最終ポイント成績
順位 |
氏名 |
所属 |
合計 |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
1 |
村上 淳 |
最高位戦 |
88.9 |
7.2 |
73.2 |
-10.7 |
66.3 |
-47.1 |
2 |
鎌田 勝彦 |
一般 |
-10.3 |
55.2 |
-64.4 |
18.7 |
6.6 |
-26.4 |
3 |
近藤 誠一 |
最高位戦 |
-21.8 |
-16.9 |
-19.8 |
65.8 |
-50.6 |
-0.3 |
4 |
山下 健治 |
RMU |
-59.8 |
-45.5 |
8.0 |
-73.8 |
-22.3 |
73.8 |
→準決勝以下の成績一覧はコチラ
――最速最強
当時よりカリスマ性を発揮し、研究会を主催するなどして多くの若手プロから慕われていた多井プロ。
だが、ビッグタイトル奪取だけは「最速」とはいかず、何度も決勝進出は果たすものの今一歩届かずといった結果が続いていた。
「シルバーコレクター」などというありがたくない通り名がついていた時期もある。
そんな多井プロの初タイトルがこの「日本オープン」であった。
何点でもアガれば優勝の最終戦オーラス。
逆転手の入った南家のリーチ宣言牌をとらえて、以下の派手なアガリ。
ロン ドラ
この後の活躍は周知の通りで、「第31期王位」に輝くなどシルバーコレクターの汚名返上。
さらに漫画の主人公のモデルになるなど大ブレイクをしていったのである。
第1回日本オープン優勝――多井隆晴
――寡黙な王者
すでに連盟最高峰のA1リーグに所属し、その実力は誰しもが認めるところである阿部プロ。
この年もすでに鳳凰位決定戦の進出を決めていたのだが、まだビッグタイトルの栄冠を掴むにはいたらず。
十段戦では2年連続で決勝に残るも、大逆転で戴冠を逃すなど惜しい戦いが続いていた。
「きれいな牌譜なんて残らなくてもいい。下手と言われてもいいから、とにかく勝ちたい」
これまでの決勝とは考え方を変えて臨んだそうである。
いつもより前向きな姿勢が功を奏し、最終戦を迎えてトータルトップ。
ところがそれまで熱心に観戦していた故安藤満プロが会場を出ていく。
「俺が見てると、応援している人がいつも負けちゃうんだよ」
そんなジンクスを気にして外に出ていたのである。
オーラスは東家の阿部プロはノーテン流局で優勝、トータル2位の石野豊プロの条件は役満ツモである。
阿部プロと同じく安藤門下の河野高志プロが安藤プロを呼び戻しに行く。
「もうオーラスで大丈夫ですから、戻ってください」
が、安藤プロが会場に戻ったとたん、石野プロから「リーチ」の発声。
逆転条件を満たすツモリ四暗刻のリーチである。
無事流局して事なきを得たが、安藤プロも河野プロも気が気でなかったことだろう。
プロ歴15年目にして初タイトル奪取となった阿部プロは、2週間後に行なわれた鳳凰位戦も制する。
その後はなんと鳳凰位3連覇の偉業を成し遂げてしまったのである。
第2回日本オープン優勝――阿部孝則
――「やっと勝てたよ」
優勝が決まって、私が握手を求めに駆け寄ったときの言葉である。
そう言って振り向いた顔は、すでにもう泣き崩れていた。
14年目の初タイトル。
日本オープンは、その実力を周囲に認められながらそれまでタイトルに恵まれなかった選手にとって、
たいへんゲンのいい大会なのである。
第8回日本オープン決勝 観戦記
2年ぶりに日本オープンの観戦記を書くことになった。
(→第6回日本オープン観戦記)
そのときに参拝した赤城神社に寄ってから行くつもりだったが、改修工事中ということで境内に入れず。
予定より少し早めの会場到着となったが、なんとすでに待機している対局者がいる。
前回の日本オープンの覇者である『山下健治』である。
RMU所属の選手で、彼もこのタイトル戴冠を足がかりとしてRMUのB級ライセンスを獲得した。
