5月4日から予選が始まり、5・6日と第5期新人王戦が開催されました。
新人王戦は、日本プロ麻雀協会に入会5年目までの新人雀士だけがエントリーできる、
言わば新人雀士の登竜門。
順位
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選手名
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TOTAL
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1回戦
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2回戦
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3回戦
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4回戦
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5回戦
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1
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朝倉 ゆかり |
73.6
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-56.0
|
60.0
|
11.9
|
-25.0
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82.7
|
2
|
矢島 亨 |
30.2
|
10.2
|
8.8
|
-51.7
|
61.5
|
1.4
|
3
|
嶋村 将 |
-28.0
|
57.9
|
-46.4
|
62.2
|
-46.6
|
-55.1
|
4
|
チャオタイガー小室 |
-75.8
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-12.1
|
-22.4
|
-22.4
|
10.1
|
-29.0
|
【第7期 新人王戦観戦記】
今期の新人王戦を一言で言うのであれば「主役不在」という言葉がふさわしいと思われる。
昨年は、デビュー当時からの圧倒的な実力と実績で今や協会のトッププロの1人となった現Aリーガー小倉孝が獲得。
しかもその相手には、小倉さえ成し得なかったB1までのノンストップ昇級を果たした強豪金太賢がいた。
今までの全ての決勝において、阿賀寿直・宮崎和樹・大脇貴久といった実力に定評のある選手がいたのに対し、
今期は史上初のBリーガー不在という事態。
誰が勝っても不思議ではないこの決勝に進出したのは以下の4名である。
朝倉ゆかり C2
嶋村将 C3
チャオタイガー小室 C3
矢島亮 C2
まさに、まだ見ぬ主役を決めるという、本当の意味での新人王戦になったと言っても過言ではない。
1回戦
嶋村(東家)
チー ロン ドラ
誰もが取りたい先手を取ったのは起家の嶋村だった。
門前なら倍満まで見える手だが、11巡目に冷静にチーをして安目で5800。
まずまずの滑り出しである。
前日の準決勝では、8人の中で本命の一人と目されていた大浜岳を
最終戦最終局に一発ツモの2000-4000で捲くり、決勝を決めている。
“勢い”という意味で言えば、このまま優勝を果たしてもおかしくないかもしれない。
思えば彼が協会に入った昨年の春、その評価は決して高いものではなかった。
とあるプロが「初巡から海底まで、全ての打牌が自分と違う」と揶揄する程の酷評をした事さえある。
この1年で彼がどれだけの事を学んだのか、そしてこの決勝でどのような戦いを見せるのか、個人的には非常に興味のある所だ。
この1回戦は彼に立て続けに手が入る。
次局は11巡目にドラ暗刻の両面リーチ。
嶋村(東家)
ドラ
これは不発となったものの、東場南場とも他家との競り合いを連続で制して場をリードしていった。
圧巻だったのは南1局1本場。
まず朝倉が7巡目に高め8000の3面張テンパイ。
朝倉(西家)
チー ドラ
10巡目には矢島がリーチ。
その宣言牌をチーして追いつく嶋村、さらには小室も愚形ながらのテンパイを果たす。
嶋村(東家)
チー
小室(南家)
チー
矢島(北家)
嶋村の待ちは場に二枚切れののみ。
どう考えても分の悪い勝負だったが、朝倉が掴んで値千金の2900は3200。
ラス親の矢島がこれを追撃したが、結局そのまま逃げ切って嶋村が初戦を制する。
1回戦終了時
嶋村 +57.9 矢島 +10.2 小室 −12.1 朝倉 −56.0
2回戦
朝倉ゆかり、プロ4年目。
その柔らかい守備を最大の武器とした打ち筋は多くのプロから賞賛を受けている実力派だ。
今回が参加資格最後の新人王戦であると同時に、
初のタイトル戦決勝進出となる彼女。
勝利に対する意気込みは、4人の中で誰よりも強いかもしれない。
1回戦、好調の嶋村と対照的にノーホーラのラスだったのがこの朝倉である。
チャンス手もほとんど来ておらず苦しい展開。
そして南4局ではもはや降りていても意味の無いラス目から勝負をし、放銃をしてハコ寸前の大きなマイナスを負っている。
そもそも終盤までチャンスを掴めずに前線で殴り合いをするような局面は、
彼女のもっとも嫌うところではないだろうか?
