順位 |
名前 |
ポイント |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
1 |
大崎 初音 |
103.5 |
-31.0 |
73.9 |
7.0 |
70.6 |
-17.0 |
2 |
愛内 よしえ |
87.8 |
11.7 |
32.1 |
-15.8 |
3.2 |
56.6 |
3 |
佐月 麻理子 |
50.6 |
76.8 |
-29.4 |
51.0 |
-52.6 |
4.8 |
4 |
朝倉 ゆかり |
-241.9 |
-57.5 |
-76.6 |
-42.2 |
-21.2 |
-44.4 |
|1日目観戦記|2日目観戦記|3日目観戦記|
≪女流雀王決定戦1日目観戦記≫
今年もこの季節がやってきた。4人の女流が己の全ての技を駆使して舞う、華の舞台だ。
佐月 麻理子 《連覇への思い》
前傾姿勢でまっすぐに走った、そんな姿を見せつけ女流雀王を獲得した。
この一年はそんな佐月の世界を変えるものだった。
「今年一年はたくさんのチャンスを頂いた。そこで勝ち切れなかったのが悔しい。
連覇してまたいい景色を見にいきたい。目標は女流雀王のその先にある」
大崎 初音 《王道の復冠》
協会タイトル戦の歴史に多くの名前を刻んできた大崎。
自身の麻雀史においても女流雀王は特別なタイトルだが、相手に不足なし。
気負いはない。
「女流雀王戦は決定戦で打つのが6回目。今年獲って4期目の女流雀王になる。
特別な準備はしない。いつも通りの自分の麻雀を見せる」
朝倉 ゆかり 《貪欲な闘志》
彼女の麻雀を言い表すならば「繊細」と誰もが口を揃える。
12年という長い競技プロ歴の中で数々の舞台を踏んできた朝倉が、
ここへきて勝ちへのこだわりを見せる。
「記憶にも記録にも残る、そんな女流雀王になりたい。みんなの麻雀を尊敬しているからこそ、この舞台を楽しみたいし、前よりも負けたくない気持ちが強い」
愛内 よしえ 《自分への挑戦》
協会ルールだけでなく、様々なタイトル戦への挑戦で結果を出してきた。
「周囲からの高評価で一目置かれる女流といえば?」
……協会の愛内、その人である。
「壁を超えたい。決勝に残っても獲りきれなくて、昨年頃から自分のバランスを変えてきた。
今年はとにかく勝ち切る麻雀を見せたい」
《女流雀王》という冠は私のためにある。
「これが私の麻雀」
「見ていてほしい」
「勝つのは私」
「そうでしょ?」
15半荘という限られた時間の中に、はたしてどんなストーリーが生まれるのだろうか。
さあ、幕は開いた。
★1回戦★(愛内-大崎-佐月-朝倉)
―――劇的な幕開け―――
「8000・16000」
現女流雀王・佐月の初アガリは四暗刻。
東4局。
ここまでの展開は穏やか、点棒はフラット。はなくは残り1枚。
イーシャンテン時は、
ドラ
佐月「道中どこかで仕掛けようと思っていたが、何から仕掛けていいかわからないまま局が進んでいった。イーシャンテンでは、-引いてリーチと思ってた。場況も悪くないし」
協会ルールはトップ者にウマ・オカの合わせて40000点が加算される。
子の役満よりもトップの価値が高いのだ。
決定戦の終盤、条件がある選手の役満ならまた話は違うが、ここは騒ぎ立てるアガリではない。
だがしかし、ここは晴れの舞台。役満ツモでスタートできる幸運はまずないだろう。
佐月、他を置き去りにした優雅なトップ。
1回戦スコア
佐月 +76.8(+78.6)
愛内 +11.7(+11.7)
大崎 ▲31.0(▲31.0)
朝倉 ▲57.5(▲57.5)
★2回戦★(佐月-朝倉-大崎-愛内)
―――悲劇のヒロイン―――
凍てつく空気が突き刺さる朝
彼女は笑顔でじっと耐える
春はまだ訪れない
指先だけを暖めて
――――――――――――
この決定戦に臨む各々の個性が際立った1局を見てみよう。
東4局。
「ポン!」
西家・朝倉の第1打、に声がかかる。
南家の佐月。
字牌の重なりで大物手を狙えるこの配牌。
第一打はオタ風のを選択。そこからのを一鳴き。
