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決勝ポイント成績

順位
選手名
団体名
TOTAL
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
1
藤崎 智 連盟
182.0
56.9
-1.8
11.9
53.0
62.0
2
小倉 孝 協会
112.0
5.9
68.1
58.8
-41.1
20.6
3
清田 力夫 協会
-106.4
-17.5
-1.8
-46.7
-20.8
-19.6
4
明石 光平 連盟
-187.6
-45.3
-64.5
-24.0
9.2
-63.0

→本戦から準決勝までの成績一覧はコチラ


第2回日本オープン決勝最終戦オーラス――。

石野豊はツモり四暗刻のリーチをかけていた。
阿部孝則プロ(当時日本プロ麻雀連盟)を捲くって優勝するには、ツモ和了が条件。
他の三人は既に受けに回っており、石野は一人で牌山と格闘している。
当時協会に入りたての新人であった私は、石野の持ってくる1牌1牌をドキドキしながら見つめていた。
現在も変わらぬ独特のモーションで、テンポ良く牌を切り出す石野。
だが最後のツモ牌もむなしく河に落ちて、石野の挑戦は終わった。

それから二年の月日が流れ、第4回日本オープン決勝最終戦オーラス――。

吉田(東家)三萬三萬三萬四萬一筒二筒三筒三筒四筒四索五索六索六索 ドラ三萬

中村光一(当時一般)を猛追する吉田知弘がこの手を和了れば、ほぼ並びとなる。
だが、ドラ暗刻で充分形のこの手牌が、結局聴牌することは無かったのである。
吉田知弘の闘いは、伏せられた手牌とともに終了となる。

 

さらに二年後の今日。
今回で6回目を数える日本オープンであるが、未だ協会員による戴冠はない。
今年はベスト16に過去最多の8名の協会員が名を連ねた。
その中には数多くのタイトル歴を持つ鈴木たろうや雀竜位連覇の小倉の名前もある。
そしてリベンジに燃える吉田知弘も…。

準決勝の激戦を勝ち残り、決勝に進んだ協会員はそのうち2名。
鈴木たろう、吉田知弘はここで惜しくも敗退となってしまったが、
若手のエース小倉孝と新鋭清田力夫が、協会員の期待を担い決勝の舞台に立つ。

しかし、そこには過去にこのタイトルを二度も制したあの男もいたのである――。

第6回日本オープン観戦記


地下鉄の神楽坂駅を出ると、会場の「ばかんす」はすぐである。
開始時間より1時間も前に着いた私は、少し寄り道してみる気になった。
近くに神社があることは気付いてはいたが、今日まで足を運んだことはなかった。
「赤城神社」
鳥居をくぐって境内に入ると、遠くに大きく立派な本殿が見える。
もっと小さな神社を想像していたのだが、由緒ある名所らしい。
本殿手前の手水舎には参拝客もいる。
本殿の中では神主らしき人と若い男女が婚礼の打ち合わせをしている様子。
邪魔にならないようにと一旦は踵を返したが、ふと思い直して小銭を取り出した。
二拝二拍手一拝の作法が書いてある看板を見ながら、手を合わせる。
―協会員による日本オープン初制覇。
瑣末な仲間意識ではないが、もはや協会員の日本オープン制覇は私たちの悲願なのであった。

寄り道したにもかかわらず、会場には一番乗り。
丁度一週間前に、ここで雀竜位決定戦の白熱の攻防が行われていたのだが、
今はその時の熱気は消え失せ、しんと静まりかえっている。
やがて採譜スタッフが次々に到着。
共に会場準備を手伝っているところに、“あの男”藤崎が現れた。

―藤崎 智(日本プロ麻雀連盟)
第3回と第5回の覇者で今回で四年連続の決勝進出。
日本オープンは彼のためにやっているのではないかと思えるほどだ。
実力、実績からいって今回も大本命である。
リラックスムードはいつも通り、我々スタッフとの会話も藤崎節全開でつい笑わされてしまう。
協会員による日本オープン初制覇にむけて、もっとも大きな障壁である。

