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第7期女流雀王戦

【最終ポイント成績】
順位
名前
TOTAL
第1節
第2節
第3節
1
朝倉 ゆかり
136.5
105.3
49.3
-18.1
2
櫻井 はるか
72.1
109.2
-47.4
10.3
3
崎見 百合
-47.6
-87.5
42.3
-2.4
4
大澤 ふみな
-201.0
-127.0
-44.2
-29.8

1日目観戦記2日目観戦記

【最終日観戦記】

「おはようございます!!」

連日対局となる決定戦の、最終日。
別段昨日と変わったところもなく、筆者こと夏川、会場入り。

会場には既に、崎見が到着していた。
崎見は昨日も、選手達の間では会場一番乗りである。
「一番」
たとえ些細なことであっても、そういった意識を持つのは大切なように思う。

次いで、櫻井と朝倉がそれほど間を置かずに会場入り。
昨日と全く同じだ。

そして、決定戦開始時刻ギリギリに、大澤がバタバタと駆け込み。

何も、変わることのない風景。

こうして流れていく時間の中で、移ろいゆくものを捉える。見据える。
そして、「普遍性」を込めて留める。

麻雀でタイトルを獲るということは、そういうことではないだろうか。

流動的に変わる局面を、精神を、
押し切り、光る栄冠を勝ち取るのは――。

さあ、今年の女流雀王は誰になることか。


<10回戦までのトータルポイント>
朝倉 +154.6
櫻井 +61.8
崎見 ▲45.2
大澤 ▲171.2


11回戦 櫻井−朝倉−大澤−崎見

東1局、それぞれ配牌はまずまずといったところ。
7、8巡目に、朝倉と大澤が役無しでテンパイを入れる。
リーチをかければ先制はできるかもしれないが、手応えの薄い形で体当たりはしたくない。
ピンフへの手替わりを待ち、二人ともダマ。

13巡目、朝倉のシャンポン待ちがリャンメン待ちに変化したところへ、大澤が放銃。
ピンフのみの1000点が動き、朝倉の親番へ。

東2局。
西家の崎見の配牌に、北南がトイツで西が1枚。他はワンズが濃い。
ドラは四萬で、1枚ある。ホンイツとトイトイの天秤で仕掛けるだろうか。

1枚目の北はスルーしたが、手格好は変わらぬまま、2枚目はポン。

一萬一萬二萬四萬九萬四索四索南南西 ポン北北北 ドラ四萬

するとそこへ西が重なった。ホンイツへ向かい、ソーズを下ろす。
8巡目、南をポン。続けて、ツモ切られた西をポン。

一萬一萬二萬四萬六萬 ポン西西西 リーチ ポン南南南 ポン北北北 ドラ四萬

二萬でカン五萬テンパイ。
さすがにただ事では済まされないフーロだ。同卓者に緊張が走る。
そして見事に、3者がそれぞれ東を1枚掴んでオリ。

しかし14巡目、崎見自身も東をツモ。今更手の内に入れるわけもなく、ツモ切り。
これには同卓者たちも、安堵のため息。
奇遇ですね、と挨拶でも交わしたくなるほどバタバタと東が切られてゆく。
次巡、崎見ツモ六萬。トイトイに受け、ドラの四萬を手出し。
さらに次巡、回し打っていた大澤がテンパイした。
ドラ2丁のカンチャン待ちを、果敢にリーチと行く。

四萬四萬五萬七萬五筒五筒五筒七筒八筒九筒一索二索三索 ドラ四萬

おそらく流局上等のリーチであろうが、
「それでも向かってくる」という大澤の胆力を他家に見せ付けるには十分な効果があった。
2人テンパイで流局。

東3局1本場。
櫻井がピンフの3メンチャンでリーチをかけるが、
朝倉のかわし手が先に決まった。タンヤオ、1000点。

東4局。
ソーズに寄せる大澤が、染まりきらぬまま13巡目リーチ。
しかしこれが一発ツモで、2000・4000。
小場がやっと大きく動いた。

南1局。親は櫻井。
朝倉が軽快に仕掛ける。 ダブ南をポン。發をポン。
現状、最も競っているのは朝倉と櫻井であり、ここはお互い打ち込みたくない。
しかし、勝負に出ないまま負けるわけにもいかない。
ピンフに向かう櫻井の切った中が、朝倉の高目ロン牌であった。満貫討ち取りとなる。

六萬七萬八萬三索三索中中 ポン發發發 ポン南南南 ロン中 ドラ七筒

場は朝倉のペースとなりつつある。
櫻井、食らいつくことができるか。

南2局。朝倉の親番。
それぞれにイーシャンテンが長引く中、ドラを2丁抱えた朝倉が、
14巡目にしてやっとテンパイ一番乗りを果たした。ピンフで即リーチ。
その宣言牌を櫻井がポン。一歩もひるまぬ気概を見せ付けたが、
その鳴きによってアガり牌が朝倉に流れた。
4000オールツモ、大きなリードを勝ち取る。

六萬七萬八萬六筒七筒七筒八筒九筒四索四索五索六索七索 リーチ ツモ五筒 ドラ四索 裏北

南2局1本場。
朝倉の配牌が非常に良い。

五萬六萬七筒八筒一索二索三索四索七索八索九索南南西 ドラ六萬

ひとまず打西
次巡、ツモ二索。これはツモ切り。次巡、ツモ五索
ソーズでイッツーが出来る目が濃くなった。
少考して打七筒。ここはやはり、ドラターツを温存する。

次巡、ツモ六索

五萬六萬八筒一索二索三索四索五索七索八索九索南南 ツモ六索

驚くほど簡単に、一気通貫の完成である。打八筒でダマ。
これは次巡、チートイツを目指す大澤から四萬が出て7700点のアガり。
まだ5巡目の出来事である。
「ずるい。」
お茶目な採譜者が、採譜用紙にこのようにコメントしていた。
この半荘はもはや、完璧に朝倉に掌握されたと言ってよいだろう。

南2局2本場。
ピンズ染めを目指す朝倉と、ワンズ染めを目指す崎見のぶつかり合いになったが、
両脇がよく絞り、また、双方ともに有効な手替わりすら果たせなかった。
初の全員ノーテンで流局。

