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TOTAL
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1日目
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2日目
|
3日目
|
1回戦
|
2回戦
|
3回戦
|
4回戦
|
5回戦
|
1
|
石野 豊 |
313.0
|
321.7
|
-20.9
|
12.5
|
54.7
|
-21.1
|
12.2
|
-46.1
|
2
|
藤田 拓郎 |
104.3
|
63.8
|
76.1
|
-21.2
|
-20.8
|
4.6
|
-12.3
|
14.1
|
3
|
小倉 孝 |
4.6
|
-137.6
|
99.6
|
55.3
|
13.3
|
64.2
|
-67.3
|
-22.9
|
4
|
井本 裕之 |
-422.9
|
-247.9
|
-154.8
|
-46.6
|
-47.2
|
-47.7
|
66.4
|
54.9
|
小倉孝――。
プロ二年目にして最下層のC級予選から雀竜位奪取という偉業を成したシンデレラボーイである。
若干二十四歳という若さで今や押しも押されぬ協会の大看板となった小倉だが、ここまでの道程は決して平坦なものではなかった。
小倉の“売り”はデジタル論を礎とした門前でのリーチ攻勢と、大胆不敵とも言えるその分厚い凌ぎにある。彼の戦術、また実績のない若手プロの初戴冠という事実に周囲の風評は様々だった。
しかし、小倉が揺れることはなかった。
その後も自らの信ずる面前道に磨きをかけ、対局で街で、誰よりも最前線で研鑽を重ね、他の追随を許さないほどの勝ちを積み上げた。
そして、昨年。
様々な重圧の中、第四期雀竜位を見事連覇で飾ったのである。
小倉にとってのここまでプロ生活は「雀竜」そのものであった。そして、「雀竜位」こそが小倉を象徴する証なのである。
ここ最近、小倉の麻雀を崇拝し、師事する若手プロも少なくない。
「雀竜」だけは誰にも譲れない――。
そんな小倉の戦いが今年も幕を開けた。
“想い”によって雀力は練り上げられるのか。
決勝進出を決めたメンバーの顔ぶれを見たときに私はそう感じた。
先の第五期雀王決定戦に続いて決勝進出を果たした石野。
新雀王須田の前に涙を飲んだこの男の今回に懸ける想いは並々ならぬものに違いない。
第一期、五期雀王決定戦、日本オープン、優駿杯とビッグタイトルの決勝に残ってきた石野。
だが、未だに無冠である。
その、今まで体に刻んできた創痕に報いる力を発揮することが出切るかどうか――。
続いて二年連続雀竜位の決勝へと辿り着いた藤田。
今期のA級では他の追随を許さない独走で勝ち上がった。
第四期雀竜位決定戦最終日――。
前節を三連勝で締め括り、最終日を首位で迎えたこの男の手の届くところに確かにタイトルは在った。
しかし、何がそうさせたのか。
藤田は大事な最終戦で四、四、三、四着と大崩れし、未だ見ぬ栄光は指の隙間から零れ落ちた。
地獄を味わった藤田がこの一年でどれだけ雀技と胆力を磨いてきたか。 その成果を見せるべくこの戦いに臨むことだろう。
最後に井本。
彼は今回唯一のC級からの勝ち上がり組である。
私は、彼の今回に懸ける秘めたる思いを識っている。
生業や地方在住というハンディを抱えながら、この舞台を勝ち上がってきた井本。
この雀竜位の先に在るものを掴むことができるであろうか。
それぞれの想いを懸けた戦いの初日――。
〔1回戦〕
ファーストインパクトは起家の石野。
2000オールを自摸和了って先行する。
リーチ ツモ ドラ 裏
他者のエンジンがまだ温まらない中、石野はそのまま和了続け、南三局にも満貫の和了を決めてトップ。
カン リーチ ロン ドラ カンドラ