続いて現れたのは、対局者ではなく藤崎の師匠である日本プロ麻雀連盟の沢崎誠プロ。
先日行われたグランプリ2007を制し、マスターズと併せて二冠。
今回の対局中メモをとるために動きまわる私のために、わざわざ前を空けていただいた。
その気遣いにここであらためて感謝したい。

残り3人の選手もほぼ同時に到着する。

―明石 光平(日本プロ麻雀連盟)
第18期十段位戦準優勝。
長期間A2リーグに在籍している実力者。
同じ連盟の藤崎と談笑しながら開始を待つ。

 

 

―小倉 孝(日本プロ麻雀協会)
第3期4期雀竜位、第6期新人王。
入会1年目にいきなり雀竜位を獲得し、来期からはAリーグ選手に躍進する協会のホープ。
協会最強の打ち手の一人として、協会員初制覇の期待を一身に背負う。
自ら採譜者として指名した鈴木たろうが傍らで牌譜用紙の準備をしている。

 

 

 

―清田 力夫(日本プロ麻雀協会)
今回が初の決勝の舞台となる新鋭気鋭の若手。
来期よりC1リーグ。
重圧から逃れるように、一人離れて会場の隅の椅子に座っていた。
先日第6期雀竜位を奪取した吉田基成とは同じ研究会で研鑽した仲間である。
その研究会を主宰する二見大輔から、私は伝言を預かっていた。
「(基成にも同じことを言ったのだが)緊張するなと言っても無理な話なので、緊張を楽しむように」
私はそのまま伝えたのだが、清田に二見の意図する細かいニュアンスまで届いただろうか。
「いかに普段の麻雀が打てるかですね?」
「…そうだね」
なんだかちょっと違う気もしたけれど、この時はそう答えるしかなかった。

観戦者も徐々に集まりだし、会場は先週の熱気を取り戻しつつあった。
定刻の11時になり、立会人である吉田知弘の合図で対局が始まった。

1回戦

起家のサウスポー明石の動作がぎこちなく見える。緊張しているのか、入れ込んでいるのか…。

明石(東家)四萬五萬六萬六萬七萬八萬三筒四筒七筒六索七索八索八索 ツモ五筒 ドラ八筒

6巡目に誰よりも早く聴牌をいれるも、八索が既に2枚飛び。
素直に七筒を切って闇聴に構えたが、八索切りの仮聴が面白かったかもしれない。
次巡に六筒引きで待ち替えのリーチもあるかと思ったが、三筒切り。
四索引きから七索切りの三色変化を睨んでいるのだろう。
さらに、次巡五萬引きで今度はノータイムでリーチ。

明石(東家)四萬五萬五萬六萬六萬七萬八萬四筒五筒六筒六索七索八索 ドラ八筒

これが最悪の選択で、五萬八萬はこの時点で既に純カラ。
七萬が2枚切れで、狙い目にも見えなくはない八萬は小倉が暗刻にしていた。
仮に6巡目に打八索の仮聴を取っていると、次巡のツモ六筒で打六萬の一向聴戻し。
今引いた五萬を引き入れてこんなリーチが打てていたことになる。

五萬五萬六萬七萬八萬三筒四筒五筒六筒七筒六索七索八索 ドラ八筒

リーチ直後のツモが皮肉にも四索で、15巡目には三筒、16巡目には八筒まで河に並べてしまう。
流局濃厚と思われた17巡目、突如藤崎の手牌が開かれる。

四萬四萬五萬五萬九筒九筒四索四索九索東東南南 ツモ九索 ドラ八筒

たったの800−1600だが、相変わらず全く気配を感じさせない。
切り出す牌も目立っておらず、対局者も藤崎の聴牌に気付いていなかったろう。
連覇に向けて好スタートを切った。

一方、先制のチャンスを逃した明石は、この後牌運にも恵まれず、終始苦戦を強いられることになる。
A2リーガーの実力が最後まで発揮されることなく、終わってしまった。
『明石との競りになると思っていたんだけど…』
決勝後の藤崎の談である。
連盟員やベテランの雀力には明るい藤崎だが、小倉の強さに対する認識は最初足りなかっただろう。