南3局3本場。
親の大澤の牽制リーチが功を奏した。大澤一人テンパイで連荘。

南3局4本場。
大澤に東白がトイツ。早々に東を叩く。
9巡目、崎見がかわし手に出た。朝倉から三索をポン。

四萬四萬四萬五萬六萬八萬八萬六索八索白發 ポン三索三索三索 ドラ一筒

崎見はまず打白とし、それを大澤がポン。

二萬三萬五萬五萬七萬七萬七索發 ポン白白白 ポン東東東

七索。ワンズのホンイツに向かう。
それを崎見が迷わずチー。打發四萬-七萬-八萬テンパイ。
その發を朝倉がポン。

六萬七萬七萬三筒四筒五筒六筒六筒六筒五索五索 ポン發發發

この七萬は止まらなかった。
朝倉から崎見へ、1000点と4本場供託付き。
目まぐるしい空中戦を制し、崎見自らの親番へ。オーラスである。

点棒は、
崎見 20700
櫻井 7500
朝倉 50600
大澤 21200

親の崎見の手が、4巡目にこの形。

三萬五萬六萬八萬二筒三筒三筒四筒六筒八筒四索四索七索 ドラ三筒

ドラが2丁あり、最低でも5800点には仕上げたいところ。
しかしこの手がなかなかテンパらない。
13巡目になってもこの形。

五萬六萬六萬一筒二筒三筒三筒四筒四索四索五索五索七索

そこへ朝倉が追いつきつつあった。
イーペーコーと三暗刻を天秤にかけ、同巡にこの形。

三萬三萬四萬四萬七萬七萬七萬五筒五筒六筒一索二索三索

14巡目、ツモ二萬。打六筒でテンパイ、二萬なら出アガリが効く。
流局間近だが、このままトップ逃げ切りなるか。
すると次巡、即高目の二萬をツモった。
500・1000で11回戦終了。

現在トータルトップの朝倉、ここで一気に気が楽になったか。
あとの3人は、残り4回戦、どう朝倉の懐に飛び込むか。
ほんの一瞬油断しただけでも斬り殺されかねない、決定戦最終日。
朝倉の幸先は良い。
しかし最後の最後まで、気を抜くわけにはいかない。

<11回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +227.2
櫻井 +8.8
崎見 ▲65.5
大澤 ▲210.5


12回戦 櫻井−朝倉−崎見−大澤

「私がアガると、代わりに不幸な人ができる――」

――純粋だった。
その人、朝倉ゆかりは、ひたすらに「麻雀」に対して、純粋であり続けた。
その無垢さが、人を傷付けることがあること。
そしてまた、自らをも切り付ける危うさを備えていること。
昔の彼女は、そのことを知らなかった。

「これで、合ってるの? 正しいの……?」

自信の無さ、揺らいだ立ち位置は、即座に打牌に直結する。
何者も信じられなくなった時、麻雀という競技は、
恐ろしいまでに己をがんじがらめに包囲する牢獄へと、様相を変化させる。

「強くなりたい」。
何度涙を呑んだことだろう。
脱獄をはかり、もがき、新たな地表に出ようとする。
けれど堅牢な檻は、己を取り込んだまま「許し」を与えてくれない。

どうして、出られないの?
――その檻を形作っているのは、自分自身なんだよ。

囚われの姫君が外の世界に抜け出したきっかけを、筆者は知らない。
けれど今の朝倉には、確実に「強さ」があった。

過ちを、糧に。
修練を、礎に。

その結果が、今、目の前にある。
5月には新人王を獲得。今期の女流雀王決定戦では、現状首位。

ひたすら純粋であり続けることの、強さと厳しさ――。

彼女の姿勢が教えてくれるものを、しかと心に刻みたい。

12回戦が、始まる。
3人の追随をどう振り切るか。進軍と後退を、どう織り交ぜてゆくのか。
戴冠を目指し、孤高の姫君はまっすぐ純粋に突き進む。

東1局。親は櫻井。ドラが六索で、6巡目にこの形。

四萬五萬六萬七萬七萬六筒七筒七筒八筒九筒六索中中 ツモ五索

何を切る?
櫻井は悩んだ末、打九筒
2巡後、四索を引き入れ、中七萬待ちで迷わずリーチを打った。
3巡後、安牌に窮した大澤から中が放たれる。
ロン。裏ドラが七萬で、幸先の良い12000点。

朝倉を、櫻井が追い上げるか。

東1局1本場。
またしても、櫻井に配牌で中がトイツ。7巡目にポンテンを取る。
そこへチートイツのイーシャンテンから朝倉が放銃。1500は1800点。

首位から討ち取りはしたものの、打点は低い。
ここから積み重ねられるか、どうか。

東1局2本場。
8巡目、朝倉が前に出た。

二萬三萬七萬九萬九萬一筒一筒一索二索三索七索九索中 ドラ九萬

タンピンを目指す櫻井がツモ切った九萬を、ポン。打七萬
純チャンドラ3、決まればでかい。
2巡後、一萬を引き入れカン八索でテンパイ。

しかしその八索が実は純カラ。櫻井の捨て牌に1枚、大澤の手にアンコ。
そしてその大澤が、12巡目にテンパイを果たす。

三筒三筒三筒四筒五筒六筒八筒四索五索六索八索八索八索

七筒八筒待ち。ダマで押すのだろうか、と思いきや、
2巡後に四索をツモり打八筒四索-七索の亜リャンメンでリーチに出た。
まずチャンタ手の朝倉からの討ち取りを狙ったのであろう。
朝倉は、一発で掴んだ六索をためらうことなくツモ切り。
大澤の捨て牌にソーズは一索二索しか出ていないが、全ツッパと出た。

結果、流局。四索は純カラで、七索は王牌に残されていた。
余談になるが、この局の裏ドラは三筒
東パツに親満を打つも、その潜在能力の高さたるや。大澤、強し。

東2局3本場。
崎見の配牌3トイツの手が、導かれるかのようにストレートにチートイツになった。
5巡目に、

一筒一筒二筒二筒六筒八筒八筒四索七索七索東東發 ツモ四索 ドラ西

六筒でリーチ。
それを受けて、大澤が現物の北切り。
その北を北家の櫻井がポン。
ワンズの染めに向かうかと思ったが、一発消しの意味合いも強かったようだ。
次巡、五筒を引き、前巡朝倉が通した二萬をトイツ落とし。

ちなみに、リーチが入った時点で朝倉の手牌は

二萬三筒四筒五筒七筒七筒一索三索四索五索六索七索八索

ここに五萬をツモり、二萬と振り替え。
イッツーと三色の天秤にかけた。
次巡ツモ八索、ツモ切り。さらに次巡、ツモ三索で長考。安牌の八索切り。
一歩引いたが、次巡大澤がリーチに三索を通した。
そして朝倉の手が

三筒四筒五筒五筒七筒七筒一索三索三索四索五索六索七索 ツモ六筒

三索
さらに次巡、ツモ一索で打七筒。フリテン3メンチャンのピンフテンパイである。
しかしこれは全く嬉しくない。ここまで歪んだテンパイで、この先どうにかなるのだろうか?
結果、同巡崎見が發をツモ。1600・3200に3本場と供託1本を回収。

