【最終ポイント成績】
順位 |
名前 |
TOTAL |
第1節 |
第2節 |
第3節 |
1 |
朝倉 ゆかり |
136.5 |
105.3 |
49.3 |
-18.1 |
2 |
櫻井 はるか |
72.1 |
109.2 |
-47.4 |
10.3 |
3 |
崎見 百合 |
-47.6 |
-87.5 |
42.3 |
-2.4 |
4 |
大澤 ふみな |
-201.0 |
-127.0 |
-44.2 |
-29.8 |
|1日目観戦記|2日目観戦記|
【最終日観戦記】
「おはようございます!!」
連日対局となる決定戦の、最終日。
別段昨日と変わったところもなく、筆者こと夏川、会場入り。
会場には既に、崎見が到着していた。
崎見は昨日も、選手達の間では会場一番乗りである。
「一番」
たとえ些細なことであっても、そういった意識を持つのは大切なように思う。
次いで、櫻井と朝倉がそれほど間を置かずに会場入り。
昨日と全く同じだ。
そして、決定戦開始時刻ギリギリに、大澤がバタバタと駆け込み。
何も、変わることのない風景。
こうして流れていく時間の中で、移ろいゆくものを捉える。見据える。
そして、「普遍性」を込めて留める。
麻雀でタイトルを獲るということは、そういうことではないだろうか。
流動的に変わる局面を、精神を、
押し切り、光る栄冠を勝ち取るのは――。
さあ、今年の女流雀王は誰になることか。
<10回戦までのトータルポイント>
朝倉 +154.6
櫻井 +61.8
崎見 ▲45.2
大澤 ▲171.2
11回戦 櫻井−朝倉−大澤−崎見
東1局、それぞれ配牌はまずまずといったところ。
7、8巡目に、朝倉と大澤が役無しでテンパイを入れる。
リーチをかければ先制はできるかもしれないが、手応えの薄い形で体当たりはしたくない。
ピンフへの手替わりを待ち、二人ともダマ。
13巡目、朝倉のシャンポン待ちがリャンメン待ちに変化したところへ、大澤が放銃。
ピンフのみの1000点が動き、朝倉の親番へ。
東2局。
西家の崎見の配牌に、とがトイツでが1枚。他はワンズが濃い。
ドラはで、1枚ある。ホンイツとトイトイの天秤で仕掛けるだろうか。
1枚目のはスルーしたが、手格好は変わらぬまま、2枚目はポン。
ポン ドラ
するとそこへが重なった。ホンイツへ向かい、ソーズを下ろす。
8巡目、をポン。続けて、ツモ切られたをポン。
ポン リーチ ポン ポン ドラ
打でカンテンパイ。
さすがにただ事では済まされないフーロだ。同卓者に緊張が走る。
そして見事に、3者がそれぞれを1枚掴んでオリ。
しかし14巡目、崎見自身もをツモ。今更手の内に入れるわけもなく、ツモ切り。
これには同卓者たちも、安堵のため息。
奇遇ですね、と挨拶でも交わしたくなるほどバタバタとが切られてゆく。
次巡、崎見ツモ。トイトイに受け、ドラのを手出し。
さらに次巡、回し打っていた大澤がテンパイした。
ドラ2丁のカンチャン待ちを、果敢にリーチと行く。
ドラ
おそらく流局上等のリーチであろうが、
「それでも向かってくる」という大澤の胆力を他家に見せ付けるには十分な効果があった。
2人テンパイで流局。
東3局1本場。
櫻井がピンフの3メンチャンでリーチをかけるが、
朝倉のかわし手が先に決まった。タンヤオ、1000点。
東4局。
ソーズに寄せる大澤が、染まりきらぬまま13巡目リーチ。
しかしこれが一発ツモで、2000・4000。
小場がやっと大きく動いた。
南1局。親は櫻井。
朝倉が軽快に仕掛ける。 ダブをポン。をポン。
現状、最も競っているのは朝倉と櫻井であり、ここはお互い打ち込みたくない。
しかし、勝負に出ないまま負けるわけにもいかない。
ピンフに向かう櫻井の切ったが、朝倉の高目ロン牌であった。満貫討ち取りとなる。
ポン ポン ロン ドラ
場は朝倉のペースとなりつつある。
櫻井、食らいつくことができるか。
南2局。朝倉の親番。
それぞれにイーシャンテンが長引く中、ドラを2丁抱えた朝倉が、
14巡目にしてやっとテンパイ一番乗りを果たした。ピンフで即リーチ。
その宣言牌を櫻井がポン。一歩もひるまぬ気概を見せ付けたが、
その鳴きによってアガり牌が朝倉に流れた。
4000オールツモ、大きなリードを勝ち取る。
リーチ ツモ ドラ 裏
南2局1本場。
朝倉の配牌が非常に良い。
ドラ
ひとまず打。
次巡、ツモ。これはツモ切り。次巡、ツモ。
ソーズでイッツーが出来る目が濃くなった。
少考して打。ここはやはり、ドラターツを温存する。
次巡、ツモ。
ツモ
驚くほど簡単に、一気通貫の完成である。打でダマ。
これは次巡、チートイツを目指す大澤からが出て7700点のアガり。
まだ5巡目の出来事である。
「ずるい。」
お茶目な採譜者が、採譜用紙にこのようにコメントしていた。
この半荘はもはや、完璧に朝倉に掌握されたと言ってよいだろう。
南2局2本場。
ピンズ染めを目指す朝倉と、ワンズ染めを目指す崎見のぶつかり合いになったが、
両脇がよく絞り、また、双方ともに有効な手替わりすら果たせなかった。
初の全員ノーテンで流局。
南3局3本場。
親の大澤の牽制リーチが功を奏した。大澤一人テンパイで連荘。
南3局4本場。
