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順位
名前
ポイント
第1節
第2節
11回戦
12回戦
13回戦
14回戦
15回戦
1
佐月 麻理子
150.6
68.7
107.3
-16.9
-68.4
-58.6
61.6
56.9
2
豊後 葵
-11.6
14.8
-131.4
55.0
26.6
61.4
-20.0
-18.0
3
愛内 よしえ
-21.9
-103.5
63.0
5.1
76.3
-21.2
-50.6
9.0
4
朝倉 ゆかり
-117.1
20.0
-38.9
-43.2
-34.5
18.4
9.0
-47.9

1日目観戦記2日目観戦記|3日目観戦記|

≪女流雀王決定戦3日目観戦記≫

家を出ると、早朝という時間でもないのに空気がひんやり冷たかった。
なんてことのない年末の休日。
見上げた先には雲ひとつない青空が広がっていて、
「今日もいい天気でよかったです!」と、無邪気に笑う彼女の顔が思い浮かんだ。

2日目を終えてのトータルポイントは、
佐月 +176.6
朝倉 ▲18.9
愛内 ▲40.5
豊後 ▲116.6

女流Aリーグを首位で通過し、初めて決定戦に進出した佐月が1人浮きで迎える形となった。
先手を取ることを得意とする佐月のフォームが展開に上手くハマっている。
リーグ戦の時から変わらない、自分が信じる麻雀をあと5半荘打ち続けるだけ。

それがどんなに大変かということを本人もわかっていたのであろう。
スタジオに集合した佐月の顔色は悪く、オープニングのインタビューでは声の震えが感じられた。

★11回戦(佐月‐豊後‐愛内‐朝倉)

緊張の色が見られた佐月だったが、卓に向き合うといつもの自分を取り戻す。

東1局 東家・佐月
 ツモ ドラ
ポツリとあるドラの
まだ4巡目、鳴かれたら1番困るのは親である自分なのでピンズに染める選択肢もある。

しかし愚形含みとはいえイーシャンテン。三色の手変わりもある。小考してツモ切り。
次巡ツモ。ノータイムで打

「これでを打たなかったらちょっと危ないかもしれないですね」
そう話した解説の木原に応える形となる。
そもそも切りに正解なんてない。でも佐月の正解は切りで、こうやってここまで戦ってきた。

10巡目にを引き入れて元気良く先制リーチ、場にソーズが高く待ち牌は残り1枚だったもののを一発ツモ。

 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ

いつもの麻雀でいいのだと背中を押すには充分すぎる2600オール。

東1局1本場
佐月がいつも通り打っているとなると本当にやっかいである。
豊後が2巡目にこの形からをポン。
 ドラ
役牌2つだから当然のポンだろうという意見もあるが、豊後の思考はそれとは違う。
通常のリーグ戦ではオタ風のを1鳴きした豊後に対して雑に役牌を切る者はいない。

でもここは違う、佐月の下家でを1鳴きすることで、愛内・朝倉がきっとアシストしてくれるはずだ。

1巡後に愛内が豊後の切ったを持ちながらを切り、待ってましたと豊後がポン。
勝つのはいつだって一人だ。でもなんだろうこの感じ。声に出さなくても会話が成立する。
信頼の上で成り立っている打牌。これだから競技麻雀はやめられない。

6巡目にはと鳴いている豊後に朝倉がピンフテンパイからドラのをそっと切る。

直後にまだイーシャンテンの豊後から出たで1000は1300。豊後の表情も満足気だ。

この局のテーマは「佐月の親を流すこと」
3人の気持ちは一致している。

東2局
朝倉に勝負手が入る。
 ドラ
上家から出るもスルーするが、その直後に佐月からリーチの声。
北家・佐月
 ドラ
ドラもない愚形リーチ。しかし残り1枚のを朝倉が掴み1300点。

佐月がリーチを打たなければ朝倉のツモ切った最後のでアガれずに、逆に朝倉の勝負手が決まっていたかもしれない。

東4局
前局に佐月から8000点をアガった親の朝倉の手牌。6巡目にして
 ドラ
目の前に見える四暗刻。これが決まれば形勢逆転だ。四暗刻へ変化する牌はまだ山に残っている。