その後、を重ねて3フーロした最終形は、
ポン ポン ポン ドラ
仕掛けを多用する佐月らしいポンからのテンパイである。
親の愛内。
なんとも歯痒いテンパイとなってしまったが、巡目が中盤を過ぎ、佐月も2フーロである。
さらに言い加えるならば、8巡目に大崎がドラのを手出ししている。
その時の愛内の手牌は、
ドラ
6000オールが狙えるイーシャンテンだったが、ここではカンテンパイを取らざるを得ない。
打の後はツモ切りを続け、そのままアガリも放銃もせず、愛内の親番は終わるのだが。
一方の大崎。
タンヤオ・ピンフ・イーペーコー含みのイーシャンテンからドラを手放す。
ツモでのドラ雀頭への振り替わりや、ツモでフリテン含みの三面張ターツにもなるが、ではなく打。
大崎「リードしている時の局消化に意識を置くようになり、捌き方も強化してきた」
門前打点派の大崎が、今期Aリーグでの道中に磨き上げた新しい武器である。
その後は安牌を1枚抱え終盤にをチー、タンヤオのみのテンパイをとった。
最後に、1回戦目に佐月の四暗刻を親かぶりしてラスを引いた朝倉。
を左端に置いている。
ドラもなくお世辞にも良いとは言えない配牌をもらうも、456の三色を意識した手順でしっかりテンパイを入れるあたりはさすがである。
好形でのアガリ優先に重きを置く雀風なら打リーチもあるだろう、愚形でも先制二翻リーチに重きをおくなら打リーチもあるだろう。
朝倉は打のダマである。
全員が整った終盤。
全員、アガリ牌は山に残り1枚ずつ。
朝倉がを引き入れ暗カン。(カンドラ)
大事に育てた手牌が満貫に成就した直後に決着は訪れた。
4者の雀風がぶつかりあったこの局で、試練を与えられたのは朝倉だった。
この日は苦しい選択を迫られる局面を多く見てきた。
9巡もツモ切りを続け、生牌のまで終盤に叩き切った親の愛内と、ドラを早々と手放しチーして安牌のを捨ててきた大崎。
佐月以外の2人には危険牌の。
この爆弾を抱えた瞬間、朝倉の表情が目に浮かんだ。王牌を少しずらし、河を見渡す。
少しはにかんだように頭を抱え、とまどいの表情を見せただろう。
今放送では対局者の表情を画面で見ることはないが、朝倉がどんな顔をして、どんな心境でこのを河に置いたのかは誰が見ても明らかである。
雀頭がカンドラになり、3900点に化けた大崎の手牌が開かれた。
ロン チー ドラ
全員の待ちが最後の1枚であったことは先述の通りである。
また、全員のツモ回数も残り1回ずつであった。
オーラスの1本場は大崎がドラドラのカンをリーチ、3フーロのチンイツテンパイを入れた佐月から打ち取る。
裏ドラをのせた満貫となり大崎の逆転トップ。
愛内は大きな2着でトータルポイントは3者が横並び、朝倉は連続のラスを引いてしまい大きく離された。
朝倉にだけ目を塞ぎたくなるような場面が続き、どうしても感情移入をしてしまう。
実際にそこに座っていない私にはその胸中を知ることはできない。
ただ、これだけは知っている。朝倉は強い。他の3人とは毛色の違う強さを持っている。我慢強い精神力。
リーチ・仕掛け・ヤミテンなど、相手への対応力。恵まれない配牌からしっかりと手役を見据え育て上げる手順。
心技体とも言えるこの朝倉の持ち味、全てを出してこの負債を返上する姿を見ていきたいと思う。
朝倉「私、器用じゃないので。自分にできる事をやり続けるしかない。迷いながらの選択も多かったので、この後はしっかりブレずに前を向いていきたい」
シンデレラストーリーはいつも悲劇の幕開け。困難に立ち向かい、逆境の中でもしっかり前を向き歩みを進める。
その先にハッピーエンドが待っているから。
2回戦スコア
大崎 +73.9(+42.9)
愛内 +32.1(+43.8)
佐月 ▲29.4(+47.4)
朝倉 ▲76.6(▲134.1)
★3回戦★(大崎-愛内-佐月-朝倉)
―――裏切らない期待―――
雲ひとつない快晴
照りつける日射し
彼女は走る
前だけを見て
――――――――――――
南1局1本場・供託1
西家・佐月 2巡目
この手牌が裏ドラを見ることなくハネ満になると、誰が予想できるだろうか。
