

順位 |
名前 |
TOTAL |
1日目 |
2日目 |
最終日 |
1
|
伊達 直樹 |
150.8 |
89.3 |
98.2 |
-36.7 |
2
|
中林 啓 |
111.7 |
4.4 |
16.2 |
91.1 |
3
|
福田 聡 |
-23.6 |
-71.2 |
21.2 |
26.4 |
4
|
中里 修樹 |
-238.9 |
-22.5 |
-135.6 |
-80.8 |
【1日目観戦記】
|2日目観戦記|3日目観戦記|
プロと呼ばれる以上、当然アマチュアとの差がなければならない。
プロ野球選手と甲子園球児との技量は雲泥の差、将棋・囲碁の世界でも勝敗は火を見るより明らかである。
だが麻雀の場合、比較的簡単にアマがプロに勝てるゲームであり、強さや成績に関する限り短期での差はほとんどない。
それゆえ「麻雀プロ」には、強さ以外でのアマとの線引きが求められる。
これは私見であるが、勝ちにこだわることだけではなく、アマにはできない独特の打ち方や個性なども大切ではなかろうか。
特にタイトル戦の決勝ともなると、牌譜を採られたことのない選手などは自分をアピールする絶好の機会と思うべきである。
ただ勝つだけならアマでもできる。
プロと呼ばれる存在なら、カッコよく勝ち、カッコよく負けてもらいたい。
ダサく負けてしまうことのほうが圧倒的に多いのだから…
雀竜戦とは一年にC級→B級→A級の順に行われるランキング制のタイトル戦。
そのため実力や実績のある者よりも、その時期に脂の乗った選手が良い成績を残す傾向にある。
今期の雀竜戦を勝ち上がった3人は以下の通り。
1位通過:大脇貴久(B1→A)
2位通過:中林啓(C2→C1)
3位通過:中里修樹(C1→B2)
注:カッコ内は雀王戦の所属リーグと来期のリーグ
3人とも今期のリーグ戦で昇級を決めており、好調ぶりがうかがえる。
そしてその勢いの乗った挑戦者たちを迎え打つのが現雀竜位の福田聡である。
好調といえばディフェンディングの福田も負けてはいない。
今期のリーグ戦はB2→B1と昇級、そして何よりも第20期最強位の栄冠に輝いている。
勢いは互角…となると、注目すべきはやはり各々の個性ではないだろうか。
★第1回戦★(中里→大脇→福田→中林)
中林啓。プロ暦2年目の新人だが、スケールの大きさと爆発力を兼ね備えた雀風の持ち主。
今年度に入ってからは、C3→C2→C1と一気に駆け上がり、また第八期野口恭一郎賞では最終選考に残るなど将来有望な若手として期待されている。
最初のアガリはその中林が決める。

東1局、10巡目のポンテン、そしてすぐに大脇からのロンアガリ。
ポンテンの時点では中里・大脇ともにリャンシャンテン、福田はイーシャンテンながらもペンチャンとシャンポンの愚形。
僅か1300点の先制であるが、まずは好調な立ち上がり。
東2局、東家の大脇が配牌からドラ対子のチャンス手。

6巡目から無駄ヅモが続くが、ようやく13巡目にイーシャンテンで次の手牌。
            ツモ ドラ
二度受けのペン を当然嫌っていく。
そして15巡目にツモ でリーチ。
この時点で は1枚しか山に生きていないが、17巡目に大脇はその をツモって4000オール。
前局はリャンシャンテンからの放銃と、不安なスタートを切った大脇だったが、
いきなり中林に負けず劣らずの状態の良さを見せつけた。
東2局1本場9巡目、大脇が先制リーチ。

だがすでに6巡目に中林はテンパイを入れていた。
            ドラ
ドラドラのチートイツ。
1枚切れの タンキに構えたところ大脇のリーチが入り、
そして一発目にツモ 。
安全度を重視して を切ると直後に大脇が ツモ切り…。
アガリ逃しの感があったが、次に選択した タンキで押し続け大脇から6400を直取り事無きを得る。
このアガリに気を良くした中林は、東3局で大きく出る。

