

順位 |
氏名 |
所属 |
合計 |
1回戦 |
2回戦 |
3回戦 |
4回戦 |
5回戦 |
1 |
山口 大和 |
プロ連盟 |
151.3 |
61.5 |
-48.9 |
21.4 |
57.0 |
60.3 |
2 |
小山 直樹 |
最高位戦 |
108.5 |
6.6 |
7.6 |
62.8 |
15.5 |
16.0 |
3 |
松崎 真也 |
一般 |
-59.0 |
-18.4 |
60.0 |
-28.7 |
-46.9 |
-25.0 |
4 |
坂本 大志 |
最高位戦 |
-200.8 |
-49.7 |
-18.7 |
-55.5 |
-25.6 |
-51.3 |
≪決勝観戦記≫
前年(第13期)は矢島亨が優勝し、協会悲願だった現役協会員による初戴冠となった日本オープンであるが、
今期は前日行われた準決勝(ベスト16)の段階で協会員はすべて姿を消し、早々と「今年も主催側が取れないタイトル」となることが決定していた。
ちなみに前日の最終戦(5回戦終了時に首位勝ち抜け、10位以下敗退。2〜9位で最終戦を行い3名勝ち上がり)には協会員が4人残っていたが、向こうの卓では二見大輔が坂本大志(最高位戦)の猛攻の前に成す術なく、こちらの卓では有栖麻理奈が地蔵になり、矢島亨と私(五十嵐)が結果的に足を引っ張り合う形となって他卓の最高位戦二人を喜ばすこととなっていた。
ということで、決勝に選手として出る予定であったが、立会人を、そしてこうして決勝観戦記を書くはめになってしまった。
他の者より一戦早く首位通過を決めたのが山口大和。35歳。プロ連盟所属7年目で現在C3リーグ。
タイトル歴はないが昨年もこの日本オープン準決勝に残っている。
同じ秋田県出身である伊藤優孝プロ主催の漢塾に参加するバリバリの「流れ派」である。
最高位戦からは坂本大志と小山直樹。
坂本は36歳、プロ歴11年。Aリーグ在籍。弟4期最高位戦クラシックで優勝している。
小山は31歳、9年目、B2リーグ。タイトル歴なし。決勝進出も今回が初である。
ただし、準決での勝ち方は小山のほうが堅実であった。坂本は5回戦、6回戦で嵐が吹くようにアガリまくり決勝進出を決めている。
この二人の打ち筋は決勝でも際立つこととなる。
松崎真也は一番若く、27歳。
一般枠での参加だが、さいたま市東大宮の雀荘に勤務ということで十分打ちなれている。
前日の最終戦も協会員3人相手に落ち着いてトップを取り、決勝に駒を進めた。
MJのハードユーザーでもあり、三人打ち、四人打ちともに最強位になったことがある。
日本オープンの少し前に「第2回テレ玉杯最強雀士決定戦」という番組にアーケード半荘予選1位で参加、
そして優勝しており、アマチュアながらテレビデビュー(テレビさいたま)、さらには近代麻雀で女優の及川奈央さん、
声優の植田佳奈さんに挟まれるという豪華なグラビアデビューもしている。
一般も参加する日本オープンは顔出しNGの方もいるだろうという配慮から動画配信はしていないが、
仮に生放映があったとしても松崎は物怖じすることなく堂々と打っただろう。
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『近代麻雀』
2016年5月1日号 |
準決勝で全員と戦った観戦子の感触としては、アマチュアの松崎を含めて誰が優勝してもおかしくないという感想を持った。
★1回戦(座順・小山−坂本−山口―松崎)
東1局、南家の坂本に配牌ドラ暗刻。

ペン から仕掛けて後付けの がすぐに鳴けてテンパイしたときは、
「ああ、昨日の5、6回戦の調子を持続している。今日も坂本の日か」と思った。
しかし、アガッたのは松崎。リーチ一発ツモ七対子。裏も乗せてハネ満である。
松崎、 を打った4巡目の手牌は、