大澤にとがトイツ。早々にを叩く。
9巡目、崎見がかわし手に出た。朝倉からをポン。
ポン ドラ
崎見はまず打とし、それを大澤がポン。
ポン ポン
打。ワンズのホンイツに向かう。
それを崎見が迷わずチー。打で--テンパイ。
そのを朝倉がポン。
ポン
このは止まらなかった。
朝倉から崎見へ、1000点と4本場供託付き。
目まぐるしい空中戦を制し、崎見自らの親番へ。オーラスである。
点棒は、
崎見 20700
櫻井 7500
朝倉 50600
大澤 21200
親の崎見の手が、4巡目にこの形。
ドラ
ドラが2丁あり、最低でも5800点には仕上げたいところ。
しかしこの手がなかなかテンパらない。
13巡目になってもこの形。
そこへ朝倉が追いつきつつあった。
イーペーコーと三暗刻を天秤にかけ、同巡にこの形。
14巡目、ツモ。打でテンパイ、なら出アガリが効く。
流局間近だが、このままトップ逃げ切りなるか。
すると次巡、即高目のをツモった。
500・1000で11回戦終了。
現在トータルトップの朝倉、ここで一気に気が楽になったか。
あとの3人は、残り4回戦、どう朝倉の懐に飛び込むか。
ほんの一瞬油断しただけでも斬り殺されかねない、決定戦最終日。
朝倉の幸先は良い。
しかし最後の最後まで、気を抜くわけにはいかない。
<11回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +227.2
櫻井 +8.8
崎見 ▲65.5
大澤 ▲210.5
12回戦 櫻井−朝倉−崎見−大澤
「私がアガると、代わりに不幸な人ができる――」
――純粋だった。
その人、朝倉ゆかりは、ひたすらに「麻雀」に対して、純粋であり続けた。
その無垢さが、人を傷付けることがあること。
そしてまた、自らをも切り付ける危うさを備えていること。
昔の彼女は、そのことを知らなかった。
「これで、合ってるの? 正しいの……?」
自信の無さ、揺らいだ立ち位置は、即座に打牌に直結する。
何者も信じられなくなった時、麻雀という競技は、
恐ろしいまでに己をがんじがらめに包囲する牢獄へと、様相を変化させる。
「強くなりたい」。
何度涙を呑んだことだろう。
脱獄をはかり、もがき、新たな地表に出ようとする。
けれど堅牢な檻は、己を取り込んだまま「許し」を与えてくれない。
どうして、出られないの?
――その檻を形作っているのは、自分自身なんだよ。
囚われの姫君が外の世界に抜け出したきっかけを、筆者は知らない。
けれど今の朝倉には、確実に「強さ」があった。
過ちを、糧に。
修練を、礎に。
その結果が、今、目の前にある。
5月には新人王を獲得。今期の女流雀王決定戦では、現状首位。
ひたすら純粋であり続けることの、強さと厳しさ――。
彼女の姿勢が教えてくれるものを、しかと心に刻みたい。
12回戦が、始まる。
3人の追随をどう振り切るか。進軍と後退を、どう織り交ぜてゆくのか。
戴冠を目指し、孤高の姫君はまっすぐ純粋に突き進む。
東1局。親は櫻井。ドラがで、6巡目にこの形。
ツモ
何を切る?
櫻井は悩んだ末、打。
2巡後、を引き入れ、と待ちで迷わずリーチを打った。
3巡後、安牌に窮した大澤からが放たれる。
ロン。裏ドラがで、幸先の良い12000点。
朝倉を、櫻井が追い上げるか。
東1局1本場。
またしても、櫻井に配牌でがトイツ。7巡目にポンテンを取る。
そこへチートイツのイーシャンテンから朝倉が放銃。1500は1800点。
首位から討ち取りはしたものの、打点は低い。
ここから積み重ねられるか、どうか。
東1局2本場。
8巡目、朝倉が前に出た。
ドラ
タンピンを目指す櫻井がツモ切ったを、ポン。打。
純チャンドラ3、決まればでかい。
2巡後、を引き入れカンでテンパイ。
しかしそのが実は純カラ。櫻井の捨て牌に1枚、大澤の手にアンコ。
そしてその大澤が、12巡目にテンパイを果たす。
待ち。ダマで押すのだろうか、と思いきや、
2巡後にをツモり打。-の亜リャンメンでリーチに出た。
まずチャンタ手の朝倉からの討ち取りを狙ったのであろう。
朝倉は、一発で掴んだをためらうことなくツモ切り。
大澤の捨て牌にソーズは、しか出ていないが、全ツッパと出た。
結果、流局。は純カラで、は王牌に残されていた。
余談になるが、この局の裏ドラは。
東パツに親満を打つも、その潜在能力の高さたるや。大澤、強し。
東2局3本場。
崎見の配牌3トイツの手が、導かれるかのようにストレートにチートイツになった。
5巡目に、
ツモ ドラ
打でリーチ。
それを受けて、大澤が現物の切り。
そのを北家の櫻井がポン。
ワンズの染めに向かうかと思ったが、一発消しの意味合いも強かったようだ。
次巡、を引き、前巡朝倉が通したをトイツ落とし。
ちなみに、リーチが入った時点で朝倉の手牌は
ここにをツモり、と振り替え。
イッツーと三色の天秤にかけた。
次巡ツモ、ツモ切り。さらに次巡、ツモで長考。安牌の切り。
一歩引いたが、次巡大澤がリーチにを通した。
そして朝倉の手が
ツモ
打。
さらに次巡、ツモで打。フリテン3メンチャンのピンフテンパイである。
しかしこれは全く嬉しくない。ここまで歪んだテンパイで、この先どうにかなるのだろうか?
