順位 |
名前 |
TOTAL |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
1 |
江崎 文郎 |
63.7 |
65.6 |
6.3 |
-47.7 |
58.7 |
-19.2 |
2 |
坪川 義昭 |
10.1 |
-16.4 |
-27.0 |
13.3 |
-20.9 |
61.1 |
3 |
ヨンス |
-11.8 |
12.5 |
-53.3 |
59.6 |
-47.6 |
17.0 |
4 |
斎藤 俊 |
-63.0 |
-61.7 |
74.0 |
-26.2 |
9.8 |
-58.9 |
|1日目観戦記|2日目観戦記| 最終日観戦記|
【雀竜位決定戦 1日目観戦記】
【case.1 江崎文郎】
◆1回戦 東2局
一歩リードしている親の坪川がリーチをかけている。
江崎の手はホンイツがはっきりと見える楽しみな手牌だが、字牌2組がオタ風かつ現状マンズの浮き牌がないため見た目以上に苦しい形。
江崎はここで一番安全そうなを切らずに、直前に鳴かれていない切りを選択。
次もほぼ同条件のを切るとこれが親からロンの声。
すごい指運だ。。。という話ではなく、江崎からはこの手が『降りやすい手』ではなく『鳴いていけるマンガン手』に見えているということになる。
リーチを受けている状況は当然ありがたいことではないが、自分がテンパイ出来ればアガリ牌以外はツモ切ってくれる相手がいるという捉え方も出来る。
◆2回戦 南1局4本場
決して嬉しい部類には入らないであろう配牌。
しかしこの手を勝負手に仕上げる能力こそ、江崎の秀でたスキルの1つ。
を引いて三色の種が見えると、安手のテンパイ拒否アピールの打。
ここから一気に、、とツモり構想通りの三色完成。
これをチャンタ三色のイーシャンテンとなった斎藤から一発で出アガり大きな加点。
◆3回戦 東4局2本場
前巡にの2枚切れを見てターツを払おうとしていた最中でのツモ。
手なりではか切り以外ない手格好。
しかし江崎流競技麻雀の一打は「」一択。
345or456の三色・タンヤオ・ピンフを視野に入れた打牌。
当然テンパイは遅くなる可能性が上がってしまうが、それ以上に後半で仕上がったときのリターンが見込める手組み。
当初の構想からすると少々不満が残る最終形になったものの、山に居そうな待ちでのリーチ+1ハンをかけることに成功。
実は前述の場面でに手をかけていないと、自然にチートイツのテンパイが入っているのだが、このがだったことを考えればいかに江崎の踏んだ手順が優れた攻撃バランスであったかがうかがえる。
◆3回戦 南2局1本場
親番のなくなったラス目。
残り局数を考えると、リーチのみで局消化をするのは微妙なライン。
ここはマックスのメンタンピンイーペーコー、最低でもリーチ・中を目指す打。
次巡ドラのを引くと、一気にマンズターツを破壊しこのドラを使い切っての打点狙いへシフトチェンジ。
しかしこの局は頼みのが山に深かったこともあり、大きな変化を見せることなく流局。
江崎のこういった手順を『打点効率MAX打法』と勝手に名付けている。
「どうすれば協会ルールにアジャスト出来るのか?」
そのことを徹底的に突き詰めた結果、今の江崎がある。
その上、自分がまだまだ完成された打ち手ではないことを自覚しているため、強くなるための努力を怠らない。
現雀竜位・江崎最大の強み。
【case.2 ヨンス】
◆2回戦 南2局
現在点数表示が▲100点となってるヨンスの親番。
3着目の坪川とさえ12000点差以上離されており、当然簡単には落とせない親番である。
そんな状況お構いなしに、3着目の坪川が迫力のある仕掛けの3フーロ。
ポン出しがのためテンパイ濃厚かつ、トイトイに決め打っていないためドラも持っている可能性がある。
