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順位
名前
ポイント
1日目
2日目
11回戦
12回戦
13回戦
14回戦
15回戦
1
朝倉 ゆかり
83.0
-241.9
129.2
-15.4
54.9
57.5
86.6
12.1
2
愛内 よしえ
-2.6
87.8
-43.2
55.0
-18.2
-44.5
-25.2
-14.3
3
大崎 初音
-6.2
103.5
65.6
-50.3
-40.3
-22.9
2.4
-64.2
4
佐月 麻理子
-74.2
50.6
-151.6
10.7
3.6
9.9
-63.8
66.4

1日目観戦記2日目観戦記|3日目観戦記|

≪女流雀王決定戦3日目観戦記≫

1年ほど前から協会の女流選手の勉強会を開いている。今回の決定戦メンバーも全員、その会に参加している。
私も1年間、彼女たちと過ごしてきた。先生がいない会なので、その都度講師役が入れ替わる。
みんな自分にない考えを取り入れようと一生懸命だ。そのまま食事に行ってもその日の検討の続きになることもしばしば。
 
仕事も生活している環境も違うけれど、共通しているのは「麻雀が好き」ということと「強くなりたい」という気持ち。
そしてその「強くなりたい」の前に「みんなで」という言葉がつくところが彼女たちの素敵なところである。
「良い対局を」
それは全員で作り上げるものだからだ。

さて、今年の女流雀王を決める戦いもいよいよ最終日を迎えた。全15回戦中10回戦までを終えて成績は以下の通り。
大崎 +169.1
愛内 +44.6
佐月 ▲101.0
朝倉 ▲112.7

上位2名、下位2名とかなり縦長な展開なように見えるが、初日に4ラスで▲241.9ポイントと大きく出遅れた朝倉が
2日目に「他家にトップを取られるくらいなら(朝倉に)」というみんなの思惑を逆手にとって半分以上戻したところなのだ。
とはいえまだ上位との差は大きく、もう少しなら甘やかしてもらえるかもしれない。
先手を取れれば逃がしてもらえるケースは多いだろう。それに今度は佐月もいる。
2人で協力して連対を狙う連係プレーを期待したいところである。
ただ、この上位2人というのが、抜群の安定感でこの10半荘で1度もラスを引いていない大崎と、
絞りがきつく、ゲーム回しの上手さには定評のある愛内なのだ。
2人とも一度点棒を持ったらなかなか減らしてくれない厄介な相手だが、上位を走る者特有のプレッシャーもあるだろう。
下位2人がうまく先手を取って優位に立てるかに注目したい。

私自身も決勝を何度か経験した。それぞれの立場に近い経験も持っている。
麻雀に全く同じ局面は存在しないとわかってはいるが、ついその時々の自分と重ね合わせて見てしまう。
ドキドキする中、本日最初の半荘が始まった。

★11回戦(佐月→愛内→大崎→朝倉)

東1局。6巡目、朝倉にチートイドラドラのテンパイが入る。
 ドラ
ダマにして単騎をころころ変えていたが、11巡目に地獄のと振り替えたところで2巡後に親の佐月からロン。

東4局、西家の愛内が素直な手順で高目をツモって2000・4000。
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

南1局、大崎の4巡目が分岐点。
 ツモ ドラ
ここからカンチャンを外してチートイツへ向かう。
この後、イーシャンテンで残す牌が秀逸だ。、これは自分で切っている牌。9巡目にチートイツドラ単騎テンパイ、リーチ宣言牌が
自分が切っているのに他家は合わせていないので山にいる可能性も高く、重なりを考えて残すメリットはあるし、それでもチートイツの匂いがかなり消える。一石二鳥の戦術だ。

一方、親の佐月はこんな形。
 ドラ
ここから9巡目にをポン。シャンテン数の変わらない鳴きであるが、残ったトイツは端牌と字牌。
仕掛けたほうが早いとの判断だろう。日頃から鳴きを多様する佐月らしい選択である。

