
3回戦に松本、4回戦に大浜がトップを取ったことにより俄然おもしろくなった最終戦。
座順は大浜-松本-江崎-千貫。
起家となった大浜は、言うまでもなく初っ端からガンガン行く予定。
14巡目に
を切ってテンパイ即リーチ。


に受けなかったのは
が場に3枚、
が2枚出ている上に松本が国士模様で
待ちが心許なかったため。
しかし、大きなカウンターパンチを喰らう。
このときすでに江崎が不気味な手を張っていた。

この巡目でド高めの
は松本さえ持っておらず、山に2枚丸生きだったのだ。
これを大浜が最終ツモで
を掴んでしまう。

デカすぎる12000。
振り込んだ大浜はもちろん、松本にも大きな壁ができてしまった。
そして千貫でさえ、これ一発でトータルポイントをまくられたのである。
東2局、大浜と同じく行くしかない松本の親番。
江崎がひっそりとピンフのヤミテンを入れていたところに千貫がリーチ。

これに大浜が追っかける。

たまらず松本がチーテンを入れる。

最初にテンパイしていた江崎だが、3者の攻めに即オリ。
この局の結果は松本が
を掴んで千貫に2600放銃。
東3局、この局が非常に印象に残っている。
親の江崎がカン
チー、さらに
をポン。
この仕掛けを見て、マンズを残しての勝負はしたくないと
と払っていく千貫。
これがうまくいき次の手でリーチ。

リーチ後に千貫が切った
を江崎がポン。
これで江崎もテンパイ、2人のめくり勝負か?--と思うと、これが違うのだ。

江崎の手に残された4枚はドラ
を使い切ることも約束されていない不格好なイーシャンテンだった。
ここに
を持ってくる江崎。
テンパイに取れるが、打ち出さなければならないのはドラの
だ。
が通っているので
待ちはないが、それだけに当たればシャンポンの可能性が高い。
解説の堀慎吾が叫ぶ。
「
ポンしたんだったら行っちゃいましょう!」
たしかにそう思う、
をポンしたのであれば。
しかしリードしている立場としては、ライバル千貫にリーチと来られた時点でポンの声を飲み込み、
を落としながら流局を願う人が大多数ではなかろうか?
大長考の末に
を勝負すると、すぐに千貫が
を掴んだ。

ホンイツのみの2900だが、リーチ棒込みでの直撃はけっして小さくない。
この局の腹のくくり具合を見て、私は江崎の勝利を予感した。
1本場は更なる加点を狙いリーチをかけていた江崎から大浜が1300は1600を出アガリ。
東4局は親でドラの
がトイツの千貫が
ポンとチャンタ含みで仕掛けるも、松本が
タンキの七対子テンパイ。
これをリーチすると、最後の1枚を引き当てる。

南1局は4人テンパイ。
1本場はドラトイツの松本がリーチを打つも、親の大浜が粘ってテンパイを入れ2人テンパイで流局。
2本場、大浜にようやくアガリが出る。

親満クラスまで狙える手だったが、
が松本と持ち持ちだったのでテンパイを入れられただけでも幸運。
テンパイしていた江崎が高目の
を掴み、5800は6400を放銃。
3本場、ピンズで仕掛けた江崎の上家松本がピンズをおさえながらタンピン高目イーペーコーでリーチ。

千貫も追いつく。

ヤミにして四暗刻の手替わりを待つかを熟考した上で
切りリーチ。
松本が
を掴んで3200は4100を放銃。
南2局は親の松本がマンズのホンイツで仕掛け、イーシャンテンまでいったが江崎に1000点の放銃。
これで大浜・松本ともに親番がなくなったが、この段階で4人の持ち点は以下の通り(カッコ内は順位点含む)
松本 +7.7(+22.7)
江崎 +2.8(+7.8)
千貫 △4.0(△9.0)
大浜 △6.5(△21.5)
これを4回戦までのポイントを加えたトータルは、
千貫 +17.6
江崎 +16.9
松本 +4.4
大浜 △38.9
となり、松本はハネ満ツモでトータル首位に立つ。
あるいは江崎が親番のラス前で2600以上をアガり、千貫が親番のオーラスに満貫ツモ。これでもOKだ。
一人離された感のある大浜だが、3者の並びがいいのでラス前1300/2600ツモ→オーラス満貫ツモ、またはラス前満貫ツモ→オーラス1600/3200ツモなどでも優勝である。
または満貫ツモ→満貫出アガリでもいいが、並びは崩せないので出アガリは千貫のみに限られる。
いずれにせよ両者ともに現実的な条件だ。
南3局、先陣を切ったのは大浜。

七対子のみだがツモればオーラス満ツモ条件になる。
出アガリ3200は打点的には不満だが、並びを変える値段ではないのでどこからでもアガれる。(その場合オーラスハネツモ条件)
その待ちの
をアンコにして追いついたのが親の江崎、慎重にヤミテン。

一触即発のテンパイを入れたのは
と
をポンしていた千貫。

ドラの
を重ねてのテンパイ。
アガれば間違いなく決定打だったが、
を掴む。
江崎にとっては千貫からの直撃は大きい。
1本場、松本が8巡目にツモれば満貫となるリーチ。

このときすでにテンパイを入れていたのは江崎。

テンパイ維持ならば放銃もありえたが、松本の河に
があるためのでここを落としていく。
するとまたも
ツモでテンパイ復活し、ヤミテンに構える。
千貫が松本の現物
を切ると江崎からロンの声。

