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日本プロ麻雀協会、関西所属協会員による西日本最強決定戦。
「ウェスタン・チャンピオンシップ2011」開催。

最終ポイント成績

順位
名前
TOTAL
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
1
下井 重貴
97.3
56.2
-19.4
69.6
-12.4
3.3
2
宮崎 信一
57.5
-40.0
57.5
-0.2
-52.4
92.6
3
サイコロ太郎
-72.3
-18.5
5.6
-47.0
8.3
-20.7
4
田村 洸
-82.5
2.3
-43.7
-22.4
56.5
-75.2

【決勝観戦記】

「関西の麻雀界を盛り上げよう」
というコンセプトで作られた協会関西限定タイトル『ウェスタンチャンピオンシップ(以下、WCS)』

「皆楽しめるよう、誰でも平等に勝ちあがれるチャンスを」と関西協会のトップであり、
このタイトルを自身で作って昨年自作自演(笑)の優勝を果たした一北 寛人は、
今大会はシードを一切無くし、予選から決勝まで味わいつくせるようなシステムにした。

準決勝・決勝の顔ぶれは毎年バラエティに富んでおり、毎年様々なスタイルの選手を観戦でき、
見る側も参加する側も楽しめるようになっている。
さて、今年はどのようなメンツが決勝に残ったのであろうか。

 

☆下井 重貴

「2年越しの雪辱を晴らします」

彼に決勝前聞いた言葉である。2年前のWCSの決勝に残り、決勝を盛り上げた立役者の1人。
そのときは負けてしまったのであるが、その敗北の悔しさは当時の決勝後のインタビューでも明らかであった。
「今年こそは、俺が勝つ」
そんな意志を強く感じた。
その強さは今年の第6回オータムCC優勝、そしてBリーグまでのストレート昇級から、折り紙つきである。

 

☆宮崎 信一

関西では古株で、第5期新人王のタイトルを持っている宮崎。
彼のイメージを一言で言うと「ストイック」
麻雀に対し常に真剣であり続ける。
私が少し前に参加してた研究会の主催の1人であり、
そこで彼の緻密で丁寧な麻雀に触れ、刺激を受けたものだ。

「ここまで来たのだから、だいたい勝ちますよ」
彼の自信が表れたその言葉から単なる虚勢には聞こえない。
どんなにピンチになっても、スタイルを変えず反撃のチャンスを窺い、勝機を見るや一気に畳み掛ける。
前雀竜位戦でも見せた怒涛の反撃をこの決勝でも見せてくれるのか。

 

☆サイコロ太郎

「何この名前(笑)」
と一見すれば関西のお笑いキャラと思われてしまいそうだが、
ところがどっこい彼は第2回オータムCC優勝、第4回のオータムCCでも決勝に残っている鉄板強者である。
一発裏ドラ無しルールに強い印象があるが、それだけではない。
一発裏ありの別の大会の本戦や準決勝に残っている姿は私自身が何度も見ているし、
赤牌があるフリー雀荘で何度も同卓してその対応力も実際目にさせられてきた。

「恥ずかしいところを見せないように頑張ります」
ユーモアを交えつつ、決勝前にそう話してくれた。

 

☆田村 洸

私はこの中では彼との付き合いが一番長い。
半期後輩で年も私よりかなり下なのだが、SNSなどでの交流やイベントなどで打ったり話したりすることが多かった。
観戦記者という立場を離れれば、個人的には密かに一番応援していた選手である。
常にマイペースで、決勝であっても非常にリラックスした様子であった。
決勝メンツが勝手知る人が多かったというのもあるかもしれないが、
雰囲気に呑まれないメンタルをしっかりと持っている。タイトルを持つ3人相手にまったく気後れしている様子は無い。

「25%の勝負を楽しみます」
フリーからネットまで麻雀を意欲的に打ち続ける彼らしい言葉を決勝前に貰った。

 

 

私個人の考えでいうと、「この中に入って打ちたい!」
と思わせるようなかなり充実した面子。
さらに、彼らはそれぞれがよく知っているもの同士で、ことさら緊張せずリラックスできている様子であった。

「今日はいい麻雀が見れそうだ」
そのような予感を抱いている中で、WCS決勝1回戦は開始された。

 

★1回戦★ (田村-下井-宮崎-サイコロ)

田村の起親で始まった1回戦。
全員ノーマルな切り出しから始まり、それぞれがアガりに向かって進んでいく。
7巡目、端牌整理をしている内にドラが重なり、さらに暗刻にまでしたチャンス手が下井に入る。

南家・下井(25000点) 7巡目
 ツモ ドラ
関連牌としてはが1枚切れているだけで、打牌候補のどれを切ってもアガれそうな手だ。
ここで下井はを1枚外すことを選択。
のポンテンはとれなくなるが、テンパイすればリャンメン確定の一打だ。
しかし、次巡でツモってきたのは。テンパイを逃す結果となったが、イーシャンテンとしてはさらに形は良くなった。
11巡目、イーシャンテンにまでこぎつけていた親の田村をツモ切ったを下井がチーして満貫テンパイ。
ここで宮崎がトイツ落としからのチーを見て、を合わせ打つ。
このときの宮崎の手牌は以下。

西家・宮崎(25000点) 11巡目
 ツモ→打 ドラ
ここから打ということは、当然下井の動きをケアしたものだ。
ドラが見えておらず、トイツ落としまでして場にほとんど切れていないを一鳴きするということは、
ドラトイツ以上のチーテンと見たのであろう。
このような宮崎の繊細なケアは今決勝戦の随所で見られた。
アガるチャンスが減るというデメリットもあるが、
大きな失点を防ぎ、反撃のチャンスをじっと待つヒット&アウェイの戦法で宮崎はトップを狙っていく。
今回はそのケアがフルに役立った場面であった。

12巡目、田村にようやくテンパイが入る。

東家・田村(25000点) 12巡目
 ツモ ドラ
宮崎と同じく、下井の仕掛けが気になる様子の田村。
しかし、ここで5800以上のリーチを否定する理由はほとんど無い。
ドラが固まっているならは絶好の狙い目でもある。
果敢に打でリーチ。親リーVS子のドラ3の勝負は早く次巡に訪れた。
田村が一発目に持ってきた牌は
下井に8000点とリーチ棒を差し出す結果に終わってしまう。

続く東2局、先ほど満貫を打ち込んでしまった田村に5巡でピンフのテンパイが入る。

北家・田村(16000点) 5巡目
 ツモ ドラ
先ほどの失点を取り返すべく仕方なさそうに即リーチ。
の手代わりを待つ人もいそうだが、現代麻雀では即リーチ派が多数であろう。
これに対して他の3人は丁寧に廻していく。
10巡目、サイコロが以下の手牌から、3枚目のをチー。

西家・サイコロ(25000点) 10巡目
 チー ドラ
そして切り出したのは
タンヤオのみの仕掛けに切り替えた。
サイコロはこのように仕掛けを多用し、なるべく安全な牌を切りながらテンパイへ向かっていく。
手牌を短くし防御力が下がるというリスクはあるのだが、チャンスを増やし少しでも加点していくというスタイルだ。
一発裏無しのオータムCCなどではこの戦法はかなり強い。
協会ルールではどうのなのかということだが、一長一短であろう。
協会ルールはリーチが強いので、こういう仕掛けはリスクも大きくなる。
だが、今回はサイコロのこの仕掛けは功を奏する。
次巡、サイコロはを重ね打、さらにを重ね打
すぐに田村がを掴み、またもリーチ棒と1000点を献上してしまう。

東3局、3段目まで誰も仕掛けず、重苦しい場。
もちろんドラのも1枚も見えていない。
もう終盤の14巡目、サイコロがドラターツのペンチャンを引き入れ、迷わずピンフリャンメンリーチを打つ。
南家・サイコロ(27000点) 14巡目
 ツモ ドラ
対応する3人は終盤だしオリるだけか、と思った15巡目下井に以下のテンパイが入る。

北家・下井(34000点) 15巡目
 ツモ ドラ
ドラを配牌から2枚持ち、リーチを打つ機を待ってはいたけれど、今この状況愚形残りのリーチは打ちにくそうだ。
さあどうする?