経験や総合力では他の3人よりやや劣るかもしれないが、日本オープンの相性の良さは誰もが認めるところであろう。
すぐに次の対局者も登場。
『近藤誠一』
最高位戦プロ麻雀協会Aリーグ所属。
第22期の入会で今期が14年目のベテラン選手だが、
タイトル戦の決勝はこれが初。
対局後のインタビューでは実に丁寧に応対していただいた。
名前どおりの「誠」実な人の印象である。
続けて最高位戦の選手『村上淳』も会場入り。
近藤と同期の22期入会で同じくAリーグ所属。
なんと干支も同じなのだが、年齢は一回り違っている。
こちらはタイトル戦の決勝は5回目だが、近藤と同じくいまだ無冠。
やはりタイトルにかける思いは人一倍大きいだろう。
私と村上とはかつて同じ店で勤務していたこともあり、久しぶりの再会で話も弾む。
彼がタイトル戦決勝で惜敗するのも今まで何度か見てきた。
多井や阿部のように、この日本オープンで積年の悲願を達成することができるだろうか。
最後に登場は「一般」の『鎌田勝彦』さん。
今回最年少で唯一のアマチュアであるが、態度は一番大きい。
というのも、彼は私と同期の日本プロ麻雀協会の1期生で、Aリーグまで登りつめている実力者であるからだ。
その後日本プロ麻雀連盟に移籍したが、就職を機に競技プロ活動を辞めて、今回は一般としての参加である。
今でも協会の若手プロから親しまれており、今回も小倉孝前雀王が採譜を務めた。
上機嫌で鎌田が昨日の対局の話をしている。
協会にいたときは、もっと無口でクールな奴だったはずだ。
なんだかこの舞台で麻雀を打てるのがずいぶん楽しそうである。
プロは辞めても、やっぱり麻雀は好きなんだね。
タイトル戦決勝特有の重苦しい雰囲気とは違い、ややリラックスしたムードで対局が始まった。
★1回戦★(山下→村上→近藤→鎌田)
鎌田のツモ切りリーチで戦いの火蓋は切って落とされた。
鎌田(北家)
ドラ
「親の切りで、を持ってないのがわかったからね」
これは対局後のコメントであるが、読みも的確で、判断も早い。
9巡目にノータイムでツモ切りリーチ。
鎌田の麻雀を一言で表すなら、「格好いい」である。
ルックスが良いこともあるが、打っているときの醸し出す雰囲気が「格好いい」のだ。
姿勢や牌捌きもきれいだし、無駄な長考がなく打牌スピードが速い。
今回の決勝では、他の3人が守備的なこともあって、ほとんど全ての局で戦いに参加していた。
実際この1回戦では、最終局以外の全ての局で点棒が動いている。
実際、このは山に3枚残りであったが、山下の好形の追っかけリーチはさらに強かった。
山下(東家)
ツモ ドラ 裏ドラ
「2000オール」
落ち着いた声色で、静かに発声する。
ただ、この好発進を決めた山下だが、結果を言えば初戦はラスになる。
もっと積極的に前に出た方が良かったのではないだろうか。
序盤の手組みが守備を意識しすぎて手狭になって、テンパイが遅い。
昨年優勝したときより格段に強いこの面子でその打ち方では、戦いに参加すらできなくなってしまう。
どこかで腹をくくって勝負しなければならない場面が来るだろう。
1本場は鎌田、村上のリーチ対決。
鎌田から村上に3900は4200。
東2局は近藤がポンポンと仕掛けて9巡目テンパイ。
近藤(南家)
ポン ポン ドラ
近藤の麻雀は、その誠実な人柄と同じくオーソドックスな麻雀である。
ブラフを使うことはめったになく、早い仕掛けを入れればやはりドラが固まっていることが多い。
押し引きもはっきりしているので、比較的わかりやすい。
その近藤がドラ色のホンイツで2フーロもしているのだから、誰も危険牌を打つことはない。
流局するものと思っていたら、突然村上の元気のいい発声が会場に響きわたった。
「ロン!9600」
村上(東家)
ロン ドラ
放銃したのは鎌田。
鎌田(西家)
ツモ ドラ
ドラドラ七対子テンパイで、が近藤の現物ではいたし方なし。
それにしてもまったく目立つ牌を切ることなく、二人ともテンパイしている。
村上の15巡目。
村上(東家)
