【最終ポイント成績】
順位 |
名前 |
TOTAL |
第1節 |
第2節 |
第3節 |
1 |
朝倉 ゆかり |
136.5 |
105.3 |
49.3 |
-18.1 |
2 |
櫻井 はるか |
72.1 |
109.2 |
-47.4 |
10.3 |
3 |
崎見 百合 |
-47.6 |
-87.5 |
42.3 |
-2.4 |
4 |
大澤 ふみな |
-201.0 |
-127.0 |
-44.2 |
-29.8 |
|2日目観戦記|最終日観戦記|
【1日目観戦記】
第7期女流雀王決定戦第1日観戦記
「プロ」であるための資質とは何であろう。
「プロ」が存在する種目は数多くある。まだ未成熟である競技麻雀という種目を他の種目と比較するのはいささかおこがましいが、 広く競技麻雀を認知してもらうためにも競技者一同、よく考えていくべき議題であると考える。
麻雀は、(1度の対戦の中で)実力上位の者が勝つ割合が、他の種目と比較して少ないと思われる。 またその実力上位の者という評価についても、強いと表現される者もいれば、上手いと表現されるものもいたりして、さらにその基準たるものは不明瞭である。
そんな性質の種目で「プロ」というものを考えるにあたり、他の種目の「プロ」と共通で、備わっていることが不可欠のものの一つとして、私は「華がある」ということを挙げたい。 言葉では表現しにくいのであるが、それは雰囲気のあり方といえるだろうか。今年の女流雀王決定戦のメンバーは、私から見てまさにその「華がある」選手がそろっていると思う。
これを読んでいらっしゃる皆様の多くは、麻雀店等でゲストとして卓についている彼女たちの姿をご存知であろうが、公式戦で見せる彼女たちの雰囲気は、ゲストの時のそれとは全く違ったものである。 公式戦での彼女たちをぜひとも一度観にいらしていただきたいとの願いをこめ、各選手の紹介と共に、全3日(全15回戦)の初日を振り返ってみることにする。
崎見百合(現女流雀王、2年連続4回目の進出)
2度の本タイトル獲得だけでなく、プロクィーンも制している当協会の女流の代表選手。 大舞台での多くの経験から培われた精神力、多彩な戦術等は大きな武器である。 昨年の決定戦では展開巧者であることを見せつけて優勝。
卓での同卓者に与える雰囲気は、小柄な体からは想像できないほど大きいであろう。今回も挑戦者達の前に大きく立ちはだかる。
第1回戦東2局(荘家25000ドラ)
ロン
こんな手を14巡目に和了した。 途中七対子のイーシャンテンにもなる形であったのだが、あわてることなく手を進めて無難にヤミテンで成就させている。 一見平凡に見える進行であったが、当たり前のことを当たり前にこなしていくことが肝要であり、またそれが意外と難しいのが大舞台。
落ち着きはさすがであると思ったのだが、この日の崎見が(結果が)よかったのはなんとここまでである。
第1回戦東3局1本場(北家35000ドラ)
4巡目にこんなリーチ。
リーチ宣言牌は。
「ノベタンがあまり好きでないのと、早い巡目に(役と関係ない)ど真ん中の待ちになるのが嫌で、
ドラ引きもあるけど(場にが1枚出ていて)今リーチするのに絶好の待ちに見えた」
とは本人の弁。私ならノベタンでヤミテンのまま様子見しそうなところであるが、情報が少ない状態ほど出和了できる可能性が高く、
符が跳ねるので出和了でもそこそこの打点になる。そんな思惑だったのだろうが、この選択は最悪の結果を招く。
同巡に南家朝倉の追いかけリーチ、そして崎見の一発目のツモは。
この牌が放銃牌とならなかったのは幸いだが、朝倉に一発でツモ和了されその和了は3000・6000。
「あれは相当『やった』と思った」
しかし、本人は選択を後悔していたわけではない。
「悪い結果となった後をどう立て直していくか、なんだけどうまくいかないね」
結局この日の崎見、いろいろ策を弄するもうまくいかず、 唯一トップを取れるチャンスであった4回戦も櫻井との争いに競り負け大きく出遅れてしまった。
ただ、戦術の引き出しの多い崎見である。あと2日の巻き返しをどのように行ってくるか注目したい。
崎見百合初日成績 2.0、▲13.9、▲67.3、16.5、▲24.8、total ▲87.5
大澤ふみな(第7期女流雀王戦Aリーグ1位、2年振り2回目の進出)
得意とするところは攻撃、いわゆる「くささ」のある手筋は今の当協会の女流では他に見当たらない。 窮地での立ち回りも独特で、前回の進出時にも最後まであきらめることなく逆転への糸口をさぐっていた。