結果、同巡崎見がをツモ。1600・3200に3本場と供託1本を回収。
先ほどトップの朝倉、今度はうまくいかない。
純粋ゆえの強さは、己の揺らぎが最大の敵ではないか。
朝倉、ポイントを、守り切れるか。
東3局。
親の崎見に、がトイツ。
西家の櫻井にがトイツ、北家の朝倉にがトイツ。
最も早く仕上がるのはどこだろう。
それぞれ即行仕掛けていくのだろうか?と思ったが、崎見は1枚目のをスルー。
それでも、イーシャンテンは崎見が一番乗りであった。
4巡目にこの形。
しかしこのイーシャンテンが長引いた。
全く手が変わらないまま、10巡目に櫻井からリーチ。
ドラ
リーチの1巡後、崎見は朝倉の切ったをチー。片アガりテンパイ。
しかし3巡後、をツモ。止まりようもなく、櫻井に放銃。
裏は乗らずの5200点。
櫻井が勢いづく。
東4局は、大澤の一人テンパイで連荘。
続く1本場、朝倉がリャンメンリャンメンの手格好から8巡目にファン牌を叩く。
すると大澤にテンパイが入った。即リーチと行ったが、同巡崎見もテンパイ。
大澤が一発でロン牌を掴まされ、リーチ・一発・裏1の5200は5500点移動。
南1局は、崎見がストレートに高目タンヤオのピンフテンパイ。
親の櫻井がかわし手を入れようとするが、崎見に高目をツモり上げられた。
裏は乗らず、1300・2600。
南2局、親は朝倉。
崎見と約10000点差、櫻井と約20000点差の3着目である。
ここはなんとか加点していきたいところ。
そこへきて、配牌でがトイツであった。櫻井の第1打の、これはスルー。
確かにここで鳴いたところで、どう足掻いても1500点にしかならない。
それよりは、をも落とす構えで高い手を狙いに行くというところか。
しかし4巡目、タンヤオイーシャンテンで櫻井がツモ切ったドラのを大澤がポン。
ポン ドラ
打。大澤は西家である。世にも珍しい三色同刻狙いか。
大澤の仕掛けを受け、朝倉はのトイツ落とし。早々に手じまいの支度を始めた。
そこへ南家崎見はをポン。ワンズの染め手で真っ向勝負である。
ポン ドラ
櫻井も、食いタンでかわし手に出た。
ここからをポン、打。
最もアガりやすそうに見える-待ちである。
実際、朝倉の手牌に3枚押さえられていたが、山にはまだまだ5枚丸生きであった。
3巡後にツモ、300・500。荒れ場をトップ目自ら収めた。
南3局。
親の崎見にがトイツ。大澤はがトイツで、手の内にドラが3丁。
朝倉はタンピンのシャンテンだ。
櫻井一人が、アンコで手役もドラもなく、前に出づらい手格好。
しかし、最も早くテンパイを入れる。
どうするかと思ったが、少考してリーチと出た。
カンチャン待ち、ツモれば符ハネという程度の心もとないリーチだが、
そこへ一色手に寄せる大澤が飛び込む。1300点。
オーラス、点棒は
大澤 5200
櫻井 39400
朝倉 18400
崎見 37000
櫻井と崎見の点差はたったの2400点。
先ほどはラスを引かされている櫻井、逃げ切れるか。崎見、追い上げるか。
しかし配牌は、崎見に味方した。
ドラ
崎見は北家。
速さも打点もどう見ても一番です。本当にありがとうございました。
と、平身低頭でもしたくなるような配牌である。
これが8巡目にはこの形。
これから、11巡目ツモで打。次巡ツモで打。
北と發のシャンポン、最低でも5200ある。
それを次巡、でツモアガり。2000・4000でラスト。
それにしてももも山に深かった。全体牌譜を見ても、誰の手にも1枚もないのである。
現女流雀王、勢いに乗った櫻井をオーラスでひと捲り。
残り3回戦で、怒涛の追随を見せるか。
この半荘でほとんど身動きの取れなかった朝倉、
次は進軍の指揮を取ることができるのか。またしても動けぬまま、囚われの身に甘んじるのか。
<12回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +203.6
櫻井 +26.2
崎見 ▲0.5
大澤 ▲269.3
13回戦 朝倉−櫻井−崎見−大澤
ここで2日目に同じく、飲み物の話。
この日は、
櫻井→アクエリアス
朝倉→伊右衛門 焙じ茶
崎見→リプトン レモンティー
大澤→バナジウム天然水
であった。
チョイスが安定している2人は、コンディションも安定しているのだろうか?
