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順位
選手名
TOTAL
1日目
2日目
最終日
1
吉田 基成
228.0
30.0
100.3
97.7
2
石野 豊
227.4
120.3
76.2
30.9
3
内海 元
-103.0
-31.1
-8.0
-63.9
4
福田 聡
-353.4
-119.2
-168.5
-65.7

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最終日観戦記

3月16日神楽坂

―――そもそも、神楽とは、神事において神に奉納するために奏される歌舞のことであり、
若宮八幡の社の神楽の音がこの坂まで聞こえた事に由来し、神楽坂と名づけられたらしい。

麻雀に神様がいるのかどうかはわからないが、神に奉納できるような美しい譜を四者が奏でてくれたら良いな、
なんて他愛もない事を考えながら駅に着く。

会場に入るとピリッとした空気が肌を刺すようだ。初日・2日目以上に、選手の顔つきは鋭さを増し、雰囲気を重くしている。
神事のように厳粛な静けさを漂わせて、最終日の対局は開始された。

11回戦
石野―吉田―内海―福田

東1局

石野(西家)9巡目
四筒四筒六筒七筒八筒四索四索五索五索六索六索六索八索 ドラ西

この手を迷わず曲げて、内海から一発で討ち取ってマンガンの幕開け。

もう石野の先制は、此度の雀竜位戦の決まりきった格式のように繰り返されている。
しかし当然今回も、三者は黙ってはいない。
この和了を受け、11回戦目は打ち鳴らす大太鼓のごとく乱打戦が展開されていく。

続く東2局は先程放銃した内海がリーチ。
内海(北家)12巡目
五萬五萬六萬六萬四筒四筒七索七索八索八索西西北 ドラ四萬

ドラこそ無いものの、序盤に面子手を構想に入れ進めていたため、一萬の対子落しをしており、絶好の待ち。
これに放銃は吉田。裏ドラ五萬で先の失点を吉田に押し付ける。

東4局
吉田も無論舞台に上がってくる。

吉田(西家)配牌
二萬四萬六萬八萬一筒二筒三筒七筒三索四索五索八索東 ドラ二筒

15巡目、ヤミテンで内海が放った三萬に声を掛けるのだが、あの配牌を見ていた私は、点数申告を聞いた時に耳を疑った。

「ロン。12000」

四萬五萬六萬七萬八萬二筒二筒三筒四筒五筒三索四索五索 ロン三萬 ドラ二筒

苦しい点数から吉田、平凡な配牌を最高の作品に練り上げた。

再び点棒を失った内海であったが、その後強引に盛り返す。

南3局

先手を取ったのは福田だった。
福田(南家)8巡目 リーチ
五萬五萬七筒八筒二索三索四索五索六索六索七索七索八索 ドラ三萬

すぐ内海が追いつく。
内海(西家)9巡目
一萬一萬三萬三萬七萬一索一索三索三索四索八索八索北北 ドラ三萬

七萬四索も福田に危険牌である。
テンパイは取ってもヤミテンを選択するのが一般的かもしれないが、内海は四索を切って横に曲げた。

14巡目、内海の手に七萬が踊って3000/6000。
内海(西家)
一萬一萬三萬三萬七萬一索一索三索三索八索八索北北 ツモ七萬 ドラ三萬 裏西

この和了で石野が親被りし、オーラス時の点棒は
福田(東家)27400 内海(南家)20500 吉田(西家)24600 石野(北家)27500

と、それぞれにチャンスがある状況。

東家福田のリーチに、終盤まで粘ってテンパイを取りにいったのは石野だった。
17巡目、七萬九萬を切ればテンパイ。通っていないスジは5本。
七萬九萬は後スジになってはいるが、どちらも生牌でありマンズの上が場に非常に高く切り辛い。
ここでのノーテン罰符を取りに攻めるか、万全を期して降りるか。
少考後、静かに七萬を河に置く石野。

