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順位
名前
TOTAL
1日目
2日目
3日目
16回戦
17回戦
18回戦
19回戦
20回戦
1
鈴木 達也
136.3
-43.1
41.6
-49.8
59.1
65.9
16.7
-24.4
70.3
2
金 太賢
44.5
-96.7
53.3
11.4
5.4
13.3
-28.4
70.5
15.7
3
五十嵐 毅
-69.7
76.2
-34.3
-27.6
-47.5
-26.7
61.6
-48.2
-23.2
4
鈴木 たろう
-111.1
63.6
-60.6
66.0
-17.0
-52.5
-49.9
2.1
-62.8

【最終日観戦記】  | 1日目観戦記 | 2日目観戦記 | 3日目観戦記 | 

日本プロ麻雀協会発足から、10年。

団体としてひとつの節目となる今年、
最高峰タイトルである「雀王戦決定戦」も変革の時を迎えた。

インターネット配信。

新たな麻雀ファンへの情報発信の場として、
それは今後も大きな手段となっていくだろう。

僕自身も、解説としてその大きな流れの一端を担った。
光栄に思うと同時に、多くの課題を残したと感じている。


-----

配信をご覧になって頂いたのべ15万人を超える方々には、
この場を借りてお礼申し上げます。
また視聴に際し、いくつかの不備があったことを、改めてお詫び致します。
次回以降、よりよい形で皆様に麻雀の面白さ、素晴らしさを伝えられるよう、
団体一丸となって改善に努めて参ります。
今後とも、日本プロ麻雀協会をよろしくお願い致します。

---


さぁ、その記念すべき栄冠は、果たして誰の頭上に輝いたのだろうか。
早速見ていくことにしよう。

(15回戦終了時)
たろう +69.0
五十嵐 +14.3
金 ▲32.0
達也 ▲43.4


★16回戦★(達也-五十嵐-たろう-金)

東1局から五十嵐が仕掛けていく。

五十嵐(南家)
 ドラ

ここから親の達也が切ったをチー。
手役派らしからぬチーだが、急所ならと言ったところか…

と、言いたいところだがなんとこれは親の第一打。

木原「次本手が入った時にナメてくれるっていう戦略ですかね?」

解説ではこう言っているが、これはどうなんだ?
スルーすればダブリー含みの満貫チャンス。
確かに鳴けば誰よりも早くテンパイは組めるのだが…
結果的に300・500のツモアガリになったものの、
五十嵐も代表としてこの配信には多少なりプレッシャーを感じていたのかも知れない。

東2局は静かに達也が金から3900。

達也(北家)
 ロン ドラ

どこからでも拾えそうなピンズ、安目にはなったが落ち着いたアガリ。

東3局は早い金のリーチに全員が対応して、終盤金が1000・2000をツモ。
瞬間、金の表情がカメラが映ったが、アガっても尚金の表情は硬い。

場馴れという点では、金は他の3者に圧倒的な差をつけられている。
だが先日行われた野口恭一郎賞を受賞し、これからメディアの露出が増えていく上で、
今回の戦いはその胆力が問われる試金石となるだろう。

東4局、その金の親番。

金(東家)
 ドラ

ここからノーマルにを離すと、次ツモは悩ましい
これをどうするかは判断の分かれる所だが、金は切りのダマテン。
すぐにを引いてきて単騎を切り替えるが、これもダマ。
数巡置いて、ツモ切りリーチときた。

金の河はこうなっている。

直前手出しは、その前は
単純なターツ落としであれば、親である以上即リーしてきそうなもの。
そうでないのはどういった意図があるのか…?
好形変化を待ち切れなかったのか、
あるいはそう読ませるのが狙いの好形高打点か、
それとも同巡他家が切った牌に何か関連しているのか?