しかし手替わる前に愛内がドラのをポン。そしてドラを切った豊後からリーチ。朝倉が一発で掴んだは豊後への放銃となる。
西家・豊後
 ロン ドラ 裏ドラ

先ほどの佐月への放銃もそう。勝負手の時に限って止めようのない形で掴まされる。
いつも穏やかな表情の朝倉が少しだけ唇を噛んだ。

南1局1本場
前局2000オールをツモった佐月から豊後が、望外の七対子・ドラ2、6400は6700を直撃。

そこから南2局は3本場まで積み、豊後がトップ目となったところで親番終了。

南4局2本場
東家・朝倉 22700点
南家・佐月 24000点
西家・豊後 36100点
北家・愛内 16200点

朝倉がジリジリと佐月に近づいてくる。豊後も自身のトップは大事だが、とにかく佐月の着順が落ちてほしいと願っている。
「佐月の配牌も枯れてきましたね」と木原がコメントするが、その佐月から3巡目にポンの声。

南家・佐月
 ドラ
ここからをポン。

佐月が初めてニコ生で対局した半荘の成績はラスだった。
しっかりオリたし、対応もした。それなのに自分以外の全員が4000オール・6000オールとアガり自分の点数を奪っていく。

終わった時に佐月はこう言った。

「何が悪かったかわかんない。何もしていないのにラスだった」

でも、上手くなりたいと思い、たくさんの先輩の麻雀を見ているうちに気が付いた。

手牌が悪くて何もできないなんてただの言い訳で、その時の自分は良い配牌と良いツモが来るのを待っているだけだったんだ。
何もしてないのに負けたんじゃなくて、何もしなかったから負けたんだ。

生牌のが豊後と愛内に1枚ずつ配られ、前に出ることができない。
さらにまで掴んでしまった愛内は撤退。

その間に佐月の手牌は見事な変貌を遂げていた。
 ポン ドラ
たった一言のポンがここまで大きく状況を変えたのだ。

しかし、だからと言って引くわけにはいかない朝倉。
自分がテンパイしなければ佐月は2着。仮に佐月に満貫を放銃しても同じく佐月は2着のままである。

河ももう3段目に入ろうとしているところ。
東家・朝倉
 ドラ
オーラスの親番で絶対に聴牌しなければいけない場面、それでも朝倉はワガママにピンズを押すことはできなかった。

ここから打。絶対にピンズは切らないという意思のこもった切り。
その後を引いて打、佐月から出たをポンして打で形式テンパイ。

「ノーテン覚悟だったよ。テンパイできたのはラッキーだったね」と朝倉は照れくさそうに笑うが、これをできる人がどれだけいるのだろうか。

豊後と愛内もピンズと字牌を抱え込み、朝倉の1人テンパイで流局。

ここまで展開に恵まれない中、持ち前の丁寧な麻雀と粘り強さでなんとか食らいついてきた朝倉だったが、
3本場で5800のテンパイから愛内のリーチに8000を放銃しラスまで落ちてしまう。

11回戦結果(トータルスコア)
佐月 ▲16.9(+159.1)
愛内 +5.1(▲35.4)
豊後 +55.0(▲61.6)
朝倉 ▲43.2(▲62.1)

第9期以来、5年ぶりに決定戦の舞台に立った朝倉は、家庭を持ち母となっていた。
新しい人生を歩みだして嬉しい反面、職場の麻雀荘でそれまで応援してくれていたファンに
「結婚したんですね。残念です・・・」と言われて切なくなったりもした。
自分の幸せの影で誰かが悲しい思いをしている。それからなんとなく、自分の口からは結婚のこと、出産のことを公に言うことはなくなった。

女流プロとしての需要も無くしたくない。輝いているみんなを見て焦りもあった。
「女流プロ朝倉ゆかり」との両立を考えると心がモヤモヤしたりもした。

選手としてもそう。家族の協力もありリーグ戦には復帰したものの、昔ほど思うように麻雀に時間を割けなくなった。
女流プロとして。競技選手として。果たしてこれでいいのか。

なんでもない帰り道、ふとした瞬間に訪れる、朝倉にしか分からない悩みが、いつもひっそりと朝倉の胸を締め付けた。

それでも、

―――おかえり!!

何かで悩む朝倉を、何も聞かずに笑顔で出迎えてくれる旦那さん。
ふらふらしながらも、小さな足で一生懸命、玄関に向かって歩いてきてくれる娘。

ずっとずっと不安だった、居場所を見つけたくて麻雀を打っていた昔の自分に声をかけてあげたい。
今はここが、自分の居場所なんだ。

どんな時でも自分の味方をしてくれる2人のファンが、いつも背中にいる。
それだけで、心のモヤモヤも、大きいと思っていた悩みも、なんだかちっぽけに思えてくる。

昔から我慢強い性格だった。周りの人にワガママを言うことだって少なかった。
結婚と出産と子育ての経験の中で、今まで以上に「物事は自分の思い通りになんて進まない」ということも知った。