緒戦は、石野、藤田、井本の順。そして、小倉がラススタート。
〔2回戦〕
続く二回戦も趨勢は変わらず、石野と藤田が和了を重ねる。
小倉が南四局にようやく初和了となる親満を和了って三着に浮上。
リーチ ロン ドラ 裏
石野、藤田、小倉、井本の順。最ベテランである石野が二連勝で最高のスタートを切った。
〔3回戦〕
ポツポツと小倉に和了が出始めるも、相変わらず場のペースは変わらない。
二回戦と同じ並びのまま終了し、石野、藤田、小倉、井本の順。
三回戦終了時のポイント。
石野+199.6
藤田+ 29.7
小倉−100.8
井本−128.5
〔4回戦〕
石野が止まらない。
東一局の南家で小倉、井本との三軒リーチを制して12000。
リーチ ロン ドラ 裏
心なしか、快濶な摸打が魅力の石野の腕がいつもよりも躍動感に富んでいる。
小倉は珍しく表情が険しい。
井本からも強い気が感じられない。
何とか二着に食い込みたい小倉だが、
南三局、四局を藤田が8000、5200と和了り、またもや並びは変わらず。
〔五回戦〕
牌勢の悪さからなのか、大舞台で本来の力を発揮できずにいるのか。
攻守にわたって萎縮がちな井本。これ以上のマイナスは回避しなければならない。
しかし、手が入るのは石野と藤田。
東一局、藤田の七対ドラドラに追っかけリーチの小倉が捕まり、藤田が先行する。
石野がじわりじわりと点棒を増やし、藤田に迫る。
何とか一矢報いたい井本と小倉だが、南場の親番でも全く手が入らない。
藤田トップ目で迎えたオーラス。
二着目は石野。藤田としては何としても石野の連勝を阻止しなければならない。
まず石野、小倉の二人聴牌で流局。
続く一本場。
1500で仕掛けていた石野がを加槓。すると、表示牌にが捲れる。
全員で堪えて、次局以降に勝負を持ち込まなければならない局面だが、
藤田から石野の本命とも思えるが零れてあまりにもデカい直撃打。
チー カン ロン ドラ カンドラ
またもや、石野、藤田、小倉、井本という並びで終了した。
石野は破竹の五連勝。
藤田はオール二着。
小倉は緒戦ラスの後、最少の和了を活かしてなんとか四連続三着。
井本は三着の後、四ラスである。
五回戦終了時のポイント。
石野+321.7
藤田+ 63.8
小倉−137.6
井本−247.9
このまま石野の独走が続くのか。
否、その可能性は低い。
残り三者のこの戦いに懸ける“想い”はそれほど軽くはない。
運命の二日目。
おそらく二日目終了時にはまだ石野が首位に立っているかもしれない。
だが、三日目の最終日。最後に栄冠を自らのものとするのは果たして誰なのか――。
文:吉田 光太
2日目―
時計は対局開始予定時刻の午前11時にさしかかっていた。
このところ暖かい陽気の日が続いていたが、今日は朝から雨である。
エレベーターの扉が開き、息を切らせながら、一人が会場に飛び込んできた。
「セーフ」
初日五連勝をきめた石野である。
確かにぎりぎりで間に合っていたが、自分で言ったものだから、会場から笑いがおこる。
いつも余裕をもって会場に待機している石野にしては珍しい。
これ以上石野に走られるわけにはいかない他三人の悲壮感漂うムードが一瞬で消し飛んだ。
6回戦
初日と打って変わって、小倉の牌勢が良い。
放銃もするのだが、すぐに和了り返す出入りの激しい展開。
小倉トップ目で迎えた南1局。
小倉を5200差で追う藤田が仕掛ける。
藤田(西家) ポン ドラ
4巡目に仕掛けてから、ずっとツモ切りを続ける藤田に対して、
8巡目から闇聴をいれていた小倉の13巡目。
小倉(東家 ツモ ドラ
いつも表情も変えず、一定のテンポで摸打を繰り返す小倉の手が止まる。
場にはは1枚も見えていない。
は通っているので考えることは無いように思えた。
「リーチ」
を横に曲げた小倉。
藤田の捨牌に筒子が無く、闇聴のままでも脇から拾えることは無い。
五連勝の石野を追撃するには、確かにどこかで腹を括らねばならない。