「ロン」

福田(東家)17巡目
五萬五萬五萬六萬八萬三筒三筒一索二索三索 カン裏五筒五筒裏 ロン七萬 ドラ九索東

四者の視線が裏ドラ表示牌に注がれるが、ここは乗らずで打点は2900。石野からすればやや救われた感じはあるだろう。

南4局1本場
石野をどうにかして3着以下に落としたい三者ではあるが、石野がリーチを宣言したのは4巡目。

石野(北家)4巡目
四萬五萬六萬七萬八萬九萬五筒五筒四索五索六索七索九索 ドラ七萬

1000/2000でトップになる石野ではあったが、これを内海から一発で出和了。
裏ドラは乗らず、5200は5500。

石野にとっては、福田トップ・自身2着なら御の字の結果であろう。
しかし、ラス前のトップ目から、ハネマンの親被り、オーラスの放銃とイヤな感じで滑り落ち、
普段華麗に卓上を舞う石野の首位に陰りが見え始めた。

11回戦終了時(カッコ内はトータルポイント)
福田+50.3(▲237.4) 石野+10.1(+206.6) 吉田▲15.4(+114.9) 内海▲45.0(▲84.1)


12回戦
石野―内海―吉田―福田

東1局
石野がダブ東を叩いてテンパイ。打ち出したドラの中に内海がポンの声。

内海(南家)10巡目
三萬四萬三筒四筒七筒七筒五索六索七索九索九索 ポン中中中 打七筒 ドラ中

次巡ツモ五萬でテンパイし、13巡目にツモ和了。

内海(南家)13巡目
三萬四萬五萬三筒四筒五索六索七索九索九索 ポン中中中 ツモ五筒 ドラ中

必然の手順で親被りスタートの石野。さらにここからジワジワと点棒が削られていく。

東2局
再び内海が2000オールのツモ和了。
内海(東家)12巡目
三萬四萬五萬六萬六萬七筒八筒九筒一索二索六索七索八索 ツモ三索 ドラ五筒 裏一索

東3局2本場
福田の守備的な打ち筋が功を奏する。
福田(南家)5巡目
二萬四萬六萬四筒五筒六筒六筒七筒八筒五索五索發發 ツモ三萬 ドラ三萬

福田、ここで發の対子落としでテンパイ取らず。

次巡ツモ四萬で嵌五萬のタンヤオテンパイ。当然ヤミテンに構える。
そして10巡目にツモ四萬

福田(南家)10巡目
二萬三萬四萬四萬六萬四筒五筒六筒六筒七筒八筒五索五索 ツモ四萬 ドラ三萬

一萬四萬五索は全て生牌である。六萬を切ってのリーチでも良さそうであるが、福田はこの四萬をツモ切り。
同巡、テンパイを果たした石野がリーチをかけるも、石野が即五萬を掴み福田が石野をキッチリ押さえる。

福田(南家)11巡目
二萬三萬四萬四萬六萬四筒五筒六筒六筒七筒八筒五索五索 ロン五萬 ドラ三萬


東4局
吉田・石野のリーチ合戦となるが、石野が安目ながらハイテイでツモり、原点復帰の2000/4000。

石野(南家)18巡目
二萬三萬四萬五萬六萬七萬八萬八萬五筒六筒七筒五索六索 ツモ四索 ドラ一筒 裏二索

ここから吉田は失点がかさみ、痛恨のラス目でオーラスを迎えてしまう。

南4局
福田(東家)29800 石野(南家)27300 内海(西家)37900 吉田(北家)5000

吉田はどうにか石野を3着のまま終わらせたい。ここで石野が連に絡んでくると、残り3回で逆転するのは厳しくなってくる。

しかし、石野が4巡目に打七筒、5巡目に手出しで八筒と河に並べてリーチ。
タンピン志向のターツ落としは、当然のように手の内は高い。

石野(南家)5巡目
三萬四萬六萬七萬八萬二索二索三索三索四索四索八索八索 ドラ九萬

ツモって裏ドラが1枚でも乗れば、優勝そのものが決定しかねない。

これに切り込んで行ったのは吉田だった。
無筋を2枚押し通した後、役なしのテンパイが入る。

吉田(北家)7巡目
五萬五萬六萬一筒一筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒六索七索 ツモ一筒 ドラ九萬

リーチ棒を出すと、石野はマンガンツモ和了でトップに立つ。
そんなことは百も承知である。しかし、ここで石野にあがられるわけにはいかない。
吉田、リーチで腹を括る。

石野・吉田共にツモる手に力が入る。
終局間際16巡目に手を開いたのは、吉田。

吉田(北家)16巡目
五萬五萬一筒一筒一筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒六索七索 ツモ五索 ドラ九萬 裏南