ここで佐月は打を選択し、次に打。
はドラ受けとして残すもピンズを次々と引き入れ、8巡目。
ツモ ドラ
は場に3枚。は場に2枚。
イーペーコー含みのピンフイーシャンテンだが、ここで打のホンイツ移行を選択。
13巡目。
4人の中では特に仕掛けを多用するがの佐月。
この手においてはメンゼンで仕上げたかっただろうが、もう終盤に差し掛かっている。
少し考えてから上家から出た最後のをポン。
喰い下った牌により、朝倉はイッツードラでリーチ、親の大崎も同巡ピンフドラでリーチをかける。
一方で、テンパイ一番乗りだった愛内はピンフのみのヤミテンを継続中。
一瞬にして緊張感が高まる。
次巡、佐月ツモ。
とは残り1枚ずつ山にあるが、2軒リーチの一発目。
ワンチャンスではあるが2人に無スジのを河に叩き切り、ツモり三暗刻のホンイツトイトイへ変化。
佐月「がまだ山にいる!と思ってたら……」
次巡、思いがけなくが佐月の手元で開かれる。
ツモに素直に、高みを目指す。
放送対局において、見せ場を作り視聴者の期待を裏切らない。
競技プロとしての使命を全うするかの如く、あの配牌からハネ満のツモアガリとなった。
南3局1本場 供託1
朝倉が早々にダブをポン。
ポン →打 ドラ
ここで満貫をツモアガると大崎とは逆転し、愛内には近付き、ラス抜けしてのオーラスの親番を迎える事となる。
カンをチー、河にを並べる。
マンズのホンイツが本命だが、ドラのも逃さない手組み。
朝倉の仕掛けである。
まずブレーキをかけたのは佐月。
8巡目まで三元牌が1枚も見えていないのだ。
ピンフイーシャンテンから手狭に構え、を抱えた。
同巡、ドラのを引いた朝倉。
前巡にを捨てているためフリテン含みではあるが、ここでを手放し大崎がポン。
三元牌は大崎の手に揃っていた。
ポン →打 ドラ
繰り返すが、トータルラス目の朝倉の仕掛けである。
朝倉自身も、自分の仕掛けが相手にどのように映っているかは重々承知の上である。
「私が仕掛けたら怖いでしょ?」
本人の言葉ではないが、画面からそんなセリフが聞こえてきそうである。
ドラ跨ぎのフリテンリャンメンを残したまま、他家の安牌でもないを手の中に残し、打とした。
ツモ、またはチーを期待したチャンタ移行のための保険と、最終手出しをにすることで他家の読みを外させるためである。
3人の《朝倉の仕掛けの信頼度》を、朝倉自身が信じているからこそ出来るこの手順。
一朝一夕で真似が出来るものではない。
長い競技活動でブレずに自分の麻雀を見せつけ、なお勝ってきたその実績が、他家への圧力となって有利な展開を生むのだ。
佐月・愛内・大崎、それぞれに見えていない字牌を抱えさせ、朝倉の一人旅は無事に目的地へ辿り着く。
満貫にはならずともこれでラス回避への前進。
が、オーラスは大崎がトップ目の佐月から満貫を出アガり2着浮上、愛内は3着。
朝倉には本当に痛い、三つ目の黒星がついてしまった。
佐月は型にハマらない麻雀を見せる打ち手である。
仕掛けも多用し「おでかけする何でも屋」といった印象を受けるが。
佐月「点棒状況とか場況を大事にしていて、押し引き重視の選択をしている。自分の雀風は……よくわからない(笑)」
彼女を一言で言い表すなら天真爛漫。
「卓上では一番自由でいたいなと思う」
そのニカッとした笑顔には現女王として誇りが、その一打には連覇への期待を込めた強い意志がある。
佐月、渾身のトップ。
3回戦スコア
佐月 +51.0(+98.4)
大崎 +7.0(+49.9)
愛内 ▲15.8(+28.0)
朝倉 ▲42.2(▲176.3)
★4回戦★(佐月-大崎-愛内-朝倉)
―――ピッと凛々しく―――
花が咲く
風が躍る
鮮やかに彩られた景色の中で
彼女の瞳は大きく輝く
――――――――――――
東4局、西家・大崎 配牌。
役牌のトイツが2組。
マンズのリャンメンターツもあるが、ここはソーズで染めに行く。
果敢に仕掛けて9巡目にテンパイ。
ポン ポン ドラ
程なく、大崎の發を組み込んだ七対子を愛内がテンパイするが、ションパイのを持ってきて大崎に5200点を献上。