下井が少し考えた後、掴んだ牌はなんとドラので、そして「リーチ!」という叫び声とともに千点棒が出された。
先行リーチの現物で、自身の中スジヒッカケになっている形。
アガれるのなら多少危険なドラを切るのも厭わない。
とても強い意志の込められた発声であった。
私だったら、ここはリードもあるし現物を抜いて安全牌ができなければをアンコ落としでもしたであろう。
17巡目、安牌に窮した田村が暗刻から手牌の中では一番安全そうな(シャンポン・単騎・リャンメンがすべて否定できる)を切りだし、
3連続放銃となってしまう。
田村がツイていない、という面もあるが、やはりこのリーチが打てる下井が強い、と思わざるを得なかった。

東4局、6巡目に以下の手牌で下井が少考。

西家・下井(37600点) 6巡目
 ツモ ドラ
今までの下井の手には、常にドラが2枚以上ある。
麻雀の神というものがいるならば、彼はまさにその神に愛されでもしているかのようだ。
彼の実家は神社を営んでおり、今まさに神社を継ぐための学校に通っている。
そして、少し前のオータムCCの決勝時にも会場近くの神社で必勝祈願を掛け、見事優勝している。

麻雀の神に愛されるに相応しい立場にあるといっても過言ではなさそうだ、
が…ドラがあってもアガれなければ意味は無い。
アガるための大事な選択。この手牌はどこを切るのが正着か?
下井はここで切りを選択した。
イーシャンテンを維持し、ソーズリャンメンの受け入れを残しつつ、ピンズが変化すれば一気通貫のドラヘッドまで見える。
私ならを切るが、マンズのリャンメン変化率が少し変わるだけで大差はなさそうだ。
そして、次巡を引いてテンパイ。
ただしドラのが出て行く形だ。下井はここでも勢いを衰えさせず、といった風にリーチ棒を出す。
そんなに悪くなさそうなではあるが、は脇の宮崎に2枚、田村に2枚。
しかも2人とも手がオリるには容易で、まずは出そうにない。
そして、親のサイコロがドラを1枚使ったイーシャンテンにまで来ていた。
そして次巡リャンメンテンパイで当然の追いかけリーチ。
神に愛されしはずの下井がを一発で掴み、7700の手痛い放銃となる。

東家・サイコロ(26000点) 8巡目
 リーチ一発ロン ドラ 裏ドラ
いくら絶妙のアガリをしても、次の手が絶対再びアガれる、という道理は無い。
麻雀はつくづく選択と抽選のゲームであると私の中で再確認させられた。
だが、下井はもちろんこのようなことでへこたれるような柔なメンタルはもっていない。
そんなメンタルを持っている奴はこの決勝にはいない。

東4局1本場、4巡目
下井にたちまちテンパイが入り、即リーして7巡目にツモって2000・4000の1本場。

西家・下井(28900点) 7巡目
 リーチツモ ドラ 裏ドラ
刺しつ刺されつの攻防はいよいよこの半荘の後半戦、南場へ。

南1局、南家の下井、無駄ヅモ無しで5巡目ピンフテンパイ。
ここでも手を緩めるわけはなくリーチ。
安全牌の無い親の田村、ピンフドラのイーシャンテンからアガりに向かうため、を自然に押し出し、一発放銃。

南家・下井(41100点) 6巡目
 リーチ一発ロン ドラ 裏ドラ
この半荘の最後の親もこのような形で流されてしまい、心が折れてもおかしくはない田村。
様子をちらりと見ると平然とした顔だ。
「まだ最初の半荘だよ。まったく問題ない」
そう言わんとする表情であるのがよくわかった。
こんなにツイてなくてもまったく意に介さない、彼もまたメンタル強者。

さて、南2局。
田村にドラのが重なり、その直後に役牌のを鳴くことができる。
さらにトイツのを鳴き、トイトイドラドラのテンパイ。
ドラをツモればハネ満で、先ほどまでの失点の埋め合わせになるが…
結局12巡目に自分でを持ってきて満貫ツモアガり。2着を狙いにいける位置づけをし、次の局へ進む。

北家・田村(5400点) 12巡目
 ポン ポン ツモ ドラ

いよいよ1回戦の佳境、南3局。
5巡目に下井がを仕掛けてイーシャンテン。
田村はメンタンピンドラの高得点かつ良形のイーシャンテン。
8巡目に下井がサイコロから出たを鳴き、安くはあるが-のリャンメンテンパイを入れる。

北家・下井(37100点) 8巡目
 ポン ポン ドラ
なかなかでない-
田村がいよいよ11巡目でテンパイ。もちろんリーチ以外の選択肢が無い。

南家・田村(13400点) 11巡目
 ドラ 
それを受け下井はを持ってきて少考。
点棒状況をしっかりと鑑み、完全安全牌はないものの、早めに田村の捨牌に切れているを確認してトイツのを切り出す。
一応リーチ現物待ちではあるが、は場に3枚切れており、リーチをかわせるだけの待ちではない。
そう判断し、丁寧にオリに向かったのだ。
大胆さと冷静さ、その2つを持っている下井。この半荘のトップを守りきれるか。
一方、宮崎は手にならず、粛々とオリ続けている。そして、サイコロ。
宮崎が14巡目に放ったをチー。

南家・サイコロ(28600点) 14巡目
 チー ドラ
ここから打。形式テンパイをとりにいくためのチーだ。
次巡にツモ、打。そして、ツモ→ツモ切り。スジでが通っている。
そしてツモ。形式テンパイ完成だ。
-を通せたら、の話だが。
マンズはすべて無スジなので、危険なのは-もマンズも同じ。
おそらくそのような思考で、打ち出されたに対し、田村からロンの声。

南家・田村(13400点) 16巡目
 ロン ドラ 裏ドラ
サイコロにとっては痛恨の8000点の振込みとなった。

私ならこの点棒状況ではをチーしない。徹底的に振込みを避ける場面だと思うからである。
サイコロのスタイルとしてテンパイ料を取りにいくのは理解はできるが、親番もまだ残っており、無茶する必要はなかったのではないか。
これで田村が2着浮上。これで2着取りが1000点差以内の争いとなる。

1回戦山場の南4局。
サイコロの捨て牌状況。
 ※はツモ切り
この数牌だらけの異様な捨て牌に対応し、下井は6巡目にすでにを合わし、次巡以降も合わせ打ちをしている。
自分の手が勝負にならない上に、この捨て牌なので早くて高いテンパイがあり得ると思って早くも撤退をしたわけだ。
この判断も私は評価する。
実際はドラ無しの役牌トイツのシャンテンなのだが、読みが当たっている当たっていないの問題でなく、
トップが偉い協会ルールでのリスク管理がうまい、ということだ。
脇の2人は1000点アガれば2着でプラスになるので、死に物狂いでアガりにくるだろう。
脇に打つ分は問題なく、親のケアさえしておけばトップはかなり確実だ。
そういった判断ができるかどうか。
それが「麻雀が強い」ということの指標になると、私も思っている。

この局は結局サイコロがのポンテンを入れ、をツモあがって連荘となる。

東家・サイコロ(20600点) 12巡目
 ポン ツモ ドラ

オーラス1本場、さっきとあまり状況は変わっていない。
宮崎が2着になるには下井・田村からの1300点では足りないといったところだ。
全員そこそこに手はできているが、中張牌で手が構成されていた田村が急所のカンを入れ、をポンして疾風の如く5巡目テンパイ。
を暗刻にしたサイコロがを鳴いてテンパイするが、田村はあっさり7巡目にを引いて2着競争を勝ち取った。

南家・田村(20900点) 7巡目
 ポン ツモ ドラ

手が入り続け、守備もうまくこなせた下井。
不運ながらも最後まで諦めず復活を遂げた田村。
積極的な仕掛けが良くも悪くも状況を動かしたサイコロ。
ただ耐え、反撃する機会を窺っていたが何もできなかった宮崎。
それぞれの1回戦を終え、様々な思いを胸に2回戦へ向かう。

1回戦スコア
下井  +56.2
田村  +2.3
サイコロ▲18.5
宮崎  ▲40.0

 

★2回戦★ (田村-サイコロ-下井-宮崎)

再び田村の起家から。
田村が軽く役牌を仕掛け、6巡目には-のテンパイ。
場には1枚切れで悪くもなさそうであったが、10巡目に下井がを暗カン。
すでにタンヤオチートイを張っていたサイコロがカンドラが乗り、ツモ切りリーチを敢行する。

