日本オープンとは プロ・アマ混合のタイトル戦 全国開催の一般予選とプロ予選の勝ち上がり者にシード選手を加えて、本戦を大会形式で開催。 ベスト48から3ブロックに分けてリーグ戦形式(総当たり)で行い、ベスト16を選出。 準決勝も16名のリーグ戦形式で決勝4名を選出する。
この決勝戦が行われた2006年10月15日は、穏やかな秋空とうらはらに、かつてない規模の大嵐が麻雀業界を襲っていた。 鳳凰位、十段位の現タイトルホルダーである土田浩翔プロが、日本プロ麻雀連盟を脱退し、新団体「日本麻雀機構」を立ち上げたのだ。 前日14日の準決勝にはその土田プロも残っていたのだが、ここで敗退となった。 そしてその日の夕刻からは日本麻雀機構の説明会が行われた。 会場から溢れるほどの人が集まった説明会であったが、新団体の詳細は、現時点ではまだ謎の部分が多く、今後の動向に注目したいと思う。
準決勝を勝ち上がり、決勝に駒を進めたのは以下の4人。
1位通過 戸張 茂樹(一般)
吉祥寺「ミスチョイス」でメンバーを勤める34才。 丁寧な動作と発声がいかにも雀荘のメンバーらしい。 丸っこい体型と人懐っこい笑顔が印象的で、お店でも人気者に違いない。 「まぐれでここまで来たので…」 コメントも謙虚であるが、並の雀力では決勝に残ることなど出来ない。
2位通過 中村 光一(日本プロ麻雀連盟)
日本プロ麻雀連盟に2年在籍した後、101競技連盟に移籍。 6年後個人的事情により、退会。今年日本プロ麻雀連盟を再受験し、正規合格。 昨年の第4回日本オープンを制した時は、一般参加の立場であった。 「去年このタイトルを獲っていくつもの季節が過ぎました。 この戦いはこの1年の自分の成長を確かめる大事なものになると思います。 勝ち負けにこだわらず、自分の麻雀を打ち切りたいです」 4人の中で最も気合の入ったコメント。 このタイトル戦にかける意気込みが伝わってきて、 主催者サイドとしては嬉しい限りである。
3位通過 藤崎 智(日本プロ麻雀連盟)
第3回日本オープンの覇者で、今回で3年連続の決勝進出である。 第16期十段位、グランプリ2005のタイトル歴がある。 今回がなんと15回目の決勝という藤崎は緊張など無縁のようだ。 「去年のリベンジを果たしたいね。でもリベンジとか言って、実際できたことないんだけど…」 笑いながら話す様にも余裕が感じられる。 実力、実績ともに最右翼の大本命である。
4位通過 仁科 勇人(日本プロ麻雀連盟)
肩書きは決勝当日のものである。 籍はまだ日本プロ麻雀連盟にあったが、脱退して日本麻雀機構に行くことを既に決意していた。 昨晩の説明会にも参加している。 第6期チャンピオンズリーグで決勝進出(3位)があるが、 かなり緊張の色が見えたように思う。 「連盟員として臨む最後の対局を楽しみたい」 同じく機構への移籍を決めていた神原隆(C2リーグ)が、応援の採譜を務めた。
準決勝の通過順は同点の場合の優先順位となる。
1回戦
起家より中村、藤崎、戸張、仁科の座順で始まった。
東1局から手がぶつかる。
丁寧な手順で、まず11巡目に藤崎がリーチ。 3巡目 南家(藤崎) ツモドラ ノータイムでツモ切り。 5巡目に西家から出たもスルーして、
南家(藤崎 このリーチ。捨牌が ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ リーチ
12巡目に仁科が追っかけリーチ。 北家(仁科) ツモドラ
宣言牌のをポンして、中村も応戦。 東家(中村) ポン
藤崎がを掴み、裏ドラで仁科に5200。
東2局も藤崎に勝負手。 東家(藤崎) ポンドラ
索子の面混一向聴でドラも鳴かせた戸張からが出るも、仁科の頭ハネ。
西家(仁科) ロンドラ
東4局1本場も6巡目にリーチ。 西家(藤崎)ドラ が、東家の仁科に押し返されて、5800は6100の放銃。
東家(仁科) チー ロンドラ
南3局1本場 北家(藤崎) ポンドラ この手も戸張のリーチの当たり牌を掴んで放銃。
東家(戸張) ロンドラウラ
毎局のように手が入っていながら、ものにできない藤崎。 だがいつもの飄々とした様子は変わりない。