ツモ ドラ
を切れば近藤の現物待ちのテンパイだが、2枚切れで近藤に手牌で1枚は使われていそうである。
「短期決戦だから、を切ろうかと思った。普段は絶対切らないけどね」
結局、村上の切ったのはだった。さして長考するでもなく切ったように見えたのだが…
最高位戦の看板選手村上淳も、今年で14年目。
タイトル戦決勝での「勝ち方」や「心構え」に関しても、いろいろ考えてきたことだろう。
前述の阿部の場合は『きれいな勝ち方にこだわらず、前向きにいったのが良かった』のだが、 これは人によってはそうでない場合もあるだろう。
「とにかく俺が一番強いというつもりで打った」
という村上は、打と普段通りの選択をしたのである。
打でも鎌田のテンパイ形からしてこのは止められないので、この局の結果は変わらなかっただろう。
だがのトイツ落としを見ているほうからすると、よりインパクトの強いアガリとなったはずだ。
次局1本場も3フーロの鎌田の仕掛けに丁寧に対応しながら、4000オールのツモアガリ。
この時点で鎌田の持ち点は僅か3100点。
2本場は10巡目テンパイのピンフテンパイを三色手替わりを待って丁寧にヤミテン。
手替わりしないまま流局寸前にツモって400−700は600−900。
毎局テンパイの鎌田、これが初収入。
東3局は村上の先制リーチを鎌田が追いかける。
村上(北家)
ドラ
鎌田(南家)
ロン ドラ 裏ドラ
一発で高目のを村上が掴んで、12000。
5万点超でトップ安泰と思われた村上だったが、これでわからなくなった。
東4局も鎌田。流局間際にツモって1000オール。
鎌田(東家)
チー ツモ ドラ
1本場は連荘狙いの鎌田の仕掛けを蹴る、近藤の本日初のアガリ。300−500。
南2局も近藤。
鎌田の仕掛けに対応しながら14巡目にこれまた初リーチ。
近藤(南家)
ドラ
これに一発で飛び込んだのが鎌田。
鎌田(西家)
ポン ツモ ドラ
箱寸前のラス目からトップを狙える位置まできていた鎌田だが、この6400放銃で一歩後退。
が、南3局はリーチ・ツモで500-1000、オーラスも1000オールと粘りを見せる。
南4局1本場、鎌田の6巡目。
鎌田(東家)
ツモ ドラ
いったんをつまみかけた鎌田の指が止まる。
少考してからをツモ切った。
ノータイムの打牌を繰り返す彼にしては珍しい光景である。
との残り具合を考えていたのはもちろんだが、シャンポン受けになったときの河が若干強くなる。
「を引いたら、カンに受けるつもりだったが、を引いたのでシャンポンで打った」
鎌田(東家)
ツモ ドラ
宣言牌のを叩きつけるようにして、気合のリーチ宣言。
だが、すでにこの待ちは山には残っていない。
13巡目に1フーロでかわし手のテンパイをいれていた村上の手が止まる。
村上(西家)
チー ツモ ドラ
安全牌はのみ。少考後、村上がつまんだのは…
「ロン」
の背がラシャにつくかつかないかのうちに光速ロン。
「7700は8000」
ショックはあるはずだが、牌姿を確認後すぐにはっきりとした声で、
「はい」
といって点棒を支払う村上。
鎌田のの切り順が逆なら、このに手がかかることはなかったかもしれない。
一方、残り3100点の大ピンチから、驚異的な生命力を発揮してトップを奪った鎌田。
ここまでの13局全ての最終形がテンパイの全局参加。
さぞかし気分はいいことだろう。
【1回戦】
鎌田+55.2 村上+7.2 近藤▲16.9 山下▲45.5
★2回戦★(村上→鎌田→近藤→山下)
二度の流局後の東1局2本場。
供託の3000点が卓上に転がっていることもあり、激しい攻め合いとなる。
まずは東家の村上が初巡にをアンカン。
続いて近藤が仕掛け、鎌田も応戦。
村上も配牌でイーシャンテンであったが、最初にテンパイしたのは鎌田である。
鎌田(南家)
チー ポン ポン ドラ
がすでに3枚切れで、はごっそり山残りに見える場況。
実際この時点で5枚残りである。
ダブドラとなったもノータイムでツモ切り、アガリをとりにいく。