南家・サイコロ(25000点) 11巡目
 ドラ
待ちは単騎。
捨て牌状況からは良いとも悪いとも言えないが、
「チートイは張ったら即リーチ」というのがデジタルでは主流。
これは、待ちがどのようなものであれ、巡が早ければ早いほどよい、ということなのだろう。
その意味では、打点MAXを見て、ここでリーチしてもよさそうではある。
結局安全牌がなくテンパイしている田村だけが押し、下井と宮崎はベタオリ。
流局間際に田村がオリて終局となった。

続く東2局では下井がわずか3巡で発を1鳴きテンパイ。
リーチ棒を回収にいく。
途中でリャンメンに切り替え、12巡目であっさり300・500ツモ。
1回戦もそうだったが、場が決勝にしてはだいぶ早く廻っている。

東3局、下井の親。
下井はピンズとソーズをバラ切りし、マンズのホンイツ気配が漂う。
9巡目には字牌が飛び出し、10巡目には初牌の
北家のサイコロはマンズを打たないようにして他の色の比較的使えない牌を捨てている。
そのような中、宮崎に入った手が以下。

南家・宮崎(23600点) 10巡目
 ツモ ドラ
チャンス手と言える手牌であろう。
ここから宮崎は打

慎重だ。
宮崎の慎重さは確実に失点回避の役に立ってはいるが、
先ほどの1回戦のように動くことができず、何もしないうちにラスを引いてしまうこともよくありそうにも思える。
私であればマンズがまだ1枚も見えていないこともありを先に処理し、そこから対応を考える。
12巡目にを引き、そこで打。親の下井がポンしてテンパイ。

東家・下井(26400点) 12巡目
 ポン ポン ドラ
の形から、が2枚切れだったので打のカン
同巡、宮崎がを引いて-テンパイするが、テンパイとらずの打
もちろん、ドラを出してロンされたら致命傷になりかねないからだ。
15巡目、宮崎ツモ
ここでを打ち単騎テンパイ。
残り巡目が少なく、出アガりも期待できず親からの撤退も考えてのダマテン。
しかし、次の巡にツモってきた牌は、まさかのであった。

南家・宮崎(23600点) 16巡目
 ツモ ドラ
暫定トップの下井の親を流し、自身がトップに浮上するアガリ。
宮崎の慎重さとしぶとさが垣間見えた1局であった。

さて、次は宮崎の親の東4局。
流れというものがあるのであれば、宮崎に手が入りそうなこの局。
しかし、ここで一番始めに「リーチ」の発声をしたのは田村。

南家・田村(22600点) 8巡目
 ツモ ドラ
高めをツモれば満貫。
リーチしない理由は無い。
が、他の3人は丁寧に対応し流局。
全員親は連荘せずに南場へ入っていったのであった。

南1局、宮崎が5巡目でドラのを放っている。
宮崎や田村はドラは使えなさそうなら1段目で処理することが多い。
どうせ切るなら早ければ早いほどという考えであろう。
たとえ鳴かれてしまっても後の対応はできるという自信の表れでもあるのだろうか。
その宮崎が12巡目でリーチ。
そして一発ツモ!!!

北家・宮崎(26600点) 13巡目
 ツモ ドラ 裏ドラ
道中でをと振り替えることができ、見事にメンタンピンに仕上がった。
1回戦は他の3人の早仕掛け、
早リーチの対応に追われアガることさえできなかったが、遅い巡目で勝負となるとこのような力強さを見せる。
最初に負けていても、粘って粘って粘って追い込みを掛ける。
これが宮崎のスタイルだ。雀竜位でも見せたその末足は、後にこのWCSでも見せ付けられることとなる。

南2局、サイコロの親。
サイコロはすぐにを鳴き、わずか6巡で田村から1500点をアガり連荘。

そして1本場、ここで宮崎にトップを確定させるかのような猛烈な手が入る。

西家・宮崎(35900点) 1巡目
 ツモ ドラ
アガれればかなり大きい。
南場であるし、8割以上はトップであろう。
3巡目で宮崎が、下井から出たをチー。ペンの満貫チーテンである。
皆、宮崎の動向に注意を払いつつもまだ序盤なので自分の手牌寄りでツモと打牌を繰り返す。
8巡目に手が整いつつあった親サイコロがを放出し、宮崎が8000点と300点の収入を得て、トップをほぼ磐石なものとした。
いわゆる交通事故というやつであるが、1回戦で3着であったサイコロにとってはかなり痛い放銃であっただろう。

南3局、下井の親。
1回戦トップだった下井はなんとか2着だけでも確定させられるようにひとアガりしておきたい。
逆に、他の3人はここで下井の着順を落としておけばかなり大きい。全面戦争が予感される1局だ。
わずか4巡でサイコロがペンをチー。
ドラはだからこそのチーであろう。
バックで親を落としにかかる。

一方、下井の手はマンズに寄りそうになるものの、結局バックのみのテンパイ。
だが、シャボ片割れのを引いてしまいフリテン。
頼みの綱のは2枚ともサイコロに流れ、アガれず。
それでも流局時には1人テンパイ。2着の可能性は高まった。

続く1本場。
下井にトイツのチャンス手。
田村の第1打を鳴き、手牌はマンズに寄っていく。
下井の捨て牌相はピンズばら切りでかなり異様。
宮崎がこれに対応して7巡目でもうオリている。
サイコロと田村は手牌がかなり整っており、点数状況的にもアガりにいきたいところなのでガンガン手を進めている。

13巡目、田村がテンパイ。
「リッッチ」
彼独特のリーチ発声がこの煮詰まった状況で静まりかえっている場に響く。

続く14巡目、サイコロもアンコのメンゼン手をテンパイ。
当然の追いかけリーチ。
こうなるとまだテンパイもしていない親の下井は苦しい。
リーチ者2人はアガリ牌を引けず、ついにハイテイ間際。
ここで下井が田村のツモ切ったをポンして2人にはほぼ通る打(田村は現物、サイコロはスジ)。
下井の手は以下。

東家・下井(24300点) 18巡目
 ポン ポン ドラ
サイコロのハイテイを流すためのポンであるが、これは大ミンカンでよかったであろう。
どうせを切るのならツモを増やしてテンパイする可能性を追うべきだ。
サイコロのハイテイツモはいずれにしても消える。
下井も後に、
「カンだった」と述べ反省していた。

供託が2本出てのオーラスへ。
全員がノーマルな切り出し。
宮崎は、満貫ツモでも捲くられないので安全牌を抱えつつ、手を進めている。
10巡目、サイコロがリーチ棒を投げた。
供託もあり、ツモれば2着濃厚のリーチ。

3人はテンパイできず、防御に廻ることを余儀なくされる。
そして流局間際の17巡目、力強くツモ牌を引き寄せたサイコロ。

西家・サイコロ(15000点) 17巡目
 ツモ ドラ 裏ドラ
値千金の高めツモ。
裏が乗らずとも2着浮上だ。
ちなみに裏ドラ乗らずの安めであったら同点2着であった。
▲10pを下井に押し付け、自身は+10pを得られたこのアガりはかなり大きいと言える。
1回戦でラスを引いた宮崎がトップで、3着だったサイコロが2着。まだまだどう転がるかわからない展開となったのだ。

2回戦スコア
宮崎  +57.5
サイコロ+5.6
下井  ▲19.4
田村  ▲43.7

2回戦終了時トータル
下井  +36.8
宮崎  +17.5
サイコロ▲12.9
田村  ▲41.4

 

★3回戦★ (田村-サイコロ-下井-宮崎)

決勝にしては進行が早く、まだ1時を少し過ぎたところであった。
誰も親でほとんど連荘することなく淡々と進んできたからだ。
しかし、ここ3回戦でのポイント結果次第では次回以降の身の振り方が決まり、重い重い展開になることもあり得る。
WCS決勝・中盤戦のスタートである。

東11局、またもや田村が出親。
全員動き無く7巡目に手なりでテンパイを果たした宮崎がリーチ。
田村、下井はベタオリ。
サイコロが廻しつつテンパイをとるために仕掛け、安全な牌を切りつつも前に進む。
が、宮崎は最後のツモ番で運よくツモアガり。

