≪決勝観戦記≫
NPMウェスタン・カップは、日本プロ麻雀協会・関西本部が主催し、他団体プロや一般の方も参加できるオープンのタイトル戦。
第7回を迎えた今回も予選は2度に分けて行われる盛況ぶりで、8月6日の本戦では、各予選を勝ち上がった30名にタイトルホルダーなど招待選手10名を加えた計40名で覇を競うこととなった。
8名に絞られた準決勝、A卓はここまで1・4・5・8位の南亮吉プロ(協会)・阿部裕馬プロ(協会)・大野佑輔プロ(協会)・倉内崇亘氏(一般)、B卓は2・3・6・7位の涼宮麻由プロ(協会)・米津紘平氏(一般)・新田友一プロ(協会)・石沢勇人氏(一般)という組み合わせ。
トップにはオカ(トップ賞)+ウマ(順位点)合わせて50ポイントが入るルールとはいえ、3位を50ポイント以上、4位には80ポイント以上の差を付けている上位2人の決勝進出はほぼ堅いと思われる状況で、逆に他の6人には大きな制約があるなかでの対局となった。
A卓では阿部プロが東1局300・500ツモ、東3局1000オールツモと得意の小場でトップ目に立つが、しかしこれを一発で覆したのが大野プロ。
東3局1本場で南プロの ドラのリーチを受け、
で追い付くと、なんと即リーチ。現状役ありでダマでも出アガリできる、しかもドラでのリャンメン変化もあるだけに、万が一ドラを掴んで放銃になると立ち直れない(実際を引くと南プロに満貫放銃)場面でノータイムのリーチが打てるプロは少ないのではないだろうか。結果は、数巡後ににをツモり上げた大野プロが当然のように裏ドラも乗せての2000・4000は2100・4100。
南場でも1面子チーしての三暗刻ツモ(高目のドラツモ)という3000・6000も決めて盤石のトップ。
綺麗なメンタンピン一発三色をアガって2着をしっかり確保した南プロと揃って決勝進出を決めた。
B卓では、淀みない手順でメンピンツモ一通ドラ1を決めて抜け出した米津氏と、これを親被りさせられた直後に役ありテンパイをリーチしてキッチリ5200を出アガリして追いすがる涼宮プロの一騎打ち、と思われたところで、新田プロがなんと親の国士無双48000を和了。
配牌9種9牌から9巡目の早いテンパイ(待ち)、なおかつ序盤にポンが入って国士への警戒も薄れているという状況で米津氏がリーチ、その捨て牌にも切れている2枚切れの東を同巡に掴んだ石沢氏の放銃は誰にも責められないだろう。
こうなると苦しいのは涼宮プロ、3位米津氏との57.2ポイント差と6位新田プロとの93.9ポイント差を同時に捲くられるという奇跡的な状況が成立してしまい、最後まで藻掻き続けるもそのままの並びで終局。
これは新田プロの一撃必殺の役満炸裂もさることながら、米津氏の老獪なゲーム回しが効いたものである。
準決勝の後に話を伺うと「技術介入の余地がない楽な手をアガっただけで、他に細かいミスがあった」と謙虚に反省されていたが、南場では必要なところまで加点しつつも、涼宮プロとの点差条件ができると一転して守備に意識を寄せてトップを無理に取りに行かずにそのままの並びを守るという戦略を徹底。我々プロも見習うべき、冷静な打ち回しだった。
この結果、決勝進出は以下のメンバー。
1位通過=南亮吉プロ(協会)
前日に関西C2リーグからC1リーグヘの昇級を決めており、攻守のバランスに優れた関西協会の次世代エース候補。
2位通過=新田友一プロ(協会)
昨年度後期の関西Dリーグをダントツの成績で昇級。手組はデジタルだがベタオリせず、受けに回っての粘り強さが武器。
3位通過=大野佑介プロ(協会)
今年プロになったばかりだが、既に4月のチャンピオンロードに続いて2度目の決勝進出。ウェスタン・カップ予選も1日目は最初の足切りで敗退・2日目はトップ通過というメリハリの効いた成績で、前に出る時の攻めの鋭さが最大の持ち味。
4位通過=米津紘平氏(一般)
競技麻雀歴は約10年を数えるが、仕事の都合でワンデー大会以外にはあまり参加できず、今回は珍しく予選・本戦の両日に参加できたとのこと。
起家から、大野プロ・新田プロ・米津氏・南プロという席順。
4者が40ポイント以内にひしめく混戦なので、ポイント持ち越しだが自動的に最終戦のトップ者が優勝ということになる。
東1局(ドラ)、いきなり大物手が出現。
北家の南プロが好配牌から有効牌を次々と引き込み、6巡目で「」という絶好の一向聴。
7巡目、三色は消えるが迷いのない引きテンパイ、を切って即リーチ。
次巡南家の新田プロがすぐにとのシャンポンで追い付きリーチを打つが(この時点で3枚生き)、しかし山に5枚生きの南プロの方が先にアガリ牌を引き当てる。ツモ牌のが裏ドラになって3000・6000と幸先のいいスタート、まずはかなり有利な立場となった。