2巡目で以下の手牌。
            ツモ ドラ
が1枚切れなので や に手をかける打ち手もいるかもしれないが、中林はノータイムで打 とソーズに寄せる。
そして4巡目、残した が重なり、5巡目にポンテン。
12巡目に中里がチートイツのイーシャンテンで をツモ切り、中林のアガリとなる。
         ロン ポン  
この時点で、1回戦は完全に中林と大脇のマッチレースの体をなす。
中林→大脇→中林→中林ときたが、次のアガリ番は?
東4局では大脇にドラドラのチャンス手。

イーシャンテンの段階では123の三色を意識して孤立牌の を残す。
            ドラ
 と入ってカン リーチ、そしてツモアガリ。再び大脇がトップ目に立つ。

その後大きな点数移動も無く南3局。この局中林のスケールの大きさが見られる。

5巡目に のポンテン。
           
ダブ と中ブクレ のシャンポン待ちである。
もちろん一手変わりでトイトイに変化する…がポンテンの同巡、4枚目の が大脇から出る。
だが中林はなんとこれをスルー。
たしかに だと1300しかない。
だがトップ目からの直撃、そしてラス親が残っているだけにアガリを選択する打ち手も多いだろう。
その後、6巡目に中里が打 で5200。
中林の選択が吉と出た結果となった。
南4局、親番の中林が3メンチャンのピンフドラ1リーチ。

ハネ満イーシャンテンの福田から を討ち取り5800のアガリでトップ逆転。
オーラスは中里がリーヅモドラ3。

大脇と中林の視線が裏ドラに集中する。
乗れば親カブリで中林が2着落ちして大脇が浮上するからである。
だが乗らず、中林がシーソーゲームの初戦をトップで飾る。
(1回戦終了時)
中林+53.5 大脇+12.9 中里▲21.5 福田▲44.9
★第2回戦★(大脇→中林→福田→中里)
大脇貴久。層の厚い協会第2期の1人であり、第4期新人王にも輝いている。
ところでこれまで協会では、2期生のAリーガーは存在しなかった。
旧最高位戦所属選手を除くと、第1期は通算5人、第3期以降は通算4人存在するのに2期生だけは0人。
「呪われた2期生」と協会内部では揶揄されていたが、今期でついに大脇がAリーグに昇級。
来期への弾みとしてこの雀竜戦のタイトルは是非とも欲しいところである。
大脇の個性は、状況に応じて緩急自在に打てることである。
そして一発裏ドラありの協会ルールの打ち手の中では珍しく、三色目をギリギリまで追う傾向にある。
その大脇が起家、東1局6巡目に先制リーチ。

ドラの をギリギリまで引っ張ってのリーチ。
- はリーチ時に4枚生きていたが結果は流局。
東1局1本場は、大脇が6巡目にチーテンを入れ2900のアガリで連荘。
そして同2本場では大きく展開が動く。
まず西家・福田の配牌にドラの が暗刻。

ちなみに1回戦の福田が手にしたドラの枚数は半荘通じてわずか2枚。
ようやくチャンス手が回ってきたといえる。
4巡目に親の大脇が をポンしてイーシャンテン。 全員の捨て牌のトーンからドラの が固まって持たれていると読み、早アガリを狙っての仕掛けである。
だがこのポンで福田にテンパイが入る。
暗カンも入っているため ドラ3でも迷わずリーチ、そして一発高目ツモで倍満。
            ツモ ドラ 裏 
東2局1本場、大脇が1巡目から をポン。
         ポン  ドラ

ピンズが伸びればホンイツにも移行でき、そうでなくても1回戦トップの中林の親を落とせる積極的な仕掛けである。
しかし、ポンしてからのツモが全くかみ合わない。
結果論ではあるが、この を見送ると5巡目で以下のテンパイになっていた。
            ドラ
実際は をチーしてようやくこんなイーシャンテン。
      チー  ポン  ドラ
なんとかテンパイを果たすも15巡目に中里、そして17巡目には中林からリーチが入る。
結果は一発で中里から中林に12000。
            ロン ドラ 裏
ここまで大脇は早々の仕掛けが空回りして、福田と中林にリードを許してしまった格好である。
しかし東2局2本場、チーテンのタンヤオでやっと中林の親を蹴ることに成功した大脇。
東3局では一転してメンゼンでの手作りを見せる。

2巡目で以下の手牌。
            ツモ ドラ
孤立牌の に手をかけず、リャンメン決め打ちの 切りは見事。
4巡目に ツモで789三色に照準を固定。
そして12巡目にリーチ。
ハイテイで をツモり、ハネ満のアガリ。一撃でトップ逆転に成功する。
東4局、親のダブ ポンに反応した大脇は次の手牌から をチーして打 。
            出る ドラ

