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順位
名前
ポイント
1日目
2日目
3日目
16回戦
17回戦
18回戦
19回戦
20回戦
1
鈴木 たろう
304.3
-29.3
154.9
29.3
11.3
10.1
61.8
56.2
10.0
2
鈴木 達也
-38.8
28.3
-129.5
3.6
65.0
-15.7
-26.8
-16.3
52.6
3
鍛冶田 良一
-118.8
42.3
-74.6
-88.7
-49.5
64.7
14.4
15.9
-43.3
4
伊達 直樹
-147.7
-41.3
49.2
55.8
-26.8
-59.1
-49.4
-55.8
-20.3

【4日目観戦記】 | 1日目観戦記 | 2日目観戦記 | 3日目観戦記 | 

15回戦までのトータル
鈴木たろう +154.9
伊達直樹 +63.7
鈴木達也 △97.6
鍛冶田良一 △121.0

麻雀というのは、選択と抽選のゲームだ。
木原浩一プロが唱えて最近広く知られるようになったこの認識であるが、もともとこれは鈴木たろうの言葉であった。

その鈴木たろうは、今日、雀王決定戦前人未到の3連覇に手がかかっている。
そこまで人は、麻雀で勝ち続けることが出来るものであろうか。
選択と抽選が麻雀の本質だと唱えるその選手本人が、何度も勝者に選ばれること。それにどこか違和感を感じないだろうか。

我々は人間である。選択を誤ったり、抽選に漏れたりするのが多くあるのは、ごく自然なことだと思う。

その人はなぜ、神域にいるのだろう―――。

16回戦の並びは、起家から達也、鍛冶田、伊達、たろうである。
東1局0本場、ドラ
まずは東家・達也がホンイツ仕掛け。
 ポン

北家・たろうは、9巡目にこの手。
 ツモ
はたろう自身が第一打に切っているが、ここでもうすっとを抜いて降りてしまう。
開局からこの隙のなさが恨めしい。

達也一人テンパイで続く東1局1本場、リーチのたろうから達也がチートイツドラドラの直撃。
 ロン ドラ

東2局0本場も、
 ドラ

西家・たろうのこの会心リーチを、東家・鍛冶田がフリテン追っかけリーチで阻んだ。
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

トータル首位のたろうがラスのまま、3者にとっては嬉しい展開である。
そう、やはり神懸かった強さの選手とはいえ、試合巧者3名で囲めば簡単に浮上の機会は与えられるものではない。

東2局1本場、西家・たろうは、
 ポン ドラ
ここから南家・伊達のをポンして打のテンパイ。
このとき対面の東家・鍛冶田は、まだこの形である。
 ポン ドラ

流石にこれはたろうのアガリかと思われたが、すぐの手番北家・達也の選択が素晴らしい。
 ツモ
今たろうがポンしたラスを抜く。喉から手が出る鍛冶田、当然のチー。
終盤テンパイに漕ぎ着け、たろうを追い抜いてツモアガってしまった。
 ツモ ポン チー ポン ドラ

点数状況は、東家から鍛冶田41400、伊達18300、たろう7400、達也32900となり、達也は鍛冶田にリードを許したものの、
たろうのアガリは潰すことに成功した。

このまま、このまま―――。
達也のそんな願いが聞こえてくるようだ。

東2局2本場。東家・鍛冶田が連荘狙いで終盤形式テンパイを入れたところに、南家・伊達からリーチ。
 ドラ
流局目前であったが、鍛冶田が一発で掴んだ牌は
 ツモ チー チー ドラ

伊達の捨て牌はこうなっている。


鍛冶田はポイント的には連荘必須であるし、この形式テンパイは当然の仕掛けだ。
また、伊達と達也に安全なを抱えていたことも大きいだろう。
伊達にソーズの下は打てず、ここはを落としにかかる鍛冶田である。