東2局は清田が、ドラドラの手牌を丁寧に仕上げて4000オール。

清田(東家)一萬一萬五萬六萬六筒七筒八筒三索四索四索五索五索六索 リーチ ツモ七萬 ドラ四索 裏四筒

前局は明石のリーチを受け撤退する手順に危なっかしいところも見受けられた清田だが、
この局は下家の小倉の仕掛けにきちんと対応しながら和了り切った。
この様子なら、この後も十分互角に戦えるだろうと見ていたのだが…。

1本場、すぐさま藤崎の反撃。藤崎にしては珍しく気合のこもった発声で「リーチ」

藤崎(西家)二萬三萬四萬六萬七萬二索二索四索五索六索六索七索八索 ツモ(一発)八萬 ドラ二筒 裏九萬

ごく自然な動作で一発目のツモ牌を手元に引き寄せ「2100−4100」
息つく暇もなく清田のトップ目は捲くられてしまった。
これで焦ってしまったのか、南場に入って不用意な放銃をしてしまう。
南1局1本場(供託2000点)、清田の14巡目。

清田(南家)四萬五萬八萬八萬五筒七筒八筒九筒四索四索六索七索八索 ドラ八萬

ここから東家の切った六筒をチーして、打五筒
しかし、白をポンしていた下家小倉が、以下の捨牌。(↓はツモ切り Pはポンした時の捨牌)

         ↓
一筒九萬北中一萬發五索
     ↓ P ↓
九索六萬九萬八萬二萬二索 

既にドラの八萬を処理されており、後手を踏んだ感がある上、切り出す筒子牌は超危険牌。
確かに安手の仕掛けには見えるのだが…。
この五筒はチーで済んだが、次巡の九筒は御用となる。

清田(南家)四萬五萬八萬八萬九筒四索四索六索七索八索 チー六筒横七筒八筒 ツモ四萬 打九筒 ドラ八萬

小倉(西家)七筒八筒三索三索七索八索九索 チー五筒横三筒四筒 ポン白横白白 ロン九筒 ドラ八萬

嵌張で六筒チーなら助かったとか、1000点の放銃で良かったとかは大した問題でない。
本来の清田なら門前で聴牌が入った時だけ、五筒を勝負するケースであろう。
序盤の独特な捌きに特徴がある清田だが、この日はその持ち味を出せずじまいだった。
初の決勝戦ということもあり、無難に打とうとしていたきらいがある。
ただオーソドックスな麻雀で勝負するなら、藤崎・小倉の両名がはるかに上手である。
対局前の会話で感じた違和感の正体が今ならわかる気がする。
「普段の麻雀を打つ」のではなくて「自分の麻雀を打つ」べきだったのだ。
あの時適切な助言ができていたなら、もっといい勝負になったかもしれない。

実はこの局、東家の明石も闇聴をいれていたのだが、ドラまで叩き切って捌いた小倉。
オーラスでは、三副露のバック仕掛けを成功させて、清田をかわして二着浮上。
これらが供託のリーチ棒を取ることや着順上げが主目的であったことは間違いない。
しかしこういう遠くて安い仕掛けを繰り返し見せるのは、戦略的意図もあるように思う。
いずれ入るであろう本手を和了しやすくするために…。