大崎のリーチと親の仕掛けに挟まれた愛内だったが、 13巡目に
 ドラ
からをチー。八が4枚見えたので、を切ってテンパイをとったところ、佐月からが出てロン。
当面のライバル大崎のリーチをうまくかわした形となった。

東場のリードを危な気なく守り切った愛内が初戦はトップ。

11回戦スコア
愛内+55.0(+99.6)
佐月+10.7(▲90.3)
朝倉▲15.4(▲128.1)
大崎▲50.3(+118.8)

大崎は今決定戦初のラスで、トータルでは愛内とほぼ並びとなった。

 

★12回戦(佐月→愛内→大崎→朝倉)

東2局、愛内が親で8巡目にこんな捨て牌でリーチ宣言。

 ドラ
18000点確定のすごい手である。
リーチをかけた時点では、はドラ表示牌に1枚見えているだけで残りは2枚とも山に残っていたが、
迫力のある捨て牌の親リーチにみんなべたオリする中、脇の2人に吸収され、惜しくも流局。

東2局1本場、愛内が親番で国士をにらんだ進行。愛内は親番にあまり執着しないというイメージがある。
確かに配牌がよくない時の国士狙いは、字牌を絞りながら進められるし、多少ブラフ気味にたまに強い牌を押してみたりして、うまく対応させられれば他家の進行を制限することもできる。与えられた配牌とツモを最大限に活用する方法として有効なのだが、読みの力が高くないと難しい上に何より、親番を一回つぶしてしまう勇気も必要だ。
実戦では大崎にドラのがトイツなのだが、愛内がこのような手の進め方をしているのでもちろん鳴けない。
結局自力で暗刻にするのだが、テンパイ止まりで流局。
もし愛内が手なりで手を進めていたらどうなっていたのかはわからないが、1人ノーテンを「これでよし」という表情で払っていたのが印象的だった。

東3局、親の大崎が
 ドラ
の一気通貫も見えるなかなか楽しみなイーシャンテン。
6巡目にやや不服なを引いて-待ちでリーチをかける。引きならまだ迷いがないが仕方ない。

このリーチを受けた現在トップ目の朝倉の9巡目。
 ドラ
実はこの時点では純カラ、はあと1枚しか残っていないのだが、対局者にはわからない。
そこへリーチ者の大崎がツモ切ったをチーしてカンのテンパイを取る。これは朝倉にしてみれば珍しい。
実際、この牌を鳴かないと朝倉のアガり目はないのだが、トップに立ったばかりなのに愚形の1000点で親リーチに向かっていくという姿勢に、いつも控えめな朝倉の強い意志を感じた。
が暗刻なので安定感はある形。どこまで押すかと思ったが、結構強い牌も切る。
ここは捌くと決めたようだ。

その意志が数巡後、を引き寄せた。
点数は安いが、朝倉の中では手応えのあるアガりになったと思う。

東4局、ここまであまり目立った見せ場のない大崎にチャンス手が入る。
4巡目に
 ツモ ドラ
となり、迷いなく鳴けるようになったタイミングでが出てポン。
わずか5巡目にしてペン待ちの満貫をテンパイする

しかしドラそばなこともあり、なかなかアガれないまま各家の手が進んでいくうちに大崎の河はみるみるソーズが高くなってしまう。
ツイていない時は河にも見放されるものなのか。
15巡目のど終盤、佐月が
 ドラ
ここにが出ていかないをツモってテンパイ、を切ってリーチ。

愛内が一発を消すチーをした。
その結果―――。
大崎がツモるはずだったは食い下がり流局。食い下がったのは下家の朝倉にしかわからない。
「今日は大崎さんのこと、あまり怖く感じなかった」
という言葉にはこんな裏付けがあったのかもしれない。

南2局1本場、佐月に配牌ドラ暗刻。
途中、イーペーコーや三暗刻などいろいろ役が見える難しい分岐があったがうまく仕上げて、
 ドラ
でリーチ。
このリーチを受けた朝倉。現物だけを切っていたのにいつの間にか現物待ちの--の三面張でテンパイ。
ほどなくをツモるのだが、なんだか手つきが渋々といった感じ。
そうか、佐月にアガってほしかったんだ、と気づくのに時間がかかった。