神風が吹いたといえばそうかもしれない。
伊達のリーチで結果放たれたその牌を、静かに待ち構えていたのがたろうだった。
 ロン ドラ

さらに東3局0本場、今度は激しく仕掛けに走る南家・たろう。
 ポン チー 加カン ドラ

捨て牌はこう。

2巡目のがなんとも心憎い。
北家・鍛冶田は7巡目、
 ドラ
ここから暗刻のを切ってダマ。ソーズの上目がたろうにはやはり打ちにくい。
次巡に鍛冶田が掴んだのは

は最後まで鳴かないつもりだった」
たろうが選んだ最終形である。誰が止められるものだろうか。
鍛冶田はなんと満貫の連続放銃で、一気にたろうを蘇らせてしまった。

さらに南1局0本場もたろうは満貫ツモアガリ。トップの達也に1100点差と肉薄する。

南2局0本場、北家・達也が乾坤一擲のリーチ。
 ドラ

受ける西家・たろう、
 ツモ ドラ
で少考。前巡は一発でを通しているが、ここで止まる。

達也の捨て牌は、


行くならで放銃。降りるならピンズを抜くところ。
たろうが選んだ牌は、前巡通した片筋の、であった。
 ドラ
形は崩さず、まだテンパイ復活をにらんでいる。トップに向かうこの貪欲な攻めと絶妙な打牌。
たろうは、我々凡人より広い選択のセンスを持っているのである。

かろうじてここは達也が裏1のハネ満をツモって逃げ切るも、たろうは2着で終了。
最初のラス目だった状況からすれば、3者にとっては本当に苦しい結果だ。

16回戦結果(トータル)
たろう +11.3 (+166.2)
伊達 △26.3 (+36.9)
達也 +65.0 (△32.6)
鍛冶田 △49.5(△170.5)

17回戦も、前回と同じく鍛冶田が序盤から走る。
東4局1本場、点数状況は東家から、達也21100、鍛冶田42100、伊達13900、たろう21900。
親の達也はこういう状況ならまずたろうの点棒を削ろうとする。
たろうは上家で、脇から見逃しての直撃は難しいのだが、達也ならそれでもやるだろう。
7巡目、達也の手牌はこうなっていた。
 ツモ ドラ
が場に1枚。ここから打である。
最速リーチを打つ気など毛頭ない。
高い手を作ってダマにしてたろうからアガること、それを見据えて牌姿を組み、それを実現できるのが達也である。
 ロン ドラ
たろうからの5800。
無論伊達からはアガらないであろうし、三色に手変わりしてからのたろう直撃も睨んでいる。
人智で磨き尽くした矢でなければ、神は撃てぬ。

南2局は東家から、伊達8100、たろう21900、達也25300、鍛冶田44700の並び。
ここまで今日アガリのない親の伊達、8巡目にリーチ。
 ドラ
は山に3枚残っている。
同巡下家のたろう、
 ツモ ドラ
この形の役なし、は3枚他家に持たれている。現物はだけで、渋々ツモ切りで押す。
こういう状況は3者にとってチャンスだ。
次巡、たろうはツモ
 ツモ ドラ

伊達の捨て牌は、


である。


たろうはここから、真ん中のを切ってリーチ。
鍛冶田の河に1枚があり、後半場にが走っての出アガリを目論んでいる。
もちろんここで親の待ちに放銃してしまうリスクもあるだろう。
しかし、それはを切る場合でも同様だ。
かなり伊達に放銃したくないこの状況、追っかけリーチと行くならば、たろうは最大限自分のアガリ率を上げる選択を取る。


この盤面なら、確かにこう打つ方がより強いペンだ。
それでも伊達の優位には違いなかった。は山に残り3枚、は残り1枚である。

しかし、たろうを後押しするように、人外の力がたろうにをツモ切らせ、純チャンドラ1のヤミテンを入れていた達也にを掴ませた。
 ロン ドラ 裏ドラ

南3局は、東家からたろう28100、達也20100、鍛冶田44700、伊達7100。
たろうに最高の並びである現状を打開すべく、南家・達也が9巡目にリーチ。
 ドラ

北家・伊達、14巡目。
 ツモ ドラ
伊達はこれが今日最初のツモアガリ形であったが、逡巡なくと千点棒を投げた。
達也のアガリを蹴るつもりなど当然ないし、大きくたろうに被らせるにはこれしかない。
結果はホウテイで、伊達から達也へ5200。

