにしても、できることをやる」
―――元祖黒いデジタルの本領発揮である。
結果は阿賀のツモアガリで被害なしというわけにはいかなかったが、木原が手の届かぬダントツになるよりはマシだっただろう。
このこまめな努力のあとにやってきのは、南1局、親でのタンヤオトイトイ、5800(放銃・鍛冶田)、南2局3本場、リーチツモ表裏の満貫である。
この時点で31700点と、トップ目木原34700点に肉薄した。
しかし、ラス前、親の木原に7700を放銃。
やはりこの日の牌の巡り合わせはたろうに厳しい。
オーラス、阿賀が4000点持ちだったラス目の鍛冶田に9600(リーチ一発ドラ)放銃。
これはたろうにとっては好材料。2着を競っていた阿賀が離脱したために、たろうはトップ狙いに専念できるからだ。
しかし、1本場は鍛冶田がさらにリーチツモピンフ表裏の4000オール。たろうをまくって2着になる。
木原38300 鍛冶田26900 たろう22800 阿賀12000
たろうから見れば、鍛冶田をまくっての2着はたやすいが、木原との点差は苦しい。
とりあえず2着を取りに行くかと見ていたが、この男の闘争心はそんな生易しくなかった。
マンズの一色手で仕掛けたのだが、
ポン ポン ドラ
をツモっても、形の伸びを犠牲にして、を加カン。新ドラで、ハネツモかマン直トップの可能性を追ったのだ。
たろうの最終形は、
加カン ポン ドラ
となった。
すでにテンパイの木原が2枚切れのを掴めばもしや
―――と思われたが……。
木原
阿賀が、イーペーコーのみペンをテンパイトラズから、
ツモ→打
再びイーペーコーにテンパイし直し。今度はツモリ四暗刻のイーシャンテンでもあるので、
ツモ
四暗刻にはドラは不要ということで結局、木原にを放銃してしまった。
木原+66.9 鍛冶田+6.9 たろう△7.2 阿賀△56.6
初日トータルスコア
木原+152.5 阿賀+16.5 鍛冶田△2.4 たろう△166.6
木原が4、5回戦連勝。それも高得点のデカトップなので、突き放した印象である。
初日から、まるで条件付きの最終日のような打ち方で、エンジン全開。
ひとつ間違えれば大事故を起こしそうな感もあったが、思い起こせばこうした批判にさらされかねない極端な打ち方でこの3年間勝ち続けたのが他でもない鈴木たろうであった。
たろうの近著『ゼウスの選択〜デジタル麻雀最終形』(マイナビ出版)で、次のようなくだりがある。
「基本うまい人ほど安定的な選択をしがちじゃないですか。だけど僕はその安定した選択を基本的にしないんです。ハッキリさせるような選択をすることが多いから、極端な選択をするんですよね」
「だけど、それ(批判)にはもう負けないようにしたんです。これで打ったらバカだなって思うから(批判されるから)ひよるんじゃないですか。だけど、その思考はよくないって僕は思ったんです」
ここで語られている「たろうイズム」をこの日、見せつけたのが木原であった。
この初日の戦いは本の発売日前なので、木原が内容を知っているはずはない。
それだけの覚悟を自ら決めて臨んできたのであろう。
11期、12期と2年連続決定戦に進出しながらたろうに敗れた木原は、12期最終日にひとつのパフォーマンスを見せた。
TVドラマ「半沢直樹」最終回で演じられた香川照之の土下座シーンのパロディである。
我々は「よくやるな」と笑って観ていたが、木原自身は存外大真面目だったのかもしれない。
衆人環視の中で土下座をすることで敗北の悔しさを胸に大きく刻みこんだのではなかろうか。
『臥薪嘗胆』
―――この2年間レバニラを食べ続け、消臭活性炭入りの布団に横たわって、たろうへのリベンジを誓っていたにちがいない。
これだけ徹底した打ち方を見せられては、局面単位での評論はもはや意味を持たないとさえ思える。
あとは、「木原の選択」がどのような結果をもたらすか最終日まで見守るだけである。
(文・五十嵐 毅)
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