石野を3着に押さえつける、値千金の500/1000である。

全員で石野を食い止めたこの12回戦。
歯を喰いしばり、4着確定の和了をした吉田。まだ、まだわからない。

12回戦終了時(カッコ内はトータルポイント)
内海+57.4(▲26.7) 福田+8.8(▲228.6) 石野▲14.2(+192.4) 吉田▲52.0(+62.9)


13回戦
石野―吉田―内海―福田

おそらく石野があと1勝すれば、第6期雀竜位戦は幕を閉じるであろう。
この13回戦、それぞれのその思惑が起因したのかどうかは定かではないが、石野にとっては非常に厳しい半荘になった。

東1局
三軒リーチを制した起親の石野が、2000、1人テンパイ、2000と和了。

東2局
内海のリーチに対してタンヤオのテンパイを入れた石野。
テンパイ取りで淡白に無筋を河に切ると内海が手を開ける。

内海(西家)12巡目
四萬五萬六萬六萬六萬一筒二筒三筒八筒八筒五索六索七索 ロン六萬 ドラ八筒 裏五索

流石にここは自重するべきではなかったか?
当面のライバルである吉田の親番であり、リーチに対して吉田は引き気味の捨て牌である。
すでに13回戦目、静かにしていれば多勢に影響はない内海のリーチなのである。

南1局2本場
吉田のリーチに対し、今度は親の石野は撤退。
しかし、ここは吉田が自力で石野の点棒を引きずり出す。
四萬五萬六萬二筒二筒三筒四筒四筒五筒五筒六筒五索六索 ツモ七索 ドラ五筒 裏二筒

「4000/8000は4200/8200」

苦渋の表情の石野。吉田、この和了でトップ目へ躍り出る。

南2局

石野がリーチ。
石野(北家)7巡目
六萬六萬二筒三筒四筒五筒六筒七筒五索六索七索七索八索 ドラ五索

六筒を引いての絶好のテンパイであり、ソーズの上は幾らでも山に眠っていそうな場況である。
実際九索は山に3枚残っており、石野も恐らく和了の感触は強かったに違いない。

そこで内海が、石野の切ったドラの五索にポンを掛け、テンパイを果たす。

内海(西家)10巡目
四萬五萬六萬二筒二筒三筒六筒七筒八筒六索六索 ポン五索五索五索 ドラ五索

ここから打三筒とし、二筒六索のシャンポン待ち。
しかし六索はカラテンで二筒も山に1枚しか残っておらず、やはり石野の和了は固いように見えた。

次巡石野が四筒をツモ切る。やっぱり石野か。ここで和了して失点を挽回されると、吉田はトップでもまだ苦しくなる。

そこへ石野が振り下ろした牌は、三者の思いが運んだ痛恨のラス二筒であった。


南3局・同1本場共に吉田の1000オール。2本場は内海の1000/2000。
南4局も吉田が1000/2000のツモ和了で、石野はテンパイすら入らぬまま4局連続の失点。

南場、全ての局で点棒を失った石野である。
吉田のトップ、そして石野のまさかのラスで13回戦目は終了した。

13回戦終了時(カッコ内はトータルポイント)
吉田+64.9(+127.8) 内海+12.5(▲14.2) 福田▲24.7(▲253.3) 石野▲52.7(+139.7)


14回戦
内海―石野―福田―吉田

圧倒的であった石野のリードはもはや無くなり、石野と吉田の差は実に11.9ポイントで、残るは半荘2回である。
言うまでもなく、ここで上の着順をとった者が絶対的に有利な立場に立つ事ができる。

それが分かっているからこそなのであろうか。両者共に戦えと言わんばかりに手が入り、一進一退の攻防となる。
ここに来て決定戦の神楽は、最高潮の盛り上がりを見せてきた。