この時点での各家の点棒状況はこう。
朝倉 40100
愛内 26500
大崎 21200
佐月 12200
自分はダントツ。もし佐月が満貫をツモってくれると愛内が親かぶりのため、3人ほぼ並びになるのだ。
出来れば佐月を2着に引き上げたかったが、ここはツモってしまったら仕方ないか。

南3局、3者の手牌がぶつかる。
10巡目の各家の手牌。
北家・愛内
 ドラ
234の三色イーシャンテン。
を河に並べて裏目になっている形だが、これがうまい具合にカンの布石になっている。

西家・佐月
 ドラ
345三色のイーシャンテン。ドラのを使っているのでハネ満まで狙えそう。

南家・朝倉
 ドラ
こちらは567三色のイーシャンテン。

この三色対決。
一番最初にテンパイしたのは先ほどチャンス手を蹴られてしまった格好の佐月。
を引き入れてもちろんリーチ。
朝倉は高めのが浮いている形だが、そこへを持ってきてツモ切り。
躊躇はなかった。
やっぱり前局の「ツモってしまったら仕方ない」を「仕方ない」で片づけたくなかったのだ。

佐月には打ってしまってもよし(佐月が2着に近づく)。
なおかつ自分の手牌も良いので、自力で決めるのもよし(大崎・愛内との素点差を広げられる)。

西家・佐月
 リーチロン(一発) ドラ 裏ドラ

南4局。
5巡目、愛内だけはまくって2着になりたい大崎が勝負に出る。
 ドラ
裏ドラ1枚で単独2着、ツモれば同点2着になるリーチであった。

さて前局8000点をアガって佐月の持ち点は18700だが、ラス目のまま。
3着までは2000点差、2着までも7000点差。
やることは決まっていた。
南家・佐月
 ドラ
手牌はこのイーシャンテン。一発目に持ってきた無スジのもノータイムでツモ切り。
すぐにを引き、勢いよく追いかけリーチ。朝倉からのアガりが差し込みだったのかはわからなかった。
ただ、その結果が自分と朝倉に優位に働いていることはわかっていた。
この8000点を絶対無駄にしたくない、と佐月は思っていた。

困ったのが現在2着目の愛内。
手の内に共通安全牌はなく、10巡目。
西家・愛内
 ツモ ドラ
大崎の現物であるを選んで佐月に放銃となってしまった。

裏ドラが乗り、3900点。まさかの2着目からの直撃で佐月は望外の2着まで浮上。

12回戦スコア
朝倉+54.9(▲73.2)
佐月+3.6(▲86.7)
愛内▲18.2(+81.4)
大崎▲40.3(+78.5)

大崎は2連続ラス。
これまでのトータルスコアの真逆の着順となり、差が一気に縮まった。

 

★13回戦(佐月→朝倉→大崎→愛内)

東2局
何が悪いというわけではないのだが、今日の大崎はこれまで常に苦しい。でも自分の麻雀を丁寧にコツコツと積み上げていく。
7巡目にをツモってきてこの形。
南家・大崎
 ドラ
ここからカンチャンを外す打。カンチャンターツから外すこの順番が大事。なぜか。
567の三色をにらみ、だけはぎりぎりまで切らないからだ。いつもなんとなく内側から切ってしまっていた人は、よく見てほしい。
実戦ではすぐにを持ってきてドラ受けのペンチャンを払っていくので、何気なく見ていると目立たないが、
この「三色の種」の牌をうまく扱えるようになると、雀力は格段にアップするだろう。
大崎の麻雀は手役作りのお手本になる手順が多いので、ぜひ参考にしてもらいたい。