一人出遅れたかに見えた山下がこのダブドラをポン。
場に緊張感が走る中、村上にもようやくテンパイが入る。
村上(東家)
ツモ アンカン ドラ
3枚目のにもチーテンをかけず、狙い通りの門前テンパイ。
「この手を2900にするわけにはいかない」
場況だけでなく、打点バランスも考慮したこの局の打ち筋こそが、村上の真骨頂である。
序盤のターツ選択でを切っているので、シャンポン待ちでリーチ。
すぐに近藤、山下も追いつくが…
村上(東家)
ツモ アンカン ドラ 裏ドラ
四人全員の壮絶なめくりあいを制して、値千金の4000オール。
村上リードのまま、南1局。
9巡目に村上らしい元気よい発声で
「リーチ!」
三色テンパイの鎌田のリーチ宣言牌を捉えて、これも元気良く
「ロン!」
村上(東家)
ロン ドラ 裏ドラ
裏ドラがアタマに乗って12000。
それでも諦めない鎌田、南2局の親番では以下のテンパイをいれる。
鎌田(東家)
ドラ
その後山下とのリーチ合戦になるも、敗れてしまう。
山下(西家)
ロン ドラ 裏ドラ
今度ばかりはさすがの鎌田も復活するだけの力は残されておらず、箱を割ったままこの半荘を終える。
逆に惜しかったのが山下。
オーラスの1本場ではこんなテンパイ。
山下(東家)
ドラ
だが、終盤にラス目の鎌田からのリーチを受けてオリてしまう。
たしかに鎌田のリーチが安いはずがなく、満貫放銃なら近藤の下になってしまうが、
この短期戦で1回戦ラスなのに、2着を確保して次回以降にトップのチャンスを求めるのは、
あまりにも悠長ではないだろうか。
この後、たしかにチャンスはやってきた。
だが、あまりにも遅すぎた。
すでに最終戦でトータルラスがほぼ確定した後だったのである。
私にはこの局の山下の選択が、勝機を逸してしまったように思えてならない。
【2回戦】
村上+73.2 山下+8.0 近藤▲19.8 鎌田▲64.4 (供託+3.0)
2回戦終了時トータル
村上 +80.4
鎌田 ▲9.2
近藤 ▲36.7
山下 ▲37.5 (供託+3.0)
★3回戦★(村上→山下→鎌田→近藤)
村上が一歩抜け出したポイント状況となる。
残り3回戦は各自ポイント差を見据えた作戦となる。
観戦者も徐々に増えてきて、決勝にふさわしいムードが会場を包む。
東3局2本場、溜まったリーチ棒4本を狙って村上が仕掛けていく。
が、7巡目に鎌田がを叩きけて気合いのリーチ。
村上もさらに仕掛けて対抗するが、高目を掴んで放銃。
鎌田(東家)
ロン ドラ 裏ドラ
続く3本場も村上から鎌田に5800は6700。
鎌田(東家)
ポン ポン ロン ドラ
トータルトップの村上にラスを押し付け、まさに鎌田の思惑通りに進んでいるかに見えた。
が、続く4本場は村上がアガって、早くもラス脱出。
さらに、安泰と思われたトップさえも、近藤に奪われてしまう。
【3回戦】
近藤+65.8 鎌田+18.7 村上▲10.7 山下▲73.8
3回戦終了時トータル
村上 +69.7
近藤 +29.1
鎌田 +9.5
山下 ▲111.3 (供託+3.0)
ここで30分ほどの休憩となる。
鎌田は採譜者の小倉と早くも感想戦。
「あのは村上さんの現物でとっておけば良かった」
2回戦の南1局で12000を放銃した局である。
7巡目の時点で以下の牌姿。
鎌田(南家)
ツモ 打 ドラ
鎌田はここからを放している。
「ドラがだけに切りもあるんだよな」
「切ればいいと思うけど」
と、これは小倉。
「俺のは高打点打法なんだよ。協会員のリーチは打点が安いからな。もっと俺の麻雀を見て勉強したほうが…」
確かに今回の鎌田は三色のアガリが多い。
村上は箱近いラス目から、3万点弱の3着まで復活し上機嫌。
応援に来た知人たちと談笑している。
「今日は俺いけるんじゃね?」
裏ドラに恵まれたアガリも多かったが、不運な放銃も結構あったように思う。
この発言は、自分自身に暗示をかける意味もあるだろう。
今日こそはタイトルに手が届きますようにと…