このあたりが、対人ゲームならではの面白さでもある。
相手の思考様式によって、同じ河でも答えは様々に変化する。


実は…金の場合、上記のうちのひとつは除外出来るのだが…。
しかし僕は残念ながら、未だ公式戦で金に未勝利であるため、
この話は金に勝つまで胸に秘めておくことにしよう。
こんな読みが効くのも、特定の人数で一定回数の半荘をこなす競技麻雀ならではかも知れない。

もしもこれを読んで頂いているあなたが、
普段特定の誰かと長いスパンで打つ機会があるのなら――
その誰かの癖や打ち筋を研究しておくのも、悪い事ではないと思う。
仲間うちのセットや、フリーの常連同士、
果てはネット麻雀でぶつかる見知らぬ強豪たち――
その誰かの癖をひとつでも知っているということは、少なからず優位に立てるだろう。

ただ、「読み」というものは極端な話「決めつけ」であり、
相手も自分を知っているのであれば、
簡単に裏をかかれてしまうということだけは気を付けて頂きたい。

「それじゃあ読んでも仕方ないじゃないか」と言われてしまえば、返す言葉もないのだが…
そういった駆け引きもやはり対人ゲームならでは、といったところではないだろうか?


話が逸れた。
このリーチは、早目の仕掛けから安牌に窮した五十嵐がをトイツ落としして放銃。
裏ドラが1枚載って3900のアガリとなる。これで場は一気に平たくなった。

1本場はたろうが仕掛ける。

たろう(北家)
 ドラ

8巡目と迷う所ではあるが、ここからをチーしてテンパイを取る。
手牌だけ見ていれば両面からは仕掛けたくないところだが、
相手から見ればこの両面チーは脅威。
ドラドラ、果てはドラ3まで隠れているんじゃないか?
そう思い始めればもう何も切れなくなる。
少なくとも、手が整っていないところからこの仕掛けには押しづらい。
しかも――

達也(南家)
 ドラ

こんなリーチで押し返されても、を抜くことが出来る。
実際、このリーチに当たりのを掴まされたところでたろうはを抜いてオリている。

たろうと言えば強烈な押し返し、そんなイメージを僕も解説と観戦記で主張してきたが、
当たり前の事ながら、明らかにリターンの噛み合わない局面ではオリるし、
仕掛ける時も手詰まりにならないように慎重な手組みをしている。
ぶつかった時の印象が強いので忘れがちではあるのだが、
先手を取られれば素早く撤退する、そんな側面もたろうにはある。

ちなみに達也のリーチ宣言牌は
「あーいうは大ミンカンしてくれるって約束してたんですけどね…」
というのは木原の冗談だと思うが、
「カンが大好き」でも知られるたろう、流石にこれはカン出来なかったようだ。

しかし、ここも制したのは金。

金(東家)
 ツモ ドラ

今通ったばかりの-待ち。
巡目が深かったのでリーチせず、ツモアガリ。
が、記録の為にめくった裏ドラは

「僕らはリーチしてますねー」
「6000オールでしたね」
と解説席でドヤ顔をしている人間が2人いたような気がしたが…
ともあれ、このアガりで金が一歩抜け出す。

2本場は今度こそ、たろう。
達也のリーチをかわして五十嵐から1000は1600。
五十嵐はチートイドラドライーシャンテンから、達也のリーチに危険牌をプッシュしての放銃。
結果はたろうに当たって不幸中の幸いといったところ。

「あーいう風に今までより一歩踏み込んで、五十嵐は決定戦に残ってきましたからね」
「今は攻撃型ですよ。至高の守備派はシャミです」

と木原。
確かに3日目にも記したように、今や五十嵐は攻撃型。
ある程度のリスクは割り切って押しているように見える。
短期決戦、そしてトップが重要なルール。放銃よりも高打点のアガリ逃しが怖いのだろう。

だが、ここまで大人しかった達也がトップ争いに名乗りを上げる。
南1局の流局を挟んで、南2局1本場で2000・4000は2100・4100。

達也(北家)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

手順的にも一本道のアガり、これが「持っている」という事なのだろうか?

対して4100払って親落ちの「持ってない」五十嵐。
南3局も諦めず先制リーチを打つが…
たろう・達也の二人に押し返され、あげくダブロンのを掴んでしまう。
しかし協会ルールではダブロンは頭ハネ、ここは上家だったたろうの連荘となる。

アガりを逸する形になった達也だったが、
1本場は5巡目リーチ!