11巡目にうれしいを入れてのリーチ。
2巡後、ドラが暗刻になりテンパイした朝倉がで放銃となった。

東家・朝倉
 ツモ→打 ドラ
裏ドラで、8000点。

東4局、8巡目。
南家・佐月
 ツモ ドラ
オープニングで本日のラッキー牌と言っていた-待ちに受けてリーチをかける。
何か不穏な空気を感じていたという佐月。
「場況から-よりはよく見えたので」
との読み通りあっさりとをツモあがるのだが、このリーチに対して親の愛内はなんと。
 ドラ
-待ちの大物手のテンパイを入れたばかり。
さらに朝倉もドラを暗刻にして追っかけリーチをかけたところだった。
2人の勝負手をかわしての大きな2000・4000(裏ドラ)となった。

南2局、南家・大崎に配牌からドラがトイツのチャンス手。しかし3巡目、難しい選択を迫られる。
 ドラ
今、をツモってきてこの形。
チートイツのイーシャンテンでもあるが、役牌のダブもトイツ、メンツも一組完成している。
何を切る?
大崎の選択は打
なるほど、全員の河にピンズが高く、将来的に鳴けない可能性を考えたのだろう。
すぐにタンヤオのイーシャンテンになった愛内からドラのが鳴けて、ツモのシャンポンテンパイを果たすも、
ドラを切って勝負に来た愛内のリーチの当たり牌を掴んでしまう。

西家・愛内
 リーチロン ドラ 裏ドラ

今日の大崎には苦しい展開が続く。
一方、朝倉、佐月の立場からすれば3着目の大崎からラス目の愛内に8000点の移動で、3,4着が入れ替わっただけ。

解説の二見が思わず「二人に追い風が吹いているよう」だと漏らしたが、その風を感じているのは見ている側だけではないだろう。

南3局、ラス目に落ちた大崎だったが、親番でなんとか連荘に成功。
続く1本場、4巡目に佐月のリーチを受けるも7巡目にドラ暗刻のテンパイ、ここは行く構えだ。
だが、どう受ける?
東家・大崎
 ドラ
が拾えそうなこともあり、シャンポンでリーチを決断。お互いツモ切り状態の佐月からが出る。
受け間違えた!大崎の顔から血の気が引く。その直後、佐月のアガり牌を掴まされた。
開かれた佐月の手は、
 リーチロン ドラ 裏ドラ
三色確定リーチ。裏ドラは乗らず5200点。

誰も責めない。リーチ後の手順も、がいそうだという読みも、正解に一番近く思える。
でも、よりが先にいたのだ。受け間違えたのだ。

今年は大崎の年じゃないのかも。そう思わずにはいられない局だった。

南4局、オーラスを迎えての点棒状況は、
佐月 29900
朝倉 27500
大崎 18100
愛内 24500

9巡目に親の愛内がリーチ。
 ドラ
リーチのみだが、山にごっそりいる--待ちですぐにでもアガれそう。

リーチを受けた一発目の朝倉の手牌。
 ツモ ドラ
が現物。は通っていないが、をそっと切る。

現在、佐月がトップ・朝倉が2着。
朝倉にとってもほぼ理想の並びとなってはいるが、リーチ棒が出たおかげで、ピンフ・ドラ1の2000点で自分がトップになれる。
できることならアガりたい。

すると役なしテンパイをしていた大崎もツモ切りリーチ宣言。
 ドラ
愛内がリーチ棒を出したので、直撃かツモでまくれるようになったからだ。

この2軒目リーチの一発目、朝倉のツモはどちらにも通っていない、ドラそばの
さすがにこれは切れないとを河に置く。待ちは大分悪くなってしまった。
 
しかし次巡、なんと愛内がをつかんでしまう。
一通までついて8000点。朝倉がトップ、愛内はラスまで転落することになってしまった。

13回戦スコア
朝倉+57.5(▲15.7)
佐月+9.9(▲76.8)
大崎▲22.9(+55.6)
愛内▲44.5(+36.9)

これであと2回。全員に優勝のチャンスが現実的にある。あの点差がここまで縮まるとは。
本当に面白くなってきた。作ろうと思ってもなかなかこんな並びはできないものである。
何がそうさせるのだろう。彼女たちが作り上げている「作品」はどんどん素晴らしいものになっていく。