            ツモ ドラ
七対子を強く意識していれば ではなく か あたりを打ったのではないか。
が鳴かれた後に が重なって5対子となったところで軌道修正。タテの流れをうまくキャッチしてアガリをものにした。
東2局は親の坂本が - のピンフ、北家の小山がドラ 雀頭の - 、 でイーペーコーのリーチをするも流局。
1本場は ポンで仕掛けた松崎が小山のヤミテン5200に飛び込んだ。
            ロン ドラ
松崎はリャンメンが二つ残った好形イーシャンテンだったが、小山の現物は と2枚あり、字牌の も1枚抱えていた。
小山がリーチならば振り込みはなかっただろう。小山の的確なヤミテンが光る。
松崎は次局も仕掛けてポンテンの1000点を坂本から。
5200を振り込んだとはいえ、まだトップ目なので果敢に場を回す。
そうして迎えた東4局・親番で本手が入るのだが、無為に終わる。
ここまで主導権を取り続けてきた松崎、ヤミテンの選択肢はなかっただろうが、リーチの同巡に流れ込んだ坂本の が恨めしい。
すでに切っている牌だけにツモ切られた可能性は高く、ヤミなら5800は拾えただろう。
小山はツモリ四暗刻一手変わりのイーペーコーでのアガリ。 が2枚残っているのでその変化はあるが、そうなったとして - が純カラ。
四暗刻成就はなかったのだから、この形のままラス牌 をツモッたのは大きい。
南1局、ここまでまったく音沙汰なかった山口が自風 と のシャンポンリーチ。安目ツモで500・1000。
南2局、親の坂本、 ポン、 ポンと仕掛け、
      ツモ ポン  ポン  ドラ
安目ながらも50符で1600オール。
1本場
山口、ドラ 雀頭のピンフリーチ。
            ツモ →打 リーチ ドラ
坂本が を切って追っかけ。
            ツモ →打 リーチ ドラ
山口 - 、坂本 - 、どちらも薄かったが、小山が山口のハイテイを嫌ってツモ番ずらしのチーをすると坂本が を掴んで8000放銃。
南3局、親の山口が9巡目に チー。この半荘、初めてメンゼンを崩す。
超メンゼン派の彼が手牌をさらすにはそれなりのわけがあった。ドラの が暗刻。
         チー  ドラ
2巡後にあっさりツモッて4000オール。
山口はこの4人の中では極端に手数が少ない。効率重視で手を進めるということはせず、アガれるときは自然に牌が寄ってくると思っているかのようだ。アガリへのGOサインを出す彼のバロメーターはデジタル表示ではない。針が振り切れたときに前に出るといった感じだ。
1本場、松崎 - - 待ちリーチ。

ドラ 暗刻の小山は回ってテンパイするも、結果として追っかけリーチの坂本のロン牌が必ず出て行くような( )手恰好にしてしまった。
リーチ一発タンヤオで5200。
南4局、親松崎がピンズのホンイツ仕掛けでイーシャンテン。
小山がリーチ、これに坂本が一発で放銃。裏も乗って満貫。小山は2着に浮上する。
1回戦結果 山口+61.5 小山+6.6 松崎△18.4 坂本△49.7
★2回戦(座順・小山―山口―松崎―坂本)
東1局、松崎が2枚目の を渋々ポンテン。 と のダブルバック。これに坂本が放銃。
東2局、小山がドラ 暗刻のリーチ。カン 待ち。これに松崎が放銃。
東3局、親の松崎ヤミテンでタンヤオドラ1。3900。
1本場、山口が大きな声でリーチの発声。ソーズ一通出来合いの - ピンフリーチ。
マンズ一色の仕掛けを入れていた坂本が放銃。
東4局、ドラ 雀頭の松崎、 - リーチ。ツモって満貫。
南1局、坂本仕掛けてホンイツの  待ち。しかしツモれず、ドラの を掴む。小山の仕掛けを睨んで長考し、 タンキに待ち変え。
タンヤオのみでホンイツ屋に仕掛け返すのだろうか?と考えれば、この は打てない。