北家・宮崎(25000点) 17巡目
 ツモ ドラ 裏ドラ
幸先の良いアガり。
ここで2連勝しておくと一気に優勝確率があがる宮崎には是非欲しかった先制パンチだ。

続く東2局。ドラは翻牌の。誰も鳴きは入れず、重苦しい場。
一番先にテンパイしたのは宮崎。
のシャンポンだが、リーチはかけず。
他家がテンパイしたときに零れるを狙うダマテンだ。
リーチを掛ける選択もアリだが、私もここはおそらくダマる。
次にテンパイを入れたのは下井。
途中まではメンツ手を目指していたが、中盤を絞っているうちに一度切った牌などが重なり、
結局チートイツに向かう手になって、10巡目最終的に単騎でテンパイ。
残り1枚を宮崎との奪い合いになる。
有利なのは下井。
なぜなら頭ハネがあるからだ。
田村が出してもサイコロが出しても下井のアガりになってしまう。

宮崎がリーチを掛けてもアガれるようにしていたら勝負はわからないが、ダマのままだと負けてしまいそうだ。
もちろん下井が単騎に受けていることがわかっていたら
リーチは掛けられるが現状ではそんなことは読めるはずも無く、双方ダマで押し合い。
さて、どちらに純白の女神は舞い降りるのか。

ツモ牌を置くかすかな音が響きアガリが申告された。

西家・宮崎(30200点) 14巡目
 ツモ ドラ
先ほどの1300・2600に続いて2000・4000のツモアガり。
宮崎が一歩リードを取る。
しかし、まだ東2局が終了したばかりだ。
まだまだどういう展開の変化が起こるかはわからない。

東3局、皆手がやや重気味だったが、サイコロだけがうまくメンタンピンにいけそうな手牌。
3巡目、既に2枚切れていた自風のドラをトイツにし、次巡即テンパイ。
もちろんリーチ。そして力強く一発ツモ!

北家・サイコロ(19700点) 10巡目
 ツモ ドラ 裏ドラ
裏ドラが乗って3000・6000。
サイコロが一気に追いつく。
親被りの下井はラス落ち。
このままいけば1回戦の貯金は帳消しだ。
が、もちろんそんなことを許させる下井ではない。

続く東4局、下井の勝ちへの執念が天に届いたのか、1回戦のような配牌でドラのトイツ。
わずか3巡でドラ暗刻のイーシャンテンに。
手を広くするツモが来て磐石のイーシャンテンになるも、そんな反撃を許さじと親の宮崎が10巡目に先制リーチ。
ドラのペンチャンリーチだ。
それを受けて下井、ドラ3のチャンス手は無駄にしたくない。
もちろん全押し。
通りそうなを押す。その後を引いてカンでテンパイするが、は3枚きれ。
そのままツモ切り、というピンズの形ににくっつくことを期待する。
次巡をツモり、-の追っかけリーチ!
が1枚切れているだけなので宮崎に対しては相当勝てそうなリーチだ。
実際、は他家に2枚で、が山に3枚。
サイコロが形テンのためにチー。
ここはさすがに山に3枚いるが、下井の元に滑り込んできた。

北家・下井(15700点) 17巡目
 ツモ ドラ 裏ドラ
これで下井は原点近くへ浮上。
何度倒されても不屈の精神で甦ってくる。

3回戦は南場に入り、いよいよ後半戦。
中間点は過ぎ去り、WCS決勝としても後半戦となる。

南1局、田村のこの半荘最後の親だが、なんとかここで素点を稼ぎたいところだ。
手なりにすすめ、ドラ色のソーズに中心に寄せつつも形式テンパイもとる構え。
他の3人も手なりで進める。
先制テンパイを入れたのは下井。
を5枚使って先ほどと同じ-待ちリーチ。
は3枚既に切れており、あまり良い待ちでもない。
全員追いつくことなく、結局オリて流局、下井の1人テンパイ。

親の田村は、15巡目に放たれたを鳴けばテンパイを取ることはできたが、
アガれる見込みは薄く、鳴けば危険牌のを切らねばならない。
ここでリーチに放銃して満貫以上になればこの先かなり辛い展開を強いられることになる。
親が流れてもまだ最低3局ある。
田村は15700点。
現トップの宮崎が30200点。
チャンスがあれば十分ひっくり返せるような点差だ。
ポジティブなマイペースさで自分の親を容易く流す。

流れて南2局。9巡目にまたしても下井に大物手が入る。

南家・下井(26700点) 9巡目
 ツモ ドラ
満貫は確定、ダマでもをツモればハネ満だ。
しかもは親のサイコロが切っており、親が仕掛けるなりリーチするなりすれば、簡単に切られそうなである。
こういう形ならリーチしてしまう人も多いかもしれないが、競技麻雀ならば当然のダマ判断と言えよう。
さて、鍵を握るサイコロ、10巡目にテンパイを果たす。

東家・サイコロ(28700点) 10巡目
 ツモ ドラ
場が煮詰まっているわけではないが、余裕があるとも言いがたい巡目。
親ならば足止めも兼ねてリーチか?
サイコロが摘んだ牌は
あくまでソーズ好形を作っての勝負どころと判断したようだ。
ドラが無いノミ手カンチャンで終わらせる手ではないというサイコロの判断の結果は如何に?

次巡、宮崎がドラのを放出。
テンパイが入った気配がムンムンしている。宮崎の手は以下。

西家・宮崎(29200点) 11巡目
 ツモ→打 ドラ
これも親の現物待ちだ。は先ほどテンパイ崩しで放った牌。
田村はも手にはまったく使えないのでどちらを掴んでも出しそうだ。
サイコロももちろん、どちらも不要牌。場は煮詰まりつつあったが…

スッと当たり牌を手もとに引き寄せたのは下井。
高めのである。ハネ満のアガりで一気にトップに躍り出た。

我々関西勢は下井のこういったアガりをリーグ戦や大会予選で何度も目撃させられている。
この力強さでリーグ戦をストレート昇級し、大会の予選を突破している。

小倉 孝や金 太賢などを彷彿とさせるような強さなのだ。
このWCSも持っていくのではないかという気には他の3人もさせられているだろう。
だが、その3人にもプライドがある。
そう易々と優勝はさせない。
下井がこのまま抜けてトップを取れば、3人はがっちり組んで下井を苦しめにいくであろう。
全員の4回戦以降の方針がほぼ決まったアガりであるように私には思えた。

強烈な加点で調子よく親番を迎えた下井。
南3局である。
サイコロが役牌のを1鳴き。
ドラは手元にはないので、これ以上下井に叩かせないため、流しにいく動きを見せた。
すぐにトイツで持っていたもポンし、悪形ではあるがテンパイにまで至る。

北家・サイコロ(22600点) 7巡目
 ポン ポン ドラ
しかし、皮肉なことにこの2つのポンであっさりテンパイを入れたのは親の下井。

東家・下井(40000点) 9巡目
 ツモ ドラ
ドラ単騎のチートイツ。
サイコロが掴めば即出る。
他の2人はドラ受けを残している。
山にはこの時点では1枚生きだ。運命のは誰の手元に訪れるのか。

…無情にもを持ってきたのはサイコロ。
そのままツモ切って下井に9600点の放銃。
下井の親を流そうとして、下井のトップがほぼ確定してしまった。

下井の親は続く。
もう走らせてはいけない。
そんな3人の意志に反する如く下井の牌勢はまったく衰えない。

東家・下井(49600点) 1巡目
 ドラ
下井は躊躇なくドラを1打目に放つ。
これほど中張牌で構成された配牌に字牌のドラは確かに必要あるまい。
誰もそのドラを鳴くこともできず、下井の強烈な連荘になるのか、と私は思ったのだが…

以外にも一番最初にテンパイを入れたのは宮崎。
トイツ3つから始まって、ドラを2枚引き込んでのチートイツ。

南家・宮崎(26100点) 7巡目
 ツモ→打 ドラ
この手から10巡目にを引き、単騎からシャンポンに受け直す。
ここで田村がソーズ一気通貫含みのイーシャンテンで、をツモ切って宮崎に6400は6700の放銃に。