同巡、 をポンしてテンパイ。
そして で高目三色3900の出アガリ。
状況に対応した動きが大脇の最大の持ち味である。
トップ目に立ってからも絶妙に押し引きを使い分け、危なげなくトップを守った。
オーラスは中林が2着をキープするアガリ。

1回戦はトップで3着目の福田とは僅か4000点差とあれば、当然の仕掛けといえる。
しかし、ダンラスの中里に連荘させ、満貫ツモのトップ狙いにこだわる打ち方もあったかもしれない。
(2回戦終了)
大脇+60.0 中林+12.8 福田▲13.7 中里▲59.1
2回戦終了時トータル
大脇+72.9
中林+66.3
福田▲58.6
中里▲80.6
★第3回戦★(中里→中林→大脇→福田)
中里修樹。麻雀教室の講師を本職としており、麻雀に対しては良い意味でも悪い意味でも真面目と言える。
個性は乏しいかもしれないが、手順は正確で王道を好む打ち手である。。
東1局、中里が4巡目でダブ を重ねてイーシャンテン。

ここまで3着・4着ときているだけにこの起家はぜひ連荘したいところ。
6巡目に中林が2枚目の をポンして以下の手牌。
         ポン  ドラ
1回戦ならこの2枚目も難なく見送っていたのではないか。
先ほどオーラスで仕掛けて2着を拾った影響があるとも思えないが、
1回戦とは違い、余裕のない印象がある。
安易に仕掛けての安アガリ…局面によっては意味があるが、東1局でのこの仕掛けはどうなのだろうか。
ドラの を2連続で流し、福田が暗刻使いで10巡目に先制リーチ。
そして中里も を暗刻にしてテンパイ、 を切ってヤミテンとする。
            
そこへスジを追った中林が を切って放銃となる。
仕掛けの是非はともかく、中林にとっては手痛い結果となってしまった。
その後、中里は2度のアガリとテンパイで4本場まで連荘し持ち点を41900へと伸ばす。
一方中林はブレを取り戻せず。
特に中里が連荘中の東1局3本場。

オタ風の をここから1鳴き。
          ポン  
上家の中里にプレッシャーを与える意味もあるのだろうが、ここでも  と食い流してしまっている。
5巡目でメンホン・チートイツ・ドラドラのテンパイがあっただけにもったいないところである。
東2局5本場、中里が満貫ツモでさらにリードを広げる。

結果的にホンイツとなったが8巡目の手牌が次の形。
         ツモ ポン  ドラ
一気に寄せずイーシャンテンに構えて打 。
そしてツモ で手なりで と落としていった形である。
上家が守備型の福田では、ストレートにホンイツ狙いでは鳴かせてもらえない。
すでに2枚切れの を先に切って色寄せがぼやけたのが幸いした。
東3局、中里が2巡目でドラの を切る。

ドラの重なりや234の三色を見て、 を切る人もいるだろう。
しかし、そうすると4巡目のツモ でタンヤオへ移行できない。
基本に忠実な打ち筋が功を奏し、300・500でアガり事実上この半荘を制した。
(3回戦終了)
中里+70.8 大脇▲1.7 福田▲24.3 中林▲44.8
3回戦終了時トータル
大脇+71.2
中林+21.5
中里▲9.8
福田▲82.9
★第4回戦★(中林→大脇→福田→中里)
第7期雀竜位、ディフェンディングの福田聡。持ち味は我慢と守備だ。
ここまでは1回のアガリは大きいのだが、それ単発で終わる展開に泣かされている。
東1局、7巡目に北家・中里が2枚目の をポン。

その時の中里は以下の形。
         ポン  ドラ
234三色の移行も考えたイーシャンテンではあるが、中里の雀風上この形では突っ張りたくないだろう。
相手のリーチを想定するならば、この手は鳴かないほうが賢明かもしれない。
上家の福田は当然中里をケアしながら打つ。
特筆すべきは11巡目の福田の手牌。
            ツモ ドラ
678三色のイーシャンテン。普通なら ツモ切りもしくは 切りである。
だが福田は前巡中里に鳴かれなかった 切り。
はまだ2枚しか切られておらず、十分に三色を狙えるにもかかわらずだ。
そして、次巡のツモが絶好の 。
結果、リーチ・ツモ・表裏の満貫で、この日初めての先制リード。
我慢した福田がようやく御褒美を得る形となった。
それを猛追するのは、3回戦のラスで落ち着きを取り戻した中林。
東2局、東3局とリーチ戦法に切り替え、2連続のアガリで福田に並ぶ。
だが東4局1本場、福田が二の矢を放つ。