開局にハネ満をツモアガったトップ目の愛内からまずは打ち取る。
この放銃を今日一番の反省点として「結果的にはかなりの損になる一打」と愛内は振り返っている。
南2局1本場 供託1
形の良いテンパイも魅力的に映るが、私はより美しいイーシャンテンにトキメキを感じる。
親大崎・4巡目。
ドラがだが、789の三色とイッツーを見ての打。
大崎「先にを引いたらを残してテンパイを外す」
長年Aリーグで戦い、勝ち上がり、この舞台への切符を掴み続けてきた大崎の麻雀の真髄である。
西家朝倉・5巡目。
こちらも美しいイーシャンテン。
ペン、ペンの選択だが朝倉は打としソーズを選択する。
一方、ドラを重ねてカンで先制リーチをかけたのは愛内。
次巡、大崎にも高めイッツーのピンフテンパイが入り追っ掛けリーチ。
大崎・7巡目。
ツモ→打リーチ ドラ
同巡、朝倉はターツ選択を見事に正解し、ジュンチャン三色でリーチ。
朝倉・7巡目。
ツモ→打リーチ ドラ
全員の待ちは、大崎-、愛内、朝倉。
-ともに山には2枚ずつ。
三軒リーチでこれほど待ち牌が被ることがあるだろうか。
一瞬で沸騰する場。
奇しくも、勝敗まで一瞬にして決した。
安目だが大崎がを一発ツモ。
トップ目の愛内を捲り1人浮きトップに立つと、ここから大崎の連荘が始まる。
2本場は愚形テンパイを取らず。
浮いたドラをリャンメンにしてのリーチをかけ、高目ツモで満貫。
ツモ ドラ 裏ドラ
3本場はドラ1リャンメンを先制リーチ。
安牌に窮した愛内からワンチャンスので7700を打ち取る。
ロン ドラ 裏ドラ
いよいよ4本場。
2着目の朝倉と25400点差、57500点持ちのトップ目である。
他3人はそろそろこの親を蹴りたい。
北家の佐月がジュンチャン三色狙いのカンを仕掛けていたが、大崎はドラのを手放しピンフのみのヤミテンを選択。
直後に佐月から出アガリ。
ロン ドラ
5本場で、朝倉がリーチピンフをツモアガり。
大崎の親番は36000点を稼いだところでピリオドに。
ここまでの3回戦、誰よりも多くリーチをかけ前に出る姿勢を崩さなかった大崎。
配牌はそれほど良かったとは言えない。
大崎「決定戦ならではのバランスを大事にしている。普段のAリーグならのみ手のリーチはなかなか打たないけど、今日はビクビクしながら前に出ていった。最終的には自分が一番にならなきゃいけないから。この舞台の経験値なら誰にも負ける気はしない」
高い手や綺麗な手をアガり、トップを取れた時は誰だって楽しいだろうが、
これまで多くの舞台を踏んで来た大崎には、楽しい《瞬間》よりも苦しい《時間》の方が長かったはずだ。
時に最善の選択をしても失点したり、思いがけない出来事の繰り返しで、忘れられない悔しさや悲しみをも伴ったことだろう。
そんな思いを十分味わってきた彼女だからこそ、堂々とキラキラと、瞳を輝かせてこの言葉を使い続ける。
「さあ、楽しい麻雀の時間だ」
大崎、トータル首位に立つ。
4回戦スコア
大崎 +70.6(+120.5)
愛内 +3.2(+31.2)
朝倉 ▲21.2(▲197.5)
佐月 ▲52.6(+45.8)
★5回戦★5回戦(朝倉-愛内-佐月-大崎)
―――平穏に、確実に―――
彼女にだけは見えている
葉が色付き、実は熟れる
収穫の時は来た
慌てず、そして騒がず
――――――――――――
東3局2本場 供託3
愛内が9巡目にをチーして高目三色のテンパイ。
供託3本の2本場である。
誰もが全力でアガリを拾いたいところではあるが、發ドラ1、リャンメン・リャンメンのイーシャンテン。
が4枚見えたところでピンズはゼツテンである事も引金となり、「門前で仕上げたい!」という欲が出てしまう打ち手もいるかもしれないが、ここは慌てず騒がず。
供託が3本もあれば、仕上げて満貫・ハネ満の手を仕掛けて確実に取りに行く堅実さを見せる。
南1局1本場 供託1
6巡目に西家の佐月がをポン、手出し、ツモ切りでを2枚河に並べた直後である。
7巡目、愛内は冴えない手牌と言っていい。親の朝倉があまり早そうではない河。