南家・宮崎(26100点) 11巡目
 ロン ドラ
この半荘、親が残っている宮崎がこのアガリで、下井との一騎打ちとなる。

3回戦オーラス、トータルプラスの2人の争いが始まる。
宮崎は連荘してひっくり返した後、ある程度下井の点数を突き放さねばならない。
下井は何でも軽くアガればよい。
そういう意味では2人の苦しさはだいぶ違うが、双方死に物狂いなのは同じだ。
もちろん、サイコロと田村も目を残すため手を作って失点を大きく減らしに来るだろう。
大盛り上がりの1局である。
親の宮崎、そして南家・田村の手は若干悪そうで、下井とサイコロは少し良い、といった程度の配牌。
ドラのは田村に2枚入っている。
数巡後、下井と田村の手がだいぶ整ってくる。
サイコロはそこそこの状態を維持しつつ、三色と一気通貫を視野に入れて手作り。
宮崎はなかなか手が進まず、停滞するかと思ったところにが暗刻となり、ソーズ面子を完成させドラ含みのリーチを打つ。

東風・宮崎(32800点) 7巡目
 ドラ
待ちで、ドラのツモれば文句無し、ツモでも裏が乗れば一発で捲くり。
しかし、ここでドラを2枚使っていた田村にもテンパイが入る。

単に8000点ではラス抜けにならないが、宮崎のリーチ棒が出て、8000点出アガリでも3着浮上となる。
もちろん、リーチを掛けない理由はないので追っかけリーチ。
そして宮崎がリーチ一発目に掴んだのは、田村のアガり牌であった。

南家・田村(4600点) 8巡目
 ロン ドラ 裏ドラ
裏ドラにあったのは、つまり裏ドラが2枚乗ってハネ満直撃。
しかし、それでも宮崎を捲くるには至らなかった。
南3局の6400点が響いた。
それでも田村、3着浮上で優勝の可能性を残す。

3回戦スコア
下井  +69.6
宮崎  ▲0.2
田村  ▲22.4
サイコロ▲47.0

3回戦終了時トータル
下井  +106.4
宮崎  +17.3
サイコロ▲59.9
田村  ▲63.8

ここで30分ほどの長めの休憩。
決勝進出者たちはそれぞれ周りの友人たちとそれまでの対局についての感想などを話しているようだった。
残り2回戦、まだ全員に可能性はある。
下井が一歩抜け出してはいるが、協会ルールではこのポイント差は半荘2回あればひっくり返ることは十分あり得る話だ。

 

★4回戦★ (下井-宮崎-サイコロ-田村)

今度は下井が起親。
早速7巡目にドラ待ちカンチャン先制リーチをぶっ放す。
この半荘で下井がトップをとれば、ほぼ下井の優勝は決まってしまう。
下井はガンガンいくべきところなのだ。
下井の親で連荘させるのは3人にとって最も禁忌事項。
当然、下井にアガらせないように打たねばならない。
西家のサイコロ、一発目はとりあえず下井リーチ宣言牌のを打つ。
「ロン」
そこで声を発したのは宮崎であった。

南家・宮崎(25000点) 7巡目
 ロン ドラ
何気に宮崎は下井リーチの一発目にドラ表のを押している。
オリに廻れば徹底的に振込みを回避してきた宮崎の慎重さと言えど、
ここではきちんと勝負し、きちんと親の現物待ちダマで確実に親リーチを流す。
下井は貴重な親でのチャンスを潰される。この先も3人の下井押さえ込みはうまくいくのであろうか?

続いて東2局。
宮崎の親。下井は攻撃の手を休めない。
序盤で手牌の半分以上がマンズで染まり、7巡目の宮崎の打をポン。
トイツであった翻牌のさえ切り、一気に清一色へ向かう。
その狙いは成功し、11巡目で清一色テンパイ。

北家・下井(24000点) 11巡目
 ポン ドラ
トイツ残りのを打ち、もはやテンパイ気配濃厚。
次巡を加カン。
そこから、3人は一切マンズと現物以外の字牌は切らない。
そのまま流局し、1人テンパイ。
さすがにここでこれをアガられていたら、かなり厳しい状態になっていたであろう。

場は早く進行する。もう東3局。
全員後半までテンパイが入らない。
宮崎と下井が辛うじてイーシャンテンであったが、親のサイコロはほとんど手が進んでいない。
何しろまだメンツが1つもできていない。
そんな状態で11巡目、宮崎がツモ切ったをポン。以下の手牌からだ。

東家・サイコロ(23000点) 10巡目
 ドラ
ここからポンはなかなかできる人は少なさそうだ。
しかし、ここまで手が悪いならアガりを見ずとも連荘のための形式テンパイを取りにいくという選択は合理的である。
ここまでも形式テンパイをとれるときは取りにいっていたサイコロの手筋から考えてこのポンも自然に思えた。
次巡、もチーしてイーシャンテンへ。
しかし、前巡にすでにテンパイを果たしていた宮崎が場況的に良さそうな単騎のタンヤオチートイツでリーチ。

北家・宮崎(26000点) 12巡目
 ドラ
このリーチに対してサイコロの凌ぎが始まる。
一発目は現物のを引いてツモ切り。
次巡、宮崎がツモ切ったに対し「チー」と発し、テンパイとらずの打
あくまで打ち込みは回避してテンパイを取れるように廻す。
そして15巡目ツモを切って念願のテンパイ。
アガることはホーテイ以外ではできないが、連荘はいけそうだ。
この時点で他3人からはサイコロはバックくらいしかないのだが、
田村がリーチに切れない牌ばかりを抱えてしまったため、を仕方なく打つ。
当たってもだいたい1500点で、最高でも5800点。リーチに放銃するよりはマシだという判断であろう。
しかし、サイコロはこので当たるはずもなく、ここでサイコロが形式テンパイだとはっきり全員の知るところとなった。
そんな中、宮崎がドラのをツモ切る。
それに対しサイコロが「チー!」と力強く発声。
リーチにとおりそうな打とする。
このチーにより、サイコロは裸単騎となった。
他の対局者とギャラリーの表情が弛緩する。

東家・サイコロ(23000点) 17巡目
 チー チー チー ポン ドラ

「プロでもこんな裸単騎なんてするの?」
という声が聞こえてきそうであるが、れっきとした理由はある。
危険牌ツモを回避することができ、テンパイを100%維持できる。
しかし、こういった場ではギャラリーの目もありなかなかできないものだ。
サイコロに後にこの裸単騎の感想を求めたところ、次のようにはっきり答えてくれた。

「形テン4フーロは、哭くべき牌を哭いただけです。笑いがとれて良かったです(笑)」

確かに、の形では、危険牌が来たときの対処が極めて難しく、テンパイがとりづらくなってしまう。
裸単騎はリスクは大きいが、残り巡目がかなり少なかったので、そのまま凌ぎ切れる可能性も十分高い。
最終的に、をツモって打とし、そのまま流局。
サイコロはやるべきことを成し遂げた。

そして東3局1本場。
宮崎が落としからのドラ切り。大物手を予感させる。
早くアガりを取りたいサイコロ、6巡目に出た田村のをポン。ダブバックで仕掛けを入れる。
だが、その鳴きによってすでにイーシャンテンだった田村、急所が入って役無しドラ1の亜リャンメンテンパイ。

南家・田村(22500点) 6巡目
 ツモ ドラ
私ならこれを先制即リーチするのだが、田村は打ダマ。
引きで一気通貫の手代わり、ドラ引きや引きでも打点が上昇する。
トップが欲しい田村、チャンスと見て打点を作りにいったようだ。
さて、捨て牌の1段目で不気味な捨て牌をしていた宮崎、8巡目にテンパイを入れる。

北家・宮崎(26500点) 8巡目
 ドラ
出アガり8000〜12000点、ツモアガリ12000〜16000点のスペシャルな手。
やはり宮崎には恐ろしい手が入っていた。
しかし次巡、田村がドラを引き入れ手代わり。ここでリーチを打つ。
サイコロは手の中にリーチの現物が3枚あり、あまっているのがドラの。イーシャンテンで押し。
私ならここで撤退するが、サイコロにとってはここでの親権の維持が絶対条件だと思っていたのだろうか。
3巡後、ダブが田村から出て、サイコロがポン。
-のリャンメンテンパイをとるが、田村への手痛い満貫放銃となる。

満貫アガってトップへ立った田村はそのまま親番を迎える。
勢いに乗って連荘しておきたいところ。
ここでは全員に高くなりそうな手が入る。
親の田村にはメンタンピン、下井には789の三色、宮崎はピンズの混一色、サイコロはドラトイツ。
なかなか全員テンパイにこぎつけられなかったが、14巡目に下井が田村の切ったをチーしてテンパイ。