案の定アタリ。小山安目 ツモで2600オール。

1本場、小山リーチ。流局、一人テンパイ。
2本場、坂本
             ドラ から、打点より受け入れ重視でドラ 切り。
を入れてリーチ。山口がリーチ打牌で一発放銃。
南2局、3人リーチ。松崎が小山からリーチ一発表裏の満貫。トップ目からの出場最でトップ目に立つ。
南3局、坂本リーチ。一発消しから入った小山がソーズホンイツテンパイ。しかし、松崎が喰い一通ドラ1の2900を山口からアガる。
1本場、坂本、松崎リーチ、山口もうまく回ってテンパイ。小山一人ノーテン。
2本場、坂本リーチツモ、ドラ1で1000・2000。
オーラス、トップ目の松崎が1000点で終わらす。坂本がリーチ打牌で放銃。
と、こう書くと当たり前のトップ目逃げ切りだが、松崎がアマチュアの域を超えていることを示す局でもあった。
山口のリーチと同時にテンパイ。一発目に打ったテンパイ打牌の はかなり強烈である。
雀頭の が現物だけに、ここを落として回りたくなるところ。そうすると、坂本のリーチ打牌を捕まえるどころか、手の内7枚、
      か、      
坂本のロン牌を浮かせたこんな危ない牌姿になっていただろう。
ひるまずきっちりトップを取った松崎。もちろんラス目の山口に満貫くらいなら打ってもトップなのは織り込み済み。
しかし、仮にもう少し僅差であっても松崎は逃さなかったであろう。勝負所を心得ているからである。
2回戦結果 松崎+60.0 小山+7.6 坂本△18.7 山口△48.9
2回戦終了時トータル
松崎+41.6
小山+14.2
山口+12.6
坂本△68.4
★3回戦(座順・小山−松崎−坂本―山口)
東1局、小山が6000オールを引きアガる。
             ドラ
配牌でドラの が暗刻。10巡目にリーチ。16巡目にツモ。
            ツモ ドラ 裏ドラ
これで裏ドラが でハネ満である。このアガリは大きな意味を持った。
ここまで2着2回の小山がトップを取ればもちろん首位に立つが、
松崎、山口も1回ずつトップを取っているのでそれほど大差にはならないのであわてる必要はない。
しかし坂本は違う。ここで小山にトップを取られると、3人が浮き、自分だけが大きくへこんで残る2回を戦わなければならない。
一人浮き、独走状態ならば3人で包囲網を築けるが、逆の一人へこみでは自由に戦う3人相手に坂本は無理にでもこじ開けていかなければならなくなる。そうでなくてもこの3回戦、トップは譲れないところなのだ。
そのことがよくわかっている坂本は、次局こじ開けにいった。
東1局1本場、坂本の最終形を見てもらいたい。

ここまでもかなりの攻めを見せていたが、3フーロしてまだくっつきのイーシャンテン。これほど切羽詰まった仕掛けは2回戦まではなかった。
この牌譜には4人の個性と戦略がよく表れている。
小山はさらなるダメ押しをねらって15巡目にドラ を重ねてタンピンの親満を絶テンの - でテンパイするも、
2巡後に引いた がリーチの松崎にも坂本にも打てずにヤメ。
直後に出た山口の で、アガリを逃したかと対局中は思ったそうだが、山口はご覧の通り当の昔から優雅にオリている。
もっとも、受けに回るのが早すぎて(というよりも坂本の仕掛けが遠すぎて)最終的には手詰まりを起こしかけているが、
小山が4枚目の を見せなければ を切ったはずである。
坂本には現物、小山、松崎にスジ、 が自分から4枚見えていてタンキ待ちしかない牌だ。
松崎は下家ケアでピンズを押さえながらもツモリ三暗刻でテンパイすると 1枚だけ勝負でリーチ。
最高形をものにした。粘り強さと瞬発力がはっきりと読み取れる。おそらく自身にとっても百点満点の1局だっただろう。