先ほどトップの朝倉、今度はうまくいかない。
純粋ゆえの強さは、己の揺らぎが最大の敵ではないか。
朝倉、ポイントを、守り切れるか。

東3局。
親の崎見に、發がトイツ。
西家の櫻井に中がトイツ、北家の朝倉に白がトイツ。
最も早く仕上がるのはどこだろう。
それぞれ即行仕掛けていくのだろうか?と思ったが、崎見は1枚目の發をスルー。

それでも、イーシャンテンは崎見が一番乗りであった。
4巡目にこの形。

一萬一萬二萬二萬二萬四筒四索五索五索六索七索發發

しかしこのイーシャンテンが長引いた。
全く手が変わらないまま、10巡目に櫻井からリーチ。

一筒二筒三筒六筒七筒八筒六索六索六索九索九索中中 ドラ八筒

リーチの1巡後、崎見は朝倉の切った三索をチー。片アガりテンパイ。
しかし3巡後、中をツモ。止まりようもなく、櫻井に放銃。
裏は乗らずの5200点。

櫻井が勢いづく。

東4局は、大澤の一人テンパイで連荘。
続く1本場、朝倉がリャンメンリャンメンの手格好から8巡目にファン牌を叩く。
すると大澤にテンパイが入った。即リーチと行ったが、同巡崎見もテンパイ。
大澤が一発でロン牌を掴まされ、リーチ・一発・裏1の5200は5500点移動。

南1局は、崎見がストレートに高目タンヤオのピンフテンパイ。
親の櫻井がかわし手を入れようとするが、崎見に高目をツモり上げられた。
裏は乗らず、1300・2600。

南2局、親は朝倉。
崎見と約10000点差、櫻井と約20000点差の3着目である。
ここはなんとか加点していきたいところ。
そこへきて、配牌で南がトイツであった。櫻井の第1打の南、これはスルー。
確かにここで鳴いたところで、どう足掻いても1500点にしかならない。
それよりは、南をも落とす構えで高い手を狙いに行くというところか。

しかし4巡目、タンヤオイーシャンテンで櫻井がツモ切ったドラの九索を大澤がポン。

四萬五萬九萬九萬三筒四筒七筒九筒九筒北北 ポン九索九索九索 ドラ九索

七筒。大澤は西家である。世にも珍しい三色同刻狙いか。
大澤の仕掛けを受け、朝倉は南のトイツ落とし。早々に手じまいの支度を始めた。
そこへ南家崎見は一萬をポン。ワンズの染め手で真っ向勝負である。

三萬六萬七萬八萬東東西西中中 ポン一萬一萬一萬 ドラ九索

櫻井も、食いタンでかわし手に出た。

二筒四筒四筒六筒七筒二索三索四索五索六索七索七索七索

ここから七索をポン、打二筒
最もアガりやすそうに見える五筒-八筒待ちである。
実際、朝倉の手牌に3枚押さえられていたが、山にはまだまだ5枚丸生きであった。
3巡後にツモ、300・500。荒れ場をトップ目自ら収めた。

南3局。
親の崎見に發がトイツ。大澤は白がトイツで、手の内にドラが3丁。
朝倉はタンピンのシャンテンだ。
櫻井一人が、一索アンコで手役もドラもなく、前に出づらい手格好。
しかし、最も早くテンパイを入れる。
どうするかと思ったが、少考してリーチと出た。
カンチャン待ち、ツモれば符ハネという程度の心もとないリーチだが、
そこへ一色手に寄せる大澤が飛び込む。1300点。

オーラス、点棒は

大澤 5200
櫻井 39400
朝倉 18400
崎見 37000

櫻井と崎見の点差はたったの2400点。
先ほどはラスを引かされている櫻井、逃げ切れるか。崎見、追い上げるか。

しかし配牌は、崎見に味方した。

四萬四萬六萬三筒七筒五索八索九索南北北發發 ドラ發

崎見は北家。
速さも打点もどう見ても一番です。本当にありがとうございました。
と、平身低頭でもしたくなるような配牌である。
これが8巡目にはこの形。

四萬四萬五萬六萬六萬六筒七筒四索五索北北發發

これから、11巡目ツモ六索で打四萬。次巡ツモ八筒で打六萬
北と發のシャンポン、最低でも5200ある。
それを次巡、發でツモアガり。2000・4000でラスト。
それにしても北發も山に深かった。全体牌譜を見ても、誰の手にも1枚もないのである。

現女流雀王、勢いに乗った櫻井をオーラスでひと捲り。
残り3回戦で、怒涛の追随を見せるか。
この半荘でほとんど身動きの取れなかった朝倉、
次は進軍の指揮を取ることができるのか。またしても動けぬまま、囚われの身に甘んじるのか。

<12回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +203.6
櫻井 +26.2
崎見 ▲0.5
大澤 ▲269.3


13回戦 朝倉−櫻井−崎見−大澤

ここで2日目に同じく、飲み物の話。
この日は、

櫻井→アクエリアス
朝倉→伊右衛門 焙じ茶
崎見→リプトン レモンティー
大澤→バナジウム天然水

であった。
チョイスが安定している2人は、コンディションも安定しているのだろうか?
などと、かなり勝手な推測をしてみる。

筆者は紅茶花伝のミルクティーを飲みつつ、ほっと一息。
最終日も折り返し、この半荘で残り2回戦の指針と勢力図が決まる。
さあ、刮目して見届けようではないか。

東1局。親は現状首位の朝倉。
配牌に、ダブ東がトイツである。
7巡目にドラを重ね、8巡目にやっと出た東をポンしてこの形。

二萬二萬三萬六萬八萬九萬一索二索三索四索五索六索 ポン東東東 ドラ二萬

九萬でイーシャンテン。
手格好が変わらぬまま、2巡後にツモ切った一索を大澤にポンされた。
大澤はこの形。

三萬四萬七索七索南南北中中中 ポン一索一索一索

次巡、南をアンコにし、打北でテンパイ。
そこへ崎見が五萬で放銃、1300点。崎見の手牌は、

二萬三萬四萬五萬六萬七萬四筒四筒六筒八筒七索八索北

ここへツモ八萬で、三色を見ての振り替えであった。八萬は大澤の現物である。
崎見に感触の悪い流れを感じるが、この先どうなることか。

東2局。
配牌で崎見にピンズが濃い。自風の南がトイツであり、真っ直ぐホンイツに向かう。
南を叩き、9巡目に三筒をチーしてこの形。

二筒三筒四筒四筒五筒七筒九筒 チー三筒一筒二筒 ポン南南南

まだ張ってはいない。が、ピンズは何を引いてもテンパイである。
するとそのチーで、親の櫻井がテンパイ。

四萬五萬六萬七筒七筒一索二索三索四索五索五索北北 ツモ三索 ドラ北

五索でリーチ。北七筒のシャンポン。
六筒を5巡目に切っているため、今から手変りは期待できない。最終形だ。
次巡、櫻井の切った八筒を、崎見が長考の末チー。
五筒一筒-四筒テンパイに取った。
すると次巡、櫻井のロン牌の七筒を引かされる。
ツモ切り、放銃。裏は乗らず、7700点。