 

★14回戦(愛内→朝倉→大崎→佐月)

ここでトップを取った者が優勝にかなり近づく。
それぞれがそれぞれの立場と理由でトップがほしい。

東1局、6巡目。南家の朝倉が最初にテンパイを入れる。
 ドラ
8巡目に、今切れたばかりの絶好のと入れ替え、リーチ。
これを一発で佐月がつかんで放銃。

もう、佐月からはアガれない、という条件はなく伸び伸びとリーチをかけられる。
まずトップ目に立った朝倉。ここからは次の半荘まで視野に入れて、最終的に「勝つ」ための最善の選択をし続けるだけだ。

東2局1本場、親の朝倉の配牌。
 ドラ
ここからの第一打がリャンメン固定の
上の三色を本線に、もまだ切らず一気通貫も見ている。
朝倉は早い巡目の先切りが多い。
それも決め打ちというわけではなく、のちのツモに対応してあらゆる可能性を残す柔軟な打ち方という印象だ。

これが見事に決まって10巡目。
 リーチツモ ドラ 裏ドラ
一発で高目をツモって6000オール。

同2本場、朝倉の勢いは止まらず14巡目。
 ドラ
ツモでダメ押しの4000オール。

南家・大崎
 ドラ
のドラドラリーチに対して、一発目から無スジを押しての力強いアガりだった。
愛内も四暗刻のイーシャンテンまで進んでいただけに2人とも悔しい。

これで持ち点は7万点近い。
その後も朝倉の圧倒的優位は変わらないままオーラスを迎えて、各家のポイント状況は、
愛内 17100
朝倉 68900
大崎 17900
佐月▲3900

愛内と大崎はアガった方が2着というスピード勝負なので、時間的猶予はあまりない。
朝倉はできれば佐月に2着になってほしいので、鳴かせにいきたいのだが、対面なので難しい。
だが、マンズが高い捨て牌の佐月が7巡目にペンをチーした瞬間、なかばアシスト気味に自分の手からを抜いた。
東家・佐月
 チー ドラ
これがファインプレーとなり、佐月はポンして一歩前進。
ただ、ダンラスのラス親の佐月、ノーテンでは終了してしまうので終盤渋々形式テンパイを入れるのだが、これが結果的に清一色をアガり逃した形となってしまったのが残念。

1本場はこれ以上朝倉の思い通りにさせまいと大崎がなりふりかまわない仕掛けを入れて、なんとか2着をもぎ取って終わった。

14回戦スコア
朝倉+86.6(+70.9)
大崎+2.4(+58.0)
愛内▲25.2(+11.7)
佐月▲63.2(▲140.6)

最終戦の各自の条件は大雑把にいうと、
・朝倉、大崎は着順勝負。
・愛内は、自分がトップで佐月が2着なら無条件。朝倉が2着なら19.3ポイント差、大崎なら6.4ポイント差をつければよい。
・佐月はかなり大きなトップが必要なので、展開次第か。
さあ、残すはあと1回。

 

★15回戦(佐月→愛内→大崎→朝倉)

開局から愛内が軽いアガりを続け、トップ目に立つ。
東2局2本場
東家・愛内
 ドラ
チートイツにもメンツ手にもとれるように打
11巡目、狙い通りを引き入れてのチートイツテンパイ。

そこへ北家・佐月からリーチが入る。佐月の手は素直に作ったピンフ。
 ドラ

愛内が一発で持ってきたのは無スジの
でも、押した。
愛内の打牌が強いのは他の2人もわかっているが、困ったらがこぼれる可能性だってある。押す価値は十分ある。

しかし、次巡持ってきたのは3枚目のドラの・・・。
もう一回我慢なのか。そう思った。愛内も思ったかもしれない。それぐらいの間はあった。
しかし、彼女の決断はを空切りしてのリーチ。
ここで決めてやる、ということだ。