初巡に三元牌に手をかけるのはアマチュアの打ち方。 切りはお手本となる手筋である。
だが2巡目にドラの をツモって予定変更。
三元牌の取捨選択に成功して を重ね、さらにカン が埋まってアガれと言わんばかりのツモ。
5巡目テンパイで先制リーチ、そして当面の敵の中林から2600の直取りに成功する。
            ロン ドラ 裏
南1局、親の中林が7巡目にチートイツ・ドラドラでテンパイ。

タンキでリーチをかけるが、これは中里の捨て牌に騙された形である。
中里の配牌を見ると9種11牌。
国士無双の気配を消すため、中里はトイツの から切っていった。
もし と切っていたら、中林のタンキ選択は違っていたかもしれない。。
残り1枚の は深く、この間に福田が追いついて 追っかけリーチ。
この時点でアガリ牌が1対5、さすがに福田の勝ちとなった。
オーラスはダンラスの大脇が軽く仕掛けて2000のアガリ。

大脇にしてみれば、このままの順位で終わらせることが理想的。
長引かせて中林に2着へ浮上されるよりはと、そつなく一鳴きを入れたのである。
(4回戦終了)
福田+61.7 中里+9.4 中林▲16.7 大脇▲54.4
4回戦終了時トータル
大脇+16.8
中林+4.8
中里▲0.4
福田▲21.2
★第5回戦★(中林→大脇→福田→中里)
全員1回ずつのトップ。ポイントもほぼ振り出しに戻ってある意味仕切り直しである。
僅かながらもトータルトップの北家・大脇は東1局1巡目で打 。
             ドラ
普通ならドラ表示牌が だけに や に手をかける打ち手も多いかもしれないが、
ここでの打 は、アガリにかける強い意志が感じられた。
結果は3枚目の でチーテンを取って3900のアガリ。

東2局、大脇が7巡目に先制リーチ。

5巡目に分岐点がある。
            ツモ ドラ
か の選択。
ドラの使いやすさを考えれば打 であるが、三色を好む大脇は を切った。
実際には次巡ツモ 、そして7巡目にツモ でドラの を使い切ってリーチ。
どちらを切っても同じ結果であったが、14巡目に裏1で満貫のツモアガリ。
東3局、またしても大脇が満貫ツモ。

文句なしの123三色だが、実はこの局には若干のアヤがあった。
7巡目の中里の手牌が以下の通り。
            ツモ ドラ
を切ればテンパイだが中里は打 でタンヤオへイーシャンテン戻し。
が、5巡目に をツモ切ってしまっている。
ここでテンパイをとらないのならば、5巡目の時点で を切るべきだろう。
をツモ切っている以上、ここは即リーチとすべきだった。
11巡目にツモ でテンパイ復活となるが、すでにアガリを逃した形。
その2巡後に大脇が満貫をツモるのだから…。
南1〜3局はすべて大脇がアガって他家の親を蹴り、パーフェクトゲームで5回戦を制す。
オーラスは熾烈な2着争いを中林が制した。

(5回戦終了)
大脇+72.5 中林▲0.4 中里▲22.5 福田▲50.0
5回戦終了時トータル
大脇+89.3
中林+4.4
中里▲22.5
福田▲71.2
内容的にも一番良い大脇がトータルトップ。
手なりと手役、本手とかわし手の使い分けが上手くできている上に、トータルポイントを考慮しながら戦っている。
今後も大崩れは考えづらい。
逆にポイントや点数を意識すると小さくまとまってしまう中林。
状況を気にせず大胆に打つくらいがちょうど良いのでは。
基礎がしっかりしている分、一皮むければ大化けしそうなのが中里。
この決勝を勝つためには何かプラスアルファが必要か。
随所に我慢を重ねて良い上がりを見せるも苦しい展開が続く福田。
ツキがくるのを辛抱強く待つしかないのだろうか。
|2日目観戦記|3日目観戦記|
(文:ケネス徳田)
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