小倉(北家)二筒二筒四筒五筒 チー九筒横七筒八筒 ポン中中横中 ポン二萬横二萬二萬 ロン六筒 ドラ五萬

1回戦終了時
藤崎 +56.9 小倉 + 5.9 清田 −17.5 明石 −45.3

2回戦

東2局2本場、7巡目に独特の発声で小倉がリーチ。
「ッチーーー」
「リ」の音が小さく語尾を長く伸ばすので、上のように聞こえるのだ。

小倉(東家)一萬二萬三萬五萬六萬七萬七筒八筒七索八索九索南南 ツモ九筒 ドラ南 裏六筒

リーチを掛けた時点で6枚生きの六筒九筒だったが、18巡目にやっと「4000オール」
南3局3本場では闇聴で明石から「12000」

小倉(北家)一萬八萬八萬六筒六筒二索二索四索四索八索八索北北 ロン一萬 ドラ六筒 カンドラ一萬

この和了で小倉は5万点超え。
1回戦トップの藤崎が3着目で、このままの並びで終わらせたいところ。
オーラスは藤崎が7巡目にリーチ。

藤崎(南家)一萬二萬三萬七萬八萬九萬六筒七筒八筒東東發發 ツモ(一発)發 ドラ八筒 裏三索

これを一発でツモって「2000−4000」
裏が乗れば単独2着だったが、これでも同点2着まで浮上した。


2回戦終了時
小倉 + 74.0 藤崎 + 55.1 清田 − 19.3 明石 −109.8

3回戦

東2局に藤崎、本日3度目の一発ツモ。

藤崎(北家)六萬七萬一筒一筒二筒三筒四筒六筒七筒八筒六索七索八索 ツモ(一発)八萬 ドラ一索 裏西

「3000−6000」
南3局を迎えて小倉がラス目で、今度は藤崎に理想的な並びができていた。
藤崎が5巡目に早くも聴牌。

藤崎(西家)三萬三萬五萬六萬七萬二筒三筒四筒五筒五筒三索四索五索 ドラ九萬

次巡に四筒を引き入れて、リーチ。

藤崎(西家)三萬三萬五萬六萬七萬三筒四筒四筒五筒五筒三索四索五索 ドラ九萬

これが決まれば駄目押しとなるが、この時点で山には六筒が1枚残るのみ。
12巡目に小倉が追いつく。

小倉(南家)一萬二萬三萬九萬九萬九萬一筒三筒一索二索三索西西 ドラ九萬

藤崎の宣言牌が二筒で、当然のダマ。ツモれば倍満、出ても跳満である。
しかも残り3枚の二筒は全て山生き。
ところが、次巡東家の明石も追いついてリーチ。

明石(東家)五萬六萬七萬三筒三筒五筒六筒六筒七筒八筒六索七索八索 ドラ九萬

こちらの四筒七筒は既に純カラ。
闇聴続行の小倉だったが、16巡目に手が止まる。

小倉(南家)一萬二萬三萬九萬九萬九萬一筒三筒一索二索三索西西 ツモ四萬 ドラ九萬

藤崎の河には一萬七萬があり、明石も序盤に一萬を切っている。
残り巡目と安全度を重視して、少考後小倉は一萬切りリーチに踏み切った。

小倉(南家)二萬三萬四萬九萬九萬九萬一筒三筒一索二索三索西西 ツモ二筒 ドラ九萬 裏六筒

チャンタと三色の両方を消す一萬切りだったが、一発ツモで「3000−6000」
結果的には通っていた四萬であるが、小倉の判断が正解のように思う。
この和了で2着目に浮上した小倉、トップ目の藤崎まであと2100点にまで迫る。
流局を挟んでオーラスの1本場、東家の小倉が4巡目に即リーチ。

小倉(東家)一萬一萬二萬三萬四萬五筒五筒六筒七筒七筒發發發 ドラ七索

10巡目に藤崎も聴牌。

藤崎(南家)六萬六萬九萬九萬九萬三筒四筒七筒八筒九筒中中中 ドラ七索

二筒がリーチの現物であるが、既に3枚切れた後である。
12巡目にはラス目の明石も追いついてリーチ。

明石(北家)五萬六萬六萬七萬七萬七筒八筒九筒三索四索五索七索七索 ドラ七索

小倉からの直撃か、跳満ツモなら2着になれる。
明石の和了ならばほぼトップ安泰の藤崎は、無筋を掴んで即撤退。
逆に明石が和了ればラス落ち濃厚な清田は、トータルポイントを考えると前に出ざるを得ない。