南4局3本場 供託1000 ここまで我慢を重ねてきた戸張が7巡目にリーチ。 北家(戸張)ドラ ツモって裏がのれば、トップまで突き抜ける。 16巡目に漸く追いついた中村もリーチ。 南家(中村)ドラウラ
一発で戸張がを掴んで8000は8900。 小刻みに加点していた仁科をかわして、中村がトップ。
1回戦終了時 中村 +64.3 仁科 +15.5 戸張 −29.4 藤崎 −50.4
2回戦
1回戦こそ捲られたものの、仁科の好調が続く。
東2局は戸張から 西家(仁科) チー ロンドラ
東3局は戸張、藤崎の2軒リーチを掻い潜り、戸張から 南家(仁科) ロンドラ
南1局、南2局も戸張から 北家(仁科) リーチ ロンドラウラ
西家(仁科) ポン ロンドラ
南3局は藤崎から 南家(仁科) リーチ ロンドラウラ まさに完勝であった。
2回戦終了時 仁科 +73.8 中村 +72.3 藤崎 −68.3 戸張 −77.8
ここで、小一時間の休憩となった。 2回戦までで1000−2000の和了一回のみの藤崎。 観戦に来ていた沢崎誠、吉田幸雄両プロと談笑を交わしている。 一方、トータル2位の中村は集中力を高めるべく、誰とも会話をしていなかった。
3回戦
藤崎は前日の準決勝も苦しいポイント状況から、連勝を決めて勝ち上がった。 スロースターターの藤崎が反撃の狼煙を上げる。 西家(藤崎) リーチ ツモドラウラ
しかし、仁科も好調が続いている。 東2局5巡目にこの聴牌。 北家(仁科)ドラ 戸張から8000。
東3局に事件は起きた。 11巡目の東家藤崎のリーチ。 ↓ ↓ リーチ 藤崎のリーチより1巡早く聴牌を入れていた仁科の15巡目。
西家(仁科) ツモドラ
仁科には藤崎の手出しが塔子選択に見えた。 が3枚切れの場況で−待ちはないと読んでの切りだったが…
東家(藤崎) ロンドラウラ 仁科痛恨の12000放銃。
はとのスライド、は空切りだった。 単純な塔子落としならの順になる筈で、その空切りは読めたかもしれない。
この局を境に仁科が変調をきたしていく。 少し焦ったような、腰の軽い仕掛けが目立つようになった。 一方、戸張の猛攻に遭い、トップ目を捲られた藤崎だったが、いつも通りに飄々としていた。
南2局東家の中村が10巡目にリーチ。 東家(中村)ドラ
同巡の藤崎 南家(藤崎) ツモドラ 先行リーチがなければ、決してかけることのないリーチ。
3巡後にを静かに手元に引き寄せた藤崎が裏をめくると、裏ドラが。 4000−8000でこの回のトップを決定づけた。
3回戦終了時 仁科 +46.9 中村 +16.4 藤崎 − 1.5 戸張 −61.8
猛攻及ばず、2着に終った戸張は残り2回となり、苦しくなった。
4回戦
東2局1本場 供託1000 七対子の一向聴の藤崎が、暗刻となるをツモ切ると、仁科の手牌が倒れた。 北家(仁科) ロンドラ 何事も無かったかのように淡々と点棒を支払う藤崎。
すぐに次局、中村との2軒リーチにめくり勝って、トップ目に立つ。 東家(藤崎) ツモドラウラ
東3局1本場 藤崎の5巡目 東家(藤崎) ツモドラ
ツモ切りとする打ち手が多そうだが、藤崎は切り。 9巡目 東家(藤崎) ツモドラ
この時点では他家の動きも無いので、切りリーチと行く人がほとんどだろう。 藤崎は切りのダマ。 この後中村がこの仕掛け。 北家(中村) ポン ポン
この仕掛けに対して藤崎はドラのも切り飛ばし、戸張のリーチもかわして和了りきった。
オーラスを迎えて 戸張 20000 仁科 27500 中村 17700 藤崎 34800 となっていた。
後のない東家の戸張が仕掛ける。 東家(戸張) ポンドラ
ポン直後の6巡目、北家の藤崎 北家(藤崎) ツモドラ
いつも同じトーンで摸打を繰り返す藤崎にしては珍しくを切る手に力が入っていた。 戸張がチーして聴牌。3巡後の戸張 東家(戸張) チー ポン ツモ
ツモ切りの方が和了やすいが、点棒も欲しい。の3枚切れをみて切り。
11巡目の藤崎 北家(藤崎) ツモドラ
静かにを河に置く。次巡を引くも空切りして闇聴。 戸張からいつが切られるかと見ていたが、単騎のまま流局まで押し切った。 驚異的な粘りを見せた戸張だったが、次局2軒リーチに挟まれ放銃、ラスまで落ちてしまう。
4回戦終了時 藤崎 + 55.7 仁科 + 51.9 中村 − 4.4 戸張 −103.2