ピンズに染めたにもかかわらず、ピンズでの放銃である。
崎見の流れはかなり悪い。転機は訪れるか。

東2局1本場。
北家朝倉が珍しく早仕掛けに出る。櫻井の連荘を恐れてだろうか。

四萬八萬二筒四筒七筒八筒三索東東南南北發 ドラ九筒

ここから東を即ポン、打四萬。ホンイツに向かう。
2巡後南もポン、打八萬

この仕掛けが入った時点で、櫻井の手牌は

三萬四萬五萬六萬八萬二筒三筒三筒四筒四筒五筒五索七索

圧倒的に手格好が良い。
7巡目には、

三萬三萬四萬五萬六萬二筒三筒三筒四筒四筒五筒七索八索

六索-九索待ちテンパイ、ここは慎重にダマ。
そこに朝倉が追いつく。9巡目に、

二筒四筒七筒八筒九筒北北 ポン南南南 ポン東東東

この形でテンパイ。満貫だ。
次巡五筒をツモって三筒-六筒待ちに。

この時櫻井の六索-九索はというと、六索はまだしも九索は誰もが掴めば出る格好にあった。
しかし、山に深い。実に山に6枚生き。
そうこうする間に、大澤が六筒を朝倉に放銃。
見切り発車のホンイツが実った。8000は8300点。

東3局。
やはり櫻井の配牌が良い。

一萬二萬四萬四筒四筒七筒七筒八筒九筒九筒四索五索五索 ドラ七索

しかしイーシャンテンが長引き、12巡目、大澤が先にテンパイ。

四萬五萬五萬五萬六萬六萬七萬二筒三筒四筒二索二索四索 ツモ七萬

力強く四索を振ってリーチ。三萬-六萬待ち、確定イーペーコーだ。
3巡後にラス六萬をツモ。2000・4000。
同巡、崎見はピンフのみで一応のテンパイを果たしていたが、
何しろ巡目が遅い上に、ツモられて親っかぶりである。
まさしく恰好の餌食、といったところ。
女王がこのままでなるものか。反撃の狼煙の準備は、まだか。

東4局。
ピンズに染めに行く大澤と櫻井、ピンフに向かう朝倉と崎見。
結果、テンパイを果たしたのは大澤と崎見であった。2人テンパイで流局。

1本場は、櫻井が早々に中を叩いてこの形。

三萬三萬六萬八萬四筒五筒四索五索九索東 ポン中中中 ドラ四筒

2000点のリャンシャンテン。5巡目、ツモ六筒でイーシャンテン。
しかし、テンパイ一番乗りは崎見であった。

一萬三萬四萬五萬五萬六萬七筒八筒九筒一索二索三索七索 ツモ二萬 ドラ四筒

崎見は打五萬七索単騎の仮テンパイ。
そこへ7巡目、ピンズに寄せる親の大澤が北をポン。

一筒三筒三筒六筒六筒七筒九筒白白白發 ポン北北北 ドラ四筒

一筒とする。
次巡、三筒を引きカン八筒で7700点テンパイ。
10巡目、イーシャンテンの長引いた櫻井だったが、

三萬三萬六萬八萬四筒五筒六筒四索四索五索 ポン中中中 ドラ四筒

ここから四索をポンしてテンパイ。
すると崎見に七索が流れた。ツモのみのアガりになるが……
と思いきや、崎見は一萬を切り、ピンフのフリテンリーチに出た。
今この場で300・500のアガりなど、糊口の凌ぎにならぬ。霞もいいところだ。

しかしこれに、大澤が七萬を一発でツモ切り。
櫻井が2000は2300点に、リーチ棒つきのアガりを拾った。

崎見、もがけども活路を見出せず。
先ほどの半荘では華麗に櫻井を捲ってみせたが、今度は全く振るわない。
狼煙を待っても駄目ということか。
ここはひとつ、近代的に、光ファイバーでも導入してみるべきか。

反撃の光は、まだか。

南1局。
櫻井がダブ南を即ポン。手牌はピンズが濃いが、
ドラを大切にし8巡目にテンパイ。

二萬四萬一筒三筒六筒六筒八筒八筒八筒九筒 ポン南南南 ツモ二筒 ドラ四萬

九筒でドラ表示のカンチャン待ちテンパイ。
次巡、崎見もテンパイを入れる。

四萬四萬六萬二筒二筒三筒四筒四筒四索五索七索八索九索 ツモ三索 ドラ四萬

六萬でダマテン。
そこへ11巡目、大澤も追いついた。

三萬四萬五筒五筒五筒五筒六筒三索四索五索六索六索六索 ツモ五萬 ドラ四萬

パシ!と小気味よく三索を打ち、四筒-七筒待ちリーチ。
これに対し、崎見一人が全ツッパ。脇の二人は素直にオリ。
崎見、大澤の2人テンパイで流局。

南2局1本場。
5巡目に大澤がピンフドラ1のリーチをかけるも、全員がきっちりとオリ、
一人テンパイで流局。

南3局2本場。朝倉が12巡目にリーチ。
ドラアンコのリャンメン待ちで、久々に手が入ったと思いきや、
15巡目に密かにタンヤオのみで追いついた大澤に、櫻井が朝倉の現物で放銃。
1300は1900点、供託3本付き。
櫻井としてはせっかくのトップ目を捲られた形になったが、
朝倉のドラアンコ手が炸裂するより傷は遥かに浅かったか。

オーラス、点棒は

大澤 32600
朝倉 26300
櫻井 28100
崎見 13000

朝倉は現状3着目だが、トップ浮上も十分狙える位置につけている。
崎見は大澤以外から満貫をアガれれば、着順浮上。朝倉と櫻井は崎見にだけは振り込めない。

女王の光は間に合うか。

しかし配牌は、朝倉優位。

三萬四萬八萬九萬四筒四筒七筒二索五索九索東中中 ドラ中

ドラの中が鳴ければ言うことはない。
6巡目に、この形。

三萬四萬七萬八萬九萬二筒四筒四筒五索五索七索中中 ドラ中

リャンシャンテンだが、これなら仕掛けていけるだろう。
しかしこの手が、全く手変りしない。
流局も間近、15巡目に、二萬をチー。打七索
そしてワンズに染める崎見から出た五索をポン。打二筒中の片アガりテンパイ。
そこへ親の大澤もやっと追いついた。