得意とされる展開と真逆のペースで進む場に、不安を感じざるを得ない。
ところが2回戦東1局、今度はその朝倉に先手好形のチャンス手が入る。
9巡目にテンパイし、迷うことなくリーチ。
朝倉(西家)
ドラ
これをでツモり1000-2000。
さらに東4局ではじっくりと育てた三色手をハイテイでツモりあげ2000-4000。
大きなリードを得る。
朝倉(北家)
ツモ ドラ
そしてここからは彼女の持ち味と言える柔軟な守備で危なげなく局を進めていく。
それが一番顕著に出たのが南2局。
親番小室のリーチを受けて、13巡目に以下の形。
朝倉(南家)
ツモ ドラ
小室の捨て牌は、以下のようになっている。
(リーチ)
朝倉はここから慎重にを切り、テンパイ取らず。
直後にを引き入れて、打で現物待ちので張り返し、矢島から2000。
朝倉(南家)
ロン ドラ
その打ち回しにギャラリーも感嘆の声が上がった一局だった。
まさに朝倉のペースで進んだこの2回戦、そのまま見事に逃げ切った。
2回戦終了時
矢島 +19.0(+8.8) 嶋村 +11.5(−46.4) 朝倉 +4.0(+60.0) 小室 −34.5(−22.4)
3回戦
ここで焦りがあるならば嶋村だろう。
初戦のリードは2回戦のラスで露と消え、勝負はほぼ振り出しに戻っている。
まず東1局、その嶋村が起家である小室の先制リーチをダマでかわして2600。
嶋村(南家)
ロン ドラ
ロンはリーチの小室から。
この手に違和感を覚えたのは私だけではないだろう。
現張りでもない状況、リーチをかければ満貫まであり、ここまでの彼の攻撃的な手順を見てもダマにする理由はほとんどない。
この後ノーテン罰符などで暫定のトップ目には立つが、そのリードは微々たるものであった。
そして東4局、親の朝倉と北家矢島の両者に手が入る。
朝倉(東家)
ドラ
矢島(北家)
ポン ドラ
本手同士の勝負の軍配は朝倉。
矢島からで12000と、あっさり嶋村をまくりトップに立つ。
しかし次局1本場で嶋村に望外の配牌。
嶋村(西家)
ドラ
なんと地和チャンス。それでなくてもダブリーで8000確定である。
力をこめた第一ツモはドラの。
ここは切りでテンパイを外し、3巡目にを引いてリーチといった。
嶋村(西家)
ツモ
嶋村、7巡目に3100-6100のツモあがりである。
結局このまま嶋村が逃げ切って待望の2勝目。
残り2回戦ともなれば、次にトップを取れば勝利はほぼ確定するであろう。
3回戦終了時
嶋村 +73.7(+62.2) 朝倉 +15.9(+11.9) 矢島 −32.7(−51.7) 小室 −56.9(−22.4)
4回戦
いよいよ後がないのが小室と矢島である。
特に小室はここまでまるで手が入っていない。
今回の決勝メンバーで唯一の関西勢、MJの認定雀士経験者であり、プロとしての参戦以降も平均着順2.20前後という脅威の成績を叩き出している。
そして準決勝で私の見たメリハリのある押し引きと冷静な判断力は、優勝に値する充分な実力の持ち主であると感じさせてくれた。
しかし、ここまでストレートな先手のテンパイはわずか2回。
さらに両方とも捌かれるかなり苦しい展開であった。
この4回戦、小室が起家でついにその鬱憤を晴らす。
まずドラドラの両面手をリーチしてあっさり4000オール。
小室(東家)
ツモ ドラ
そして次局には、目下トップ目の嶋村の先行リーチに追っかけ、3900は4200を直取り。
さらに2本場でも嶋村のリーチをかわして矢島から2900は3500と加点していく。
絶対に譲れないこの4回戦で、最高のスタートを切ったと言えるだろう。
同様に崖っぷちの矢島も、黙ってはいなかった。
小室のノーテンにより流局で迎えた東2局。トータルトップ嶋村の親番である。
誰もが大きく親被りをさせたいこの局面で、好配牌と素直なツモ、先手・好形・高得点と文句無しの8巡目リーチ。
矢島(西家)
ドラ
これをで一発ツモ。
「3000-6000は3400-6400」
矢島の力強い発声が、この決勝の中で一際大きく会場内に響いた。
思えば1回戦が終わった時点から私の心中に、「優勝候補の筆頭は矢島」という予想が浮かんでいた。
4年間のメンバー経験で培った好形リーチを主軸にした攻撃力とバランスの良い押し引き、これらはこういった短期決戦で特に結果を残しやすく、事実、先日行われた日本オープンとマスターズで共に彼はベスト16進出を果たしている。
また朝倉も決勝の面子の中で一番恐れる相手を矢島と語り、その攻撃力に警戒を示していた。
加えて彼は1回戦、2回戦、そしてラスを引いた3回戦でさえ攻めるべき手で攻め、引くべき手で引ける迷いの無い局面を多くもらっており、4人の中で一番気分良く打てているといった印象がある。
ここからこの男がどの様な麻雀を見せてくれるのか?