不運な放銃が続いたって、麻雀はそういうゲームだということを知っている。
それでも麻雀が好きなのだからすべて受け入れよう。 こんなに悔しい思いをできることもまた、幸せだということを知った。

結婚と出産。ただの競技選手だったあの頃には無い、この5年間で身に付けた朝倉の新しい武器。
背中に穏やかな温もりを感じながら朝倉は、もう一度「ひとりの挑戦者」として、再びこの舞台に立つ。

 

★12回戦(佐月-朝倉-愛内-豊後)

開始早々愛内が3連続アガり。

東1局、朝倉とのリーチ合戦を制し6400。
西家・愛内
 ロン ドラ 裏ドラ

東2局、一通と三色の両天秤から、高目三色のリーチで佐月から8000。
南家・愛内
 ロン ドラ 裏ドラ

そして迎えた親番は好配牌でドラが対子。
佐月からリーチが入った後もポンテンの5800をとらずに自力でテンパイ。先ほど通ったばかり佐月の現物牌で豊後から12000。
東家・愛内
 ロン ドラ

気が付けばあっという間に50000点オーバーである。

第8期女流雀王決定戦に入会1年半の最短で出場した愛内。
朝倉が優勝したその決定戦で、最初に見逃しをかけたのは愛内だった。

当時の決勝戦で戦った眞崎が、自分の雀力を認めてくれていないのはわかっていた。
それでも眞崎が自分の意図を汲み取ってくれて共闘できた場面もあった。
それが本当に楽しかったし、条件戦にもっともっと強くなりたいと思った。

その頃の愛内は、女流としての活動はどうでもいいと思っていた。

「強ければ、強くなればいいんでしょう」
周りの女流プロを見ながらいつもそう思っていた。

その後、何度か決勝の舞台に進むものの、優勝して笑っているのはいつも別の人・・・強ければいいと思っていたのに結果が出ない。
気が付けば自分がどうして麻雀を続けているのかわからなくなっていた。

自身2回目の野口賞の決勝戦の椅子に座った時にこう思った。

「これで負けたら‥もうやめよう」

これが最後の対局かもしれない。プロでいる意味とか理由とかではなく、ただ必死に打った。
夢中で最後のピンフをツモアガり、初めて優勝者としてカメラの前で真ん中に立った。

だから今ここにいる。
最終日のオープニングでは「タイトルにかける想いはこの中では強いと思う。その気持ちを見せていきたい」と話していた。

ニコニコしながらたくさん話すのは得意じゃない。だから私は麻雀で魅せる。

南入してからは豊後が佐月から8000を出アガり、佐月が暫定ラスとなった。
一気に佐月との差を縮められるチャンスが訪れる。
愛内トップ−佐月ラスでこの素点差だと、トータルポイントの差を一気に50ポイント辺りまで縮められる。
絶対にとりたい女流雀王にグッと近づいた。

南2局
しかし周りは、ただ黙ってトップをとらせてくれる相手でもない。
豊後がイーシャンテンで暗刻からドラを切って七対子に決め打ち、ほどなくテンパイし一発ツモ。
西家・豊後
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ

愛内47300点
豊後43600点
その差3700点にまで詰め寄った。

南3局
またしても豊後から七対子ドラドラのリーチ。
南家・豊後
 ドラ 裏ドラ
聴牌の佐月からが出て8000の出アガり。このアガりで豊後がトップとなりオーラスを迎える。

南4局
東家・豊後 51600点
南家・佐月 ▲6400点
西家・朝倉 7500点
北家・愛内 47300点

このままでは終われない愛内にドラのが対子、4300点差なので親の豊後はノーテンで伏せることができる。
逃げ切りたい親の豊後とハネ満ツモがほしい佐月の手にドラがあり簡単には出てこなそうではある。
しかし7巡目、思わぬところからが打ち出される。

東家・豊後
 ツモ→打 ドラ
前のめりに感じる豊後の打牌、それには豊後なりの考えがあった。

ドラを鳴かれて困るのは、この巡目で愛内に対子の時だけ。
朝倉に鳴かれたらオリればいいし、早めに字牌を切っている佐月がドラをポンしてハネ満になるのはトイトイくらいなものだろう。
仮に愛内の手にドラが対子だとして、自分が切らずともリーチとなれば5200以上が確定。
それならば現状イーシャンテンの自分がアガってしまおうという考えだ。