などと、かなり勝手な推測をしてみる。
筆者は紅茶花伝のミルクティーを飲みつつ、ほっと一息。
最終日も折り返し、この半荘で残り2回戦の指針と勢力図が決まる。
さあ、刮目して見届けようではないか。
東1局。親は現状首位の朝倉。
配牌に、ダブがトイツである。
7巡目にドラを重ね、8巡目にやっと出たをポンしてこの形。
ポン ドラ
打でイーシャンテン。
手格好が変わらぬまま、2巡後にツモ切ったを大澤にポンされた。
大澤はこの形。
ポン
次巡、をアンコにし、打でテンパイ。
そこへ崎見がで放銃、1300点。崎見の手牌は、
ここへツモで、三色を見ての振り替えであった。は大澤の現物である。
崎見に感触の悪い流れを感じるが、この先どうなることか。
東2局。
配牌で崎見にピンズが濃い。自風のがトイツであり、真っ直ぐホンイツに向かう。
を叩き、9巡目にをチーしてこの形。
チー ポン
まだ張ってはいない。が、ピンズは何を引いてもテンパイである。
するとそのチーで、親の櫻井がテンパイ。
ツモ ドラ
打でリーチ。とのシャンポン。
を5巡目に切っているため、今から手変りは期待できない。最終形だ。
次巡、櫻井の切ったを、崎見が長考の末チー。
打で-テンパイに取った。
すると次巡、櫻井のロン牌のを引かされる。
ツモ切り、放銃。裏は乗らず、7700点。
ピンズに染めたにもかかわらず、ピンズでの放銃である。
崎見の流れはかなり悪い。転機は訪れるか。
東2局1本場。
北家朝倉が珍しく早仕掛けに出る。櫻井の連荘を恐れてだろうか。
ドラ
ここからを即ポン、打。ホンイツに向かう。
2巡後もポン、打。
この仕掛けが入った時点で、櫻井の手牌は
圧倒的に手格好が良い。
7巡目には、
-待ちテンパイ、ここは慎重にダマ。
そこに朝倉が追いつく。9巡目に、
ポン ポン
この形でテンパイ。満貫だ。
次巡をツモって-待ちに。
この時櫻井の-はというと、はまだしもは誰もが掴めば出る格好にあった。
しかし、山に深い。実に山に6枚生き。
そうこうする間に、大澤がを朝倉に放銃。
見切り発車のホンイツが実った。8000は8300点。
東3局。
やはり櫻井の配牌が良い。
ドラ
しかしイーシャンテンが長引き、12巡目、大澤が先にテンパイ。
ツモ
力強くを振ってリーチ。-待ち、確定イーペーコーだ。
3巡後にラスをツモ。2000・4000。
同巡、崎見はピンフのみで一応のテンパイを果たしていたが、
何しろ巡目が遅い上に、ツモられて親っかぶりである。
まさしく恰好の餌食、といったところ。
女王がこのままでなるものか。反撃の狼煙の準備は、まだか。
東4局。
ピンズに染めに行く大澤と櫻井、ピンフに向かう朝倉と崎見。
結果、テンパイを果たしたのは大澤と崎見であった。2人テンパイで流局。
1本場は、櫻井が早々にを叩いてこの形。
ポン ドラ
2000点のリャンシャンテン。5巡目、ツモでイーシャンテン。
しかし、テンパイ一番乗りは崎見であった。
ツモ ドラ
崎見は打で単騎の仮テンパイ。
そこへ7巡目、ピンズに寄せる親の大澤がをポン。
ポン ドラ
打とする。
次巡、を引きカンで7700点テンパイ。
10巡目、イーシャンテンの長引いた櫻井だったが、
ポン ドラ
ここからをポンしてテンパイ。
すると崎見にが流れた。ツモのみのアガりになるが……
と思いきや、崎見はを切り、ピンフのフリテンリーチに出た。
今この場で300・500のアガりなど、糊口の凌ぎにならぬ。霞もいいところだ。
しかしこれに、大澤がを一発でツモ切り。
櫻井が2000は2300点に、リーチ棒つきのアガりを拾った。
崎見、もがけども活路を見出せず。
先ほどの半荘では華麗に櫻井を捲ってみせたが、今度は全く振るわない。
狼煙を待っても駄目ということか。
ここはひとつ、近代的に、光ファイバーでも導入してみるべきか。
反撃の光は、まだか。
南1局。
櫻井がダブを即ポン。手牌はピンズが濃いが、
ドラを大切にし8巡目にテンパイ。
ポン ツモ ドラ
打でドラ表示のカンチャン待ちテンパイ。
次巡、崎見もテンパイを入れる。
ツモ ドラ
打でダマテン。
そこへ11巡目、大澤も追いついた。
ツモ ドラ
パシ!と小気味よくを打ち、-待ちリーチ。
これに対し、崎見一人が全ツッパ。脇の二人は素直にオリ。
崎見、大澤の2人テンパイで流局。
南2局1本場。
5巡目に大澤がピンフドラ1のリーチをかけるも、全員がきっちりとオリ、
一人テンパイで流局。
南3局2本場。朝倉が12巡目にリーチ。
ドラアンコのリャンメン待ちで、久々に手が入ったと思いきや、
15巡目に密かにタンヤオのみで追いついた大澤に、櫻井が朝倉の現物で放銃。
1300は1900点、供託3本付き。
櫻井としてはせっかくのトップ目を捲られた形になったが、
朝倉のドラアンコ手が炸裂するより傷は遥かに浅かったか。
オーラス、点棒は
大澤 32600
朝倉 26300
櫻井 28100
崎見 13000
朝倉は現状3着目だが、トップ浮上も十分狙える位置につけている。
崎見は大澤以外から満貫をアガれれば、着順浮上。朝倉と櫻井は崎見にだけは振り込めない。
女王の光は間に合うか。
しかし配牌は、朝倉優位。
ドラ
ドラのが鳴ければ言うことはない。
6巡目に、この形。
ドラ
リャンシャンテンだが、これなら仕掛けていけるだろう。
しかしこの手が、全く手変りしない。
流局も間近、15巡目に、をチー。打。
そしてワンズに染める崎見から出たをポン。打での片アガりテンパイ。
そこへ親の大澤もやっと追いついた。
ツモ ドラ
迷わず打。が枯れているためダマ。
結局2人テンパイで、勝負は次局に持ち越し。
1本場、今度は櫻井の手が良かった。4巡目にこの形。
ドラ
イッツーのイーシャンテン。門前でうまく張れるだろうか。
しかし3巡ばかり待てども張らず。8巡目、をチーしてペン待ちのテンパイに取った。
出アガりでもツモでも、ノミ手で2着浮上なのである。
モタモタしている暇はない。
しかし決して待ちは良くない。
他家に追いつかれる危険性も高いように思うし、
実際、櫻井自身も鳴くのは本意ではなかったのではないだろうか。
暗夜に一人航海に乗り出すように不安な心持ちだったであろう、と思う。
けれど、それでも、乗り出したのだ。それはすなわち櫻井の「勇気」だ。
結果、櫻井の勇気が勝った。をツモ。
朝倉をまくり返し、2着に浮上して13回戦終了となった。
<13回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +191.0
櫻井 +34.2
崎見 ▲49.4
大澤 ▲215.8
女王の光、間に合わず。
しかしまだ、残り2回戦ある。輝きは遠くで、彼女をこまねいている。
14回戦 朝倉−崎見−櫻井−大澤
ところでこの観戦記を読んでいる読者諸兄は、朝倉の「ふんにー」なる言葉をご存じであろうか。
詳しくは協会内タイトル戦の「新人王」の観戦記を読んでいただきたいところであるが、
意味を端的に説明すると「わんだふるに勝つ」とかそんなところである。
語源は不明だが、「ふん」には全身に気合を込める意、
「にー」には粘り強く最後まで諦めない意志が込められている、という説もある。
(※編注 初耳です)
決定戦も残すところたったの2半荘。
「ふんにー」と新人王を獲得した朝倉は、二度目の「ふんにー」を見せつけてくれるか。
東1局。親は朝倉。
朝倉の配牌が、わんだふるに良かった。
ドラ
第1打。ふんにー!