そしてこの矢島のあがりを機に、卓の空気が一気に緊迫し始める。
現実的な逆転の道筋が見えてきた小室。それを追う矢島。
そして追いつかれまいと踏ん張る嶋村と朝倉。
それぞれが残りわずかな回数の中で、自分の優勝への構想を意識し始めているのが伝わってくる。
ところが東3局、その空気が別の方向に動いていく。
突き放したい小室に入ったチンイツ手、15巡目と終盤ではあったが朝倉が切ったを鳴いて切りテンパイとなる。
小室(西家)
ポン ドラ
しかし直後に引いたを手拍子でツモ切って、もともと仕掛けてテンパイ気配だった朝倉に2900を献上。
ここはさすがに先ほど通ったの方が良かったのではないだろうか。
本人も表情を曇らせて明らかに後悔の念を見せていた。
そういえば彼は、東1局の親番を流された際も疑問手を打っている。
小室(西家)
ドラ
この形で5巡目に上家からをポンして打としている。
いくらなんでもこの仕掛けはどうだろう?仮に鳴くとしてもはチーではないだろうか?
そう思った矢先に下の嶋村がをツモ切り。そしてその後テンパイもせずに終わってしまっている。
3回戦までの小室は、手が入らない中をひたすら我慢している印象があった。
大きなミスも無く点棒を守り、ようやくチャンスが来たこの4回戦。
それを自らのミスでふいにしてしまった感が多少なりとも否めない2局であり、点棒的にはトップだが、
暗雲が立ち込めているのを感じた。
そしてさらに大きな事件が起きたのは東4局矢島の親番だった。
矢島としては多きく加点をしたいこの場面で、ダブを早々にポン。10巡目にチーテンを果たす。
矢島(東家)
チー ポン ドラ
ところがここでラス目に落とされていた嶋村がリーチ。
嶋村(西家)
矢島は直後にを引いて待ちとしリーチに突っかかるが、結果高目ので満貫を放銃してしまう。
ちなみに矢島の手牌5枚の萬子は、全てほぼ安牌という状況である。
嶋村を2着目に押し上げ、せっかく作り上げた並びを崩してしまう最悪の一打。
後に本人も、最大のミスと語っている。
たとえ2着でも嶋村がラスのままならまだ最終戦に目は充分あるが、
ここで嶋村の着順を下回ろうものならば矢島の優勝はほぼ不可能となってしまう。
さらに南1局小室の親番でも、矢島のリーチに対して嶋村が鳴いて立ち向かい2000をあがりきり、
先ほどまで誰が勝つのかという緊張感が漂っていた会場は、一変して嶋村の優勝ムードに包まれてしまっていた。
しかしここからの展開は会場全員の予想をさらに凌駕する事になる。
南2局、完全に追い詰められた矢島が3巡目リーチ。
矢島(西家)
ドラ
これをでツモり裏ドラをめくると、そこにいたのはなんと僥倖の。
起死回生の3000-6000でまた矢島は2着に浮上。
嶋村にラスを押し付ける構想が再び現実味を帯びてくる。
次局も嶋村から2600を直撃。
迎えた親番も連荘し、気付けば矢島はトップ目かつ嶋村をラス争いに沈めているという、文句のない状況となる。
そしてオーラス、4回戦中ずっと静かに我慢を続けてきた朝倉もついに動く。
朝倉(北家)
ドラ
2本場で2巡目にここからをチーして打。
前半の彼女ではあまり見られなかった軽い仕掛けで最短のあがりを狙いにいく。
この4回戦、手が立て続けに入る他家とは逆に、ただひたすら防御に徹してきた朝倉だったが、
ここはもう多少のリスクは背負わなければならない事を彼女も充分に理解している。
結局この手自体は実らなかったものの、次局以降も彼女は積極的にあがりを目指し、
4本場にはテンパイ流局で嶋村とのラス争いを制して3着を拾う。
トップ矢島、ミスの響いた小室は2着、続いて朝倉。
そして嶋村が痛恨のラスで場は一気に混戦となった。
4回戦終了時
矢島 +28.8(+61.5) 嶋村 +27.1(−46.6) 朝倉 −9.1(−25.0) 小室 −46.8(+10.1)
最終戦
矢島、嶋村、朝倉の三者はトップならば文句なく優勝。
小室はトップかつ点差が必要。
朝倉が2着の場合は3着と15000点差程度、矢島か嶋村が2着の場合は35000点差程度となる。