清田(西家)二萬三萬九萬四筒五筒六筒六筒一索一索四索四索五索六索 ツモ六索 ドラ七索

明石の宣言牌が九筒で、小倉が三筒を並べた直後である。
確実に通る五索を抜く手もあるが、清田の選択は一向聴取りの打六筒

小倉(東家)一萬一萬二萬三萬四萬五筒五筒六筒七筒七筒發發發 ロン六筒 ドラ七索 裏南

「ロン。7700は8000」
ラス目であった小倉がたった2局でトップまで突き抜けた。
この瞬間、この日一番の勝負手を潰された明石は天を仰いで露骨に悔しがり、放銃した清田は耳たぶまで真っ赤にしてうつむいた。

しかし痛い捲くられ方をしたはずの藤崎は、表情一つ変えなかったのである。


3回戦終了時
小倉 +132.8 藤崎 + 67.0 清田 − 66.0 明石 −133.8

ここで30分ほどのインターバルとなる。

小倉と鈴木たろうが3回戦最終局の話をしている。
清田から「7700は8000」を和了った次局、小倉に加点のチャンスがあったのだ。
南4局2本場、10巡目の小倉の手牌。

小倉(東家)五萬五萬五萬六萬六萬五筒五筒七筒八筒九筒一索二索三索 ドラ五萬

役なしの聴牌だが、2着目藤崎との差が6900。当然リーチはかけられない。
17巡目に小倉が持ってきたのは八萬

小倉(東家)五萬五萬五萬六萬六萬五筒五筒七筒八筒九筒一索二索三索  ツモ八萬 ドラ五萬

藤崎の捨牌からすると聴牌が入っているようには見えず、自分がドラ暗刻だから他家にも闇聴の高い手ができている可能性は低い。
しかし自分の待ちが悪い上に、ツモ番はあと1回のみ。
そして流局した場合は聴牌していても、ノーテン宣言して終わらせた方が良い点差である。
小倉は万全を期して、完全安牌の二索を抜いたのである。
「最後のツモが六萬とはね…」
「あれが八萬じゃなかったら…」
トータルトップの小倉にしてみれば、このときはどうでもいい笑い話だったかもしれない。

明石と藤崎は連盟員同士で談笑している。
沢崎プロと後から第2回日本オープンのファイナリスト吉田幸雄プロも合流。
「明石、今日は随分調子悪いみたいじゃないか。どうした?」
いつも陽気な感じの吉田幸雄プロらしい励まし方だ。
3回戦は小倉にトップを捲くられた藤崎だが、まだまだ余裕の表情である。
『2回戦、3回戦はトップは獲れなかったけど、内容は良かったからね』
『小倉くんの当たり牌を止めて聴牌組んだり出来たし…』
『結局ツモられちゃったけど』

3回戦に痛恨のラスを引いた清田は明らかに気落ちした様子。
対局前と同じく、一人ぽつんと離れて座っている。
かける言葉も見当たらず、私にできることは遠くから見守るだけであった。

4回戦

東2局、またも藤崎が好スタートを切る。

藤崎(北家)二索三索五索五索北北北 チー八索横六索七索 ポン東東横東 ツモ一索 ドラ二筒

「2000−4000」
先行した時の藤崎は本当に強い。今回もそつなく局を進め、小倉にラス目を押し付ける理想の展開。
だが、今回は珍しくラス前にひやっとする場面があった。
南3局、藤崎は今局も3巡目に發をポンして、捌きにいく。

藤崎(西家)一筒二筒二筒二索四索六索六索七索八索九索 ポン發發發横 ドラ北 

ところが6巡目にラス目の小倉からリーチ。
安全牌を切りながら一向聴をキープしていた藤崎の16巡目。

藤崎(西家)二萬二萬二筒二筒七筒六索六索七索八索九索 ポン發發發横 ツモ三筒 ドラ北 

小倉の捨牌は以下。

九筒發西西九萬七索横
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
南東南一萬二索二索
↓ ↓ ↓
八筒三索四筒

自分のツモ番はあと2回。聴牌を取るために切らねばならない二筒三筒が通ってないので、
現物の七索を抜くのだろうと思って見ていたが、藤崎の選択はノータイムの七筒切り。
「ロン」
小倉の手牌が倒される。