オーラスは、東家・達也26300、北家・たろう28100の着順争い。
達也が仕掛けてこのテンパイ。
 ポン ポン ドラ
ダンラスの西家・伊達は、生牌のと差しに行く。を掴めばもちろん打っていただろう。
しかし、達也のアガリ牌が掘り起こされることはなく、たろうが3者の希望を打ち砕いた。
 ロン ドラ

17回戦結果(トータル)
たろう +10.1 (+176.3)
伊達 △59.1 (△22.2)
達也 △15.7 (△48.3)
鍛冶田 +64.7(△105.8)

終了後に選手控え室で、伊達が独りうなだれていた。
自身の足掻きをことごとく蹂躙する大きな存在に、打ちひしがれているようだった。

雀王4度戴冠の達也、雀王・雀竜位両タイトル経験者の鍛冶田、共にベテランの有名選手である。
第2期入会の伊達は、協会内のメインタイトルを雀王を除き全て獲得しており、年は若くともこれからの団体を支える代表選手であることは間違いない。
ただ協会に残る最後のタイトル、その前に立ちはだかる壁が果てしなく高く、険しかった。

18回戦、ここが剣ヶ峰である。
もう誰も、たろうより着順が下回るようなことがあってはならない。
ましてやたろうにトップを取られようものなら、その時点で事実上雀王決定戦は終了する。

東1局、並びは起親から鍛冶田、伊達、達也、たろう。
仕掛け合った東家・鍛冶田と北家・たろうだったが、たろうが
 ツモ ポン ドラ
から、鍛冶田へ5800放銃。
 ロン ポン ポン ドラ
鍛冶田はが入り目であり、たろうとしても仕方ない勝負。だがこれで光明が差した。
1本場も、東家・鍛冶田が先制リーチ。
 ドラ

受けてたろう、
 チー ドラ
この形からをポン、打とする。抜き身の決闘。

も安全牌ではないが、前局の放銃があったからこそ前へ出ざるを得ない。
ただ鍛冶田は待ち。手詰まって放銃する展開はあるか、それともたろうがまたアガってしまうのか―――。

たろうがツモでテンパイを入れた。
 ツモ ポン チー ドラ

そうして放たれた牌を、この瞬間を、ずっとずっと待ち望んでいた者がいた。

 ロン チー チー ドラ
南家の伊達。伊達はこれが本日初のアガリ。3900は4200だが、たろうをさらに蹴落とす大きな出アガリである。

親番を迎えて加点したい伊達だったが、リーチ後に北家・鍛冶田へ5200献上。
 ロン ドラ

ドラ待ちの伊達、この掴み方は苦しい。
しかし伊達は、不運に喘ぐことも、展開の悪さを呪うことも、決してしなかった。
愚直に、ただただ自分の出来ることを貫いた。

東3局0本場、点数状況は東家から、達也25000、たろう15000、鍛冶田36000、伊達24000。
北家・伊達、4巡目である。
 ツモ ドラ

テンパイを取らず、を外して行く。
そして6巡目。
 ツモ ドラ


ここから暗刻の打
強大な力に立ち向かう人間の、かたくなな意地を見た。
次巡を引き、伊達は全てをこのリーチに委ねたのである。
 ドラ
9巡目に訪れたを、伊達は紙くずのように河へ投げた。
しかしは非情にも脇へ吸収され、17巡目、伊達の最後のツモ牌もまたであった。
このとき東家・達也がチートイツのテンパイをしており、伊達は局が進まないことを確信して、やはり二度目もツモ切った。
困難に立ち向かう強靭な意志と、局面を見抜く非凡な冷静さ。
伊達もまた、人ならざるものの領域へ、足を踏み入れつつあった。