全員に目の残ったこの最終戦、まず東1局に先制したのは朝倉だった。
仕掛ける三者を尻目に中盤にリーチして嶋村から3900をあがり一歩リード。
そして東2局、矢島が500オールをあがった次局1本場に場が大きく動く。
6巡目朝倉がこの手牌。
朝倉(西家)
ドラ
朝倉の選択は切り。
この緊迫した半荘だからこそ、落ち着いて形を作れる打ち手が強いのである。
次巡にを引いてリーチ。そして一発ツモ。
朝倉(西家)
ツモ(一発) ドラ 裏
均衡を破る3100-6100で、朝倉が一気に他を突き放す。
迎えた東4局の親番。
自分が6巡目に場に切ったを、12巡目のイーシャンテン時に引き戻した。
朝倉(東家)
ツモ ドラ
これをくっつきの候補として手に留め、即座にを引きリーチ。
巧手の2600オール。
朝倉(東家)
ツモ
そしてさらに1本場、6巡目にこの形で先制リーチ。
ドラ
高目はドラ表を含めて場に2枚見えている苦しいだが、引けば勝負を決定付けるあがりになる。
私の考えとしては、もしも麻雀に神様がいるのならそれは女性だと思われる。
その神様は懸命に我慢をし続けた打ち手に祝福を与えるとも限らない。
また恐れずに攻め続けた人間に祝福を与えるとも限らない。
こんなにただひたすらにその場の気まぐれで場を支配する「じゃじゃ馬」はまず間違いなく女性だろう(笑)。
その神様が、同性の朝倉に魅了されてしまったのだ。
この日一番素晴らしい内容の麻雀でギャラリーを感嘆させていた朝倉に。
ここでがいるということは、そういうことなのだ。
数巡後、朝倉が待ち望んだその牌が、手元に舞い降りた。
ツモ ドラ 裏
4000オールは4100オール。
2着を50000点以上突き放す大量のリードである。
この瞬間、緊迫していた場の空気が急速に弛緩したのを確かに感じた。
今までタイトル戦で何度も感じた、ここでしか味わえないこの空気。
ギャラリーの頭には、既に優勝した時に朝倉に送る賛辞の言葉がよぎっていたかもしれない。
次局にようやく小室が朝倉の親番を流し、ここからは朝倉がいかに残りの局を潰すかの勝負になってくる。
南1局では小室が最後の連荘を目指し懸命に手を作り、嶋村・矢島には8巡目の段階で染め手のイーシャンテンが入る。
特に嶋村はチンイツ・ドラドラでピンズのどれを引いてもテンパイのチャンス手。
矢島(南家)
ドラ
嶋村(西家)
ドラ
しかしこれも朝倉の軽いあがりで流される。3人全員に落胆の色が隠せない。
そしていよいよ最後の勝負所の一つ、南2局矢島の最後の親番。
テンパイ連荘で迎えた1本場、朝倉がなんと4巡目にリーチ。
朝倉(西家)
ドラ
この状況で愚形のはずは無く矢島にとってまさに絶望的な状況。
ところが予想とは裏腹に彼から諦めの様子はまるで感じられない。
不思議に思って一瞥したその手牌は恐ろしい形であった。
矢島(東家)
ドラ
親満はもちろん親っ跳ねの直撃まで見込めるこの牌姿。
ここまで広がった点差を埋める千載一遇のときである。
「最後のチャンスかもしれない」
矢島本人はもちろん彼を応援するギャラリーもそう感じていたことだろう。
しかし、じゃじゃ馬がその気持ちを弄ぶかの様に、この手牌をテンパイさせない。
8巡目にを引き、を切ってさらに磐石のイーシャンテンとなるが、
4巡目時点で7種の受け入れがあったこの手がやっとテンパイしたのは12巡目、三色もならず。
矢島(東家)
ドラ
無論追っかけリーチをして14巡目に朝倉からを直撃。
しかし裏も乗らず、5800は6100のあがりにとどまる。
これによって14000点程度の差を縮めた矢島だが、正直なところ傍から見てまるで手ごたえを感じる事ができない結果であった。
トップ目の朝倉が早い役無し両面テンパイで渋々リーチをしてクビをさらけ出し、
そこに絶好としか言いようがない牌姿をもらったこの状況。
こんな好機で詰められた点数としては、本当に僅かとしか言いようがない。
当の矢島の表情が、この手をあがる前よりさらに苦しそうに見受けられた気さえした。