★4回戦★(鎌田→山下→近藤→村上)
東1局2本場、5巡目に連荘中の鎌田がをポンしてテンパイ。
鎌田(東家)
ポン ドラ
同巡に山下のリーチ。
山下(南家)
ドラ
山下の一発目のツモは。
鎌田これをポンして打。
次巡のツモがで、1500のテンパイがあっという間に12000に大変身。
それまで無筋をノータイムで切り飛ばしていた鎌田の手が突然止まった。
鎌田(東家)
ツモ ポン ポン ドラ
少考後にツモ切り、5200は5800の放銃となる。
山下(南家)
ロン ドラ 裏ドラ
「自分でを通しているんだから、を切るべきだった」
と、これは鎌田の後日談。
東2局、東3局は村上が満貫のアガリを連続で決める。
村上(西家)
ロン ドラ 裏ドラ
村上(南家)
ツモ ドラ
南1局ではこのダメ押しの2000−4000。
村上(北家)
ポン チー ツモ ドラ
村上が危なげない完勝で、王手をかけた。
【4回戦】
村上+66.3 鎌田+6.6 山下▲22.3 近藤▲50.6
4回戦終了時トータル
村上 +136.0
鎌田 +16.1
近藤 ▲21.5
山下 ▲133.6 (供託+3.0)
★最終戦★(村上→鎌田→近藤→山下)
ラス親が山下に決まった瞬間、村上は小さくガッツポーズを作って喜んだ。
タイトル戦決勝のラス親は、かなり有利となる。
オーラスは誰しもが優勝を狙って、無理な条件でも目指していくので、必然的に連荘できる確率が高くなるのである。
自分がラス親を引くのが一番有利であるが、トータルラス目の山下ならば文句ないところ。
2番手鎌田の条件はトップ−ラスなら素点で4万点差が必要で、トップ−3着なら6万点である。
現実的には、かなり難しい条件といえよう。
ここにきてギャラリーも30人ほどになる。
決勝特有の熱気に包まれて、最終戦が始まった。
流局続きの東3局、鎌田、村上、近藤の三つ巴の仕掛け合戦が始まった。
まずは鎌田、7巡目に二つ仕掛けて、この形。
鎌田(北家)
ポン ポン ドラ
続いて村上は2フーロでテンパイ。
村上(西家)
ポン チー ドラ
最後の近藤はチーテン。
近藤(東家)
チー ドラ
テンパイ後に村上のツモ切ったドラをポンせず。
ドラを見せて、オリさせる手もあるが、村上に索子の下が危ないと読んでスルー。
進行の遅かった鎌田だが、二人の当たり牌をしっかり使い切ってテンパイ。
鎌田(北家)
ポン ツモ ドラ
結果は鎌田の400−700は700-1000のツモアガリ。
打点は低いが、繊細な打ち回しの見事なアガリである。
南2局2本場は鎌田最後の親番。
5巡目リーチで12巡目にツモアガリ。
鎌田(東家)
ツモ ドラ 裏ドラ
「2600は2800オール」
これで一歩抜け出した鎌田、ここでホワイトボードを見やる。
現時点でのトータルポイントが以下のように書かれている。
村上 +103.0
鎌田 +73.4
村上と山下が同点ラス目となっており、トータルポイントの差は29.6となっている。
難しいはずだった条件クリアが現実的なものになりつつある。
続く3本場は村上の5巡目リーチ。
村上(北家)
ドラ
15巡目に鎌田がようやく追いついた。
鎌田(東家)
ツモ ドラ
「リーチ!」
これを村上から直撃で取れれば、大逆転となる。
だが残り1枚のは王牌に阻まれ、不発。
一方、リーチの時点で山に6枚いた村上の−はことごとく他家に流れ、流局。
4本場は山下、リーチでツモアガリ。
山下(西家)
ツモ ドラ 裏ドラ
「ツモ。4000−8000は4400−8400」
鎌田がボードを睨みつけ、条件確認をしている。
トップ目を捲られ、村上とのポイント差は離されたが、村上が単独ラスに落ちたのでチャンスは残った。
南3局も山下が10巡目に「リーチ」
山下(南家)
ドラ
最終戦のここにきて、ようやく先手をとれる展開の山下。
が、時すでに遅しの感がある。
親番の近藤も以下のリーチで追いついた。
近藤(東家)
ドラ
こちらはドラドラで、ツモアガれるようなら大逆転の望みが出てくる。