南家・下井(25500点) 14巡目
 チー ドラ
待ちはドラスジだが、悪くない待ちのように見える。
軽く下井が流すのか、そう思った瞬間、親の田村にテンパイが入る。

東家・田村(32100点) 15巡目
 ドラ
残り巡目は少ないが、リーチを掛けて高めをツモれれば、この先、田村にとってかなり良い展開になる。
協会ルールの親リーチは掛け得な傾向があるので、論を待たずリーチだ。田村も勿論そう打った。
下井が一発目で掴んだ牌はが田村の現物待ちになっていて、かなり押したくなるところだ。
さあ、どうする?
下井は、冷静に現物のを打ち出した。
ここで満貫以上振ってラスのまま終われば、最終戦は大混戦となり、キツイ展開を強いられる。
そう判断してきっちり降りたのであろう。この選択は結果としても正しかった。
一方、宮崎にもついにテンパイが入る。

西家・宮崎(26500点) 16巡目
 ツモ ドラ
が田村の現物となっていて、もう終局近いが押す価値はある。
下井とは異なり、打点が必要な宮崎はこのテンパイを取り、を押す。
2900点を放銃する結果となったが、これはヌルい、とは一概には言えない。
確かにチャンスは少ないが立派な勝負手で、勝算も悪くは無いように思う。

アガりを手に入れた親の田村、さらに点数を叩きにいく。
1本場は丁寧に内に寄せ、10巡目にテンパイしてリーチ。
下井は一発消しをした後、テンパイではあったが危険牌を掴んでオリ。
結局、田村がそのままサラリとツモあがる。

東家・田村(35000点) 16巡目
 リーチツモ ドラ
これで田村の点数は43100点に。
トップを捲くられなければ、最終戦で逆転しての優勝が現実化する可能性はかなり高まる。

これ以上アガらせてはいけない。
下井の立場からするとこの親は今度こそ絶対に流したい。
すぐにを鳴き、4巡目でテンパイ、待ちはペン。8巡目で田村からしっかり掴まえる。

南家・下井(22800点) 8巡目
 ポン ロン ドラ
下井は2着をキープすれば相当有利に最終戦を迎えられる。
田村にトップを持っていかれるのは口惜しいだろうが、今は局つぶしをしてラスを引く可能性を減らす方がよいのは確かだ。
その意味ではこの愚形安早アガりは価値あるものだと言えるだろう。

そして佳境の南場に。
親は再び下井。ツモが良く、なんと7巡ですんなりキー牌だったを暗刻にしてテンパイ即リーチ。

東家・下井(24400点) 7巡目
 ドラ
すぐにでもあっさり引いてしまいそうな-だ。
何でもないような顔はしていたが、内心ほくそ笑んだのではないだろうか。
だが、そうは問屋は卸さない。サイコロが同巡に追いかけリーチ、気合の篭った声を上げる。

西家・サイコロ(13200点) 7巡目
 ドラ
奇しくも同じ待ち。下井の優勝へのビクトリー・ロードを左右する牌が場に表したのは14巡目。
は、サイコロの手元に転がった。裏は乗らなかったが、2000・4000のツモアガりで下井は3着落ち。
ラスの宮崎までは500点差だ。
転落する危険と隣り合わせである。

南2局、宮崎の親であるが、下井がまたしても7巡目でリャンメンテンパイを入れ、リーチ。
しかし、今度はサイコロがそれを捌きにいく。
しばらく危険な牌をツモらず、無スジのを何食わぬ顔でツモ切って、下井が切ったにロンの声をかける。

南家・サイコロ(22200点) 11巡目
 チー ロン ドラ
2000点だが、下井をラスに落とす値千金のアガり。
決勝の場に座っていなかった私ですら、
「面白くなってきた・・・」と思わず漏らしてしまったくらいだ。
これで下井は何がなんでもアガりにいかねばならない立場に立たされた。

南3局、サイコロは親で、トップの田村をここで捲くりにいかねばならないところ。
最悪でも大きい2着が欲しい。
テンパイに向けて一直線に牌を切り続けるが、田村が6巡で先制リーチ。

南家・田村(39500点) 6巡目
 ドラ
パッと見微妙なリーチだが、これをアガればラス親は田村で、他が満貫ツモでも捲くられない点差となり、
オーラスの打ち方にかなりの自由が利く。
連荘できそうなら素点稼ぎ、無理そうなら伏せてトップ確定。
つまりこのサイコロの親さえ流せばよい。
したがって、スピードを優先し、リーチを打ったのであろう。
このリーチを受けてサイコロは苦しいが、現物は1枚しかない。
しかもドラのがトイツ。アガりに向けて道を拓く。
ゼンツし続けてイ−シャンテン、そしてを鳴きついにテンパイ。13巡目にツモアガる。

東家・サイコロ(25200点) 13巡目
 チー ツモ ドラ
田村のリーチ棒も回収し、差がかなり縮まった。
連荘で次局捲くりにいけるか。田村とサイコロの勝負必死の局であろう。

熱い熱い南3局の1本場。
2巡目を重ねた田村、宮崎からすぐにポン。
逃げ切る態勢を整える。
続いてまたも宮崎からをポン。
ツモが抜かれるサイコロ、手が進まず非常に苦しい。
田村は8巡目にペンという苦しい形ながらもテンパイ。次巡ツモってきたを加カン。
カンドラを増やしたくはないが、ツモを増やし一刻も早くアガりにいかねばならない苦渋のカンであろう。
が、中盤に縺れ込めばテンパイを入れてくるのが田村以外の3人。宮崎が9巡目にリーチ。
田村、一発で無スジを引いてため息。手の内はが現物なだけで、他確実に通りそうな牌は無い。
苦悶の表情で、ツモってきたを切り飛ばす。
次のツモは。押しきれず、を切って廻す構え。
さらにここで何気に無スジを押していた下井がリーチ。いよいよ煮詰まった状況になってきた。
危険牌だらけの田村、万事窮す。
が、しかし、宮崎がツモ切った牌に下井の溌剌とした「ロン」の声が会場内に響いた。

西家・下井(14400点) 13巡目
 リーチ一発ロン ドラ 裏ドラ
一発と裏が一枚乗って9300点の収入。3着浮上でウマの20ポイント分浮かすことができた。
これは最終戦を迎えるに当たってかなり大きい。実は、10巡目時点で下井は一度ペンでテンパイしている。
このときはリーチにいけず、所謂とりダマにしていたのだが、一発目で宮崎がをツモ切っていた。
つまり即リーをしてもアガっていたわけだ。
下井は神に愛されし男、と思ってしまうのも仕方の無いほどの展開ではないだろうか。

4回戦オーラス、この結果次第でそれぞれの最終戦での動向が完全に固まる。
田村は素点を稼げるなら稼ぎつつ、トップを確定させたい。
サイコロは1000・2000ツモか2600直撃で田村を捲くりにいきたい。
下井は満貫ツモで2着に浮上しておきたい。
宮崎は下井からリー棒が出てからの満貫直撃かハネ満直撃を狙いたい。
4者の難易度は全然違うが、目的に向けてそれぞれのオーラスが開始された。
田村はトイツ手かつマンズの混一色へいけそうな手。ツモ次第では四暗刻も見える。
早くも3巡でイーシャンテンになり、あとは手に任せてどう変化させていくか、であった。
5巡目、サイコロが場風のを鳴き、ソーズの混一色へまっしぐら。
ドラ色で手にドラも1枚。どこからアガってもトップになれる手作りをする。
下井は手牌を内に寄せ、ドラも2枚使っている。宮崎は789の三色に。誰が条件を満たすのか?
田村がツモ切ったをチーした下井、テンパイしてアガりへ王手。

南家・下井(23700点) 12巡目
 チー ドラ
ドラをツモるか、田村サイコロからドラの直撃で2着浮上。
が、トータル点差を考えれば3着確定でも辞さずアガりにいくべきだろう。
もちろん手で使われない限りはでもでもどちらであろうと止めてくる奴はいないであろう。
15巡目、宮崎の切ったをポンしたサイコロ、手に余ったを切る。
下井は当然これを見逃さず、3900点のアガり。

4回戦スコア
田村  +56.5
サイコロ+8.3
下井  ▲12.4
宮崎  ▲52.4

4回戦終了時トータル
下井  +94.0
田村  ▲7.3
宮崎  ▲35.1
サイコロ▲51.6

 