実際はどちらもついているハネ満のテンパイ。
残りツモは6回、落とせない親番維持のためにも目を瞑って役牌を切り出したいところ。
しかしそのバランスはヨンスの思考には存在しない。
ションパイの役牌を2つ抱えたリャンシャンテンでは通常立ち向かえないのだから、この状況でも変わることはない。
この局はノーテンで終わるも、次局その坪川の親で満貫をツモり3800点差でオーラスを迎えられた。
ヨンスは今期入会1年目の選手であり、当然一番下の予選からここまで勝ち進んできた。
勝ち方はトップ取りに突出したものではなく、極端にラスが少ない。
それは第3、4期と雀竜位を連覇した小倉孝を彷彿させる。
この良い意味での諦めの良さが、最後の最後に諦めなくても良い状況を作り出しているのだろう。
◆5回戦 東1局
『ホンイツを制するのは競技麻雀を制す』
そういっても過言ではないほど最強な手役の一つである。
つまりこの手牌からホンイツを見れないようでは上位のステージで戦っていくことは困難である。
1年目ながらその感覚を身につけているヨンスが、字牌を抱え込みながらソウズのペンチャン→ピンズのカンチャンと払いっていく。
を重ねてその後順調にテンパイ、リーチの斎藤から討ち取る。
ヨンスはとても新人とは思えない高いパフォーマンスを披露している。
長年麻雀店に勤め、今も鈴木達也がオーナーのお店に身を置いているため単純な基礎雀力は疑う余地もない。
それに加え、この競技麻雀への対応力には驚かされる。
間違いなくこの決定戦の台風の目となりうる存在である。
【case.3 斎藤俊】
2回戦東1局2本場、待ちのチートイツでテンパイをしていたところにヨンスのリーチが入る。
一発目に斎藤が持ってきた牌は。
これはヨンスの現物であるが、斎藤はこのを手に納めを勝負した。
比較的通り易い情報が出ているものの、確実にロンと言われない牌を切れる中で自分のアガリを求めにいく選択。
次いで坪川からもリーチが入るが、ここまで誰も合わせない状況を踏まえ3軒目のリーチ宣言。
これがズバリ山に2枚、ヨンスがその1枚を掴み放銃。
◆5回戦 東4局
ヨンスのリーチと同巡、斎藤が国士のイーシャンテンに。
次巡に持ってきたのは、手牌に残っているとともにリーチの無筋。
しかし斎藤はノータイムでこれをツモ切る。
単純に国士のイーシャンテンだから何でも押すだけと見えるかも知れないが、ヨンスの河にヒントが出ている。
宣言牌のの前に安牌候補のが切れているため、手牌に関連していることが多い。
単純なくっつきの選択だった場合もを切っているよりを残すケースの方が多そう。
様々なパターンを考えればキリがないが、このリーチは単純なリーチ以上に押せる理由のある河になっており、それが今の斎藤の手牌とマッチしているため押しやすいのだ。また、自身のトップが最も嬉しいのは間違いないが、現在トップ目の江崎を苦しめるためにもヨンスへの放銃はトータルポイントを加味すればそこまで嫌ではない状況も後押ししている。
斎藤は今回のメンツの中では戦略的な駆け引きに比重を置くタイプ。
当たり前だが全員がトータル1位を目指して打つ中で、特にその目標のためにギャンブルに出ることが多い。
勿論分の悪い勝負を好むわけではなく、「こう打たれたら」「こういう展開になったら」トップ者が苦しむ状況を作り出すために見逃しやアシストも辞さない。斎藤がいることで、一人が抜け出す展開になりづらいのである。
【case.4 坪川義昭】
◆4回戦 東1局
3巡目に斎藤からリーチ。
現物の無い坪川は2枚だけある字牌の1つのを祈るように切る。
しかしこの2枚の字牌にも、れっきとした差が存在する。
南家の斎藤にとってはとはどちらも役牌。