案の定とでも言わんばかりに次局は朝倉に速攻が入り、あっさりと矢島の親は終了。
最後の抵抗も虚しく、ほぼ敗北が決定となる。
続いて南3局嶋村の親番である。
前半で力を使い果たしたかのように、この5回戦嶋村にあがり手は入らなかった。
もはや止めようがない速攻で朝倉はここも軽く流す。
そしてオーラス、各自が役満以上の条件を満たそうと必死の手作りをするもやはり実らず、
親の朝倉が手を伏せた瞬間、第7期新人王は決定した。
この決勝戦、矢島・小室ともになかなかに質の高い麻雀を見せてくれたと感じている。
矢島の脅威の逆転や小室の粘りが無ければおそらくこういった熱い勝負にはならなかっただろう。
ただようやく主導権を握った4回戦でそれぞれが手痛いミスをしてしまった事が結果的に敗因になったのかもしれない。
嶋村は残念ながら、緊張という要素を差し引いても他3人に比べて格下だったと言わざるを得ない。
4回戦までトップ・ラス・トップ・ラスという試合運びの拙さからもそれは見て取れる。
明らかに無謀な判断や反省すべき点が数多くあった。
それでも新人の彼が、この1年で色々な事を学んで成長してきたのはよく伝わった。
何より彼に今年の新人王にかける意気込みを聞いた時に「絶対に勝ちたい」と答えてくれたのが
私にとってとても嬉しかったのである。
ベストを尽くしミスをしないのが大事な一方で、麻雀プロが持つ「勝利」と「惜敗」の間にあるあまりに大きい壁、
これをこの1年で彼なりに知ってくれたのではないだろうか。
また先述の二人もこの問いに関しては同様の回答を示している。
「負けてもいいからベストを尽くしたい」というのも悪い回答ではない。
しかしこれはやはり大一番を迎えるプロの意気込みとしては若干甘さを感じるのは私だけなのだろうか。
そして優勝した朝倉である。
思えば私が彼女を初めて見たのは第3期新人王戦の準決勝だった。
まだプロになりたてであった当時、彼女は最終戦で全く意味の無いあがりで準決勝の幕を引き、
先輩の大きな叱咤を受けていた事を今でもよく覚えている。
競技麻雀の右も左も解らなかった頃に起きた大きな体験、
当時の彼女は麻雀についてお世辞にも褒められるような実力ではなかったのかもしれない。
しかしここから彼女は様々なプロと意見を交わし且つ教えを請い、大きく成長したことによって、
ラストチャンスの今回見事栄冠を手にした。
その内容も私を含め数々のプロが感嘆するものだったと思われる。
主役不在の混戦で形を成したのは、彼女が積み上げた地道な努力だったのである。
近年麻雀プロの低レベル化が騒がれている。確かに自分も含め、
果たしてどれだけの人間がプロとしての名を冠するに値するのかは正直疑問を感じている。
一方で、これは将棋や囲碁のようにしっかりとした教育機関をもっていない麻雀界においては、
ある程度仕方のないこととも言われている。
プロになるまでの間にしっかりした知識を持った人に麻雀を教えてもらえる機会などそうそう巡りあえるわけでもない。
でもだからこそ、プロになった後に向上の姿勢を持たない者に、プロたる資格は無いというのが私の意見である。
若手の皆、これからプロになる事を志している方々、どうか「プロになったからと言って麻雀が強いわけではない」という考えを
しっかり持ち、プロになった後に常に学ぶ姿勢を持つ事の大切さを忘れないで欲しい。
プロと言う名前に奢らずに努力を続け栄冠を勝ち取った第7期新人王、朝倉ゆかりプロ。
彼女に心からの祝福と賛嘆の言葉を送りたいと思います。
本当におめでとうございます。これからの活躍を期待しています。
最後に余談を一つ。
前述の「決勝に対する意気込み」について、他3人が「絶対に勝ちたいと」と勝利を意識した回答を見せた一方で、
彼女の回答だけは少々毛色が違っていた。
彼女の回答:
ふんにー (`・ω・´)ノ
(* ̄▽ ̄*)
こんな可愛らしいじゃじゃ馬を、皆さん今後とも応援してあげてください。
(文:竹中慎)
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