この2度の直撃は振り込んだ千貫も痛いが、他の2人にとっても痛い。
江崎が点棒を持ちすぎたからだ。
松本は自分がアガって江崎を上回ればいいと自分中心で考えられるが、大浜は江崎を3着に落とすためにそれなりの手を直撃しなければならない。
並びを無視するなら役満、三倍満クラスのアガリが必要となった。
2本場、江崎が攻めの手を緩めず大浜から2000は2600の出アガリ。
3本場、江崎が1人テンパイ。
伏せてオーラス勝負にする手もあるが、松本・大浜に厳しい条件があるためラス親の千貫とのタイマン勝負が続くことは予想できる。
それに備えて貪欲に加点していく。
4本場、ドラの
を1枚抱えた江崎がカン
をチー、数巡後に狙い通りのテンパイを入れる。

しかし、その
は千貫が配牌からアンコ。
大浜がリーチ。

江崎は
を掴む。
大浜のリーチが安いわけはないと判断、慎重に現物の
を切る。
ドラアンコの千貫が待望のテンパイを入れリーチ。

は松本の手に2枚あるので、残り1枚の
をめくり合う勝負だ。
松本が
を切ると、江崎の手が止まる。
「チー」
テンパイを取り直すのか?
いや、
を切ることなく、通っている
を抜いた。
ならば何のためのチー?
あとで聞いてみたところ、「大浜のハイテイをずらすため」だと語ってくれた。
江崎が1回チーを入れているため、ハイテイ手番は南家の千貫から西家の大浜になっていた。
大浜が1翻高くしてアガることもだが、それ以上にホウテイで千貫に1翻高く放銃されるのが困る。
これを嫌ったチーである。
結果はなんと大浜が2000・3900をツモアガリ。

打っている江崎は知る由もないが、チーでアガる人間を変えてしまった。
同じアガリでも千貫と大浜では雲泥の差。
配信の画面にも「神プレイ!」のコメントが流れる。
最終戦オーラス、ここまでのゲーム回しが完璧な上に、このミラクルプレイもあって、江崎の勝利を確信した視聴者も多かったのではなかろうか。
4回戦までリードしていた千貫は、江崎と7400差の2着になればOK。
しかし現状はラス目なので、条件を満たすまで連荘し続けるのみ。
松本・大浜は江崎からの倍満出アガリ、役満ツモが優勝条件。
基本的には役満狙いになりそうだが、終盤になったら形テンでもいいからテンパイを考えねばならない。
千貫が連荘する間にノーテン罰符を払い続けていては役満条件さえなくなる。
加えて江崎がノーテン罰符を払い続けていれば条件が緩和してくるかもしれない。
千貫が七対子でリーチ。

待ちの
がいいかどうかはあまり関係ない。
一刻も早くリーチして江崎の進行をストップさせねばならない。
これがツモれて3200オール、七対子はやはりツモるとデカい。
これでも千貫はまだラス目なので松本・大浜の条件は変わらない。
1本場、千貫の7巡目が難しい。

メンゼン進行ならばピンフイーペーコー狙いの
切りか。
しかし絶対に連荘し続けなければならないため、仕掛けも考慮してドラ表示受けを嫌う
切り。
すぐに
がポンできてカン
テンパイ。
を千貫からポンした江崎も
のテンパイを入れる。

ともにアガれず流局、2人テンパイ。
2本場、千貫が
ポンと仕掛ける。

江崎はドラアンコ。
その上、千貫が食ってくれたのなら怖がる必要はない。

ここは真っ直ぐイーシャンテンに取る打
とした。
これは千貫がチーテンを入れられる牌だが、千貫が声を発するより早く松本の「ポン」の声が聞こえた。

四暗刻狙いではあったが、このドラ表を見送っていてはテンパイすら危うくなる。
「この牌だけは鳴くと決めていた」と後に語ってくれた。
江崎
を引き入れ
切り、
待ちでアガれば優勝の王手をかけたリーチである。
千貫がこの
をチーしてテンパイ。
松本は通っていない
を引かされ
を切った。
千貫、可能性をつなぐ1500+300リーチ棒付きのアガリ。

千貫延命の次局、「決め」の手が入る。
11巡目に以下のイーシャンテン。













ここに絶好の
をツモった千貫、ヤミで
を見逃す手もあったが迷わず
切りリーチといった。
次巡すぐに
ツモ。

一発裏ナシのルールでハネ満といえばこれ、王道のメンタンピン三色6000オール!
千貫はこれ一発で江崎に満直、ハネツモ条件を逆に突き付けた。
次局条件を満たせそうな手牌をもらった江崎だが、その手が成就することはなかった。
千貫におめでとうの握手を差し出しながら、うなだれる江崎。
無理もない。6000オールが出るまでは優勝を目前にしていた。
ずっと有利に試合を進めていた。
オーラス1本場の
待ち、2本場の
待ちリーチ、最後のひとアガリが本当に遠かった。
優勝した千貫は協会8期前期入会だが、アマチュア時代に麻雀博物館で行われていた「野口恭一郎賞」の決勝に2回進出経験がある。
競技歴が長く、協会入会時のテストでも牌理を問う「麻雀問題1」は満点だった。
8期前期には優秀な人材が多く、女流雀王が2人、新人王が2人出ている。
ノンタイトルの千貫には忸怩たる思いがあっただろう。
この度の戴冠でようやく大輪を実らせることができた。
講師を務める麻雀教室の生徒さんたちからも祝福されたそうである。おめでとう!