小倉(北家)三萬四萬五萬六萬七萬八萬六筒八筒四索四索五索六索七索 ロン七筒 ドラ北 裏五筒

「2600」
裏ドラが乗らずに事なきを得たが、ここまで放銃が僅か2回の藤崎らしくない打牌に思えた。

南4局は、藤崎が9巡目に「500−1000」のツモ和了。
結局は藤崎の思惑通りの並びで終了。


4回戦終了時
藤崎 +120.0 小倉 + 91.4 清田 − 86.8 明石 −124.6


最終戦

小倉と藤崎の差は28.6ポイント。二人のマッチレースと言ってよい。
清田と明石にはほぼ優勝の目はないが、ラス親を引いた明石には僅かな可能性が残されている。

最終戦を迎えてギャラリーも増え、先週と同様の熱気が会場を包んでいた。

東1局1本場(供託1000)、藤崎が7巡目に以下の捨牌でリーチ。

         ↓ ↓
北七索六萬四萬八萬五筒一萬横

同巡の明石の手牌はドラドラの一向聴。

明石(北家)三萬四萬七萬九萬一筒二筒三筒四筒四筒八筒九筒九索九索 ツモ七筒 ドラ九索

藤崎の捨牌はちょっと不気味ではあるが、この形になったら真っ直ぐいくしかない。
ここから打九萬、次巡打七萬で放銃となるが、これは致し方ないところだろう。

藤崎(西家)一萬二萬三萬八萬九萬一筒二筒三筒一索二索三索白白 ロン七萬 ドラ九索 裏六索

「8000は8300」
最終戦も藤崎が先行する展開である。供託のリーチ棒も入って小倉との差は9300。

東2局、配牌からドラ暗刻の藤崎、一気に突き放すチャンスである。
ところが、ツモ切った不要牌の三元牌が、二つとも東家の小倉に鳴かれてしまう。
7巡目の藤崎の手牌。

藤崎(南家)二萬三萬五筒六筒六筒八筒三索三索六索六索六索南南 ツモ六萬 ドラ六索

小倉の捨牌は以下の通り。 (↓はツモ切り、Pはポンした時の捨牌)
       P ↓ P
二筒一筒東四索五索二索

五筒     

小倉(東家)裏裏裏裏裏裏裏 ポン發發發横 ポン中中中横 ドラ六索

初牌のダブ東を切った後に、四索二索の順で嵌張搭子を払っている。
普通に考えれば、小倉が聴牌しているように見えるのではないか?
ドラ暗刻とはいえ、自分の手牌は二向聴。

ポイントをリードしている立場でもあるので、八筒切りを選びそうである。
藤崎はノータイムで六萬ツモ切り。
さらに、一向聴となった後の10巡目。

藤崎(南家)一萬二萬三萬五筒六筒六筒三索三索六索六索六索南南 ツモ一萬 ドラ六索

その後、小倉は北一索八筒とツモ切りを続けている。
明石と清田は完全撤退の様相で、初牌の南は出てきそうにない状況になっていた。
だが、ここでも逡巡することなく藤崎はツモ切ったのである。

「ロン」

藤崎は、この局の小倉の手をどう推理していたのだろうか。
『ドラ暗刻のあの手を和了れれば、ほぼ決まるので全部勝負するつもりだったよ』
『白が来てもツモ切るつもりだったし…』
対局後のコメントからすると、藤崎は小倉の手を一向聴と見ていたことになる。

二萬三萬五萬六萬七萬八萬九萬とか二萬二萬五萬六萬七萬八萬白といった形を想定していたのだろう。

小倉が1回戦から何度も繰り出してきた「遠くて安い仕掛け」
その残像が藤崎の脳裏に焼きついていたのだとすれば、小倉の作戦勝ちと言えよう。
念入りに蒔かれた戦略の種が今、大輪の花となって卓上に咲き誇っていた。