東1局1本場

またも先制は、8巡目リーチの石野。
石野(南家)10巡目
四萬五萬三筒三筒五筒五筒五筒二索三索四索五索六索七索 ツモ三萬 ドラ三萬 裏四筒

高目のドラをツモ和了し、背中まで肉薄してきた吉田を突き放す。

東3局
東2局の1人テンパイの後、吉田は四索を仕掛けてテンパイ。
吉田(南家)9巡目
四萬四萬四萬九萬九萬九萬四筒四筒北北 ポン四索四索四索 ドラ八萬

四筒のツモ和了ならハネマンだが、ここは内海から北で2600は2900の和了を拾う。

東4局
吉田が1人テンパイ。同1本場は石野・吉田共にテンパイで流局。

東4局2本場
小刻みに点差を縮めて来た吉田、再びリーチで攻める。
吉田(東家)10巡目
一筒二筒三筒四筒五筒六筒六索七索八索九索九索白白 ドラ南

5巡目にドラ暗刻のテンパイをしていた内海が白を掴み、吉田に放銃。

吉田(東家)12巡目
一筒二筒三筒四筒五筒六筒六索七索八索九索九索白白 ロン白 ドラ南 裏八索

この和了で石野にマンガン1つ分リードした吉田である。
無論今度は石野が、吉田を追い上げにかかる。

南1局
7巡目に両面チーでテンパイを入れた石野が福田から3900を出和了。
石野(南家)7巡目
一筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒四筒發發 チー八筒六筒七筒 ロン一筒 ドラ六筒

南2局
内海のリーチ宣言牌に、石野が喰いを入れる。

石野(東家)11巡目
四萬四萬三筒五筒七筒三索四索五索五索六索七索 チー七萬五萬六萬 ドラ發
渋々のテンパイ取りだが当然ここは打三筒

この鳴きにより手詰まりを起こしたのは吉田。
吉田(西家)11巡目
四萬四萬五萬四筒五筒六筒六索七索九索九索東發發 ツモ六索 ドラ發

内海はチャンタを狙った手作りをしたために、捨て牌が
五索二索北九筒五索二筒
三索二索八索九筒七萬横(リーチ)

と変則的になっている。
安全牌に窮した吉田、石野が切った三筒に目をやり、スジとなった六筒を河に置く。
この直撃で再び石野が吉田を差した。

南2局1本場から3局連続の流局の後、迎えたオーラス。

南4局4本場 供託3000
石野(西家)34500 吉田(東家)30300

互いに打ち鳴らした攻撃の調べの結末は――。

二人が、早くも4巡目にイーシャンテンとなる。

吉田(東家)4巡目
四萬二筒四筒一索二索三索四索五索六索七索八索西西 ドラ九筒

石野(西家)4巡目
三萬四萬五萬五萬六萬七萬七萬八萬三筒六筒二索五索六索七索 ドラ九筒

石野ここから打六筒とすると、6巡目には嘲笑うかのようにツモ六筒
そして追い討ちをかけるがごとく吉田からのリーチの声。
決着は早かった。

吉田(東家)9巡目
二筒三筒四筒一索二索三索四索五索六索七索八索西西 ツモ九索 ドラ九筒 裏白

石野を大きく突き離す、4000は4400オール。

流石にこれは、石野の気概を挫いたであろう。
ここまで何度も石野は、その和了で三者の心を折ってきた。
やっと、やっと石野が吉田の後塵を拝すときが来た。
吉田は次局以降、伏せればとにかくトータルトップ目で最終戦に臨むことが出来る。


ところが吉田、意に反して早いテンパイが入る。

南4局5本場
吉田(東家)3巡目
一萬二萬三萬四萬五萬六萬四筒四筒五筒六索七索八索中中 ドラ七索

このまま終局すれば、吉田は石野に44.5ポイントの差をつけて最終戦を迎えることになるが、
トップ2着の差が40ポイントの協会ルールでは、セーフティリードとは言い難い。
石野に最終戦トップを取られれば、容易にまくられてしまう。
ここで点差をより離しにかかることは、必然の選択だ。四筒を切って曲げる吉田である。

ツモる手に気合いの入る吉田だが、それに石野は怯まず立ち向かう。
吉田が中をツモ切り、暗雲が立ち込める。
14巡目に石野がリーチを宣言するも、流局。

南4局6本場 供託2000
石野(西家)30600 吉田(東家)47000
その差は16400。
やはり石野が苦しいことには変わりはない。
6本場に供託2000点であると、石野はマンガンツモで吉田と同点トップになるのだが・・・。