私が見る限り集中力を必要とするスタイルなだけに、その持続力が課題。
この日最初のリーチは大澤だった。
第1回戦東1局(西家25000ドラ)
10巡目に次のリーチ。
誰の仕掛けもなく、また全員手出しが多い。手がまとまってない可能性がかなり高い局面でのこのリーチ、 今日の運だめしにはもってこいといったところ。
しかし一発目にツモってきたのはなんと。声はかからなかったものの、感触はとても悪かったであろう。
そしてさらに3巡後にツモってきたのもなんとまた。
今度はテンパイしていた朝倉のヤミテンに御用、2600の放銃。
失点が大きいとか小さいとかの問題より、この日の苦戦を予期せずにはいられなかったであろう。
結局、この日は3ラス。最後方からの戦いとなってしまったが、私が思うにこの日最も「自分に忠実」に打ち切ったのは彼女。
この日は先手で攻められる局がほとんどなかったのであるが、会場内すべての人を飲み込むような鋭い攻めが見られたのが次の局。
この時の点棒状況は
東家 崎見(2900)、南家 櫻井(36100)、北家 朝倉(49300)
箱下だった崎見の連荘中。これ以上の連荘はさせまいと大澤が下記のような仕掛け。
第3回戦南2局4本場(西家11700ドラ)
チー ポン
9巡目に上家から出たをスルー。さらに10巡目にツモってきたをツモ切り。
今欲しいのは打点ではなく和了であり、ドラをツモ切ることで和了への手広さだけでなく、安手をアピールして脇からの援助も期待しようというところか(をチーして打では和了しにくさが大きいということもある)。
この手をきっちり拾った後がこの日の彼女のハイライトシーン。
南3局、2着目櫻井の親番に3000・6000をツモ和了すると
リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
南4局の親番、700オールの後の1本場に次の手牌
第3回戦南4局1本場(東家31000ドラ)8巡目
イッツーが見えているがこの時点では2枚切れ。
さすがにペンをはずすかと思ったが、彼女の選択は打。 2巡後、テンパイした西家崎見がリーチを宣言するのだが、その宣言牌がなんと3枚目の。 大澤万事休すかと思った直後、ツモってきた牌を伏せたまま通常の5倍増しぐらいのおっかない顔で勢いよく「リーチ」。
ツモってきた牌はなんと4枚目のである。
出和了でもハネ満確定。ギャラリーも興奮せずにはいられない局面だったが、ここまで。
ひっそりとテンパイを入れていた朝倉が崎見から和了した。
1回もツモ番がまわってこなかったのだが、裏ドラがだっただけに惜しいところであった。
大澤ふみな初日成績 ▲45.2、6.2、10.0、▲50.6、▲47.4、total ▲127.0
朝倉ゆかり(第7期女流雀王戦Aリーグ3位、初進出、第7期プロ協会新人王)
今期は新人王を獲得した朝倉。 だが、この女流雀王決定戦への道のりはとてつもなく険しい道のりだった。
2節を残したところで降級圏内、Aリーグに残留できれば御の字といったポジションから怒涛の追い込みでなんと決定戦にまで進んできた。 私から見るに、彼女は協会の女流の中で最も「丁寧な」選択をする選手である。
受けを得意としトップ率よりもアベレージで結果を出すタイプなだけに、今期の決定戦進出という結果は本人も驚きだろう。
今期の彼女の躍進の理由の一つとして、微妙な局面を強気に押し切ることが多く見られるようになったことがあげられると思う。 以前よりもいい意味でラフに戦えるようになった。
まだまだ多くの引き出しを増やしていくべきだが、充分に女流雀王を載冠できる実力がついたと感じる。
さて、そんな彼女の第1日目はというと、結果としては首位に僅差の2番手発進と良好であったが、内容としてはどうであったろう?
彼女のキャラから考えれば、トップラス麻雀は「らしくない」ということも言えるが、それ以上に「丁寧さ」が欠けた局が見られた。
第2回戦東2局(南家20200ドラ)4巡目
実はこの局は東家櫻井からダブルリーチが入っているのだが、ここまでの他家の河は次の通り。
東家
西家
北家
現物は何もなし。一見どう打ってもよさそうだが、ここでの朝倉の選択は筋の打。
朝倉の性格を考えた場合、この選択をしたのならばこの局は、手を進めることよりもできるだけ危険の低い牌を切る選択をしなければならないのではないか?