達也(西家)
 ドラ

あっというまのチートイドラドラ。
しかもすぐに、金が安牌に詰まってのトイツに手をかけてしまう。
裏ドラこそ乗らないものの8000は8300、マクるどころか大差をつけてしまった。
達也は3日目まで苦しんでいたのが嘘のようにアガりが軽い。

オーラスは金が2本場まで食い下がるも、最後は達也があっさりと仕掛けてツモる。
緒戦は危なげなく達也のトップとなった。

達也+51.2 金+5.4 たろう▲17.0 五十嵐▲47.5

(16回戦終了時)
たろう +52.0
達也 +7.8
金 ▲26.6
五十嵐 ▲33.2

 

★17回戦★(達也-金-たろう-五十嵐)

東1局、達也の勢いが止まらない。

達也(東家)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

誰がやってもテンパイを組める先行リーチから、海底間際にこの4000オール。
他家も手を尽くしたが、関係ないと言わんばかりに牌を叩きつけた。

しかし1本場は流局して、東2局2本場は親の金が1500は2100。
更には3本場はたろうが1000・2000は1300・2300と、達也に食い下がって行く。
一方、一人取り残された五十嵐にはまったく手が入っていない。
我慢の展開だが、どこかで挽回のチャンスは来るのだろうか?

東3局、達也が珍しく遠くて安い仕掛け。

達也(西家)
 ドラ

ここからをポン、打
割り切って捌きやすい手ではあるが、これが大事件を呼ぶ。

金(北家)
 ドラ

配牌ドラアンコの金が9巡目にこのリーチ。
河には3巡目にが飛んでいて、釣り出すには格好のカン

このリーチを受けて、親のたろう。

たろう(東家)
 ツモ ドラ

金の現物はのみ。
打っても後が続かない上に、を切っても678の三色目が残る形。
無スジを切るには物足りないが、とりあえずを打って粘りたい所。
これはたろうでなくてもを切るのではないだろうか?

しかし、結果は金へ最悪の12000放銃。
「打ったたろうより金を褒めるべきですね」
僕のこの見解は変わらないが、
これを皮切りにたろうの放銃ショーが始まってしまう…

東4局 たろう→金 2600
南1局 たろう→達也 12000

と、あっと言うまにたろうは箱下へ転落。
だが、これはどちらも積極策が裏目に出た結果だ。

麻雀はリスクとリターンが表裏一体のゲームである。
このたろうの3連続放銃を見て、
「なんだ、鈴木たろうはただのゼンツ野郎か。大したことないじゃん」
と断じてしまうのはやや早計だろう。

リターンを取りに行く以上そこにリスクが発生するのは当然のことであり、
いくらバランス感覚に優れた打ち手でも、偏りだけは避けようがない。
極端な話、アガリ牌が10枚いてもその前に放銃牌がたった1枚積まれていれば、
どれだけ枚数の多い待ちでも意味がないのだ。
複雑な局面でも高度な技術でリスクリターンを天秤にかけるたろうだからこそ、
裏目を引き続ければ簡単に点棒を減らしてしまうと言える。


だが、言うまでもなく、コインを投げて永久に裏が出続けることはないし、
ルーレットで黒が100回続いたからといって、次が黒である確率は常に一定だ。
それを解っているからこそ、鈴木たろうは強い。


南1局1本場は金の1人テンパイで流局して、南2局2本場。
早い仕掛けで他家を寄せ付けず、供託を攫ったたろうが南3局の親番で魅せる。

まずはから仕掛けて1300オール。

たろう(東家)
 ツモ チー ポン ドラ

手牌だけ見ればなんのことはない和了だが、注目すべきは河。


ちなみに第一打を打った時点で手牌はこう。

たろう(東家)

圧巻は第一打だろう。
チャンタ、ホンイツ、上の三色、すべてを消さない打牌はしかない。
更にその後ペンチーを見せることで、
相手に手役絡みの手牌進行を否が応にも意識させる。
実際はそれほどまとまっていなくても、
打ちづらい牌を作ることで相手の手組みを制限する。
たろうの戦略性がよく出ていると言える。

1本場は1人テンパイで流局とし、2本場は金から借りを返す形の12000直撃。
箱下どころか、着順アップまで視野に入ってきた。
これが上手くハマったたろうの強さ。

だが、裏がいつまでも続かないように、表が出続けることもない。


まずは牌譜を見て頂きたい。

この放銃、解説では酷評したが、実際のところどうなのだろう?