ツモで四暗刻も見えてくる。
優勝するためのドラ切りであったが、そこだけはと思っていた愛内からポンの声。

ツモで渋々イーペーコーのテンパイを取るも、次巡には先に来てほしかったツモ。

ここで豊後は空切ってリーチと出た。
ポンの時に少し迷った愛内がまだテンパイしていないと読んだか、それともこの最終日に懸ける想いを、戦う姿勢を示したかったのか。
どうせ2人ともオリないんだからめくり合いましょうという宣戦布告なのかもしれない。

結果は朝倉がそっとピンフのテンパイを入れるも、親のリーチ後にテンパイした愛内がツモって2000・4000。
北家・愛内
 ツモ チー ポン ドラ

愛内が佐月とのトップラスを決めた。

12回戦結果(トータルスコア)
佐月 ▲68.4(+90.7)
愛内 +76.3(+40.9)
豊後 +26.6(▲35.0)
朝倉 ▲34.5(▲96.6)

決定戦の1ケ月ほど前、新宿の思い出横丁で愛内と昼からお酒を飲んだ。
普段はそんなにペラペラと喋るタイプではないが、お酒が入ると機嫌が良さそうによく喋る。

2人で飲むのはリーグ戦の後以来だろうか。その日は、飲み始めからめずらしく喋りだした。
カレンダー撮影のこと、ファンクラブイベントのこと、協会の後輩たちのこと・・・意外と言っては失礼かもしれないがビックリした記憶がある。

「いきなりどうしたの?よっちゃん。今までそういうの全然興味なさそうだったのに」
そう尋ねると、

「いや、みんながダメすぎるからさ。だから私がやってるだけだよ」
そんなぶっきらぼうな答えが返ってきた。少しだけ慌てて、少しだけ恥ずかしそうに。

昔は自分だけが強くなればいいと思っていた。でも、そんな自分にアドバイスをくれる先輩がいた。勉強する場所を与えてくれる人達がいた。

「応援してくれるみんなのために頑張ります!」そんな言葉嘘だって思っていたけれど、今はその意味がよくわかる。
「みんな」と聞いて思い浮かぶ顔が今の私にはたくさんあるから。

4軒目のお店でもう完全に酔っぱらっていた愛内が言った。

「私・・・女流雀王とりたいんだよね」

「いいよ?今年なら。私決定戦にいないし」

そう答えるといつもの感じでフッと笑い、もう何杯目かもわからない緑茶ハイのグラスに口をつけた。  

 

★13回戦 (朝倉-佐月-愛内-豊後)

東1局
朝倉の配牌が良い。
東家・朝倉
 ドラ
ここまで我慢を重ねてきた朝倉。
この4000オールから6000オールが見える手牌を絶対にものにしたかったが、リーチどころかテンパイすることもできず親が流れてしまう。
豊後、佐月の2人テンパイ。

東2局1本場
悔しい親落ちをした朝倉だったが、恵まれた配牌をしっかり仕上げ、佐月を親被りさせての2100・4100。
北家・朝倉
 リーチツモ ドラ 裏ドラ

東3局
北家の佐月が先制リーチ。
北家・佐月
 ドラ
リーチの時点でドラのが3枚、が1枚残っている。佐月のアガりも時間の問題か。

しかし、豊後が一発消しのチーをしての暗刻落とし。
これにより、なんと一発ツモのを含むアガり牌が3枚愛内に流れることに。

流れたのは結果論だが、オリるにしても今自分ができることをやる。豊後は戦えない手牌を配られても戦う姿勢を崩さない。

「もしかしたら報われないかもしれない・・・」
そう心のどこかで思いながらずっと地道な努力を積み重ねてきた豊後を象徴するかのような一発消しがファインプレーとなる。

佐月のアガり牌がどんどん愛内に流れる中、仕掛けた朝倉がツモって1000・2000。
西家・朝倉
 ツモ チー ドラ

佐月と292.6ポイント差で最終日を迎えた豊後。
「協会ルールではまだわからない点差」とはよく聞く言葉だが、「まだわからない」とは
「可能性が無くもない」という意味であり、決して簡単だということではない。

それでも2日目が終わってからの豊後は前向きだった。

「去年だったらね。もうダメだと思っていたかもしれない。でも今は強がりじゃなくて本当に大丈夫だと思っているの」

その言葉を聞いた時、もしかしたらこれも強がりなのかもしれないと思った。
“いつも明るく元気で前向きな豊後葵”がそう言わせているのかもしれないと。

でもそれは違ったのだと、豊後の本心だと画面の中の豊後は気づかせてくれた。

南2局
東家・佐月 17400点
南家・愛内 25800点
西家・豊後 21400点
北家・朝倉 35400点

優勝するためにはここでもう1回トップの欲しい豊後。テンパイで少し手が止まる。
西家・豊後
 ツモ ドラ
ラス親が残っているとはいえ、佐月がラスなのでゆっくり親をやらせてはもらえないだろう。
ドラもある、役牌もある、リャンメンに受けてもツモれば満貫だ。ここでのでのアガり逃しは痛い、そのためにを残しておいたのだから。

どうする?