だがしかし、南家の崎見の配牌もマーーーヴェラスに良かった。
ドラ
ふんにくぁwせdrftgyふじこlp;@:
……思わず取り乱した。
なんだ、これは。ドラがトイツで、なのに5がそれぞれ揃ってて、三色同刻で、
というか誰がどう見ても四暗刻のリャンシャンテンで、これは、もう、何なんだ。
女王の光、ここへ来て最速。さすが近代。文明万歳。
これが3巡目にあっさりテンパイ。
ドラ
カンでタンヤオイーペーコードラ2。
まあ、これは四暗刻を見るでしょう。誰だってそうする。筆者だってそうする。
というわけで余裕のダマ。
しかし恐ろしいことに、親の朝倉が次巡テンパイを果たした。
ツモ
打でリーチ! 絶好の入り目だ。
しかし崎見の手はこれ以上にモンスター級。朝倉、そのリーチは正解だったのか!?
と思いきや、そのリーチを受けた崎見のツモがであった。
崎見、長考。
二人の手牌が見えている筆者としては、ドキドキものである。
これを押さえたら崎見は超人。超越者。もう女王とかそういうのじゃない。永世超越者。
しかし結局は、をそのまま切った。結果、一発ロンである。
リーチ・一発・白で9600点。
朝倉のリーチは大正解であった。ふんにー!
何かいきなり、麻雀漫画のような超人バトルを見せつけられた気分だ。
こういうこともあるのだな。いいものを見せてもらった。
ちなみに裏ドラはだった。
……ええと、それは、崎見にアンコで、だからもしリーチをしていれば、指が何本折れる?
すごい。麻雀は本当にすごい。
東1局1本場。
大澤がタンヤオドラ1をあれこれ回した結果、
12巡目にタンピンテンパイ。即リーチ。
一発ツモで3100・6100。
朝倉の9600点のリードがいきなり溶けた。大澤、強し。
東2局。
崎見が早々にダブを叩き、加カンまでしたが、崎見一人ノーテンで流局。
東1局にあのを掴まされた時点で、勝敗が決してしまったのではないかと思える。
肝心なところで頼りにならない、光。近代化賛辞も考えものか。
東3局1本場。
櫻井の配牌がデラべっぴン。
ドラ
もちろん打。なんだこのイーシャンテンは。磁場が狂っているのか。何が起きているのか。
これが7巡目には、
タンピンイーペードラドラ。満貫だ。ツモれば跳満。
確実にアガり切るためにも、ダマ。
これにはの形にを引いた朝倉が、を切って放銃。
東パツでは、朝倉勝利がもはや揺るぎないのではないかと思ったが。
この半荘、まだまだ何が起こるか分からない。
続く2本場、
ドラがで、11巡目に
櫻井
大澤
朝倉
崎見
すごい。これは熱い。
朝倉はここでアガりを拾えれば大きかったが、さすがにドラのが河に放たれることはなかった。
櫻井も、チーテンを入れるがは押さえ、形式テンパイで流局に持ち込んだ。
食い仕掛けが決まらなかった大澤の一人ノーテンで、次局へ。
3本場。
大澤のリャンメン待ち棒テン即リーに、三色でテンパった朝倉が一発放銃。2600は3500点。
全員、アクセルがかかりすぎなのではないか。
荒れ場に次ぐ荒れ場。台風を報道するアナウンサーの気分だ。
東4局。
ファン牌を叩いた大澤の一人テンパイで流局。
1本場。
櫻井が10巡目にピンフドラ1でリーチ。
それを次巡、親の大澤がタンピンドラ1で追っかけリーチ。
結果、櫻井が放銃。12000は12300点。
櫻井は浮きの2着目だったが、ダントツ大澤に返り討ちの結果となった。
2本場。
崎見がドラ1の500・1000の2本付けで流す。
東パツでやりあった朝倉と崎見、ここへ来て点数が12000点程度と並ぶ。
よもや、このような展開を、誰が予測できたであろうか。
南1局。
櫻井が7巡目にピンフドラ1でリーチ。
ドラ
宣言牌は。つまりとドラのシャボにも受けられたわけだが、
アガり易さを優先するならドラ切りが正解であろう。
しかし実戦では、2巡後にドラを引いてしまった。
悔しげに櫻井はピシャリとを切り飛ばす。
そして10巡目、断トツトップの余裕からだろうか、
回してオリることも可能な大澤がで放銃。ドラが2丁見えていたせいもあるだろう。
裏は乗らず、櫻井に3900点の収入。
南2局。
この局がまたとんでもない叩き合いの局となった。
真っ先にテンパイを入れたのは朝倉。
7巡目にリーチをかける。
ドラ
-待ちだ。
この時崎見は、
ドラ
そして櫻井が、
ドラ
ソーズしかない。
筆者の観戦メモには「ソーズたっぷり夢いっぱい」と書かれていた。そのまんますぎる。
そして大澤、
ドラ
リャンシャンテン。西家であり、門前でも鳴いても悪くない。
このリーチを受けて、行くしかない崎見がツモから打。
それを櫻井がたっぷり長考してチー。打で-待ちテンパイ。
するとその鳴きで大澤にが重なった。打。
次巡崎見ツモ。打でチートイツ単騎テンパイ。
櫻井、ドラのツモ切り。
櫻井はもう最終形。何が来ても押す。
そして2巡後、崎見は単騎で追っかけリーチを打った。