牌理から読もうと思えばいくらでも読みようはあるが、
たろうがハマってしまったのはそこではない。

終盤、金のツモ切り。
この1点に尽きるだろう。

金は恐らく、大ミンカンの時点で腹をくくっていたのだろう。
今後マンズを引いても余程確信のある牌以外ではオリないつもりだったはずだ。
でなければ、わざわざ手牌を短くする必要がない。
大ミンカンがあったからこその、ツモ切りなのだ。


だが、これを見たたろうはこう思ったに違いない。

「残り4センチはとマンズだ。リンシャンからマンズを引いて、もう打つものがないからを切ったんだろう」

金の単騎待ちは大ミンカン前後の手出しで読めている。
以外に安全牌があるのなら、そちらを打って単騎に受け変えるのが通常だ。
だから、たろうはではなくを打ったのではないだろうか?


たろうと金。お互いのバランス感覚、読みのズレが、結果的にこの放銃を生んだ。
この半荘はたろうのものであったようで、実は金の鋭い踏み込みが光る半荘だったのか?

いや、違う。

達也(南家)
 ロン ポン ドラ


華々しいアガりも、劇画のような鋭さも、勝てばこそ。そんな声が聞こえてきそうな1000点のアガり。
鈴木達也こそが、この半荘の勝者だった。

達也+65.9 金+13.3 五十嵐▲26.7 たろう▲52.5

(17回戦終了時)
達也+73.7
金▲13.3
たろう▲0.5
五十嵐▲59.9

 

★18回戦★(達也-金-たろう-五十嵐)

達也が連勝で一歩抜け出し、一人浮きの様相となった。
残りは3半荘。これ以上、達也にトップを取らせるわけにはいかない。

だが、達也はここまでの決定戦で溜まった鬱憤を晴らすかのように暴れ回る。

まずは東2局。

達也(北家)
 ツモ ドラ

6巡目にてらいもなくリーチにいったこのドラ単騎をいとも簡単に引きアガる。

更に東4局。

達也(南家)
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

リーチ合戦を制しての力強いアガリ。
これで達也は簡単に40000点を越えてしまった。

(東場終了時)
達也 42000
五十嵐 22600
たろう 18400
金 17000

もはや達也の勢いは誰にも止められないのか?
それに待ったをかけたのは意外にも、ここまで出番の無かった五十嵐。

まずは南1局、達也の親を700・1300で落とすと、
南2局にはドラアンコのテンパイ!

五十嵐(西家)
 ドラ

勢いリーチかと思いきや、五十嵐はダマテンを選択。
なるほど、確かに自分が点棒を稼ぐためならリーチ以外の選択肢はない。
だが、この局面は達也が抜けてしまっている。
出来る限り達也の着順を落とすためには、
どうしても達也の素点を減らさなければならない。
恐らく、金とたろうからのは見逃す腹積もりだったのだろう。

しかし結果は残酷にも一発でをツモ、更に裏ドラは
五十嵐としても、本来ならリーチしたい手をこらえた結果がこの仕打ち。
倍満になるとわかっていれば、誰でもリーチなのだが…
やはり五十嵐、展開に恵まれない。

南3局は金が1300をアガり、
遂に達也がトップ目のままオーラスを迎えてしまった。

(南3局終了時)
達也 38700
五十嵐 33300
たろう 14400
金 13600

ただ、親番は2着目の五十嵐。
金もたろうもラスは引きたくないとはいえ、簡単に終局させるようなことはしないだろう。
逆に達也は、この局をアガり切ればいよいよ優勝が目前になる。