を掴んで小さく息を吸い、リーチ。いつもの豊後の振りかぶったようなフォームではなかったが、それがまたゾクッとした。

「女流雀王ってカッコいいな・・・」

パブリックビューイングの会場で誰かがポツリと言った。みんなが女流雀王の選択を見守る。

女流雀王になるまではあんなに長かったのに、この1年はあっという間だった。まだまだやりたいことはたくさんある。
女流雀王は私なんだ。それを今、証明してみせる。

一発で豊後のもとに舞い降りた

みんながワッと立ち上がる。
「マジで連覇あるぞ・・・」ニコ生にコメントが流れる。
画面の中からでも伝わるのだろう、言葉じゃない、体中から放たれるオーラ。

女王の風格、3000・6000。

その後も悠々と満貫をツモった豊後が佐月とのトップラスを決めた。

13回戦結果(トータルスコア)
佐月 ▲58.6(+32.1)
豊後 +61.4(+26.4)
愛内 ▲21.2(+19.7)
朝倉 +18.4(▲78.2)

「もしかしたら最後になるかもしれないので言わせてください!第13期女流雀王の豊後葵です!」
笑いをとりながら、オープニングでこう挨拶をした豊後。

2日目を終えた時点で大きなビハインドを負ってしまった。
「現女流雀王」という肩書きは今日で最後かもしれない。

念願の女流雀王になってから1年、協会の代表として対局に挑むことが多くなった。
そこで負けると、これまでよりもみんなに申し訳ない気持ちになった。

それでも、お店に会いに来てくれるファンの言葉はいつだって豊後を笑顔にしてくれた。どんな時でも豊後を見守り応援していてくれた。
常勤しているお店のメンバーだってそう。女流雀王になってから急な撮影や仕事の依頼が増えたが、その度に誰かが休みを返上してシフトを代わってくれた。体調を崩した時も、文句ひとつ言わずに少しずつ分担して穴を埋めてくれた。

「大丈夫だよ!ぶんちゃん!行ってらっしゃい!!」

この言葉に何度助けられただろう。私1人が頑張ったわけじゃない。みんなが「女流雀王豊後葵」の活動を支えてくれた。
みんなと一緒に戦っているんだ。こんなビハインドで「ダメかもしれない・・・」なんて言っていられないんだ。

女流雀王として過ごしたこの1年は、協会行事に積極的に参加した。

「女流雀王と一緒に麻雀が打てて嬉しいです!」

チャンピオンロードでかけてもらった言葉が嬉しかった。

「1度でいいから女流雀王になってみたい」

昔はずっとそう思っていたのにな。1度じゃ満足できないんだ。

連覇まで、あと少し。

 

★14回戦(佐月-朝倉-愛内-豊後)

東1局
朝倉が初巡からを暗カン。
南家・朝倉
 ドラ
守備意識の高い朝倉がこの手牌から暗カンをする姿なんて滅多に見られないが、ほぼ2連勝条件であり、手牌に4枚目を持っている猶予などない。カンドラは

しかしこのカンドラが佐月に暗刻となり、七対子テンパイの豊後から12000。
東家・佐月
 ロン チー ドラ

「ここから佐月がメンゼンテンパイでダマるようなら危ないですね」
解説はこう話していたが、そこから3局連続テンパイ、チャンタの手代わり待ちでダマテンにした以外はすべてリーチ。

親の朝倉のリーチにも怯まずに追っかけリーチで流局。
次局はピンフのみで先制リーチ。愛内からリーチが入るも裏ドラが乗って3900は4200のアガり。

周りからの心配の声も軽く聞き流し、着実に女流雀王への階段を上がっているように見えた。

13回戦が終わり、もうポイント差が無くなったことで逆に吹っ切れたのだろう。
1回戦の気持ち、ワクワクしてしょうがなかったあの時の気持ちを佐月は思い出してた。

しかし持ち点が40000点を超えたところで、また気持ちが揺れだしてくる。
とにかく3人とも強いんだ、いつだって私は狙われている。
せっかくのリード、しかも2着目は朝倉。愛内は20000点を切っているし、豊後は10000点ほどしかない。