ところが、満点の次の局に落とし穴が待っていた。
東2局、6巡目に西家の山口がカン をチー。遠い仕掛けも安い仕掛けもしない男が動いたのである。
1回戦南3局を彷彿とさせる。あのときはドラは 。今局のドラは 。
10巡目にテンパイした親の松崎、
             ドラ
ドラタンキにも受けられるが、腰の重い山口が動いた以上、ドラの所在はおそらくここ。
ドラタンキではアガリ目無しとして、ピンフの - 待ちでリーチといった。この判断は正しかったが結果はともなわなかった。
松崎、2巡後に掴んだ は覚悟しただろう。山口は チーの際の打牌が 。その後はツモ切り続けている。
そして、松崎がドラ 切りリーチとしながらも、誰も合わせ打ってきていないからだ。
開けられた手牌は、
         ロン チー  ドラ
まさに1回戦南3局の再来。ドラ暗刻のチーテンだった。
次局、山口は七対子 タンキをリーチ、松崎から3200をアガッて坂本の親をあっさり終わらす。
こうして迎えた東4局、山口の親番。この1局が忘れられない。
坂本、8巡目にタンピン、三色orイーペーコーのイ―シャンテンとなって力が入る。
            ドラ
しかし、直後に を山口に暗カンされ、坂本の身体からプシューと何かが抜けた。
同巡に引いたのは、高目三色テンパイとなるはずだった 。
「こうなったら には受けられない。 が山口に通るし、引っ掛けにもなるから」とばかりに 切りリーチ。
3巡後、坂本の判断をあざ笑うかのように ツモ。もうこうなると、山口のたった1枚しかないロン牌を掴む流れである。
「ホント、麻雀って難しいよネ〜」などと聞こえてきそうな麻雀あるある、観ている者には喜劇、坂本にとっては悲劇以外の何物でもない1局となった。
坂本はこの後、一時ハコ点にまでなった。
一方、6000オールスタートをまくられながらも、山口の猛攻の間もじっと耐え、点差をキープしていた小山。
オーラスの焦点は小山が山口をまくれるかの一点になった。

点差はご覧の通り。山口からすればノーテン終了OK。
事実、小山リーチの後は中抜き中抜きで一直線にオリている。
小山からすれば5200出アガリOK。1000・2000ツモももちろんいける。
小山は - 受けでのツモ狙いよりシャンポンでリーチとした。
松崎、坂本、ともにベタオリする状況ではない(松崎は坂本がリーチの場合にはオリがあり得る)。
そこで5200出アガリの可能性のほうが高いと判断したのだろう。
しかし、リーチ後に を持ってきたこともあって出たのは安目 のほう。
小山、図らずも裏ドラ勝負となったが、この勝負に勝ち、まずは1勝。
3回戦結果 小山+62.8 山口+21.4 松崎△28.7 坂本△55.5
3回戦終了時トータル
小山+77.0
山口+34.0
松崎+12.9
坂本△123.9
★4回戦(座順・坂本−小山−山口―松崎)
東1局、親の坂本がピンズで激しく仕掛けるも、山口が打ち切れずに止めておいた中膨れの タンキをひょっこりツモ。
            ツモ ドラ
ドラが で500・1000。
東2局、親の小山がピンフ - 待ちでリーチ。
これを坂本がドラ 雀頭の - 待ちで追っ掛けるも、 を掴んで2900放銃。
1本場、ドラは 。
山口が をポン。この男が動くときはドラがある。
   の王手飛車の形からのポンテン、 - 待ち。松崎が で打って3900。
東3局、親を迎えた山口のエンジンは全開となる。
6巡目リーチ。捨て牌は、
     
というもの。変則手には見えないこの捨て牌で、七対子の タンキではたまらない。
即、掴んだ松崎が止めることなく一発で放銃。9600。
1本場は9巡目リーチ。ピンフの - 待ち。
ドラは だったが、裏ドラ が1枚のって5800を坂本から。