タイトロープを渡るように、五十嵐のギリギリの連荘が始まった。
まずは達也のリーチをかわし、金から東のみの2000。
1本場はたろうからタンヤオのみの1500は1800。
金もたろうも意図的に差し込んでいるつもりはないだろうが、
達也に打てばそれで終わりな以上、どうしても五十嵐には甘い牌を打たざるを得ない。

更に2本場、金から2900は3500。

これでやっと五十嵐は達也を3900点離したトップ目に。
たろうと金としても、ようやく枷を外してアガリに向かうことが出来る。

しかし、そう簡単にはいかないのが鈴木達也という男。
3本場、再逆転を賭けたテンパイを入れる。

達也(南家)
 ツモ ドラ

だが、ここに金が間に合っていた!

金(西家)
 ドラ

序盤から丁寧に、ミスなく仕上げたチートイツ。
1600は2500ではたろうに届かずラス確となるが、もはや待ったなし。
苦渋の選択ながら、達也にリーチと言われてはアガらざるを得ないだろう。
無論達也はリーチを宣言、金は渋々ながら手牌を倒す――
かと思いきや、金は何事もなかったかのようにツモ山に手を伸ばした!

確かにここでのラスは少なからず痛いが、達也にアガられるよりは何倍もマシ。
現実には引いてきたは通り、たろうがすぐにを打ったからいいようなものの…
これが決定戦の行方を決定づける敗着となってもおかしくない、危うい判断だった。

ともかく、金の勝負を賭けた見逃しは成功し、たろうがラスへ落ちる。
達也もなんとかトップから引きずり下ろす事に成功した。

五十嵐+51.6 達也+16.8 金▲28.4 たろう▲49.9

(18回戦終了時)
達也+90.4
五十嵐+1.7
金▲41.7
たろう▲50.4

 

★19回戦★(達也-五十嵐-たろう-金)

残り2半荘。
五十嵐に関してはトップ2回ならほぼ無条件だが、
金とたろうは出来る限りこの半荘で達也を沈めておきたい。
逆に達也はトップを取れば今度こそ優勝をほぼ手中に出来る。

東1局、たろうの手順が面白い。

たろう(西家)
 ドラ

ここからたろうは打として、三色とチャンタを睨む。
次巡ツモでカンチャンターツが出来たがこれをツモ切ると、
ドラのを引き入れたところで打

たろう(西家)
 ドラ

これには驚いた。
保険をかける気など更々無い手牌進行、しかしこれが功を奏す。
を引き込みを離すとこれを金にチーされるが、
喰い下がってきたのは

たろう(西家)
 ドラ

たろうにしか出来ない手順で、チャンタ三色が確定する。
しかも周囲が早いと見るや、手に惚れず仕掛けてアガり切るのもたろうらしい。

たろう(西家)
 ツモ チー ドラ

見事な1000・2000で、たろうが口火を切る。


…だが結果から言ってしまえば、この半荘たろうの出番はこれだけだった。


そして、次いで主役に名乗りを上げたのはまたしても達也。
東2局は500・1000、東3局は5200と、打点こそそこまで派手ではないが、連続でアガり、
僅かながら会場に「やはり達也か」という空気が流れ始める。


…しかし、なんと達也もこれ以降、沈黙に包まれてしまうのだ。

では、この半荘の主人公は誰か?
答えは東4局、明らかになる。

金(東家)
 ドラ

暗カンのタイミングは難しいものだ。
ドラを増やし、打点を上げる効果はあるものの、それは諸刃の剣。
相手に先を越されればいたずらにリターンを与えてしまい、自分は手牌が短く、捌きづらくなる。

金もこの時点では打として一旦保留したものの、
次巡のツモでここが分水嶺と見たか、暗カンを決行する。

金(東家)
 暗カン ドラ カンドラ

お世辞にも整った形とは言えないが、どこを払っても裏目が出てしまう。
1枚外す手もあるにはあるが、せっかくの親番。
すぐにツモが1回増えるというのも、暗カンのメリットのひとつだ。