自分にとって最高の並び。このまま終わればいい。無理して無駄に点棒を吐き出してはいけない。
天使なのか悪魔なのかわからない囁きが佐月にだけ聞こえてくる。

東3局
西家・佐月
 ツモ ドラ
11巡目、ドラは既に2枚見えている。今までこの手を元気にリーチしてきた佐月の手が止まった。
手が止まるのであればイーシャンテンに戻すかとも思われたが、をそっと河に置き役なしシャンポンのままリーチせず。

佐月の中で何かが変わってきた。
その後、親の愛内がカンチャン待ちのフリテンリーチ。

佐月が先制リーチを打っていたら愛内がフリテンリーチを打つことはなく、それによってテンパイを崩すこともなかったのかもしれない。
愛内、朝倉の2人テンパイで流局。

この佐月の小さな変化を3人は見逃さなかった。

東4局
朝倉が先制リーチ。
西家・朝倉
 ドラ
イーシャンテンの豊後は臨戦態勢、佐月はベタ降りを始める。
愛内はできるだけ形を崩さないように回っているが、テンパイを入れるにはワンチャンスで無スジのを勝負しなければならない。

愛内の切ったを豊後がチー。
親の豊後がテンパイを入れたと見て、愛内はを勝負して形式テンパイをとる。

「形式テンパイのために無スジを押す」見えている状況を言葉に出すと無謀に見えるが、
「佐月を1人ノーテンにするために無スジを押す」という選択をしたと考えたらどうだろう。

全員で佐月との差を4000点縮め、佐月に精神的なプレッシャーを与える。
そのために無スジを押す。押す価値がある。この選択が瞬時にできるから愛内は強い。

佐月の1人ノーテンで流局。

誰も佐月を楽にしてくれない。点棒はたくさんあるのに、ずっとずっと息苦しい。

さらに豊後が2つあった役牌の対子を仕掛けずにメンゼンで仕上げてリーチ、4000オール。
東家・豊後
 リーチツモ ドラ 裏ドラ
7500点しかなかった点棒を20000点台まで戻してきた。

それまで厳しい顔をしていた佐月がフッと笑った。元々私が勝てる相手じゃなかったかもしれない。
それでも今、こうやって戦えているんだ。すごいよ私、よく頑張ったよ。
こんなに強い人達と麻雀を打っていることが純粋に楽しくて幸せだと思えた。

女流Aリーグ2年目の佐月。女流BリーグからAリーグに昇級が決まった直後に「パブリックビューイングの解説をやらないか?」と誘われた。
楽しそうだし、解説の練習にもなるからと思い依頼を受けた。

新橋の道場で見た女流雀王決定戦最終日、たくさんの人が画面の中の4人を応援していた。
選手たちが声に出さない分、ここでは1局終わるごとに大きな歓声が上がった。

いいな・・・と思った、純粋に。

「私もいつかこの画面の中で戦いたい。みんなにこうやって応援してもらいたい。来期からAリーグ頑張ります!」

最後にそう挨拶した佐月に会場のお客さんがたくさんの拍手を送ってくれた。

きっとあの時のみんなが今年も道場で応援してくれている。いつもの佐月でいいんだ。
それで負けてしまっても、きっとみんなは「また来年頑張ろう!」って言ってくれるはずだから。

南3局1本場
西家・佐月
 ツモ ドラ
ドラを切って元気よくリーチ、しっかりツモって500・1000。
オーラスも冷静に打ち回し、自分でアガりトップを決めた。

14回戦結果(トータル)
佐月 +61,6(+93.7)
豊後 ▲20.0(▲6.4)
愛内 ▲50.6(▲30.9)
朝倉 +9.0(▲69.2)

いよいよ最終戦。条件は以下の通り。

豊後
佐月とトップラスなら7300点差、トップ3着なら27300点差をつける。

愛内
佐月とトップラスで44700点差をつける。

朝倉
佐月とトップラスで83000点差をつける。

佐月
3人に条件を満たされずに終われば優勝。

★15回戦(愛内-朝倉-豊後-佐月)

東1局
麻雀の神様が最後の試練を佐月に与えた。ソーズに寄せた朝倉がテンパイ。
南家・朝倉
 ドラ
2枚切れの、地獄単騎のメンホン七対子でリーチ。

神様は最後のを一発で佐月に配った。

「さぁ。どうする??」

とりあえず現物を切る。
次巡、2連続ツモで以下の形。
北家・佐月
 ドラ
特別いい形ではないが、ツモ次第では戦えるかもしれない。2枚切れのぐらい、佐月なら切るのではないかと思った。
しかし切ったのは今通ったばかりの。これで現物はゼロになり、が出るのは時間の問題かと思われた。