二萬三萬四萬五萬五萬三筒四筒五筒三索三索四索七索八索 ツモ三索 ドラ中

迷わず打四索九索が枯れているためダマ。
結局2人テンパイで、勝負は次局に持ち越し。

1本場、今度は櫻井の手が良かった。4巡目にこの形。

四萬五萬五萬一筒二筒二筒二筒三筒四筒五筒六筒八筒九筒 ドラ九萬

イッツーのイーシャンテン。門前でうまく張れるだろうか。
しかし3巡ばかり待てども張らず。8巡目、六萬をチーしてペン七筒待ちのテンパイに取った。
出アガりでもツモでも、ノミ手で2着浮上なのである。
モタモタしている暇はない。
しかし決して待ちは良くない。
他家に追いつかれる危険性も高いように思うし、
実際、櫻井自身も鳴くのは本意ではなかったのではないだろうか。
暗夜に一人航海に乗り出すように不安な心持ちだったであろう、と思う。
けれど、それでも、乗り出したのだ。それはすなわち櫻井の「勇気」だ。

結果、櫻井の勇気が勝った。七筒をツモ。
朝倉をまくり返し、2着に浮上して13回戦終了となった。

<13回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +191.0
櫻井 +34.2
崎見 ▲49.4
大澤 ▲215.8

女王の光、間に合わず。
しかしまだ、残り2回戦ある。輝きは遠くで、彼女をこまねいている。


14回戦 朝倉−崎見−櫻井−大澤

ところでこの観戦記を読んでいる読者諸兄は、朝倉の「ふんにー」なる言葉をご存じであろうか。
詳しくは協会内タイトル戦の「新人王」の観戦記を読んでいただきたいところであるが、
意味を端的に説明すると「わんだふるに勝つ」とかそんなところである。
語源は不明だが、「ふん」には全身に気合を込める意、
「にー」には粘り強く最後まで諦めない意志が込められている、という説もある。
(※編注 初耳です)

決定戦も残すところたったの2半荘。
「ふんにー」と新人王を獲得した朝倉は、二度目の「ふんにー」を見せつけてくれるか。

東1局。親は朝倉。
朝倉の配牌が、わんだふるに良かった。

六萬七萬七萬七萬九萬三筒三筒八筒八索東東白白白 ドラ五萬

第1打八索。ふんにー!
だがしかし、南家の崎見の配牌もマーーーヴェラスに良かった。

五萬五萬四筒四筒四筒五筒五筒七筒五索五索五索六索南 ドラ五萬

ふんにくぁwせdrftgyふじこlp;@:
……思わず取り乱した。
なんだ、これは。ドラがトイツで、なのに5がそれぞれ揃ってて、三色同刻で、
というか誰がどう見ても四暗刻のリャンシャンテンで、これは、もう、何なんだ。

女王の光、ここへ来て最速。さすが近代。文明万歳。
これが3巡目にあっさりテンパイ。

五萬五萬四筒四筒四筒五筒五筒六筒七筒七筒五索五索五索 ドラ五萬

カン六筒でタンヤオイーペーコードラ2。
まあ、これは四暗刻を見るでしょう。誰だってそうする。筆者だってそうする。
というわけで余裕のダマ。

しかし恐ろしいことに、親の朝倉が次巡テンパイを果たした。

六萬七萬七萬七萬三筒三筒六筒八筒東東白白白 ツモ七筒

六萬でリーチ! 絶好の入り目だ。
しかし崎見の手はこれ以上にモンスター級。朝倉、そのリーチは正解だったのか!?

と思いきや、そのリーチを受けた崎見のツモが三筒であった。

崎見、長考。
二人の手牌が見えている筆者としては、ドキドキものである。
これを押さえたら崎見は超人。超越者。もう女王とかそういうのじゃない。永世超越者。
しかし結局は、三筒をそのまま切った。結果、一発ロンである。
リーチ・一発・白で9600点。
朝倉のリーチは大正解であった。ふんにー!

何かいきなり、麻雀漫画のような超人バトルを見せつけられた気分だ。
こういうこともあるのだな。いいものを見せてもらった。
ちなみに裏ドラは四筒だった。

……ええと、それは、崎見にアンコで、だからもしリーチをしていれば、指が何本折れる?

すごい。麻雀は本当にすごい。


東1局1本場。
大澤がタンヤオドラ1をあれこれ回した結果、
12巡目にタンピンテンパイ。即リーチ。

二萬二萬四萬五萬六萬三筒四筒五筒二索三索四索六索七索

五索一発ツモで3100・6100。
朝倉の9600点のリードがいきなり溶けた。大澤、強し。

東2局。
崎見が早々にダブ東を叩き、加カンまでしたが、崎見一人ノーテンで流局。
東1局にあの三筒を掴まされた時点で、勝敗が決してしまったのではないかと思える。
肝心なところで頼りにならない、光。近代化賛辞も考えものか。

東3局1本場。
櫻井の配牌がデラべっぴン。

一萬一萬二萬三萬四萬四萬五萬六萬六筒三索四索七索七索南 ドラ七索

もちろん打南。なんだこのイーシャンテンは。磁場が狂っているのか。何が起きているのか。
これが7巡目には、

二萬二萬三萬三萬四萬四萬五萬六萬七萬三索四索七索七索

タンピンイーペードラドラ。満貫だ。ツモれば跳満。
確実にアガり切るためにも、ダマ。
これには五索七索九索の形に八索を引いた朝倉が、五索を切って放銃。

東パツでは、朝倉勝利がもはや揺るぎないのではないかと思ったが。
この半荘、まだまだ何が起こるか分からない。

続く2本場、

ドラが發で、11巡目に
櫻井
五萬六萬六萬七萬七萬八萬二筒二筒三筒六索七索八索發
大澤
五萬五萬一索二索二索九索九索九索西西西北發
朝倉
一筒一筒二筒三筒四筒四筒六筒九筒九筒九筒東發發
崎見
五筒六筒七筒八筒三索四索五索五索五索七索八索東東

すごい。これは熱い。
朝倉はここでアガりを拾えれば大きかったが、さすがにドラの發が河に放たれることはなかった。
櫻井も、チーテンを入れるが發は押さえ、形式テンパイで流局に持ち込んだ。
食い仕掛けが決まらなかった大澤の一人ノーテンで、次局へ。

3本場。
大澤のリャンメン待ち棒テン即リーに、三色でテンパった朝倉が一発放銃。2600は3500点。
全員、アクセルがかかりすぎなのではないか。
荒れ場に次ぐ荒れ場。台風を報道するアナウンサーの気分だ。

東4局。
ファン牌を叩いた大澤の一人テンパイで流局。

1本場。
櫻井が10巡目にピンフドラ1でリーチ。
それを次巡、親の大澤がタンピンドラ1で追っかけリーチ。
結果、櫻井が放銃。12000は12300点。
櫻井は浮きの2着目だったが、ダントツ大澤に返り討ちの結果となった。

2本場。
崎見が東ドラ1の500・1000の2本付けで流す。
東パツでやりあった朝倉と崎見、ここへ来て点数が12000点程度と並ぶ。
よもや、このような展開を、誰が予測できたであろうか。