石野(西家)配牌
一萬三萬七萬八萬二筒七索八索東東北北白中 ドラ西

ホンイツか、あるいはチャンタを絡めてのマンガンが現実的なところであろうか。

それは、石野の最後のツモであった。

14回戦南4局6本場 17巡目

「ツモ、8000/16000は8600/16600」

三萬三萬八萬八萬八萬八索八索八索東東東北北 ツモ北

ここに来て、劇的な役満ツモ。
この瞬間、会場にいた殆どの人間が『石野の優勝だ』そう思ったことであろう。
何度も、何度も同卓者の心を砕く和了を重ねて来た石野。
セーフティリードとはこのことだと、言わんばかりに親被りの吉田を見据える。

吉田は最終戦を迎え、逆に87.9ポイントという大差をつけられてしまった。
もちろん石野をラスに沈めてのトップであれば、ほぼ吉田の優勝にはなる。
しかし、この状況でトップ−ラスの構図に成ることはまず有り得ない。
内海・福田が目無しである以上、吉田がトップを取ったとしても、石野は2着であろう。
石野が2着に残ると、吉田は48000点差をつけなければならない。
それは最後に吉田の前に残った、大きな大きな壁であった。


14回戦終了時(カッコ内はトータルポイント)
石野+86.4(+226.1) 吉田+10.4(+138.2) 内海▲28.7(▲42.9) 福田▲68.1(▲321.4)


15回戦
石野‐吉田‐内海‐福田

3日間における長き戦いも、千秋楽である。
石野に48000点差をつけてのトップ。それがこの半荘に課せられた吉田の使命であった。

もう大勢は決したと、誰もが思っていた。
それでも吉田はこの半荘、独壇場のごとく和了に和了を重ねた。
最後の最後、倒れるまで一心不乱に舞ったのである。

吉田が点棒を積み上げながら、舞台は確実に終劇へと向かっていく。

冒頭で述べたように、神に奉納できるほどの牌譜を残せたかどうか。それは選手各人の判断に任せよう。
しかし、それぞれの戦いぶりは、鮮やかな彩りをもって私たちの記憶に残った。


内海は初めての決勝の舞台で、存分に自分の麻雀を貫いたように思う。
些細なミスはあれど、ここまでの戦いは堂に入ったものであった。
関西から単身乗り込んできて、これからは東京で研鑽を積んでいく内海。この決勝も十分な糧となったことだろう。


南4局の親番となった、福田。
最終局だが、福田が伏せるのは明らかだ。
14回戦目からは全て受けに回る打牌選択をし、この15回戦目も親番でダブリーの配牌を貰っても崩していった。
この3日間、全く手が入らず展開も悪く苦しんでいた福田は、早々に優勝争いからは脱落した。
目無しの麻雀もまた困難である。麻雀という競技は誰にも迷惑が掛からない打牌などありはしない。
それでも、その一打に全身全霊をかけ、最後まで受けの麻雀を全うした。


そしてオーラスの点数状況である。
吉田はついに、ここまで来たのである。

吉田67800
石野22300

トータルポイントを加味すると、吉田は石野まで2500点。
3日間15半荘打って、たったの2500点差である。
何度となく眼前に立ちはだかった石野を、吉田はここまで追い詰めた。

吉田が9巡目に「リーチ」と言った。

吉田は初めての決勝で、石野という男と対峙してどう思っただろうか?
後に吉田は語る。
「本当に、本当に石野さんは強くて怖い」
15回戦を共に打ち切った、挑戦者吉田の本心であろう。

18巡目、静寂に包まれた会場で、最後の手番、石野が河にコトリと九筒を置く。
この3日間、まさに王者の麻雀を打ち切った石野であった。
常に先行して他家を圧倒し、何度も彼らの攻撃を斬って返してきた。
間違いなく、歌舞の主演は石野であった。


和了を逃した吉田は、テンパイ宣言できずに呆然としていた。
石野はきっとテンパっているだろう。リーチ棒を出しての3500点差は、結局埋まらなかった。
吉田はそう、思っていた。

石野が吉田にテンパイ宣言をするよう声を掛ける。

我に返った吉田、手牌を開け・・・、そして石野が静かに手牌を伏せた。


湧き上がる拍手を受け、ようやく自身の優勝を理解した吉田の顔から満面の笑みがこぼれた。

0.6ポイント差の優勝であった。

牌譜という形で残された四人の歌舞。
神楽と呼ぶにふさわしく、四人が己の全てを出し切った記録は、きっと天へ届くことであろう。     


文:大浜岳

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