2本場は5巡目リーチ。タンヤオのカン 待ち。
しかし、ここは松崎がクイタンで蹴るという執念を見せた。ドラが1個あって2000点。
松崎、こうして必死の思いで持ってきた親番だったが、親被りで終わる。坂本がメンピン一発ツモドラ1の2000・4000。
南1局は親となった坂本がまたもリーチ。シャンポンの高目 をツモって2000オール。
1本場は小山がソーズのホンイツ仕掛け。ドラ をツモ切ると、坂本が   の形からポンするという無理目の仕掛けに入った。
結果はご覧の通り。
松崎のリーチ打牌に対してチーテンを入れた坂本だが、残った手牌は次の通り。
      ポン  ポン  ドラ
をフカシて、この形のまま あるいは を引いて雀頭にし、リャンメン待ちを狙う安定走行もあるが、なにしろ - 待ちの片方を自分でポンして消している。ということでチーテンを取り、リーチの現物待ちとなる タンキをえらんで で放銃となった。
山口は最終形がピンフのイーシャンテンとなっているが、気分は「いつでもオリる」で、 が通るまでは前に出る気はない。
松崎リーチの後は あたりを中抜きする予定だったはずだ。
南2局は松崎が ポンの1000点を坂本から。これをアガッてもまだラス目だが、小山、坂本とは僅差で2着まで狙える。
特に親番・小山の加点を防ぐための必死の速攻である。
ラス前、2着を狙う3者の明暗を分けた。
小山、高目リャンペーコーのテンパイとなるも、直前に山口に最後の を打たれていて高目はもうない。
それでも - 待ちのままピンフヤミの手はある。それでも満貫だ。
しかし、小山は 待ちより のほうがヤマにいると読んで、七対子でリーチといった。
松崎、坂本の二人に追っかけられた瞬間は肝を冷やしたにちがいない。
しかし、2軒リーチの同巡にリーチ棒をかっさらうハネ満ツモ。これはうれしかっただろう。
2着狙いどころかトップ目山口までわずか100点差となったのだ。
オーラス、アガればトップの小山がカン に喰いつきタンヤオへ。すぐに に をくっつけカン のテンパイを果たす。
         チー  ドラ
次巡、 をツモるとメンツをスライドさせて打 。
すると下家の山口が、小山がいま切ったばかりの牌と同じ物を手元に引き寄せた。
            ツモ ドラ
この接戦で、出アガリのきかない手で悠然と構えていた男に2度目のトップがもたらされた。
4回戦結果 山口+57.0 小山+15.5 坂本△25.6 松崎△46.9
最終戦を迎え、トータルはこうなった。
小山+92.5
山口+91.0
松崎△34.0
坂本△149.5
小山と山口の差はわずか1.5P。二人にとっては着順が上のほうが優勝というサシウマ勝負の一戦である。
松崎は苦しい。126.5P差は46500差のトップラスであるが、小山、山口がほば同ポイントなのでむしろ3着との差が条件になる。
この二人を並びよく3、4着にした上で、小山3着なら66500点差。山口3着でも65000点差が必要となる。
坂本に至っては……麻雀なので可能性がないとは言わないが、1万フィート上空からタクラマカン砂漠の「どこか」に落とした小さな指輪を後日見つけ出すことができるか、というくらいに極小の可能性でしかない。
最終戦の座順は(松崎−坂本−山口―小山)と決まった。
協会のタイトル戦決勝では、最終戦は場決めをするが、起家決めはせずにそれまでのトータル首位者が自動的にラス親となる。
小山、1.5Pのリードは有って無きが如しだが、この条件を手に入れたのはでかい。
オーラスになって山口にリードされていれば、おそらく坂本、松崎がアガリを目指さない中で連チャンが狙えるし、自分がノーテン罰符以上のリードを持っていれば自分の意志でピリオドを打てる立場だ。小山はその有効性を活用できる展開になるだろうか?