しかし他家にとってはオタ風のと役牌のでは有効度合いに差があるため、の方が斎藤以外の2者の手の内に留めてある可能性が相対的に高くなる。
特に安全度の比較をする選択肢が出にくい序盤であれば尚更である。
この1巡を凌いだ坪川はこの後も微差の優劣判断に正解し続け、イーシャンテンになった親の江崎に放銃役を押し付けることに成功する。
15半荘という決して多くない規定回数のアタマ獲りでは、微差の選択が結果に大きく影響する場面も多くなる。
それはアガリへの手順以外にも、こういった守備での細かい繊細さでも現れる。
◆5回戦 東4局
ヨンスの先制リーチを受けたものの、一発目にを押した後すぐに追いつきテンパイ。
マンズの連続系を活かすテンパイ外しの選択は2種のトイツがどちらも通っていないため手を掛けづらい。
点棒のない親ということもあり、このまま追いかけリーチに出るのがマジョリティーか。
しかし坪川はテンパイ外しの切り。
国士模様の斎藤の河からシャンポン待ちが通常より分が悪いことと、ドラも無いこの手でリーチ者と捲り合うことのリスクとリターンが見合わないと判断。
ツモでリターンの見込みが出るとリーチ。
この良質の手順に応えるよう、一発目のツモでを捉えた。
勝負駆けには分の悪い捲り合いをすることだけではなく、リスクとリターンの天秤を状況毎に判断し、先にリスクを追うことで後半にリターンを得るチャンスを増やす方法も有る。
◆5回戦 南4局1本場
本日の最終戦のオーラス。
平素であれば切りのリーチ一択になるだろうが、斎藤のリーチを受けた一発目の手番。
が自分の目から4枚見えているため、単純な安全度では切りが圧倒的に有利なのだがこれがドラ。
考慮する点は数あれど、結局は自分の手都合で切りリーチ、捻って切りリーチになりそうなところ。
しかし坪川の選択はを切ってのリーチだった。
その答えは坪川の視点からの点数状況にあった。
・供託を合わせ3900(4200)をアガると瞬間トップ目に立つ
・2000(2100)オールをツモると、次局流局時に伏せてもトップで終了できる
・8000(8300)をリーチ棒を出す前(宣言牌)で放銃しても2着のまま
上記点数状況のためメンタンリーチでも充分な効果があり、そもそもの安全度が高く当たっても満貫までは耐えれるでのリーチは実に理にかなった選択である。
道中をツモった時と直後の江崎の3軒目リーチには肝を冷やしたであろうが、無事をツモり安目ながら2000は2100オールで想定通りの点差をつける。
ちなみに斎藤のリーチの待ちはなんとカン。
放銃してもおかしくなかった局面を見事な正着で制した。
坪川は北海道在住中の学生時代、19歳で協会に入会するも卒業するまでは満足なプロ活動を行えないでいた。
卒業後就職するもその身を麻雀に委ねるために上京、麻雀店で働くことになる。
その長い競技歴と麻雀への思いが闘牌に現れているように感じる。
一打一打の優劣を的確に判断し、抜群の安定感と思い切りの良さをこの決定戦でも充分にアピールしている。
初の大舞台、懸ける思いは人一倍強いであろう。
さて、ここで1日目・5半荘終了時のトータルを見てみよう。
終わってみれば1半荘終了時のようなスコアになった。
現雀竜位江崎が一歩リードしてはいるものの、他の3者も充分にこの決勝で戦えている。
各々手応えも感じているだろうし、そう感じるに相応しい内容であった。
雀竜位戦は『協会NO.2』を決めるタイトル戦と思われがちだが、実際は『協会NO.1タイ』を決めるタイトル戦である。
今期初戴冠、その直後に最強位にも輝いた現雀王・金太賢に並ぶ選手は誰になるのであろうか?
全員にチャンスを残したまま、決定戦2日目がスタートする。
(文・橘 哲也)
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