小倉(東家)二萬三萬七萬八萬九萬白白 ポン發發發横 ポン中中中横 ロン一萬 ドラ六索

「18000」
会場全体が凍りついたような静寂――。
藤崎の視線がその和了形に注がれている。
「はい」
はっきりとそう言って、いつもと変わらぬ無表情で点棒を支払う藤崎。

これで小倉に決まりだ。会場にいる誰もがそう思っただろう。
が、私には藤崎の妙に力強い声が耳に残っていた。
最大の障壁。その目は決して死んではいない。


有利な状況が一変して、逆に26700点差を詰めなければならなくなった藤崎だが、次局に早くも反撃のチャンスが訪れる。

藤崎(南家)三索四索五索五索六索七索九索九索東東 ポン白白横白 ドラ六筒

7巡目にこの聴牌を果たし、さらに10巡目には白を持ってきて加槓。

この時点で待ち牌は、4枚とも山に生きていたのだが、東は小倉と清田のところへ。
そして14巡目にツモ切った五索に明石から声がかかる。

明石(西家)三萬三萬四萬四萬五萬五萬四筒四筒六索六索七索七索八索 ロン五索 ドラ六筒 槓ドラ一筒

「3900は4200」
追撃の契機を潰されたばかりか、小倉との差も広がってしまった。
一方、和了った明石も本来ならリーチと行きたいところだが、高目の八索が場枯れでは闇聴にするしかない。
展開も小倉に味方しているようだ。

東3局は藤崎の親番である。
小倉は他の二人が簡単に局を進めてはくれないので、自力で捌きに行く。

小倉(北家)二萬二萬四萬五萬六萬八萬九萬五筒六筒四索四索四索六索 ドラ二萬

7巡目にこの一向聴から、上家清田の切った七萬を嵌張でチーして打六索

小倉(北家)二萬二萬四萬五萬九萬五筒六筒四索四索四索 チー七萬横六萬八萬 ドラ二萬

一向聴は変わらないが、受け入れが増えて仕掛けも効くようになる。
明石の現物で藤崎にも通りそうな九萬が手の内に残してあり、万全の構えに見えた。
が、藤崎が9巡目にリーチ、13巡目にツモ和了。

藤崎(東家)一萬二萬三萬四筒五筒七筒八筒九筒二索二索七索八索九索 ツモ六筒 ドラ二萬 裏六筒

「4000オール」
まず一歩差を詰める力強い引き和了を見せた藤崎である。

1本場は手にならないうちに小倉のツモ和了。
小倉が17500点リードして、勝負は南場に突入する。

南2局、再度藤崎に勝負手が入る。

藤崎(南家)三萬三萬四萬四萬四筒四筒五筒四索五索六索六索南南 ツモ三筒 ドラ四萬

面子手と七対子の天秤で進めていた藤崎の4巡目。
既に八索二筒を自分で捨てている。
珍しく少考してから、四筒を切った。
次巡、明石から出た南をポンして、聴牌とらずの打三萬
直ぐに五索を引いて三萬を河に並べた。

藤崎(南家)四萬四萬三筒四筒五筒四索五索五索六索六索 ポン南南南横 ドラ四萬

『すぐに明石や清田くんから出たら見逃すつもりだったけどね』
だが、ドラ表示牌の対子落としを見せられては、これに対抗する者もおらず流局。

藤崎最後の親番である南3局は、明石のリーチ後に小倉が「500−1000」で潰す。

小倉(北家)一萬二萬三萬五筒六筒八索八索 チー八萬横七萬九萬 ポン北北横北 ツモ七筒 ドラ三萬

オーラスを迎えて、小倉のリードは16900点。
前局の和了が利き、藤崎は跳満ツモ和了でも届かない。
藤崎に必要なのは、小倉から12000以上の直撃か、倍満以上のツモ和了。
他からの出和了は24000以上となっていた。
ここにきてやっと、協会員の悲願達成が現実味を帯びてきた。