連勝の藤崎がついにトータルトップに立った。 仁科と藤崎は着順勝負。 中村にも十分チャンスはある。
最終戦
ひたすら和了るしかない起家の戸張、7巡目にリーチ。 東家(戸張)ドラ これに一向聴の仁科が飛び込んでしまう。 面混には見えない捨牌であったが…
「最後の半荘は真っ直ぐに行くと決めてました。あの放銃は後悔してません」 後に語った仁科だった。
次局その仁科に大物手が入る。 東家(仁科)ドラ 中村の先行リーチを受けて、ツモ切りリーチと行くが、
西家(中村) ツモドラウラ 対局後、即リーチはなかったかと聞いてみた。 「聴牌直前に藤崎さんに当たり牌を切られて、和了れる気がしませんでした」 この後、箱下まで沈んだ仁科が、優勝争いに関わることは無かった。
代わって中村の反撃が始まった。 東4局12巡目にリーチ。 東家(中村) ロンドラウラ 同巡にチーテンをとった藤崎から5800。
東4局1本場 東家(中村) チー ポン ロンドラ 戸張のリーチをかわし、混一聴牌の仁科から2900は3200。 この時点で中村がトータルトップに躍り出た。
東4局2本場 藤崎の先行リーチを追っかけて、 東家(中村) ツモドラウラ 一発ツモで4000は4200オール。 更に攻める中村、聴牌料で持点は60000点になっていた。 異色の経歴を持つ中村だが、近年は雀鬼流道場にも通っていると言う。 そこで培われたであろう強烈な攻めが、彼の強みになっている。
東4局5本場 10巡目から聴牌していた藤崎の14巡目 北家(藤崎) ツモドラ
の3枚切れを見て、切りリーチに踏み切る。
17巡目の中村 東家(中村) ポン ツモドラ
藤崎の現物はしかない。ノータイムでその牌は放たれた。
北家(藤崎) ロンドラウラ 12000は13500。 中村は去年はこのスタイルでこのタイトルをとり、今年もここまで勝ち上がってきた。 きっと後悔はないだろう。
それでもこの時点ではまだ中村の方がトータルでリードしている。
南1局最後の親番に奇跡を託す戸張が仁科のリーチに飛び込む。 この結果、藤崎がこの回の2着目に浮上し、トータルで中村を僅差で上回る。
南2局藤崎の配牌。 南家(藤崎)ドラ
ここから東家仁科の第1打に食いつく。
南家(藤崎) チー ロン 最後の親番で聴牌の仁科から2000。
南4局2本場 供託2000 オーラスを迎えて四者のトータルは 藤崎 + 67.0 中村 + 63.1 仁科 − 15.1 戸張 −117.0 (供託 2.0)
中村は何でも和了すればトータルトップに立てるが、ラス親なので続行となる。 仁科は8000−16000で逆転できる。
東家中村の配牌。 東家(中村)ドラ
切りで問題ない牌姿であるが、中村は雀鬼流。 第1打に字牌は切れない。を切った。 皮肉にも次のツモが。 9巡目に 東家(中村) ツモドラ を切って一向聴になったが、聴牌を逃した格好である。
一方、既に仕掛けを入れていた藤崎は10巡目 北家(藤崎) ポン ツモ
初牌の發を残して切り。 戸張が6,7巡目にを並べて切っており、このが4枚目。 だが中村は声を発せず、牌山に手を伸ばした。 2巡後、いつもと変わらぬ淡々とした仕草で藤崎が牌を手元に引き寄せた。
北家(藤崎) ポン ツモ
チーしていれば、、と引いて、中村の和了であった。 は見えていなかったが、はポンされていて、は4枚目。 「あれは絶対チーです」 後にそう語ってくれた中村だったが、後悔している感じは何故かしなかった。
最終成績 藤崎 + 73.6 中村 + 60.9 仁科 − 16.3 戸張 −118.3
「2回戦の後の休憩が俺にとって良かったみたいだね」 笑いながら、話す藤崎。
「いつも決勝に残っても、頑張りますとしか言ったことがなかったんだけど、今回初めて勝ちますと言ってたんだ」
「同世代の強いのが、抜けちゃってエース格になっちゃったからね」
「仁科が機構に行くのも知ってたから、手向けの意味もあったし」
「皆さん強かったですよ。でも上には上がいるってことで」
最後までいつもの飄々とした藤崎であった。
文:佐久間 弘行
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