小倉にとってそれがここだったのかもしれない。
あっさり決着はついた。
南家の井本から、リーチが無ければ決して零れることの無い筈のが放たれた。
当然、藤田はチー。
小倉(東家) ロン ドラ 裏
勝負所を制した小倉であったが、その後も手が入り続けた藤田に捲られてしまう。
石野は箱下のラスを押し付けられてしまった。
6回戦終了時
石野 +260.8
藤田 +129.2
小倉 −116.3
井本 −273.7
7回戦
南4局0本場、ラス目の小倉が仕掛けて11巡目に聴牌。
小倉(南家) チー ドラ
藤田からが零れるも微動だにせず。
藤田からだと、自身は三着浮上だが、石野がトップのまま。
ツモか井本からなら、石野のトップは変わらないが、自分が二着。
石野からなら、自分は二着も、石野をラスに出来る。
タイトルへの執念を見せた小倉だったが、その後が放たれることはなかった。
この局は石野の一人ノーテンで流局。
同1本場は井本が和了って連荘、トップ目に立つも、同2本場は藤田が和了。
藤田(北家) ロン(一発) ドラ 裏
結局小倉はラスのままであったが、石野は三着。
藤田が連勝を飾った。
7回戦終了時
石野 +246.4
藤田 +180.0
小倉 −158.7
井本 −267.7
8回戦
他三人の包囲網の中、苦しい闘いを強いられている石野が、東2局に倍満のツモ。
石野(西家) ツモ ドラ
いつもならどんな苦しい状況でも笑顔を湛えながら、摸打する石野。
だが、倍満を和了った後にもかかわらず、なぜかその表情が冴えない。
小倉の細かい和了を重ねる度に、不快感を露にしている。
石野の不安は的中してしまう。
小倉(東家) ツモ(一発) ドラ 裏
倍満と跳満を親被りした小倉だが、力強く初トップをもぎ取った。
8回戦終了時
石野 +273.8
藤田 +114.9
小倉 − 86.3
井本 −302.4
9回戦
小倉が得意のリーチ攻勢を決めて、二連勝。
オーラスは藤田が二着決めの和了だったが、三着目の石野とは離れていただけに、
もったいないように思えた。
石野と1900差のラス目で東家の井本に任せる手があったと思う。
9回戦終了時
石野 +245.3
藤田 +125.4
小倉 − 18.9
井本 −351.8
10回戦
南4局1本場。持ち点は東家より
藤田26000、小倉26700、石野30700、井本16600。
小倉の6巡目。
小倉(南家) ツモ ドラ
小倉は切り。
条件的にツモ切りがいいように思えたのだが…
「三色はが条件ですから…」
「一発や裏、リーチ棒がでてからのツモでもいいし…」
結果論だが、河にはとが並んでしまう。
井本の一人ノーテンで流局
南4局2本場 供託2000
1000点でもよくなった小倉の3巡目。
小倉(南家) ツモ ドラ
微妙な牌姿だが、小倉はノータイムで切り。
次巡、上家から切られたをスルーして、6巡目を引いてリーチ。
14巡目に追いついた井本が次巡ツモ切りリーチ。
井本(北家) ドラ
丁寧に打ちまわしていた藤田も16巡目に追いつく。
藤田(東家) ツモ ドラ
当然、追っかけリーチといくと思っていたが、藤田は切りのダマ。
先行リーチの共通の現物というわけでもないのだが…
結果は井本がを掴んで、2900は3500。
藤田(東家) ロン ドラ
溜まったリーチ棒4本も回収して、トップ目に立った。
南4局3本場。7巡目に石野がリーチ。
これに仕掛けを入れていた小倉が飛び込む。
石野(西家) ロン ドラ 裏
石野、ようやく本日の初トップ。
10回戦終了時
石野 +300.8
藤田 +139.9
小倉 − 38.0
井本 −402.7
藤田、小倉が石野との差を詰めて、最終日に希望をつないだ。
井本は絶望的な差を前に、自分の麻雀を見失っているように見える。
もう一度、あの力強い麻雀を見せてほしい。
小倉は今日も執念を見せたように、最後まで諦めることはないだろう。