残念ながらリンシャンは不要牌だったが、すぐにツモ
をポンしてテンパイを取ると、ラス牌のを力強くツモり上げた。

金(東家)
 ツモ ポン 暗カン ドラ カンドラ

消極策ならを払って良くても1000オール。
ドラ1ではから仕掛けるかどうかも微妙なため、アガりすら怪しい。
これを3200オールに仕上げた金、チャンスへの嗅覚はさすがと言ったところか。


その1本場、気を良くした金は更に畳み掛ける。

金(東家)
 ドラ

なんと9巡目リーチでツモれば四暗刻!
これをアガるようなら一気にトータル首位に躍り出る。


しかし、そうは問屋が卸さない。
リーチ時点で山に3枚生きていたこの待ち、僅か2巡で全員に吸収され純カラに。
挙句の果てには、を引き入れた五十嵐から追撃のリーチ!

五十嵐(西家)
 ドラ

高目は3枚枯れだが、アガり目のない金は放銃抽選を受けるだけ。
終局間際に安めだがを掴み、裏ドラがで5200の放銃。


実はこの局、金のリーチ前巡に五十嵐がこんな形になっていた。

五十嵐(西家)
 ドラ

ドラがでなくてもを切りそうなこの手、
五十嵐はあくまで下の三色とチャンタにこだわり打としていた。
そして金のリーチを受け、ツモったのは最悪の
「言わんこっちゃない」とは解説の渋川と僕だが、
次巡のツモ、ドラを叩き切ってのリーチで事態は一変。
平たく進めていると当然ドラ引きで追いかけリーチをしているため、
このが金の12000へ放銃となってしまうのだ。

確かに、これはあまり意味を成さない結果論ではある。
しかし、半荘20回という短期スパン。
こういった「100回に1回」を捕えることが優勝に繋がることもあるのではないか?
…もちろん、次同じ局面を見かけても僕はを切るのだが…


ともかく、これでもう皆さんおわかりになっただろう。
この半荘の主役は五十嵐…


金「リーチ!」

金(北家)
 ツモ ドラ


…ではない。


金「ツモ!」

金(北家)
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ


僅か2巡目のファーストテンパイ、
一通の手変わりがあるだけに外したくなるところだが金はそれをしない。
滑らかにを引き寄せ、2000・4000。ほんの1分足らずで最も怖い達也の親を落とす。


これを皮切りに、南場は金の独壇場。


流局(テンパイ:五十嵐、金)

金 1300・2600は1400・2700

流局(テンパイ:たろう)

金 1000は1300 (放銃:たろう)


と、金の声しか聞こえてこない。

そしてオーラスは金の親番。
無論金がトップ目で、点棒状況はこう。

(南3局終了時)
金 36700
五十嵐 22100
たろう 22100
達也 19100

金は出来る限り素点を稼いでおきたい。
たろう五十嵐は同点2着、出来ればこの並びで終わらせたいが…

金「ロン、7700」

金(東家)
 ロン ドラ

これが5巡目だ。
打点を見てをトイツ落としした五十嵐も、
まさかロンの声がかかるとは思わなかっただろう。

もはややりたい放題の金、ここからは出来れば達也の点棒を削りたい。

金(東家)
 ドラ カンドラ

1本場。本来ならリーチが正着だが、達也からの直撃を狙ってダマテンに構える。
恐らく、五十嵐とたろうからは見逃すのではないだろうか?