東2局(ドラ)、更に大きくゲームが動く。
親の新田プロが「」とまずまずの配牌、3巡目にを重ねてぐっと引き締まる。
その後6〜8巡目にと引いて「」と567三色含みの一向聴、一気に高打点も見える形になった。
一方配牌は「」だった南家の米津氏が、ツモ打、ツモ打、ツモ打、ツモ打で「」という構えに。第1打で孤立牌のを切ったが、その後引いたは一旦留めて、を切っているのでペンが悪くないということで引き戻したを残しているのが面白い手順。
この時点では4対子あるのでチートイツも見えていたが、萬子の下を残したのが効いて5巡目ツモ打、6巡目ツモ打で「」とタンヤオのイーシャンテンに。ここで引いた生牌のを一旦留めて「」となるが、その後を引いて234も見える完全一向聴になった11巡目にを勝負。
ここで前述の567三色イーシャンテンとなっていた新田プロがダブポン、2翻は確定するがイーシャンテンから鳴いてイーシャンテンのままという判断の難しい動きで、結果としてはこれが米津氏に序盤切っていたを引き戻させてしまう。「」とタンピン三色確定のリーチ、その一発目にを引いた新田プロが「 ポン」からを押して放銃、裏ドラ()も乗って倍満16000点。が共に現物ということを考えると、少し真っ直ぐ行き過ぎたか。米津氏としては手牌進行はもちろんのこと、東の切り時もハマった会心の一局となった。
東3局(ドラ)。同点トップ目に並ばれた南家・南プロは配牌悪く、12巡目に北家の新田プロからリーチが入った時点でもまだ「」とリャンシャンテン。流石にギブアップかと思いきや・と引いて筋の・中筋のを切って「」というイーシャンテン一向聴、15巡目のツモでとうとうタンヤオチートイツのテンパイを果たすが、のワンチャンスを頼っての打が新田プロのシャンポンの2600(リーチドラ1)に刺さってしまう。
東4局(ドラ)は三者の激しいアガリ勝負に。
好配牌から5巡目には「」となった南家の大野プロだが、上2人とは大きく離れた3着目なので軽い仕掛けもしたくない。最後の(1枚はドラ表示牌)が場に放たれるが当然のスルーで最高形を目指していく。
親の南プロは「」と配牌は重かったがツモが効いて、6巡目には早くも「」のイーシャンテンに。大野プロの捨て牌に4〜8の数牌がなく、新田プロがを2枚切ったからか、8巡目にを引いても萬子をリャンカン形にせずノータイムツモ切り、早くからとのシャンポン受けに決めているような印象で摸打を重ねる。
そして北家の米津氏は配牌は「」と8種10牌、国士無双や混一色・混老頭などの変則手を狙いたくなってもおかしくない厳しい形だが、ドラのに一縷の望みを託し、ここから丹念に面子を作っていく。6巡目には「」と十分勝負になる手格好になり、9巡目に待望の3枚目のドラを引いてイーシャンテン。次巡チーで「 チー」と、なんとあの配牌から一番乗りでテンパイを果たす。
米津氏がテンパイした10巡目、イーシャンテンで4巡ツモ切っていた親の南プロがようやくツモでテンパイ、打で恐らく想定通り「」のシャンポンリーチ。
ペンチーを入れた米津氏にドラのが固まっている可能性も低くなく、少しギャンブルにも見えるが、だからこそ親リーチで押さえ付けたいという決断だろう。しかし次巡米津氏が絶好のを引き入れ、親の現物を切って「 チー」という三面張へとシフト。更にこの時点で「」という最高形のイーシャンテンまで手を育てていた大野プロも、ピンズはしか切っていない親リーチにをツモ切って真っ向勝負と、南プロの思惑とは全く違う方向へと物語は展開していく。
15巡目に南プロがツモ切ったを大野プロがしぶしぶチーしてタンヤオ三色のテンパイを取ると、役無しだがテンパイを入れていた新田プロが、自分の雀頭含め3枚見えているのワンチャンスになったをツモ切って米津氏に満貫8000点を放銃。
南入時の持ち点は、起家から大野プロ19000点・新田プロ▲400点・米津氏47000点・南プロ34400点。
上位2人の一騎打ちかと思われたところで、南1局(ドラ)は第三の男が浮上する。
「」という配牌に・・と引き入れて、7巡目に一通を手の内で完成させた南プロが、「」から打でリーチ。
捨て牌は「」で変則待ちの匂いは薄く、1枚切れのは絶好の受け。
この時点で最後の中は米津氏が持っており、手詰まりすれば出てもおかしくなかったが、最後の親で真っ直ぐ手を進めた大野プロがまるで露払いのように生牌の、スジのと通してくれたお陰で現物が増えて、最後までに米津氏の手が掛かることはなかった。
その間に大野プロが「」で追い付いてノベタンリーチ、程なく南プロが高目のを掴んで痛恨の7700放銃、大野プロが2着目に。