愛内「自分のアガリが見えないので佐月が鳴けそうな牌を選んだ。よりはというだけ。ホンイツだという確信は無いが、佐月がアガるのは構わないだから」
スバリ的中で佐月がチーして手出し。
やはりドラ色のホンイツのようだ。
次巡、上家の朝倉に合わせさらにを抜く。
愛内「テンパイかもしれないので次は切る気はなかったが、たまたま合わせられたのでさらに鳴かせた」
愛内を知っているものからすれば当たり前にも思えるこの選択だが、この当たり前が出来る打ち手がどれくらいいるだろうか。
確実に加点をし、最小限の失点に抑え、加失点に関わらない局面においても仕事を全うするという、
様々なゲーム競技・スポーツにも当てはまる《勝つための基本》を忠実にやってのけるのが愛内である。
攻守ともに長け、抜群のバランス感覚を持っている。
南3局では満貫をツモアガり、少しゆとりのある持ち点でオーラスを迎える。
すると親の大崎の着順を沈めるべく、自分のアガリよりも3着目の朝倉の手牌が育つのを待つ構え。
そこへ佐月がリーチ。
大崎はチーを入れてイッツーのカンテンパイで粘るが、軍配は佐月に上がる。
裏3でハネ満のツモアガリ。
大崎の親かぶりとなり、大崎と愛内のトータルポイントはわずか15.7差で初日は幕を閉じた。
愛内はここまで無難に攻め、無難に守ってきたように感じる者も多いだろう。
しかし和了率は3割を超え、リーチ成功率は7割を超える。
道中、ヤミテンを選択する場面も多かったが、勝負手・勝負局と見ればリーチをかけて確実にツモりアガる。
自分の後学のために、リーチとヤミテンの選択に関して線引きがあるのか?と尋ねるとさらりと一言。
「特にないですね」
だがこの選択のメリハリが今日もピタリとハマまっている。
愛内「感覚的にヤミテンにした方が出アガリできるもの、特に5200以上はヤミテンにすることが多く見られるかもしれない。基本的にリーチはリスクが高いし選択肢が究極にせばまる行為だと思っているが、今日は1日を通して感触が良かった。自信のあるテンパイならリーチして、それもことごとくアガリに結びついた」
場況読み・山読み・手牌読み、あらゆる思考を統括した判断は、どんなルールにおいても彼女がピカイチだ。
そう、この舞台でも。
愛内、初のトップを獲得。
5回戦スコア
愛内 +56.6(+87.8)
佐月 +4.8(+50.6)
大崎 ▲17.0(+103.5)
朝倉 ▲44.4(▲241.9)
「女の戦い」とはよく言ったものである。
日本国内で、競技麻雀プロ団体所属の女性選手は約330名。
プロ協会の女流Aリーグは、最高峰のリーグ戦であるし、そこで戦ってきた15人の女性達は、皆が尊敬する選手達である。
この決定戦に至るまでの全8節、彼女達は一分一秒刻みの叩き合い、殴り合いを経て、半年間にも渡る壮絶な戦いを繰り広げてきた。
女流Aリーグとはそういう戦場である。
それは間違いないのだが、この決定戦には「熾烈な」や「過酷な」なんて言葉は似合わない。
今日という1日を終えた素直な所感だ。
オープニングでのトークからも、この決定戦ならではの雰囲気を感じることが出来る。
昨年の決定戦で佐月が語った独特なフレーズを愛内・朝倉・大崎が揃って真似たのである。
前代未聞……だが、決して度が過ぎた悪ふざけではない。
この決定戦においてはライバルであるが、その前に競技麻雀を愛する仲間同士なのである。
佐月が、このやりとりを見て「緊張がほぐれた、ありがたい」と語るのも頷ける。
決定戦という舞台、ここでの麻雀は4人で作り上げるものである。
ひとりでも余所見をしていたら、見るものを惹き付ける対局は成り立たない。
それぞれの思惑が音を奏で、想いを込めた打牌が卓上を舞う。
その一打に微笑む者もあれば、歯をくいしばる者もいる、まさに熱演!
まだ見ていたい、終わらないでほしい……
そんな麻雀を残りの10半荘も期待したい。
そしてこの舞台の幕が閉じた時、誰が主役を演じていたかはみなさんの目で確認してほしい。
冠は、ただひとつ。
(文・庄司 麗子)
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