南4局0本場は、大連荘に僅かな望みを託す明石がリーチするも、流局。
藤崎と小倉の差は変わらずに1本場となる。
供託のリーチ棒が残ったので、藤崎は他からの出和了が倍満でも良くなった。
7巡目に一向聴となっていた明石の10巡目。

明石(東家)三萬四萬五萬九萬九萬四筒五筒五筒六筒七筒四索五索發 ツモ六萬 ドラ四萬

345と456の三色の天秤にとって、ここまで絞っていた初牌の發をリリース。
これをポンして一向聴の小倉。

小倉(西家)七萬八萬八萬三筒三筒三筒四索五索九索九索 ポン發發發 ドラ四萬

その次巡、倍満条件の藤崎である。

藤崎(北家)一索一索二索三索六索六索六索七索八索八索八索九索中 ツモ四索 ドラ四萬

執念の門清聴牌。
だが、リーチしても小倉以外からの出和了は裏ドラ条件となる。
既に手変わりする有効牌が場に多く切られていて期待できず、ダマのままだとツモっても和了できない。
六索が自分の目から4枚見えていて、八索が山にいるのが分かったからね』
そう考えていたとはいえ、優勝のかかったこの場面での決断には時間がかかるように思う。
しかし、藤崎の中はノータイムで横を向いていた。
「リーチ」

13巡目には明石も追いついた。

明石(東家)四萬五萬六萬九萬九萬四筒五筒五筒六筒七筒四索四索五索 ツモ三索 ドラ四萬

藤崎のリーチが清一色であることは明らかであるが、回し打つこともできない。
四索を横に曲げて河に叩きつけた。
「リーチ」
明石の待ちは六筒が1枚だけ、藤崎は一索八索が1枚ずつの計2枚が山残り。
一向聴のままの小倉は無筋を掴んで即ヤメ。後は藤崎が和了しないことを祈るだけである。

明石の一発目のツモは、索子。
ワンテンポ間をおいてから、声がかかる。
「…ロン」

藤崎(北家)一索一索二索三索四索六索六索六索七索八索八索八索九索 ロン八索 ドラ四萬 裏裏

藤崎が狙い目と考えていた八索である。
藤崎はすぐに裏ドラをめくらずに、ドラ表示牌の左右を丁寧に離す。
ここまでやれば、優勝の行方が裏ドラに託されていることは誰でもわかる。

見えていない牌32枚の内、藤崎の勝利となる牌は5枚。
5/32、約15.6%で藤崎の優勝。
27/32、約84.4%で小倉の優勝。

そして、運命の牌が卓上に転がった――。


五十嵐代表が総評を述べている。
「ここの会場ではオーラスの大逆転がよく起こりますね」
「跳満ツモ条件とか、倍満条件とか…」
先に行われた第6期雀王決定戦で鈴木達也に逆転負けしたのが、五十嵐本人なのである。

清田は重圧からやっと解放されて、むしろほっとした表情。

対局中は、藤崎と同じくポーカーフェイスを貫き通した小倉だったが、目を真っ赤に充血させて、今にも泣き出しそうな顔になっている。
採譜を務めた鈴木たろうも、まるで自分が負けたかのように落胆していた。

『今日はいい麻雀を打てていたので、最後の裏ドラは乗ると思ってたよ』
『遅めにロンかけたのと、裏ドラをめくるのを引っ張ったのは、観戦者のためにね…』
最後の土壇場でファンに気を遣えるのは、さすがである。

打ち上げ会場の居酒屋を出ると、外は夕闇が迫っていた。
春分の日を過ぎたが、この時間はまだ肌寒い。
曲がり角のところで、今朝方寄った「赤城神社」のことを思い出す。
その方向を見やると、神社の杜が既に深い闇を作り出していた。

―あれが別の牌だったなら…。
私はそんなことを考えながら立ち止まって、闇にそびえる大きな樹を見つめていた。
藤崎は、私たちの前に神々しく立ちはだかる大樹である。
藤崎がめくったその牌は、まさに真っ直ぐ天に届く大樹を思わせる二索であった―。

 

 

 

 

2008年3月28日

文:佐久間弘行

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