★最終戦
東1局、小山がリーチ。
            ドラ
安目ながらも でロン。坂本から3900。
東2局、またも小山がリーチ。
            ツモ ドラ
小山はここからタンヤオ確定の - ノベタンキとはせず、ピンフ確定、あわよくばタンピンの 切りリーチとした。
結果は ツモの1300・2600。しかし より2巡早く をツモっていた。
いや、それよりも 切りで - 引きの三色変化を考えていったんヤミテンにすると、すぐに ツモ。
この3メンチャンでリーチすれば 一発ツモという道筋もあった。
ただし、こちらは難しい。ゴール前の直線勝負でいったんヤミとかは緩手になるかもしれないからだ。
東3局、北家の坂本リーチ。これに小山が高目の で放銃。2600点で山口の親を流せたと思えば安い買い物かもしれない。
東4局、山口リーチ。
            ドラ 
彼にしては珍しいドラも役もない と のシャンポンリーチだが、小山に連チャンされて点差を決定的にされてはたまらない。
基本的には親落としのためのリーチだ。
ここに を暗カンして四暗刻イーシャンテンだった坂本が2枚目の を渋々ポンしてテンパイ。
      ポン  暗カン   ドラ 
両者に阻まれて絶体絶命だった小山だが、タンヤオ七対子の タンキをツモ!
これはデカかった。3200オールで点差を23600と決定的にしたからだ。
1本場、坂本リーチ。すでに十分な点差をものにした小山は1枚切れで対子持ちの で丁寧にオリた……はずだった。
これが七対子にぶち当たる。ドラ無し裏ものらない3200ですんだが、小山からすれば「なんてリーチかけるの?大きくマイナスしてるんだから、せめてドラタンキまで待ってくれない?」だろうか。
しかし、坂本はビハインドを背負ってから全局体当たりのような勝負を続けて来た。
可能性が「砂漠の指輪」であっても、それしかないからだ。
自分の親番が終わって本当に可能性がゼロになるまで特攻を続けるという一貫した姿勢は見せていた。
南1局、北家の小山 ポン、ドラ1の2000点を松崎からアガる。
親番終了とともに、埼玉最強の男の日本オープンも終了。第2回テレ玉杯優勝・松崎真也、3位がほぼ確定。
南2局、0本場・1本場ともに500オールで連荘チャンした坂本、2本場もテンパイを入れるが、
      チー  ポン  ドラ 
テンパイ維持のまま掴んだドラ で山口のリーチに打ち上げた。
         ロン 暗カン   ドラ 
さすがにドラ打ちは酷いと考えた場合は、 とはずして回る手もあるが、値段は一緒。
暗カンで70符だからではない。裏ドラが と だったからだ。坂本もこれで終了。4位確定。
山口のリーチが満貫だろうがハネ満だろうが坂本には一緒だが、小山にとっては震撼ものである。
小山39500、山口30000と、親満、または2600オールで逆転される点差となったからだ。
次局、小山の恐れていたことが起こる。
山口、7巡目リーチ。それも234三色確定のタンピンという極上モノ。
簡単にオリるわけにはいかない小山、歯を食いしばって無スジの と打ってピンフをテンパイ。無論ヤミ。
当面はオリないだろうが、リーチ棒1本が致命傷になりかねないし、終盤ならオリがあり得るからだ。
結果的には一発ツモであったが、そんなことはどうでもいい。山口のチャンス手を潰し、親番を潰すことに成功したのだから。
加えて、点差を13700とした。これも大きい。松崎、坂本がリーチ棒を出す理由がない1局なので、満貫の親被りには耐えられる。
山口に残り1局、ハネツモ、満直条件を突きつけたからだ。
ハネツモなんて日常的なアガリである。半荘数回打てば4、5回はアガれるだろう。
しかし、この1局、たった1局でハネ満を作れと言われたら成功確率はいったい何パーセントなのだろうか?