最終戦、下井が2着以上なら優勝はほぼ確定。
3人は下井を3着以下に落としつつ、自分の素点を大きく積み上げていかねばならない。
下井以外はかなり分が悪いが、優勝の目が無いわけではない。
まずは3人で協力して下井の着順をできる限り落とす。そこをクリアしないと始まらない。
最後の休憩が終わり、最終戦の火蓋が切られた。

 

★最終戦★ (田村-サイコロ-下井-宮崎)

田村がまたもや出親である。
決勝5回戦中4回だ。
早く流されたり、大物を親被りしたりと私はあまり良いイメージは持っていない。

田村はそんなことを意に介さないような性格だと思っているが、何にせよ、逆転するためには大事な親番だ。
素点稼ぎのため大連荘したい。
そんな田村には配牌でダブトイツ。鳴いてさくっとアガって連荘したいところ。
現代麻雀ではダブは1打目で切る、というのが主流になりつつある。
それならすぐにでも鳴けそうか、と思いきやどこからも出てこず。
どうやら山の中で眠っておいでのようだ。掘り出されるまでの手を整えじっとそのときを待つ。
6巡目に下井がを切った後、宮崎もをツモ切り。サイコロは2枚目は見逃せなかったようでポン。
続いてもチーしてテンパイを入れる。そのテンパイ時に出した牌が。田村は勿論ポン。
サイコロが流すか、田村が連荘するか。12巡目、サイコロがツモ切った牌で田村に軍配が上がった。

東家・田村(25000点) 12巡目
 ポン ロン ドラ
田村念願の連荘。
しかし、まだまだ素点は必要そうだ。さらなる連荘を見込んで1本場へ。

田村1本場配牌は手は中張牌寄りのまたもや早そうな手。ツモ次第ではメンタンピン三色だ。
メンゼンのまま、9巡目にイーシャンテン、浮いていたドラを離す。それを宮崎がポン。
宮崎このポンでテンパイ。

北家・宮崎(25000点) 9巡目
 ポン ドラ
ハネ満確定の大物手だ。
一度メンゼンでテンパイを果たしてはいたものの、四暗刻を目指しからを切っている。
宮崎は現在トータルラスなので、ここでの役満は確かに大きい。
しかし、ドラが親から出たのを見て、すかさずテンパイに取った。
もう巡目的にも余裕は無いから、渋々ではあるが当然の判断だ。
宮崎がテンパイ時に打ち出したは田村のポン材で、田村もポンで応戦。田村もテンパイを入れる。

東家・田村(27900点) 10巡目
 ポン ドラ
安い手だが、この親を簡単に手放すわけにはいくまい。あくまでここは前を向いての叩きあい。
だが、2巡後、田村の手にやってきたのは悪魔の使者、
ドラポン一副露しただけの北家に止めるような牌ではない。
押し出されるようにを河に置き、宮崎に死の宣告を言い渡された。
「ロン、12000は12300」
貴重な親を流され、大ダメージを負った田村。
まだ親番はある。
そう言いたげな表情で牌を流し、東2局へ。

さて、今度はトータル3番手のサイコロの親。
連荘したいのはもちろん、できれば下井を田村よりも下に落としたい。
なかなか難しい状況で、この親をどう打つか。とりあえずは手なりで進め、6巡目でイーシャンテン。
鳴くことができない手なので、メンゼンでリーチを打てるよう、祈りながら良ツモを待つ。
しかし、7巡目田村が打ったに下井のアガリ宣言の声。あまりにもあっけなくサイコロの親は終了した。

南家・下井(25000点) 7巡目
 ロン ドラ
何も条件が無いならリーチを打ってしまいたい、確定三色。
だが、下井が今やるべきことは、局をつぶし、2着以上を目指し最悪ラスを引かないことだ。
自分以外の連荘は絶対阻止。
自分の親すら放棄して局を進めた方がよさそうである。
現状2番手だった田村が大きく沈んだ状況なので、3着でも優勝OKな可能性も高くなってきた。
なので、この三色のみのダマはかなり良い、冷静な判断と言える。

次は下井の親、東3局。
全員そんなに整った手牌ではない。
早くも3巡目にサイコロが配牌からあったを暗カン。そして11巡目にリーチ。
下井は同巡、テンパイするが、役なし。とりあえずドラ単騎に受け様子見する。
テンパイを維持し続けるが、サイコロが15巡目にツモあがる。

北家・サイコロ(22100点) 15巡目
 暗カン リーチツモ ドラ 裏ドラ
表ドラ無しの裏ドラ1枚。1300・2600で済んで下井にとってはそこまで痛手でもないであろう。
さっきアガった三色の分が消えただけだ。局も潰れた。
しかし、ここからが本当に苦しい、胸突き八丁の場となっていくのである。

さて東4局、宮崎の親。
誰も鳴かず、全員手が遅い。
最初にテンパイしたのは下井。七対子のドラ単騎。
全員打点が欲しいので、使われてそうなところだが、安易に切って刺さるわけにもいかないので仕方ないだろう。
次にテンパイしたのはサイコロ。ドラを引き入れてののシャンポンリーチ。その宣言牌を宮崎がポン。
そして、下井がツモ切ったに宮崎が「ロン」の声。

東家・宮崎(38500点) 14巡目
 ポン ロン ドラ
この親を手放すまいとする堅い意志が感じられる。

東4局1本場、宮崎の手はかなり整っており、4巡目にはドラ含みのイーペーコーを完成させ、6巡目でイーシャンテン。
さらにドラを引いてきて、良い形に。
これは宮崎の高打点が炸裂するか、と思いきや、10巡目に田村のリーチが入る。

南家・田村(11700点) 10巡目
 ドラ
字牌以外で田村の河に切れている数牌はなんとのみ。
高くはないが、いずれは出そうなところではある。
宮崎はドラ を暗刻で持っているのでできる限り攻めたいところだが、どうする?

一発目に引いたのは。浮いていたにくっつくのだが、打とする。
田村の序盤のを見れば、なるほど少し通していけそうだ。
次巡にテンパイになるをもってきて、待ちのテンパイ。
ただし、イーペーコ確定のときにを切っているのでフリテンだ。
どうせツモアガりしかできないのでリーチという選択もアリだが、終局は近く、対面のサイコロはピンズで染めている。
わざわざリーチ棒を出すことはあるまいとダマテンで進め、17巡目にひょっこりを持ってくる。

東家・宮崎(38500点) 17巡目
 ツモ  ドラ
宮崎のしぶとさは前述したが、こういうアガりを逃さないところに顕著に表れる。
4000オールの1本場、下井にじりじりと詰め寄っていく。ターミネーター的な強さである。

まだまだ終わらない東4局。宮崎の手はまたしても整っていて早い。
下井がソーズで染めてを鳴き、応戦するが、結局13巡目で宮崎がメンタンピンドラ-待ちのリーチ。
は田村に固まっており、それを使ってギリギリのテンパイ。流れて3本場へ。

東4局3本場、宮崎ダブポン。終盤に-待ちテンパイをする。
下井がその仕掛けに対し、ドラのを暗カン。-待ちリーチで宮崎を止めにいく。
これは両者ともアガれず、2人テンパイ。宮崎の親はまだ終わらない。

宮崎は既に53000点を越えている。
東4局4本場、またも宮崎の手はすぐにテンパイしそうなピンフ手だ。
11巡目にリーチ、一発こそ無いものの14巡目にツモアガり。

東家・宮崎(53800点) 14巡目
 リーチツモ ドラ
高くはないが、本場が利いて3900+1200点の収入。積み上げられていく点棒。
下井に焦りはなかったのだろうか。
後日彼に聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。

「田村さん、宮崎さんはたまにセットや研究会などで打つことがあり、よく条件戦の練習をやっていたので、
今回のように後半自分がリードしているときはかなりやりにくくなるだろうな、と感じていました。
それでも焦りはありませんでしたね。対局前に3人の誰かとはああいう展開になりえるだろうな、という覚悟ができていたからだと思います」

この覚悟があり、冷静さが保てるなら宮崎の攻撃を跳ね返せそうだがさて。

東4局5本場、宮崎と下井どちらに手が入るのか?
宮崎が第1ツモでが重なり、3巡目で下井からポン。
まだまだ連荘を止めさせるものか、という宮崎の意思表示。
しかし、下井がうまく立ち回り、12巡目ピンフのみのテンパイを入れ、静かに田村からアガる。