同巡、大澤がを引き-待ちでテンパイ。追っかけの3軒リーチだ。
崎見がを掴む。櫻井に8000点放銃の上、リーチ棒3000点付き。
朝倉の-も、崎見のも、櫻井の-も、大澤の-も、
山にはそれぞれ生きていた。
本当に、「牌の後先」としか言いようがない場であった。
やはり崎見の火薬庫はとうに威力を失っているように思われる。
南3局。
やはり全体に配牌が良い。
真っ先に手を仕上げたのは大澤であった。8巡目にをポンしてテンパイ。
ポン ドラ
次巡ツモったを即加カン。本人曰く、「場を動かしたかった」とのこと。
リンシャンのはツモ切り。
2巡後、親の櫻井からリーチが入った。
それを受けて、大澤ツモ。は櫻井の現物であり、余裕の振り替え。高め三色になった。
そのリーチに、崎見が一発でを切る。
崎見の手牌はワンズのメンホンイーシャンテン。
新ドラがで1枚乗り、後退の意志などなかったところだ。
大澤が三色ドラ1で5200点のアガリにリーチ棒をゲット。
そしてオーラス。点棒は、
大澤 55200
朝倉 12000
崎見 ▲2300
櫻井 35100
大澤がピンフでテンパイし、11巡目にリーチを打った時、
朝倉は既にタンピンでテンパイしていた。
回し打つうちに三色が付いたが、17巡目に大澤から安目討ち取り。
2000点+リーチ棒で14回戦終了。
<14回戦終了時トータルポイント>
朝倉 +166.0
櫻井 +49.3
崎見 ▲111.7
大澤 ▲143.6
2日間通した中で、最も血が沸騰する半荘だったと思う。
残すは15回戦こと最終戦のみ。
さあ、最後にどのような展開が見られるか。楽しみでならない。
15回戦 大澤−朝倉−崎見−櫻井
この半荘で、全てが決する。
彼女たちが、1年かけて打ってきたものの成果が。
鼓動が高鳴る。
現状、首位は変わらず朝倉。それに現実的に追随できるのは、櫻井。
櫻井優勝の条件は、自分がトップ、約37000点差をつけて朝倉をラスにすること。
「楽しく打とうよ。」
朝倉の、信条。
たとえどのような結果になっても、彼女は笑顔を作るだろう。
それは、心からのものだろうか。それとも、痛々しいペルソナになるか。
結果はもう間もなく出る。
グイ、とコーヒーをあおった。
さあ、この半荘だけは、本当に、片時も目が離せない。
なんだかもう、すでに泣きそうな気分だ。
ハンカチの準備は? 神様にお祈りは?
会場の隅で肩を震わせてお祝いの言葉を考える心の準備はOK?
さあ、最終戦の始まりだ――。
東1局。最終戦という気負いのせいか、心なしか選手たちのテンションが静かだ。
粛々と、しかし確実に終焉に向けて、舞台が進行してゆく。
その中で、朝倉が7巡目にテンパイ一番乗り。タンヤオのみ、ダマ。
そこへ9巡目、櫻井が追いついた。即リーチ。
ドラ
次巡親の大澤も追いつく。これまた即リーチ。
結果、櫻井がを一発ツモ、2000・4000。
櫻井が朝倉をまくるか? 可能性が、一気に高まった。
東2局、6巡目に櫻井からリーチ。櫻井の勢い衰えず。
さらには、ドラがで、崎見がオタ風を2つも叩いている。
これには親の朝倉、一歩も動けずベタオリ。2人テンパイで流局。
東3局1本場、6巡目に大澤がをポン。
次巡、難なくツモアガり。300・500に本場と供託を回収。
東4局。親の櫻井が早々にを叩き、ドラまたぎのリャンメンでテンパイ。
しかしツモれぬまま、崎見と2人テンパイで流局。
1本場、真っ先にテンパイを入れたのは朝倉。
6巡目にこの形。
ドラ
リャンペーコーが見えるタンヤオチートイツ。
しかし同巡崎見がこの形。
ドラ
さてどちらが勝つかな、朝倉がさっくり流すかな、と思いきや、
崎見が11巡目に絶好のテンパイを果たす。
リーチはせず。次巡すぐツモ。2000・4000のアガり。
は朝倉のアガり牌でもあったのだ。少し、嫌な予感がする。
南1局。
自風のを叩き、ワンズに寄せ、を叩いた崎見が9巡目にテンパイ。
ポン ポン ドラ
そこへアンコのダマテンで押していた親の大澤が打で飛び込んだ。3900点。
ここで一度、この半荘込みのポイントを確認してみよう。
朝倉 17500(+143.5)
崎見 37600(▲54.1)
櫻井 31500(+60.8)
大澤 13400(▲190.2)
まだ朝倉がリードしている。しかし予断は許されない。
そしてその朝倉の親番、南2局。
朝倉の配牌はまずまずであったが、8巡目にこうなった。
このがイーシャンテンの櫻井から放たれる。ポンして打、テンパイ。
同巡、櫻井がをツモ切った。2000点のアガりで連荘。
2本場。
愚形を嫌い、カンチャンを外し、丁寧に回し打った崎見がピンフドラ1をツモ。
700・1300は900・1500をアガり、自らの親番へ。
南3局。
この南3局が、おそろしく長かった。本当に長かった。
これが、決定戦。最終戦。頂上決戦。
いろいろなことを考えさせられた。
何にしても、あそこまで長い戦いを繰り広げた崎見選手の息の長さには、