特に赤牌のない競技麻雀では満ツモとハネツモの難易度は格段にちがう。ハードルの高さが一気に倍になる感じだ。
最終局、小山は第1打ドラ打ちから入り、さらに脂っ濃いところを手放し、来るべきときのために安全牌をため込み、流局終戦というウィンニイグロードを走った。走り続けているはずだった。
状況が一変したのは13巡目、山口の手番である。
            ドラ
テンパイをしているが、条件は満たしていない。ドラの を引いてのシャンポン変化。
ドラはすでに2枚出ているが、それでもリーチ、ツモで裏ドラ期待だろう。
あるいは、ここから 、 と引いて2手変化の345三色でリーチなどの手変わり待ちだっただろう。ここに予期せぬ4枚目の ツモ。
ストップウォッチで計ったわけではないが、体感で3分くらいの沈黙があった。その間、おそらく山口の頭の中で、
「 切って三色確定のリーチか」
「しかし、 はすでに2枚切れ。いっそ カンしてドラを増やしてのリャンメンリーチの方が……」
この堂々巡りが2巡、3巡していたにちがいない。
大長考の末に出した結論は 切りリーチ。
対局後、山口は語った。
「4枚目の が手元に来た意味を考えていました」
実際には小山の手に があったので、残りたった1枚。
山口に、「4枚目の意味を考えろ」と囁いた何者かが、その最後の牌を次のツモに置いていた。

これほど劇的な大逆転は生きている間にめったに観られるものではない。
山口の勝利は見事だが、私は瞬間、小山の表情を見た。あまりに悔しい幕切れであり、私自身似たような経験があるからだ。
小山の表情は変わりなかった。
「麻雀だからこういうこともあるさ」といったような達観した表情がプロとしての矜持を守っているようで好ましかった。
ちなみに私の経験とは、第6期雀王決定戦最終戦。
オーラス、ラス親の私は鈴木達也から5800の出場最を打ち取り、この日の小山と同じくハネツモ条件を突きつけて1本場は同じく流局終戦を目指した。何から何までこの日の小山と同じだった。
違ったのは達也のリーチが9巡目と早く、しかもその鼻息の荒さから一発や裏ドラの必要がない十分形であることが窺え、なかば覚悟を決めていた点だ。その点では小山のほうがよほど悔しいだろう。
無駄に一発でツモッた達也の手牌はこうだった。
            リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
あともう一つ。
第6回日本オープンで藤崎智(プロ連盟)がオーラス倍満条件をクリアし、小倉孝をまくった逆転劇もあった。
藤崎のリーチは、
            ロン ドラ 裏ドラ
というドラ無しのチンイツ。
見逃せる待ちではないので出アガッた後の裏ドラ勝負となったが、乗る確率は17%弱。つまり83%有利な勝負に小倉は敗れた。
この三つはシェイクスピアが生きていたら、「オーラス三大悲劇」として戯曲化するにちがいない。
公演舞台はいつだって神楽坂「ばかんす」である。
自分の経験から小山に肩入れしてしまったが、大事なことを忘れていた。
5回戦結果 山口+60.3 小山+16.0 松崎△25.0 坂本△51.3
最終結果スコア
優勝 山口大和+151.3
2位 小山直樹+108.5
3位 松崎真也△59.0
4位 坂本大志△200.8
山口大和、優勝おめでとう。
4人の中でもっとも手数が少なく、アガリにもっとも意味を持たせた者が栄冠を手にした。
連盟のAルールならともかく、協会ルールにおいてこのスタイルでの勝利は称賛に値する。素直に頭が下がる。
同時に牌効率を金科玉条のように口にする若手に一考を促す結果になったと思う。
牌効率は確かに麻雀の基本だが、それだけでは勝ち切れない独特の雰囲気がこうした決勝にはある。
普段簡単にアガれる手がアガれないものなのである。その点で山口の重い麻雀は決勝にあっていたというべきだろう。
戦いが終わった後に卓掃除をした者が、形を崩さず残っていた牌ヤマをめくると、カンしての裏ドラが だったそうである。
「なんだ、カンして - リーチでも勝ってたのか、バカヅキじゃん」と思われるだろうか?
しかし、その場合リンシャンから持ってくる牌は であり、牌譜を見直してもらえばわかる通り、これは小山が喰える牌。
間違いなく一発消しをするはずだ。
つまり、山口の選択は細いアガリ道を通る唯一無二の正解だったわけである。
いいじゃないか。「4枚目の牌を引いた意味を考える」なんて、文学的あるいは哲学的な思考をする者がいたって。
方法論がどうであれ、最高の結果を出すのがプロだと思う。
それを稀に見る逆転劇で引き出した山口は経験値が大きくアップしたはずだ。今後の活躍に注目したい。
(文・五十嵐 毅)
(文中敬称略)
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