南1局。
櫻井が7巡目にピンフドラ1でリーチ。

二萬二萬三萬四萬五萬三筒四筒一索二索三索七索八索九索 ドラ四筒

宣言牌は四筒。つまり二萬とドラのシャボにも受けられたわけだが、
アガり易さを優先するならドラ切りが正解であろう。
しかし実戦では、2巡後にドラを引いてしまった。
悔しげに櫻井はピシャリと四筒を切り飛ばす。

そして10巡目、断トツトップの余裕からだろうか、
回してオリることも可能な大澤が二筒で放銃。ドラが2丁見えていたせいもあるだろう。
裏は乗らず、櫻井に3900点の収入。

南2局。
この局がまたとんでもない叩き合いの局となった。
真っ先にテンパイを入れたのは朝倉。
7巡目にリーチをかける。
六萬六萬二筒三筒三筒三筒四筒四筒四筒五筒一索二索三索 ドラ四萬
二筒-五筒待ちだ。

この時崎見は、
七萬七萬九萬九萬五筒五筒九筒九筒九筒三索四索八索八索 ドラ四萬

そして櫻井が、
一索一索四索五索五索五索六索六索六索六索七索七索九索 ドラ四萬
ソーズしかない。
筆者の観戦メモには「ソーズたっぷり夢いっぱい」と書かれていた。そのまんますぎる。

そして大澤、
六萬七萬五索六索七索南西西西白發中中 ドラ四萬
リャンシャンテン。西家であり、門前でも鳴いても悪くない。

このリーチを受けて、行くしかない崎見がツモ六筒から打四索
それを櫻井がたっぷり長考してチー。打九索五索-八索待ちテンパイ。
するとその鳴きで大澤に發が重なった。打南
次巡崎見ツモ三索。打九筒でチートイツ六筒単騎テンパイ。
櫻井、ドラの四萬ツモ切り。
櫻井はもう最終形。何が来ても押す。
そして2巡後、崎見は一筒単騎で追っかけリーチを打った。
同巡、大澤が中を引き五萬-八萬待ちでテンパイ。追っかけの3軒リーチだ。

崎見が五索を掴む。櫻井に8000点放銃の上、リーチ棒3000点付き。

朝倉の二筒-五筒も、崎見の一筒も、櫻井の五索-八索も、大澤の五萬-八萬も、
山にはそれぞれ生きていた。
本当に、「牌の後先」としか言いようがない場であった。
やはり崎見の火薬庫はとうに威力を失っているように思われる。

南3局。
やはり全体に配牌が良い。
真っ先に手を仕上げたのは大澤であった。8巡目に白をポンしてテンパイ。

三萬四萬五萬四筒五筒六筒五索六索北北 ポン白白白 ドラ五索

次巡ツモった白を即加カン。本人曰く、「場を動かしたかった」とのこと。
リンシャンの發はツモ切り。
2巡後、親の櫻井からリーチが入った。
それを受けて、大澤ツモ六萬三萬は櫻井の現物であり、余裕の振り替え。高め三色になった。
そのリーチに、崎見が一発で四索を切る。
崎見の手牌はワンズのメンホンイーシャンテン。
新ドラが八萬で1枚乗り、後退の意志などなかったところだ。

大澤が白三色ドラ1で5200点のアガリにリーチ棒をゲット。

そしてオーラス。点棒は、
大澤 55200
朝倉 12000
崎見 ▲2300
櫻井 35100

大澤がピンフでテンパイし、11巡目にリーチを打った時、
朝倉は既にタンピンでテンパイしていた。
回し打つうちに三色が付いたが、17巡目に大澤から安目討ち取り。
2000点+リーチ棒で14回戦終了。

<14回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +166.0
櫻井 +49.3
崎見 ▲111.7
大澤 ▲143.6

2日間通した中で、最も血が沸騰する半荘だったと思う。
残すは15回戦こと最終戦のみ。
さあ、最後にどのような展開が見られるか。楽しみでならない。


15回戦 大澤−朝倉−崎見−櫻井

この半荘で、全てが決する。
彼女たちが、1年かけて打ってきたものの成果が。
鼓動が高鳴る。
現状、首位は変わらず朝倉。それに現実的に追随できるのは、櫻井。
櫻井優勝の条件は、自分がトップ、約37000点差をつけて朝倉をラスにすること。

「楽しく打とうよ。」

朝倉の、信条。
たとえどのような結果になっても、彼女は笑顔を作るだろう。
それは、心からのものだろうか。それとも、痛々しいペルソナになるか。
結果はもう間もなく出る。

グイ、とコーヒーをあおった。
さあ、この半荘だけは、本当に、片時も目が離せない。
なんだかもう、すでに泣きそうな気分だ。
ハンカチの準備は? 神様にお祈りは?
会場の隅で肩を震わせてお祝いの言葉を考える心の準備はOK?

さあ、最終戦の始まりだ――。

東1局。最終戦という気負いのせいか、心なしか選手たちのテンションが静かだ。
粛々と、しかし確実に終焉に向けて、舞台が進行してゆく。

その中で、朝倉が7巡目にテンパイ一番乗り。タンヤオのみ、ダマ。
そこへ9巡目、櫻井が追いついた。即リーチ。

三萬三萬二筒三筒四筒七筒八筒九筒六索七索白白白 ドラ九索

次巡親の大澤も追いつく。これまた即リーチ。

二萬三萬六萬六萬三筒四筒五筒六筒六筒六筒四索五索六索

結果、櫻井が八索を一発ツモ、2000・4000。
櫻井が朝倉をまくるか? 可能性が、一気に高まった。

東2局、6巡目に櫻井からリーチ。櫻井の勢い衰えず。
さらには、ドラが發で、崎見がオタ風を2つも叩いている。
これには親の朝倉、一歩も動けずベタオリ。2人テンパイで流局。

東3局1本場、6巡目に大澤が東をポン。
次巡、難なくツモアガり。300・500に本場と供託を回収。

東4局。親の櫻井が早々に白を叩き、ドラまたぎのリャンメンでテンパイ。
しかしツモれぬまま、崎見と2人テンパイで流局。

1本場、真っ先にテンパイを入れたのは朝倉。
6巡目にこの形。

二萬二萬三萬三萬二筒二筒三筒四索四索五索五索六索六索 ドラ三索

リャンペーコーが見えるタンヤオチートイツ。
しかし同巡崎見がこの形。

四萬四萬五萬五萬六萬六萬七萬七萬四筒五筒八筒九筒二索 ドラ三索

さてどちらが勝つかな、朝倉がさっくり流すかな、と思いきや、
崎見が11巡目に絶好のテンパイを果たす。

四萬四萬五萬五萬六萬六萬七萬七萬四筒五筒二索三索四索

リーチはせず。次巡すぐ三筒ツモ。2000・4000のアガり。
三筒は朝倉のアガり牌でもあったのだ。少し、嫌な予感がする。

南1局。
自風の西を叩き、ワンズに寄せ、九萬を叩いた崎見が9巡目にテンパイ。

二萬二萬三萬三萬四萬中中 ポン九萬九萬九萬 ポン西西西 ドラ一筒

そこへ南アンコのダマテンで押していた親の大澤が打四萬で飛び込んだ。3900点。

ここで一度、この半荘込みのポイントを確認してみよう。

朝倉 17500(+143.5)
崎見 37600(▲54.1)
櫻井 31500(+60.8)
大澤 13400(▲190.2)