北家・下井(16700点) 12巡目
 ロン ドラ
宮崎の鳴きをケアしつつ、1000+1500点をアガって2着浮上。
決着をつけるための南場へ、最後の戦いが始まる。

南1局、田村の最後の親。誰も鳴かず、静寂の中で局は進行する。
捨て牌を見るに、サイコロはソーズ一色染め。下井、宮崎はメンタンピン手。
田村は手なりで進め、連荘をできる構えにしているようだ。終盤に鳴いてテンパイを取るが、
終局間際の17巡目に宮崎がツモ牌を手元に置き和了を申告した。

北家・宮崎(60900) 17巡目
 ツモ ドラ
メンゼンのタンヤオ三色ツモあがり。
役満連続アガりやダブル役満などを見たら逆転もありえるだろうが、事実上田村はここでリタイアだろう。

次はサイコロの親。
ここでの連荘が上手くいかねば、優勝の可能性は無い。
ここで早い手が入ったのは宮崎。7巡目で既に待ちタンヤオのテンパイ。

西家・宮崎(68900点) 7巡目
 ドラ
リーチは掛けず。ここからは下井の着順を落とさねばならないため、リーチするにも慎重にしなければならない。
サイコロからリーチして出アガってしまうと、着順がひっくり返りにくくなり、優勝条件もかなり苦しくなってしまう。
10巡目にツモ、ここでを暗カン。
新しいドラは
途中でドラ単騎の手に代え、リーチを打てば6400の手になるにはなったが…リーチは掛けず。
上記の理由と同じで、ここで満貫ツモにすることはできない。
ということはサイコロの連荘に期待して手を引っ込めたということだ。
14巡目、サイコロがついにテンパイして即リーチを打つ。

東家・サイコロ(15500点) 14巡目
 ドラ
カンによっては消えているが、はまだ場に1枚も姿を見せていない。
は、というと下井の手に1枚、田村の手に1枚。
残り2枚をツモれるかどうか。15巡目、3枚目のを下井が手に吸収される。そして、下井の16巡目。

南家・下井(17200点) 16巡目
 ツモ ドラ
サイコロの現物はのみ。後はどこが当たってもおかしくない。
ここでサイコロにツモられてしまえば、宮崎の優勝も近くなる。
ここが勝負所だ。押すのか引くのか。
下井の選択は、リーチ。アガれば、かなり大きい。
結果は…2人とも当たり牌を掴まず、流局。
下井のヒヤヒヤした表情が印象深かった。相当なスリルだったのだろう。
勝負は1本場に持ち越し。サイコロは親を続けられるのか?

南2局1本場。宮崎はと濃い切り出し。
下井はダブをトイツにして早アガりしにくい体勢を整える。
親のサイコロは、どんどんソーズが伸びて形が一気通貫に。
9巡目にテンパイし、ダマで討ち取る構えをしたものの、次の巡でツモってしまう。

東家・サイコロ(16000点) 9巡目
 ツモ ドラ
リーチを掛けていれば6000オールになっていた。
だが、これで下井は3着に落ち、持ち点が13600点に。
この展開を一番喜んだのは宮崎であろう。グッと優勝が近づいた。
サイコロもまだまだ諦めない。ここで連荘しつづけるしか道は無いのだ。

緊張した雰囲気の中、2本場が始まる。サイコロはなんと配牌で暗刻、123の三色も見える。
さらりと手を作っていき、9巡目でをチー、してのみ手のリャンメンテンパイ。
またサイコロの連荘か、と観戦者は思ったに違いない。だが、ここのまま下井が黙っているわけがない。
11巡目にドラを引き入れテンパイ。これは678三色の安めになるが、もう手代わりを見るわけにもいかない巡目だ。
少し考えた後、まるで咆哮のようなリーチという声。そして、一発目で見事アガり牌を手繰り寄せた。

南家・下井(13600点) 12巡目
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
再び2着浮上となる3000・6000。ここでこういう展開を作れた下井、やはり何かを持っている。
後にサイコロにインタビューしたとき、
「あの リーチ一発ツモには参りました」と語っていた。

南3局、下井の親。
宮崎とはまだ幾分か差がある。早い巡目で加点できるなら狙って、長引くようなら静かに親を流すのが理想であろうか。
私の予想通り、下井は捨て牌2段目まではテンパイに向かっていたが、3段目より安全な牌を切ってオリへ。
一方、宮崎はタンヤオに寄せ、13巡目でテンパイ。

南家・宮崎(60100点) 13巡目
 ドラ
ここで宮崎はダマを選択。下井はサイコロと1900点差で、2600を直撃すれば再び3着に落とすことができる。
は4枚切れているが、はかなり出やすそうな状況だ。下井はを2枚持っており、それが実現する可能性も十分ある。
しかし、ここで宮崎に運命の悪戯。なんとをここでツモってしまうのである。
宮崎は少考した後、を切る。
ここでこれをそのままアガっても順位がひっくりかえるわけではない。それなら別の可能性に掛ける、というところだろう。
17巡目、ここで宮崎がいきなりツモ切りフリテンリーチ。
一見よくわからないツモ切りリーチに見えるが、宮崎の次のツモ=最後のツモはハイテイなのだ。
これを一発でツモアガると、宮崎はリーチ一発タンヤオハイテイツモドラでハネ満。下井を親被りさせると3着に落とすことができる。
宮崎のどうしても勝ちたい気持ちがこめられた執念のリーチ。周りで見る者を確実に痺れさせた。
残念ながらハイテイではツモれず、決着をつけるべくオーラスへ。

現状、宮崎は62100点。下井は25200点。
このまま点数移動が無く終われば、トータルポイント下井+99.2p、宮崎が+30.5p。
60ポイント以上の差がある。やはり下井の着順を落とさないと、相当厳しい。

さあ、オーラスの始まりだ。
宮崎の手は良いとは言えない。下井もそんなには早くなさそうだ。
脇の2人は事実上可能性がないため、2人の邪魔しないようにオリている。
宮崎、下井とも2人ともテンパイする気配はない。
宮崎が11巡目でをポンし、形式テンパイへ向かう。
宮崎は最後の1巡までノーテンだったが、ラスヅモでギリギリテンパイをし、命を繋いだ。
下井は結局テンパイとれず。宮崎の1人テンパイである。

2本場、宮崎に4巡目リーチが入る。

東家・宮崎(65100点) 4巡目
 ドラ
勿論これに対して下井は振り込むことは絶対にできない。必死に回避する。
10巡目に宮崎がツモ。
裏ドラは乗らないが点パネして2600オールの2本場。

3本場、決着はつくのか。

下井の配牌。

宮崎の配牌。

ドラは。どちらも重く、なかなか決着がつかなそうな配牌だ。
が、下井、2巡目3巡目に連続でを引き入れ、をツモ切った宮崎から鳴き、一歩リード。
5巡目でを引き、カンでテンパイ。いよいよ勝負の終わりが近づいてきた。
宮崎はメンゼンのまま手を進め、7巡目にイーシャンテン。そしてついに11巡目でテンパイを入れる。

東家・宮崎(74500点) 11巡目

 ドラ
宮崎はリーチの発声。ここまできたら当然だ。直撃できたら、優勝が見える。
あとは、を切ってリーチか、を切ってリーチか。これで運命は決まる。
河にはどちらの牌が置かれるのか、固唾を呑んでギャラリーは見守る。
そして、そこに置かれたのは――――

 

 ポン ロン ドラ

下井は自らの手で宮崎からアガりを決め、2年越しの雪辱を晴らした。

 

2年前の決勝後インタビューでは、
「(悔しいので)コメントは特にありません」と語った下井。
その鬱憤を晴らすべく、今回はその強さを全般を通して見せ続け、念願を果たした。
オータムに続き、このWCSで2冠目だ。
今年は彼にとって麻雀プロとしての躍進の年であったろう。今後の活躍も見ものである。
また、宮崎、サイコロ、田村、この3人もこの素晴らしい決勝を彩る華のある麻雀を打ってくれた。
来年もこのような素晴らしい勝負が、WCSで見られることを期待する。

(文:比嘉 秀仁)

 

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