東3局1本場は、東家・達也がリーチ。
 ドラ

これに仕掛けて追いついた南家・たろう。
 チー ドラ
無スジを押して、真っ向勝負である。
それを傍目で見ていた北家・伊達。
 ポン ドラ

たろうは好形か高いと見るべきだろう。達也の待ちは分が悪いかもしれぬ。
伊達がなんと、と続けて大ミンカン。
 大ミンカン 大ミンカン ポン ドラ

ドラを増やして、たろうを降ろしに行った。
流石にこれでは、たろうもむやみには突っ込めなくなる。打てば本当に致命傷を食らう。
事実たろうはを掴んで回り、テンパイには復帰したものの、結果流局に持ち込まれた。

東3局2本場は、
 ドラ
北家・伊達がここからドラ切りリーチ、南家・たろうがそれをポン。
無スジを押して行って、この形にまでなる。
 ポン ドラ

東家・達也もダブを鳴いて連荘の構えだったが、
 ツモ ポン ドラ

ドラポンのたろうの捨て牌


リーチの伊達の捨て牌

これらを見て、を抜く。
伊達が2600は3200のアガリとなり、達也も骨身を削って凌いだ。

南1局0本場8巡目、伊達を災難が見舞う。
 ロン ポン ドラ

東家・鍛冶田のこの手、掴んだのはイーシャンテンの南家・伊達。
も場に2枚目、片割れはドラである。伊達も止めようがなく、大トップが連続で必要な鍛冶田が見逃すことも出来ないだろう。
ともあれこれでラス抜けの目途が立ったたろう。開眼の刻であった。

南1局1本場。東家から、鍛冶田45000、伊達15200、達也26800、たろう13000。
北家・たろう、11巡目にリーチ。
 ドラ

次巡、南家・伊達も渾身の追っかけリーチ。
 ドラ

東家・鍛冶田は、とたろうの現物のみを抜く。しかし伊達に当たらない。
そういう追いすがる者の足掻きを、抵抗を、あざ笑うかのように彼は鉄槌を振り下ろした。

 ツモ ドラ 裏ドラ
ラス牌の高めをツモ、裏1のハネ満。
3者の心を折るには十分過ぎるアガリだった。

南2局0本場は、西家のたろうが6巡目にリーチ。
南家・達也が追いつくも、宣言牌がつかまった。
 ロン ドラ 裏ドラ

南3局0本場は、西家・鍛冶田が
 ツモ ドラ
ここから待ち変えで打リーチ。
南家・たろうがをツモ切って、鍛冶田は唇を噛んだ。
直後にたろうが、ツモ牌を雷光のごとく引き寄せる。

ここまで決定戦を戦ってきた相手の、苦心も、希望も、全てを踏みにじって、また彼はあるべき地位に君臨したのである。
 ツモ ドラ

18回戦結果(トータル)
たろう +61.8 (+238.1)
伊達 △49.4(△71.6)
達也 △26.8(△75.1)
鍛冶田 +14.4(△91.4)

均等にポイントを突き放した、正に王者の戦いであった。
これが理想の逃げ切りであり、優勝のための王道であることは間違いない。
雀王を決定するための戦いは、これで事実上終了となった。

18回戦、南入してからの怒涛の捲りだけを見れば、たろうに天運があったといえよう。
しかし、たろうは東場序盤からラス目で、トップを取るための攻めを淡々と実行したに過ぎない。
追う立場でアガリに制限を突きつけられている3者とは、そもそもの自由度が違うのである。

20回戦に至るまでの道程で、無限の分岐がある。ポイントを積み上げればそれに相応の、ポイントを失えばまたそれに相応の、選択がある。
たろうはそれを経験で、本能でわかっている。
常人より各局の選択の幅も広く、また大局の戦略にも極めて優れている。
選択と抽選という万人にチャンスのあるこのゲームで、彼が人外の境地にいるのはこうした理由であろう。

敗れた達也、鍛冶田、伊達は、また1年剣を研ぐ。
悔しさを押し殺し、届かなかった思いを噛み締めながら、次の戦いに備える。
絶対神、上等ではないか。
倒すなら、それくらいでないと面白くない。
彼らもまた、人並み外れた戦士たちなのだから。

20回戦終了時最終結果
たろう +304.3
達也 △38.8
鍛冶田 △118.8
伊達 △147.7

(文・須田 良規)

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