ただひたすら感服するのみである。
平場は、朝倉が一人ノーテンで流局。
櫻井はダブとホンイツで仕掛けたが、アガれず。
崎見は静かにイーペーコーのみで張っていた。
1本場。5巡目に崎見が--待ちでリーチ。
これには全員打つ手なし、ベタオリ。崎見自身もツモれず、流局。
2本場。12巡目に、崎見が高目イーペーコーでピンフのリーチ。
3巡後に高目をツモり、2600オールの2本づけ+自分のリーチ棒回収。
3本場。
崎見に配牌でとがトイツ。ああ、この親はまだ続くぞ。
早々にをポン。自力でをアンコにし、テンパイ。
朝倉がをポンしてそれに追随するも、スピードが全く追いついていない。
しかしラスヅモでどうにかテンパイを入れ、2人テンパイで流局。
4本場。
12巡目に崎見がテンパイ、即リーチ。
ドラ
対面の大澤の顔に「まじかー」とありありと書かれていたのが印象に残った。
確かに、大抵は、ここまで来れば手が落ちるものである。
あるいは、集中力が切れて正着を打てず、テンパイを逃すこともある。
しかしそこは崎見の経験と勘が1枚も2枚も上を行った。
行ける手は残さず行く。せっかくの手を、みすみす死なせるような愚は犯さない。
下家の櫻井がダブバックで果敢に向かってきていたが、これにはベタオリ。
そして崎見はまたしてもツモれず、流局。
5本場。そろそろ決め手が来ないと苦しいのではないか、というところへ、
配牌で1枚だったドラのが重なる。そして7巡目にリーチ。
ドラ
これに対し大澤は、「またきたよ」と盛大に肩をすくめたいような表情。
しかしこのリーチに朝倉が追いついた。
崎見の-は山に3枚生きであったが、朝倉の-の方が先にいた。
崎見からが放たれる。ロン。2000は3500点に、供託が2本。
長い長い南3局、やっと流れてオーラスだ。
再度ポイントを確認しよう。
櫻井 23400(+52.7)
大澤 7300(▲196.3)
朝倉 17300(+143.3)
崎見 52000(▲39.7)
大澤と崎見はこの局、もはや完全に黒子である。
勝負は櫻井と朝倉の一騎打ち。どちらが戦いに幕を引くか。
オーラス0本場。
祈るような櫻井の一打一打が心に刺さる。
勝つのはどちらだろう。櫻井の粘りは実るだろうか。
この局は、17巡目に櫻井がテンパイ。最後の1回のツモに望みを託し、リーチ。
しかし奇跡は簡単には起こらない。流局。
1本場。
4巡目に朝倉がを叩きポンテン。
ポン
この局で決するのだろうか。は櫻井の手から今にもこぼれそうだ。
と思い見ていると、次巡朝倉はをに変えた。同巡櫻井から打。
合わせ打つ意志があったのかどうかは分からない。が、で待っていれば絶対に出た。
朝倉の調子が手牌と噛み合わない。
この親もまだ続くな、という予感がする。
11巡目、朝倉ツモ。を切り、--に受けかえる。は櫻井の現物だ。
そこに櫻井が追いついた。
13巡目、フリテンだが即リーチ。そしてをツモ。
これには朝倉も目を剥いた。
「現物だと思ってたのに、ツモって言われた!」
朝倉は後にこう語った。
筆者もこれは「やられたな」という感じがした。
櫻井の優勝があるかもしれない。朝倉は逃げ切れるのか。
2本場は、焦りからか、朝倉が早々にトイトイで見切り発車の仕掛け。
守備型の彼女にしては珍しい。
それに対し、タンピンのシャンテンから食いタンに櫻井は移行。
結果、タンヤオのみ1500は2100を朝倉が放銃。
自らの首を絞める結果となった。
この時の朝倉の心境はどういったものだったろうか。
この放銃は、点数が安かったから助かったようなものの、
精神的にはかなりのプレッシャーになったのではなかろうか。
櫻井、がんばれ。朝倉、がんばれ。
限界まで高まるボルテージを、脇から見守るのは苦ではない。
しかし当人たちはどうであろう。どれほどの苦境に立たされているのだろう。
声なき声で、彼女たちは叫び続ける。
「神さま!」
祈りは、届くのか。
天は、どちらを選ぶのか。
3本場。
櫻井の配牌がまた良い。ドラがで、配牌でトイツ。
鳴ければかなり楽になるが、ここまで来てそう甘い牌を切る者はいないだろう。
己のツモとどれだけ照準を合わせられるか。
櫻井が活路を開けるのは、その一点においてのみである。
しかしテンパイは朝倉の方が早かった。9巡目に、
チー ドラ
このは、櫻井が掴んだら止まらない。
しかし、10巡目に櫻井テンパイ。
ツモ
打でカンか、打orでシャボか。
櫻井は打として、決まれば大きなシャボに受けてリーチに出た。
打としなかったのは、が朝倉の現物であるからだ。
役牌アンコも警戒すれば当然の選択。
これに対し、朝倉は続けてツモ切り、全ツッパ。
しかしを引いたところで後退。
櫻井のリーチは宣言牌のが出るまで、ワンズが1枚も切られていない。
ワンズの下目は打てない。を切ってオリ。
結果、一人テンパイで流局。
とうとう4本場だ。
この戦いはいつまで続くのだろう?