朝倉の捨て牌は第1打がで変則手の可能性が高い。しかし七対子にしては気になる点が1つ、途中での対子落としを挟んでいる。

2年前、佐月は發王戦のトーナメント会場にいた。
1回戦、2回戦と勝ち上がり、3回戦も好調だった・・・はずだった。

ダンラスのリーチ、牌を横に曲げたのは第11期女流雀王の冨本智美だった。
冨本の河はマンズの染め手だろう。と切ってリーチ。

マンズは何を引いてもテンパイ維持できる形だった。そこに持ってきたを「あぁ。2枚切れね」と、ホッとしながらを切った。

「ロン!」

開かれた冨本の手牌はリーチメンホン七対子。この放銃によりラス落ちし、敗退となってしまった。
ほんの1ヶ月前に画面の中で戦っていた冨本の強さを見せ付けられると同時に、自分の弱さを思い知った。

女流雀王になるには、こんなんじゃダメなんだ。もっともっと勉強しなくちゃ。同じミスは絶対にしちゃいけない。
悔しさを忘れないうちにノートにその日のことを綴った。

変則的な河・ソーズが高い・の対子落とし

ただの七対子ではない。でも・・・
あの日の光景がよみがえる。最後の2巡、佐月はまだ通っていないスジのの対子落しを選択しが河に置かれることはなかった。

裏ドラも乗っていて倍満となっていた朝倉のリーチ。神様は佐月にやさしく微笑み満足そうに頷いた。

「うん。合格!」

東場で愛内が豊後から12000をアガったことにより、難しいことを考えずにこのまま局を進めていけば良くなった。
一歩ずつ一歩ずつ、女流雀王への階段を上がっていく。

しかし豊後にも現女流雀王の意地がある。神様が佐月に合格を出しても、豊後は最後まで負けを認めるつもりは無い。
南1局、南2局と豊後が力強くアガり、原点付近へと点棒を戻してきた。

そして、豊後の最後の親番。

東家・豊後 24700点
南家・佐月 26800点
西家・愛内 32700点
北家・朝倉 15800点

最終戦開始時で、佐月と豊後のトータルポイント差は87.3ポイント。
事実上、ここで佐月が豊後の親を蹴ることができれば、もうほとんど佐月の優勝である。

しかし。

神様にも抗うように、第13期女流雀王の豊後葵が、挑戦者の佐月麻理子に最後の牙を剥いた。

「リーチ!」

豊後捨牌


豊後らしく熱のこもった発声が、静まったスタジオに響き渡る。
待ちも点数も分からないが、勝負手であることは伝わってくる。

一方で佐月も、リーチの前にリャンメンテンパイを、そしてその形から仕掛けて単騎のテンパイをとっていた。
南家・佐月
 ドラ
ここから佐月はにポンの声をかけ、単騎に受けた。

が豊後に通っているわけでもない。これには正直、実況解説の全員が驚いた。

後から佐月の思考を聞いてみた。
返ってきた回答は、なるほど佐月らしい無邪気な回答であった。

「現状3200点のテンパイを8000点にする鳴きだから!」

常勤のお店、ゲスト先、いつも1番手で麻雀を打ってきた。
帰宅後も時間を見つけては、地元の麻雀荘に通った。

勝つための正しい選択であったかどうかは、いつも終わってみるまで分からない。
しかしこんな大舞台にも関わらず、まるで体が覚えているかのように、勝手にポンの声が出た。

これまで沢山打ち込んできた努力と、その天真爛漫な性格。
そして時に異端にも映る、勝負所でのひとつの感性。

思えば、歴代女流雀王が備えていたものを、佐月もまた持っていた。
 ツモ ポン ドラ

佐月麻理子。
新しい女流雀王の誕生である。

プロになって4年、たくさんの経験が佐月を強くしてくれた。
失敗もたくさんしてきた。反省してもしきれなくて眠れない夜もあった。
それでも同じミスを繰り返さなければ、絶対に強くなっていくはずなんだ。
まだまだ成長の途中、来年はさらに経験を重ねて強くなった佐月に会えることだろう。

 

「長い人生の中で、私はまだまだ若手。家族や周りを大切にしながら、これからも麻雀を続けていけたらいいなって思う」そう話す朝倉。

崎見や奥村に続いて、ママになってからも第一線で活躍する女流プロの誕生。それは私たち後輩の憧れる姿である。

「産休から復帰して、打ち込む時間もなくて自分に自信も持てなくて、でもここまで来れて最後まで戦えて良かったなって思います」
画面の中で立派に戦ったママの姿。パパの膝の上にちょこんと座っている小さな娘にはどう映っていたのだろう。