さらに3巡後の7巡目には下記の牌姿。
東家
西家
北家
ここから打で放銃。
この牌姿だけを見れば打でいたしかたなしとも見えるが、ダブルリーチというまったく情報のない、いきなりの最終局面への対応だけに課程が問題。
初めの牌姿から素直に手を進めるもよし、極力危険度の低い牌を切るもよしだが、後者を選択した結果浮いてしまったを7巡目の牌姿で切るのは彼女としてはどうなのだろう。 現物のを抜くのが彼女の「らしい」麻雀であると思う。他の誰がこのように打っても何とも思わないが、朝倉への期待も込め要考察とした。
初の大舞台で初日が良好な成績、あとは2日目以降をリラックスして戦ってくれることに期待したい。
朝倉ゆかり初日成績 62.6、▲55.0、67.9、▲27.3、57.1、total 105.3
櫻井はるか(第7期女流雀王戦Aリーグ2位、3年連続3回目の進出)
櫻井が今年も決定戦に駒を進めてきた。
初出場のおととしは攻撃力ばかりが目立つタイプであったが、昨年以来、「我慢」が表現できるようになり、今期はそれに安定感がついてきた。悲願の優勝、3度目の正直となるか。
おととし、去年と初日に大きく躓いてしまった櫻井、まずは無難に初日を終えたいと思っていたのではなかろうか。
そんな櫻井にとって今年のスタートはまた試練の局面から始まる。
第1回戦東2局(北家25000ドラ※)
チー
を打ち出すことなくテンパイを組むために仕掛け始めたと思われるのだが、ここに持ってきたをツモ切ると親の崎見から「ロン」の声。
ロン 12000
ドラが圏風牌で今自分が1枚持っている。 誰のリーチも仕掛けもなく(もちろん赤牌もない麻雀で)、放銃したとして高い点数の手にあたることはそんなに多くはない。
むしろ粘り強くテンパイで流局を目指すのは大事であると考えるが、よりによって今回は最悪の結果。
また今年も苦しい初日になるのかと見ていて思ったのだが、今日の櫻井は一味違った。
東4局には持ち点が1500となったものの、南1局に4000オール、南2局に2000・4000とあがって2着浮上。
このゲームは3着で終わったものの、ラス目の間も抑えるところは抑え、いざ勝負の時には大胆に攻め、本人も納得のゲームができていたと思われる。
結局、初日は100pオーバーのプラス。 5回戦目のオーラス、同点トップ目で朝倉との競り合いに負けたのは痛いが「2トップラスなし」は上々のスタートだろう。
だが、反省点はある。私が疑問に思ったのは次の1局。
4回戦目のオーラス。2着目崎見との点差はわずか200。
第4回戦南4局(南家40300ドラ)
ここから打としてテンパイをするのだが、この時にはヤミテンを選択。私が考えたヤミテンの理由は
A) 役有りに変化することが可能な牌姿である
B) 親にポンされた場合、崎見の動向次第ではオリることも考えたい。
C) 3着目の朝倉(北家)とラス目大澤(東家)も接戦であり、リーチとすると朝倉が和了した場合2着に落ちてしまう。
とまあこんなところ。しかし実際には私の予測とは異なる展開となっていく。
まずはトップ争いの当事者崎見がこのをポン。 これに対しては決してオリの選択は出てこないわけだが、次巡にリーチとするかどうかは考えておくべきこと。
崎見がドラをポンしたとあらば、ラス落ちは避けたい朝倉が容易に危険牌を切るとは考えにくく、自ずと朝倉の和了は容易ではない。
よって上記のCは消去として(Bも当然消去)、問題はA。、、、引きで打。 そしてポンでの打。これらを待つ方がいいのか、現状役なしの待ち牌である‐をつかまえられる方がいいのか。
考える間もなく崎見のポンと同巡にが打ち出されるのだが、櫻井はこれをスルー。
崎見の河には索子の上が高く、が必要とされている可能性はありそう(実際、受け入れ有り)。
それでもポンで打が「標準選択」というものであると思うが、これをスルーした結果、親の大澤がツモ切りリーチときた。
今度は難しいところ。 当協会のルールはオカがある以上トップを狙える時は多少のリスクは背負ってでも勝負すべきだが、接戦の相手である崎見が下家でしかもすでに役牌をポン(ドラであることは今重要ではない)。 その上で親のリーチ。 自分もリーチとしてしまうと、親への放銃の危険はともかく崎見の手の進行を補助してしまいかねない。 少考の末、櫻井はリーチとしたのだが、どうも違和感がある局である。
結果としてこのゲームをトップで終えることができたのだが、これも朝倉同様要考察の局として提示しておく。
櫻井はるか初日成績 ▲19.4、62.7、▲10.6、61.4、15.1、total 109.2 初日を終えてポイント的には「2強2弱」の体勢。女王崎見が追う展開となって勝負はおもしろくなった。
華のある打ち手がそろったこの第7期女流雀王決定戦。これからの百花繚乱の戦いぶりに期待したい。
(文:二見
大輔)
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