「私が一番、勝負に行かなかった」
とすべてが終わった後、彼女は振り返った。
分が悪い勝負は嫌い。勝算がある時しか喧嘩はしたくない。
愛内の基本スタンスであるのだが、この決定戦特に初日、2日目はそれが際立っていたような気がする。

最後までいい位置につけていたい。絶対にチャンスを逃がしたくない。
そんな意志がひしひしと感じられた。

 ドラ
今日もこんな牌姿から
仕掛けもリーチも入っていなくても、自分が間に合っていないなと感じたら何の迷いもなく鳴かせないように、
放銃しないように、と切っていくような打ち方をしていた。
自分から勝負にいくような手組みをハナからしないのだ。
でもだからこそ、今日は、行くと決めた手組みをしたときはほぼ全て勝負に行っていたと思う。
打点であったり、待ちであったり、勝算がある勝負をしていた。
その大物手のうちの1つでもアガりに結び付けば、展開はまた違ったものになっていただろうと思う。

この局も結果は流局。

決定打は決まらないが、現状トップ目なことには変わりない愛内。
朝倉を3着に抑えられれば優勝だ。あとは局を進めていくだけ。
のはずだったが、この最後の半荘にきて、苦しかった佐月に手が入り出した。

東3局1本場
西家・佐月
 リーチツモ(一発) ドラ 裏ドラ
一発で三色の高めをツモって3000・6000。
大崎は痛い親かぶりとなった。

続く東4局
南家・佐月
 ドラ
今度は三色が確定しているリーチ。

一発目に大崎の手牌はこう。
北家・大崎
 ツモ ドラ
を切ればテンパイである。

佐月の捨て牌は、

は通りそう。でも自分のアガりを考えるならは相当優秀な待ちだ。

大崎の捨て牌。

削られていく点棒、残り局数、いろいろなことが頭を駆け巡った末、
「リーチ」と言って打ち出したは一発がついて12000点。
ついに大崎の持ち点は箱を割ってしまう。
そして佐月が愛内をまくってトップ目になったことで、現状でのトータルトップも愛内から朝倉へ入れ替わった。

南1局、愛内はトップに返り咲かなければかなり厳しい。
南家・愛内 8巡目
 ドラ
高めツモならハネ満のリーチをかける。
が1枚、高めのは3枚全部山にいた。

途中を暗カン、ツモる手にも力が入る。
しかしなかなかツモれない。
解説陣が固唾をのんで見守る中、14巡目に丁寧にまわっていた朝倉がテンパイ。
北家・朝倉
 ツモ ドラ
残りあと3巡しかない。押し出されるは危険牌。
朝倉は佐月がトップのままなら優勝である。
でも、この最後の親番が終われば佐月はよほどの手でないとアガりに向かえないだろう。
愛内からの直撃のチャンスでもあるこの機会を逃していいのか。
ふうっと息を吐くと意を決したように を切ってリーチ。
怖いだろうと思う。
でもこの怖さをどこかで乗り越えないと勝ちきれないことも彼女は知っているのだ。

待ちは奇しくも同じ-待ち。
最初に愛内がリーチをかけた時点から1枚も顔をみせていない。
いまだに4枚山に生きていた。
その牌を引き当てたのは―――

朝倉だった。
 リーチツモ ドラ 裏ドラ
満貫のツモアガり。

佐月 43400
愛内 34700
大崎▲9200
朝倉 31100

南2局、愛内最後の親番。
押し寄せるピンズを上手く捉えノーミスで9巡目にしてこのテンパイ。
 ドラ
もう一度トップを目指す。

しかしこちらも次局の親番に一縷の望みをかけた大崎のリーチにをツモ切って放銃。
南家・大崎
 リーチロン ドラ 裏ドラ

実質、ここで勝敗は決まったようなものだった。

南3局は朝倉が自力でアガり、オーラスは静かに流れ、朝倉はそっと牌を伏せた。

第15期女流雀王は朝倉ゆかりに決定した。

 