崎見にしても、櫻井にしても、連荘はできるのだが、決め手がうまくはまらない。
どういうことだろう。それならもう、優勝は朝倉ではないのか?
それとも、今はまだ、櫻井のビッグウェーブの準備段階ということか?
いずれにしても、そろそろ決定打が生まれそうな気がする。
ドラは。
配牌は、
櫻井
朝倉
朝倉の方が良さそうだ。櫻井はかなり苦しい。
5巡目、
櫻井
朝倉
3シャンテンvsイーシャンテン。
ここでダメなら、朝倉はもう無理なのではないか。
おそらく、朝倉が勝つだろう。けれど、その期待をも裏切る展開が起きたら。
戴冠の瞬間が近い。ドキドキする。
朝倉は次巡ツモ。シャンテン変わらず。打。
次巡ツモ。ツモ切り。
次巡、ツモ。
ツモ
打で-テンパイ。
これは勝てる。きっと、そう。
前巡崎見にを先打ちされているのが、少し不安にさせるが、これはきっと行ける。
3巡後、ツモ。打で3メンチャンだ。
もう、すぐだ。もう決まる。
さあ、拍手の用意はいいか。
手がかじかんではいないか。うまく動かせるか。
もうすぐ、この場に居合わせたことに感謝する瞬間が来る。
朝倉がを手出しした同巡、崎見がふっと打。
「ロン。
2000は3200。」
――柔らかな声だった。
きっと、緊張していたことだろう。
鼓動は、どれほど彼女を振り回したことか――
けれどそれは、あるべきものがそこに収まったかのように、すとんと腑に落ちる声音だった。
場内が静まり返った。
最終戦が、終わったのだ。
つまり、それが意味するところは――
「優勝、朝倉ゆかり!!」
立会人が大きな声を張り上げた。
静まり返った場内が、わあっ、と拍手に包まれた。
少し恥ずかしそうな、泣きそうな笑顔。
おめでとう。
おめでとう。
おめでとう。
3日間、全15回戦を通して、最後の最後栄冠に輝いたのは――
朝倉、ゆかり。
「最後まで、とても怖かったです。」
大澤の、打点の高さと勇猛果敢さ。最終成績、4位。
崎見の、経験と鋭い読みと安定感。最終成績、3位。
櫻井の、スピードと意志力。最終成績、準優勝。
どれもこれも、引けを取らなかった。
「途中で手も落ちました。」
最終日、終わってみれば、朝倉のポイントはマイナスである。
1、2日目の貯金がなければ、朝倉はもっと苦戦を強いられていたことだろう。
3日目は、何もできずただひたすら嵐が去るのを待つ展開が多かった。
「まくられるかもしれない、と思いました。」
崎見の猛連荘に、櫻井の最後まで諦めない意志。それぞれの、前に出る勇気。
それさえ振り切れれば優勝が目の前にあったにもかかわらず、
本当に最後の最後まで楽のできない展開だった。
「でも、とても楽しかったです。」
麻雀を、楽しむ。楽しく打つ。
朝倉の信条は、最後まで一貫していた。
どれほど辛いことがあっても、きっと最後には笑顔で。
「優勝」という光に照らされて、とてもとても美しい笑顔が今はそこにあった。
「すごくいい経験になりました。」
断言であった。笑顔で彼女はそう言い切った。
そう、このような舞台で、ギリギリの戦いを繰り広げられる機会というのは、そう簡単に訪れるものではない。
けれど彼女は、5月の新人王戦で既にその場を制し、
それに続いて2個目のタイトルを手にしたのである。
「ありがとうございました。」
――こうして、第7期女流雀王は決せられた。
牌に対して真摯であること、揺るぎない信念を持ち、純粋であること――。
それが強さになることを、朝倉ゆかりは証明してくれた。
それぞれの半荘の合間合間の休憩時間、朝倉はほぼ毎回誰かと感想戦を交わしていた。
この人は、本当に、どこまでも真っ直ぐで純粋なのだな、ということをしっかと感じさせた。
たとえば受験生に、「さっきのテストの答え○○だよね」、などと話しかけてみよう。
それは間違いなく無用なプレッシャーとなる。プレッシャーが判断を鈍らせ、さらなる失点を生む。
最悪のスパイラルだ。
筆者であれば、感想戦などはすべてが終わってから行う方が助かるように思う。
けれど、朝倉は違う。
その場その場で、朝倉は常に新しい朝倉に更新されてゆくのだ。
それはつまり、局や半荘を重ねれば重ねるほど、
より豊かな雀士として成長している、ということだ。
これはぜひとも見習わねばなるまい。
これからも、朝倉ゆかりは成長し続けるであろう。
今回の女流雀王戴冠を弾みに、さらなる飛躍をしていってほしいと思う。切に思う。
そしてさらに豊かな雀士になっていってほしい、と思う。
美しくあれ。
純粋であれ。
豊かであれ。
優勝が決した瞬間に、心を込めて叩いた手がじんじんと痛んだ。
いいのだ。
この手は幸せ者なのだ。これは、幸せの痛みだ。
来年は、誰がこの痛みを他人に与えるのだろう。
来年の決定戦も、楽しみだ。
と、書くと他人事のようだが、一女流雀士として筆者にとっても全く他人事ではない。
浴びせかけるような拍手を、私も、してもらう側に。
ああ、それは、悪くないな――
2010年の神楽坂。
豊かに実った雀士たちは、どのような顔触れになるのか。
まったく、今から1年後が、楽しみでしかたない。
(文:夏川 七七)
|1日目観戦記|2日目観戦記|
|