この日の近藤は四人の中でもっとも手が入ってなかったように思う。
たまに入る勝負手はきっちり受けられ、ツモることもできない。
そんな状況でも、よく我慢して丁寧に打てていたと思う。
近藤でなければ、もっと一方的な荒れた展開になっていたかもしれない。
この最後の勝負手も山下に競り負け、万事休す。
山下(南家)
ツモ ドラ 裏
「今日は近藤の日ではなかった」としか言いようがない負け方であった。
対局後のインタビューでも悔しそうなそぶりは微塵もなく、むしろさばさばしていたように思う。
いよいよオーラスに突入。
鎌田が再度ボードを見つめ、条件を確かめている。
鎌田の優勝条件は…
ツモアガリなら6000−12000以上。
村上からは16000以上の直撃。
山下からは24000または64000以上。
(山下からの32000は村上が3着となるため不可)
近藤から64000以上。
親の山下はひたすら連荘するだけだ。
4巡目にテンパイ、次巡ツモ切りリーチ。
山下(東家)
ドラ
その時点ではこんな手だった鎌田。
鎌田(西家)
ドラ
と引き込んで、テンションが上がっていく。
11巡目のツモは…
鎌田(西家)
ツモ ドラ
「リーチ!」
今日一番の気合を込めて、を河に叩きつけた。
山下からリーチ棒が出たので、まさかの村上から12000の直撃もOK。
『快刀乱麻』鎌田勝彦。
いっぱいアガって、いっぱい振り込んで…
今日一番楽しそうだったのは、間違いなくこの男だ。
「プロをやめてから押し引きのバランスが良くなった」
「よけいなプレッシャーがなくなったからかな」
「今のほうが強いよ」
今日見ていて、私もそう感じた。
しかし、この待ちは村上と山下に使われてすでに純カラ。
一発目のツモのは、むなしく山下にささった――。
山下(東家)
ロン ドラ 裏ドラ
【5回戦】
山下+73.8 近藤▲0.3 鎌田▲26.4 村上▲47.1
最終成績
村上 +88.9
鎌田 ▲10.3
近藤 ▲21.8
山下 ▲59.8 (供託+3.0)
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「やっと勝てたよ」
そう言って振り向いた泣き顔を見たとき、思わずもらい泣きしそうになった。
私と村上は団体は違えど、同い年でかつての同僚、そして同じ研究会で一緒に研鑽してきた仲間でもある。
知り合ったときは、すでにむこうはAリーガーだったから、実績もキャリアもはるかに上の人なのだが、
彼のタイトル戦にかける思いや、麻雀に対する真摯な態度はいつも私のお手本であった。
今回、観戦記者という立場でありながらひそかに応援していたのである。
「鎌田がリーチしてきたときは、山下さんに差し込もうかとも思ったよ」
――いやいやそれはないでしょ。次局の条件が楽になっちゃうからね。
「3巡目に−でテンパイした瞬間から、もう泣きそうになってたよ」
――いくら何でもそれは早すぎでしょ。すぐが出て良かったね。
村上(南家)
ロン ドラ
――それでは優勝コメントを。
「いろいろ言うことを考えてたんですけど、全部トンじゃいました…」
「…丸13年プロやってきて、今回が決勝5回目。今の自分が一番強いと思ってやりました」
「魅せるとか、営業的なことも必要ですが、プロにとって『強さ』が一番大事だと思ってます」
「みんな勉強してもっと強くなりましょう!」
「あー、なんとか言いたかったことは言えたー」
多井も阿部も、全てはこの日本オープン優勝から始まった。
そして今度は村上淳の番だ。
「アンパンマン」の愛称で広く慕われながら、今日のこの日までタイトルを手にすることは出来ないでいた。
願わくばこのタイトルを礎として、これからのさらなる活躍を期待したい。
皆に愛されるヒーローの伝説は、今始まったばかりである――。
(文:佐久間 弘行)
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