南1局1本場(ドラ)、親の大野プロが「」の配牌で長考、打を選択する。
その後・とツモって「」となり、選択が成功するかに見えたが、僅か5巡目に南プロからリーチがかかる。
南プロのリーチは「」で、1巡目にカンを入れ、3巡目にを重ね、5巡目にカンを入れるという勢いを感じる手牌進行で辿り着いたもの。この時点で高目のドラは大野プロに2枚、そして残り2枚も新田プロが持っていたのだが…この決勝戦、ここまで運から見放されていた新田プロに、運命の女神は更に非情な試練を与える。「」という好形イーシャンテンに、よりによってこのタイミングでツモ、意を決して横向きに河に置いたに、南プロから「ロン、8000は8300」の声が掛かる。やっぱりな、と納得したような新田プロの表情が印象的だった。
南2局(ドラ)、猛連荘あるのみの新田プロの親で、大野プロからなんと3巡目にリーチが掛かる。
「」にを引いての打で、リーチ前に少し逡巡があったが、これは一通やドラ引きなど、2手掛かる手替わりを考えたというよりも、トップ目からの直撃orツモ以外は見逃すと腹を決めるための時間だったのかもしれない。
5巡目に、ツモ番を増やしてテンパイを目指す必要がある新田プロが「」からカン、嶺上からを引いて目論見通りイーシャンテンに進んだところで、大野プロがすぐにツモアガリ。
カンドラは乗らなかったが、裏ドラ・カン裏ドラで最低1枚乗って満貫と信じてめくった表示牌には字牌が2枚並び(裏ドラ)、どこか物足りない1000・2000のアガリとなった。
南3局(ドラ)、トップを走る東家・米津氏と、2番手追走の南家・南プロの配牌に1枚づつ配られたが展開を動かす。
米津氏は「」と比較的まとまった配牌だっが、当面のライバルの連風牌であるは絞っての進行、対して「」とかなり厳しい配牌だった南プロだが、ツモが効いて「」と整ってきたところで、5巡目にを重ねる。
同巡、「」にを引いて一向聴になった米津氏が自然な形で打、南プロとしては絶好のタイミングでのポンテン。ほどなく大野プロから出アガリ、2000点の加点に成功してオーラスを迎える。
オーラス(ドラ)を迎えて、トップ目は北家・米津氏(46000)。2着目は東家・南プロ(35000)、満貫でひとまず捲くる点差。3着目の南家・大野プロ(29700)はトップ目からの跳満直撃(リーチ棒が出れば満貫直撃でOK)、或いは倍満ツモという条件。そしてラス目の西家・新田プロ(▲10700)はダブル役満が必要となっている。
南プロの配牌は「」とリャンシャンテン、
かが鳴ければすぐにアガれそうだが…しかし上家がトップ目の米津氏で、なおかつダブル役満条件=字牌は絶対切らない相手がいる、というのは実はかなりシビアな状況。
米津氏の配牌には「」とこれまたが1枚あり、前局に続いてこの局もこの牌が鍵を握ることに。
5巡目で南プロは「と早くもイーシャンテン、7巡目にを引いてドラ受けができて「」というイーシャンテンに受け替える。
9巡目、米津氏が「」にドラのを引いて少考。
脇のアガリは考え辛く、自分で決めに行くならばチャンタのイーシャンテンに取って・を切り出すことになり、とうとう南プロにテンパイが入る!…と思ったが、米津氏の選択は打。後に聞いたところ「仮に南プロがアガってもテンパイで流局してももう1局チャンスはあるので、受け入れが狭い形で前に出る必要はない。ここで考えたのは数牌を切る順番だけで、役牌を切る気は全くなかった」とのこと。結局南プロはイーシャンテンのまま流局、米津氏が「南」という名の牌も、そしてその名を持つプロの必死の反撃も抑え切って逃げ切りに成功した。
決勝戦結果:
1着・米津紘平氏(45000)、2着・南亮吉プロ(34000)、3着・大野佑介プロ(28700)、4着・新田友一プロ(▲7700)
第7回NPMウェスタン・カップ最終結果:
優勝・米津紘平氏(237.8pt)、2位・南亮吉プロ(194.8pt)、3位・大野佑介プロ(189.8pt)、4位・新田友一プロ(119.7pt)
協会所属プロとしては一般参加の方にタイトルを奪われるのは悔しい気持ちもあるが、しかし今回の米津氏に関しては「やるべきことをやって、勝つべき人が勝った」という印象しかない。手組み・押し引き・ゲーム回しと、プロも学ぶべきことが多い内容で、今後も様々な大会に参加して頂き、一緒に関西の麻雀シーンを盛り上げて頂きたいと思う。米津紘平さん、本当におめでとうございます!!
(文・高見 直人)
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