4位・佐月 麻理子

去年、伏せれば優勝というラス親でアガる必要のない(と大半の人は思った)1300点オールをツモり、まさかのオーラス1本場を経て優勝したのを覚えているだろうか。その危なっかしい佐月は今年はもういなかった。
今年の決定戦は去年とは違う苦しい戦いだった。
「私の打牌が何かを決めちゃうんじゃないかと思って、どう打っていいのかわからなくなった。でも途中から私は私の麻雀を打ちたいんだ!って思って、今の自分にできることをするんだって思って、ただ目の前の手牌とツモに真剣に向き合っただけ」
ゆっくり、ゆっくり、言葉を探すように話してくれた。最後の半荘も彼女の頑張りがなかったら、ゆがんだものになっていたかもしれない。
この1年間、勉強会でもリーグ戦でも彼女を見てきたが、麻雀の幅がぐんと広がったように思う。
人間って1年でこんなに成長できるんだ、と正直驚いた。これからも、この舞台を目指す後輩たちのお手本になるように頑張ってほしい。

3位・大崎 初音

実はこの日、解説席に座っていながら、私は彼女に一番感情移入してしまっていた。
自分の苦い経験をどうしても思い出してしまうからだ。
大きなリードというのはすごく有利なことで、選択肢が増え、有利に戦えるんだということは頭では理解している。
でも、追われる立場に立つ者のプレッシャー、怖さは経験した人でないとわからないと思う。
ただ彼女はこんな状況の中、圧倒的な強さを見せつけて勝ち切ったことが何度もある。
今回はおそらく初めての経験じゃないだろうか。
だから、今どんな気持ちでいるんだろう、と思うとこの日、対局が全部終わるまで大崎にだけは声をかけられなかった。
でも、彼女はよく戦った。麻雀も、そして自分自身とも。これはもう少し強くなるための試練なんだと思う。
この経験を自分の中で消化して、また一回り大きくなった大崎を見たいと思うし、彼女はきっと見せてくれるに違いない。

2位・愛内 よしえ

「忙しくて時間がない」という言い訳は、彼女を見ているととても口に出せなくなる。
協会の女流プロ達と連絡を取ったり、勉強会、ファンクラブの運営などほとんど全てを引き受けてくれている。
多忙な中、後輩の育成にも熱心で頭が下がる。
だけど勉強会で見せる顔はいつも厳しい。ストイックなまでに探究、研究を惜しまない。
今回のメンツで女流雀王を獲ったことがないのは愛内だけだ。
「また獲りきれなかった」
いつもクールな愛内が悔しそうな表情をのぞかせた。自分自身に対しての苛立ちのようにも見えた。
でも、この内容で負けたのならそれは誇っていい、と私は思う。
結果は紙一重だ。来年もまたこの場に上ってくることを確信している。

優勝・朝倉 ゆかり

ここ1、2年で朝倉の麻雀は少し変化したように感じる。
もともと「迷惑をかけないように」というのが口癖のどちらかといえば受け主体の雀風が復帰後、
「今まで見えていたものがよくわからなくなっちゃった」ために攻撃の度合いが増した印象だ。
それが現在、いいバランスになっているのだろう。本人はそう分析していた。

普段はあまり麻雀を打たないという。
ネット麻雀は?と聞くと、
「ネット麻雀苦手なんです。気配がわからないから」
彼女は対局中、手牌、捨て牌を見るのは当然のこととして、対局相手の表情、視線、所作を非常によく見ている。
朝倉の麻雀はよく「繊細」「丁寧」といった表現をされるが、こういった情報まで加味して打牌を選んでいるのだから、当然だ。
今、この相手になら勝負を挑める、といった理屈だけではない感覚を大切にしている。
今回も自分の置かれている立場をうまく利用して、相手の心理までも操り、綿密にゲームメイクして勝ち取った見事な勝利だ。

「自信なんて…ありません」
とはにかむ彼女だが、今回の優勝はきっと自信につながるものになるだろう。

最後に。
ゆかりちゃん、本当におめでとう。
そして佐月、愛内、はっちにも敬意と感謝を込めて心からの拍手を送りたい。

ありがとう。


(文・崎見 百合)

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