まだ朝倉がリードしている。しかし予断は許されない。

そしてその朝倉の親番、南2局。
朝倉の配牌はまずまずであったが、8巡目にこうなった。

八萬八萬八萬一筒一筒五索六索七索南南北北中

この南がイーシャンテンの櫻井から放たれる。ポンして打中、テンパイ。
同巡、櫻井が北をツモ切った。2000点のアガりで連荘。

2本場。
愚形を嫌い、カンチャンを外し、丁寧に回し打った崎見がピンフドラ1をツモ。
700・1300は900・1500をアガり、自らの親番へ。

南3局。
この南3局が、おそろしく長かった。本当に長かった。
これが、決定戦。最終戦。頂上決戦。
いろいろなことを考えさせられた。
何にしても、あそこまで長い戦いを繰り広げた崎見選手の息の長さには、
ただひたすら感服するのみである。

平場は、朝倉が一人ノーテンで流局。
櫻井はダブ南とホンイツで仕掛けたが、アガれず。
崎見は静かにイーペーコーのみで張っていた。

1本場。5巡目に崎見が三萬-六萬-九萬待ちでリーチ。
これには全員打つ手なし、ベタオリ。崎見自身もツモれず、流局。

2本場。12巡目に、崎見が高目イーペーコーでピンフのリーチ。
3巡後に高目をツモり、2600オールの2本づけ+自分のリーチ棒回収。

3本場。
崎見に配牌で南中がトイツ。ああ、この親はまだ続くぞ。
早々に南をポン。自力で中をアンコにし、テンパイ。
朝倉が發をポンしてそれに追随するも、スピードが全く追いついていない。
しかしラスヅモでどうにかテンパイを入れ、2人テンパイで流局。

4本場。
12巡目に崎見がテンパイ、即リーチ。

五萬六萬八萬八萬四筒四筒四筒三索四索五索中中中 ドラ五筒

対面の大澤の顔に「まじかー」とありありと書かれていたのが印象に残った。
確かに、大抵は、ここまで来れば手が落ちるものである。
あるいは、集中力が切れて正着を打てず、テンパイを逃すこともある。
しかしそこは崎見の経験と勘が1枚も2枚も上を行った。
行ける手は残さず行く。せっかくの手を、みすみす死なせるような愚は犯さない。

下家の櫻井がダブ南バックで果敢に向かってきていたが、これにはベタオリ。
そして崎見はまたしてもツモれず、流局。

5本場。そろそろ決め手が来ないと苦しいのではないか、というところへ、
配牌で1枚だったドラの中が重なる。そして7巡目にリーチ。

二萬三萬四萬七萬八萬九萬六筒七筒七筒八筒八筒中中 ドラ中

これに対し大澤は、「またきたよ」と盛大に肩をすくめたいような表情。
しかしこのリーチに朝倉が追いついた。

六萬七萬八萬二筒二筒四筒五筒六筒三索四索五索五索六索

崎見の六筒-九筒は山に3枚生きであったが、朝倉の四索-七索の方が先にいた。
崎見から四索が放たれる。ロン。2000は3500点に、供託が2本。

長い長い南3局、やっと流れてオーラスだ。
再度ポイントを確認しよう。

櫻井 23400(+52.7)
大澤 7300(▲196.3)
朝倉 17300(+143.3)
崎見 52000(▲39.7)

大澤と崎見はこの局、もはや完全に黒子である。
勝負は櫻井と朝倉の一騎打ち。どちらが戦いに幕を引くか。

オーラス0本場。
祈るような櫻井の一打一打が心に刺さる。
勝つのはどちらだろう。櫻井の粘りは実るだろうか。
この局は、17巡目に櫻井がテンパイ。最後の1回のツモに望みを託し、リーチ。
しかし奇跡は簡単には起こらない。流局。

1本場。
4巡目に朝倉が發を叩きポンテン。

一萬二萬三萬三索四索五索六索七索八索中 ポン發發發

この局で決するのだろうか。中は櫻井の手から今にもこぼれそうだ。
と思い見ていると、次巡朝倉は中白に変えた。同巡櫻井から打中
合わせ打つ意志があったのかどうかは分からない。が、中で待っていれば絶対に出た。

朝倉の調子が手牌と噛み合わない。
この親もまだ続くな、という予感がする。

11巡目、朝倉三索ツモ。白を切り、三索-六索-九索に受けかえる。九索は櫻井の現物だ。
そこに櫻井が追いついた。

二萬三萬四萬六筒六筒七筒八筒九筒四索五索六索七索八索

13巡目、フリテンだが即リーチ。そして九索をツモ。
これには朝倉も目を剥いた。
「現物だと思ってたのに、ツモって言われた!」
朝倉は後にこう語った。

筆者もこれは「やられたな」という感じがした。
櫻井の優勝があるかもしれない。朝倉は逃げ切れるのか。

2本場は、焦りからか、朝倉が早々にトイトイで見切り発車の仕掛け。
守備型の彼女にしては珍しい。
それに対し、タンピンのシャンテンから食いタンに櫻井は移行。

結果、タンヤオのみ1500は2100を朝倉が放銃。
自らの首を絞める結果となった。

この時の朝倉の心境はどういったものだったろうか。
この放銃は、点数が安かったから助かったようなものの、
精神的にはかなりのプレッシャーになったのではなかろうか。

櫻井、がんばれ。朝倉、がんばれ。
限界まで高まるボルテージを、脇から見守るのは苦ではない。
しかし当人たちはどうであろう。どれほどの苦境に立たされているのだろう。

声なき声で、彼女たちは叫び続ける。

「神さま!」

祈りは、届くのか。
天は、どちらを選ぶのか。

3本場。
櫻井の配牌がまた良い。ドラが東で、配牌でトイツ。
鳴ければかなり楽になるが、ここまで来てそう甘い牌を切る者はいないだろう。
己のツモとどれだけ照準を合わせられるか。
櫻井が活路を開けるのは、その一点においてのみである。