「ママ、カッコ良かったね」

パパが言ったその言葉にキャッキャと嬉しそうに笑い、四角い機械の中で話すママに手を振った。

第4位 朝倉ゆかり

 

配牌に恵まれず、苦しい展開が多かった愛内。
初日は1人でマイナスを背負ってスタート。2日目は誰よりもそれぞれの着順とポイント差を意識して打った。

朝倉から高そうなリーチが入っているのにも関わらず、佐月の失点チャンスだと読み、
また豊後の親を1600点で流さないために七対子のアガりを見逃した。
結果は裏目に出てしまったが、タイムシフトを見た3人はどう思っただろう。

「最大級のリスクを追って、結果ラスを引いたわけですが、その代わり別の何かを守ったと思っています」

4人で戦うことの意味、その場の点棒収支だけではない別の戦い。競技麻雀が楽しいと知った。
誰よりも努力していますとか、頑張っていますだなんて言うつもりはない。
ただ好きだから打っている。好きだから強くなりたい。ただ、それだけ。

第3位 愛内よしえ

 

「今までは最終日に大きくマイナスしていると、そのまま何も出来なかったんです。
でも今年は違いました!やっぱり成長したな?って思いました!」

厳しいポイント差なんて最初から無かったかのように、
ギリギリまで佐月を追いつめ連覇目前まで這い上がってきた豊後。
オーラス、牌を伏せた佐月がただ呆然とまばたきをしている時、最初に「おめでとう!」と声をかけたのは豊後だった。
これがどんなに嬉しいことかを、筆者も豊後も知っている。そして佐月もこの時にきっと知ったのだろう。

「豊後さん、ありがとうございます」

4年前、プロになったばかりの佐月は、たくさんのことを豊後から学んできた。
麻雀荘での仕事、周りの人への接し方、女流プロとしての心得・・・
衝突もした、わかりあえないこともあった、それでもやっぱり豊後は憧れであり目標だった。

「対局開始前、いつも豊後さんが場を和ませてくれたんです。自分のことだけ考えていればいいのに。豊後さんらしいです」

これからもきっとたくさんの後輩達が、この明るさとひたむきさ、そして優しさを目標にして行くのだろう。

準優勝 豊後葵

 

「いや〜佐月〜あれはないわ〜」

いつの間にか特大サイズになったジョッキを持った先輩たちに囲まれる佐月。

「だって〜!満貫になるじゃないですか!」

佐月もジョッキを持ち負けじと立ち向かう。

「リーチの直後にアガり牌持ってきたからいいけど、あれアガりじゃなかったらどうしたの?」

「それはぁ〜」

「あれ、実際には豊後の入り目だからね!あそこで満貫アガるのと豊後に放銃しないのどっちが大事だと思う?」

「そうですけどぉ〜」

「唯一通りそうなポンして、牌の種類は4種類。-が悪いわけでもない。
(実際に朝倉、愛内ともに1枚ずつ切っていて山に6枚眠っていた)3200点だってアガればほとんど勝ちだよ」

佐月を囲んだ愛内、朝倉、崎見、そして筆者。

五十嵐代表と実況の金もうんうんと頷くだけで、この会話で佐月の味方は1人も居ない。

「それにオーラスの1300オールだってさぁ〜」

「あれは怖かったんですってばー!!」

「怖いって・・・次局豊後に地和ツモられたらどうするの!!自分の条件は変えずに豊後にもう1回優勝のチャンスを与えてるんだよ!」

「そっかぁ〜」

この2つの局が気になる方はぜひ映像で確認してみてほしい。

麻雀人生で初めて経験したあんな状況。オーラスの佐月パニックは実に可愛らしい。
これもまた経験だ。

同じ経験をした私だから佐月に言えることがある。
先輩達がこうやって「へたっぴー!」ってダメ出しするのは、あなたが好きであなたの成長を願っている証拠なんだ。
この口うるさい先輩達は、あなたの優勝を心から祝福すると同時に、あなたのこれからの成長に誰よりも期待しているんだ。

「もうわかりましたってばー!次からは鳴きませんからー!!」

 

私ね、予言者なの。
だからこの先の未来を1つ教えてあげるね。

ここから1年、たくさん考えて、たくさん失敗して、たくさん悩んで、それでも大好きな麻雀と向き合って・・・。
そして来年この場所で、あなたはたくさんの人にこう言われるの。

「佐月、すごく上手になったね」


第14期女流雀王 佐月麻理子

(文・大崎 初音)

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