これを目論見通り達也から直撃。この5800は6100で、達也が単独ラスとなる。


さぁ、これで再び並びが出来た。
もう十分と言ったところか、2本場はたろうが仕掛けるや否や達也に絞り始める金。
更なる加点よりも、達也のラス抜けを絶対に阻止しに行く。
金はここまで好き放題やらせてもらっていただけに、
まだまだ素点を稼ぎに行きたくなるところだが…
ここでブレーキが踏めるのもまた金の強みか。


だが、それでも相手は「鈴木達也」だ。

たろう、五十嵐と3者テンパイの中、冷静にアガり切って、ラス抜けを果たす。
ここまで来ると勝負強さと言うよりは、もはや何かに護られているかのように感じてしまう。
対してたろうと五十嵐にとっては手痛い結末となった。

金+70.5 たろう+2.1 達也▲24.4 五十嵐▲48.2

(19回戦終了時)
達也+66.0
金+28.8
五十嵐▲46.5
たろう▲48.3

 

★20回戦★(五十嵐-たろう-達也-金)


最終戦。
自由に動けるのは達也と金、五十嵐とたろうに架せられた鎖は重い。
条件戦特有の、苦しい展開が場を支配する。
流局が続いた2本場、一気に場が動いた。

たろう(南家)
 ドラ

金の2副露を見て、たろうがツモ切りリーチを敢行する。
たろうは金と達也、両方を沈めてのトップ条件。
前に出てきた所を叩かなければ、勝機はない。

しかし終盤、たろうが力なく河へ置いたにロンの声を上げたのは金だった。

金(北家)
 ロン ポン チー ポン ドラ

トップを取れば優勝の金、大きな大きな12000。
手応えのあるアガりに、少なからず金自身も勝利を意識したに違いない。


だが、何度でも言おう。
相手は「鈴木達也」なのだ。


達也が東2局を1人テンパイとし、東3局1本場の親番、1000は1100オールをアガって迎えた2本場。


達也(東家)
 リーチ一発ツモ ドラ

あまりにも、あまりにもあっさりと引かれた
もしも勝利の女神がいるならば、それはいつも達也の傍らで微笑んでいるのだろうか?
そう思わせるに足るほどの勝負強さが、達也にはある。

このアガリで、再び達也がトータルトップに立った。
金は果たしてこの怪物からトップを奪い取れるのだろうか?


東4局、金の親番は五十嵐に1000・2000で流される。
南1局、今度はたろうが五十嵐の親を蹴り、
このまま達也有利で進むと思われた南2局。
最後まで諦めないたろうから、先制リーチが入った。

たろう(東家)
 ドラ

仕掛けを入れていた達也だが、押し返せる形でもない。
現物のと抜いて次巡この形。

達也(南家)
 ツモ ポン ドラ

完全安牌はないが、たろうはを早めに切っている。
かなり通りそうなを切ると、思わぬ所からロンの声が上がった。

金(西家)
 ロン ドラ

息を殺していた金、価千金の5200。再び達也を逆転する。
同時に、五十嵐とたろうは現実的な逆転の条件を失い、アガる打点が大きく制限される。
激しい優勝争いは、遂に2人のどちらかに絞られた。

------

さて。

金と達也、果たしてどちらの頭上に栄冠は輝いたのか?
このまま平坦に記してもいいが、せっかくの機会だ。
南3局、結果的に優勝を決めた1つのアガリについて興味深い談話を聞いたので、
最後はそれで締めくくろうと思う。

------


「ほら、前の親番で一発でツモってるっしょ?」
「巡目も早いしどうにでもなるから、普段なら打たないリーチなんだけどさ」

達也(東家) 5巡目
 ドラ

「またツモったら面白いと思ったんだよね」

達也(東家) 13巡目
 リーチツモ ドラ 裏ドラ


――天才はかくあるべき――

この話を教えてくれた達也と僕の共通の知人は、笑いながらそう締めくくった。


ふざけていると感じるだろうか?
だが、よく考えてみて欲しい。


この優勝を賭けた局面で、「面白いから」という理由で打牌出来る人間を、僕は他に知らない。
いや恐らく、今後現れることもないだろうと思う。

重圧をものともしない精神力、埒外の発想、積み重ねてきた多くの経験。
常人には理解すら届かない、圧倒的なそのすべてが鈴木達也を「ファンタジスタ」たらしめているのだ。

 

記念すべき第10期雀王は、鈴木達也。通算4度目の戴冠となった。
名実ともに「協会最強」の名を欲しいままにする彼は来年、史上初の連覇を狙う。

(文:綱川 隆晃)

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