しかしテンパイは朝倉の方が早かった。9巡目に、

三萬四萬五萬四索四索發發發中中 チー六筒七筒八筒 ドラ東

この中は、櫻井が掴んだら止まらない。
しかし、10巡目に櫻井テンパイ。

四萬四萬六萬七萬八萬九萬一索三索四索五索六索東東 ツモ二索

四萬でカン五萬か、打六萬or九萬でシャボか。
櫻井は打六萬として、決まれば大きなシャボに受けてリーチに出た。
九萬としなかったのは、六萬が朝倉の現物であるからだ。
役牌アンコも警戒すれば当然の選択。

これに対し、朝倉は続けてツモ切り、全ツッパ。
しかし二萬を引いたところで後退。
櫻井のリーチは宣言牌の六萬が出るまで、ワンズが1枚も切られていない。
ワンズの下目は打てない。中を切ってオリ。

結果、一人テンパイで流局。

とうとう4本場だ。
この戦いはいつまで続くのだろう?
崎見にしても、櫻井にしても、連荘はできるのだが、決め手がうまくはまらない。
どういうことだろう。それならもう、優勝は朝倉ではないのか?
それとも、今はまだ、櫻井のビッグウェーブの準備段階ということか?
いずれにしても、そろそろ決定打が生まれそうな気がする。


ドラは四筒
配牌は、
櫻井
一萬二萬九萬五筒三索四索八索九索九索南西北北發
朝倉
三萬三萬四萬八萬五筒六筒七筒八筒一索二索五索六索中

朝倉の方が良さそうだ。櫻井はかなり苦しい。
5巡目、
櫻井
一萬二萬二萬五萬六萬五筒三索四索八索九索九索北北
朝倉
三萬三萬四萬七萬八萬九萬五筒六筒七筒七筒八筒五索六索

3シャンテンvsイーシャンテン。
ここでダメなら、朝倉はもう無理なのではないか。
おそらく、朝倉が勝つだろう。けれど、その期待をも裏切る展開が起きたら。

戴冠の瞬間が近い。ドキドキする。

朝倉は次巡ツモ五萬。シャンテン変わらず。打三萬
次巡ツモ二索。ツモ切り。
次巡、ツモ五索

三萬四萬五萬七萬八萬九萬五筒六筒七筒七筒八筒五索六索 ツモ五索


六索六筒-九筒テンパイ。
これは勝てる。きっと、そう。
前巡崎見に六筒を先打ちされているのが、少し不安にさせるが、これはきっと行ける。
3巡後、四筒ツモ。打七筒で3メンチャンだ。

もう、すぐだ。もう決まる。

さあ、拍手の用意はいいか。
手がかじかんではいないか。うまく動かせるか。
もうすぐ、この場に居合わせたことに感謝する瞬間が来る。

朝倉が七筒を手出しした同巡、崎見がふっと打九筒


「ロン。
2000は3200。」


――柔らかな声だった。

きっと、緊張していたことだろう。

鼓動は、どれほど彼女を振り回したことか――

けれどそれは、あるべきものがそこに収まったかのように、すとんと腑に落ちる声音だった。

場内が静まり返った。

最終戦が、終わったのだ。

つまり、それが意味するところは――


「優勝、朝倉ゆかり!!」


立会人が大きな声を張り上げた。
静まり返った場内が、わあっ、と拍手に包まれた。

少し恥ずかしそうな、泣きそうな笑顔。

おめでとう。
おめでとう。
おめでとう。

3日間、全15回戦を通して、最後の最後栄冠に輝いたのは――


朝倉、ゆかり。


「最後まで、とても怖かったです。」

大澤の、打点の高さと勇猛果敢さ。最終成績、4位。
崎見の、経験と鋭い読みと安定感。最終成績、3位。
櫻井の、スピードと意志力。最終成績、準優勝。

どれもこれも、引けを取らなかった。

「途中で手も落ちました。」

最終日、終わってみれば、朝倉のポイントはマイナスである。
1、2日目の貯金がなければ、朝倉はもっと苦戦を強いられていたことだろう。
3日目は、何もできずただひたすら嵐が去るのを待つ展開が多かった。

「まくられるかもしれない、と思いました。」

崎見の猛連荘に、櫻井の最後まで諦めない意志。それぞれの、前に出る勇気。
それさえ振り切れれば優勝が目の前にあったにもかかわらず、
本当に最後の最後まで楽のできない展開だった。

「でも、とても楽しかったです。」

麻雀を、楽しむ。楽しく打つ。
朝倉の信条は、最後まで一貫していた。
どれほど辛いことがあっても、きっと最後には笑顔で。
「優勝」という光に照らされて、とてもとても美しい笑顔が今はそこにあった。

「すごくいい経験になりました。」

断言であった。笑顔で彼女はそう言い切った。
そう、このような舞台で、ギリギリの戦いを繰り広げられる機会というのは、そう簡単に訪れるものではない。
けれど彼女は、5月の新人王戦で既にその場を制し、
それに続いて2個目のタイトルを手にしたのである。

「ありがとうございました。」


――こうして、第7期女流雀王は決せられた。

牌に対して真摯であること、揺るぎない信念を持ち、純粋であること――。
それが強さになることを、朝倉ゆかりは証明してくれた。

それぞれの半荘の合間合間の休憩時間、朝倉はほぼ毎回誰かと感想戦を交わしていた。
この人は、本当に、どこまでも真っ直ぐで純粋なのだな、ということをしっかと感じさせた。
たとえば受験生に、「さっきのテストの答え○○だよね」、などと話しかけてみよう。
それは間違いなく無用なプレッシャーとなる。プレッシャーが判断を鈍らせ、さらなる失点を生む。
最悪のスパイラルだ。
筆者であれば、感想戦などはすべてが終わってから行う方が助かるように思う。
けれど、朝倉は違う。
その場その場で、朝倉は常に新しい朝倉に更新されてゆくのだ。

それはつまり、局や半荘を重ねれば重ねるほど、
より豊かな雀士として成長している、ということだ。

これはぜひとも見習わねばなるまい。

これからも、朝倉ゆかりは成長し続けるであろう。
今回の女流雀王戴冠を弾みに、さらなる飛躍をしていってほしいと思う。切に思う。
そしてさらに豊かな雀士になっていってほしい、と思う。

美しくあれ。
純粋であれ。
豊かであれ。

優勝が決した瞬間に、心を込めて叩いた手がじんじんと痛んだ。

いいのだ。
この手は幸せ者なのだ。これは、幸せの痛みだ。

来年は、誰がこの痛みを他人に与えるのだろう。
来年の決定戦も、楽しみだ。

と、書くと他人事のようだが、一女流雀士として筆者にとっても全く他人事ではない。
浴びせかけるような拍手を、私も、してもらう側に。

ああ、それは、悪くないな――

2010年の神楽坂。
豊かに実った雀士たちは、どのような顔触れになるのか。

まったく、今から1年後が、楽しみでしかたない。


 (文:夏川 七七)

1日目観戦記2日目観戦記

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