ミスの目立つ藤田だが、まだまだチャンスはあると思う。
そして石野…
「来年からB級の人数が増えて、昇級がきつくなるからA級残留しないといけないな」
―そんなこと言わずに雀竜位獲るつもりで打ってくださいよ。
「俺はタイトルとかはいいんだよ」
A級戦の開始前はこんなことを言っていた石野だが、盟友の竹内が發王位を獲ったことが、
刺激になったのか、今までとは意気込みが違うように見える。
朝から降っていた雨はすっかり上がっていた。
最終日は31日の土曜日。
どんな結末が待っているのだろうか…
2007年3月25日
文:佐久間弘行
スキンヘッドに髭、耳にはピアス。
知り合いでなければ、近寄りたくない風貌の藤田だが、 実は心優しい温厚な男である。
ただ、ちょっとひねくれている。
麻雀に対しても、どこか冷めたようなところがあり、
タイトルや昇級には興味が無いかのように見えた。
ところが、昨年この雀竜位決定戦に残って以来、見違えるような大活躍。
今期はリーグ戦の昇級を決め、今回雀竜位戦も2年連続の決定戦進出。
昨年の決定戦での経験が、この男の何かを変えたのだろう。
最終戦のある1局――。
7巡目に小倉がリーチ、13巡目の藤田。
藤田(西家) ポン ツモ ドラ
を叩きつけるように切りとばす。
16巡目、小倉が掴み河に放たれる。
息を呑むギャラリー。
が、何事も無かったかのように、牌山に素早く手を伸ばす藤田。
そこには我々の知らない藤田がいた。
最終日
今日は石野も早くから待機して、採譜者と談笑している。
二日目は苦しめられたものの、ポイント的にはまだまだ余裕がある。
普段から寡黙な井本、タイトルを逃しつつある小倉は誰とも話さずに開始を待つ。
五十嵐代表の合図で静かに対局が始まった。
11回戦
小場で進んだ南3局、12巡目に小倉の手が珍しく止まる。
小倉(東家) ツモ ドラ
少考後に切りのリーチ。
同巡の石野。
石野(西家) ツモ ドラ
石野は理牌せずに打つことが多いが、摸打はテンポ良い。
この時もほぼノータイムだった。
小倉(東家) ロン ドラ 裏
和了った小倉も驚いたであろうデバサイの12000。
次局すぐに反撃を開始する石野。7巡目にリーチ。
石野(西家) ドラ
石野をラスのまま終らせたい他三人。
リーチ時点で山に2枚残っていたが、流局して石野の一人聴牌。
南4局2本場。このままの並びで終わらせたい小倉が積極的に仕掛ける。
小倉(北家) ドラ
ここから5巡目に上家の切ったをチーして打。
三着目の井本が東家で石野と700差なので、門前だとツモ和了できなくなる可能性がある。
理にかなった仕掛けに思えたのだが、有効牌を引き込んだ石野が8巡目にリーチ。
石野(南家) ツモ ドラ 裏
三者の思いを打ち砕く、二着浮上の和了り。
石野の宣言牌はである。切りでも和了れば二着になるが、こちらの方が早かった。
井本も小倉も追いついて聴牌していただけに、受けが違えば、どうなっていたか…
11回戦終了時
石野 +313.3
藤田 +118.3
小倉 + 17.3
井本 −449.3
12回戦
小倉はインパクトの強いリーチ攻勢ばかりが取り上げられることが多いが、
先手を取られた後、しぶとく凌いでの聴牌取りや、供託のリーチ棒をさらう速攻など、 他の技術にも抜きん出たところがたくさんある。
この半荘も細かい和了と聴牌料でトップ目に立っていた。
南2局0本場。東家の小倉の3巡目。
小倉(東家) ドラ
ここから牽制含みにをポンして、切り。
小倉の動きにつられたかのように藤田も仕掛け始める。
藤田(北家) ドラ
上家から切られたをポンして切り。
直後の石野。
石野(南家) ツモ ドラ
ノータイムでドラを切り飛ばす。
小倉の遠い仕掛けをまるで見切っていたかのようである。
「あの形なら、仮にドラを鳴かれても十分勝負になるからね」
すぐにを引いてリーチ。一発で引き和了る。
石野(南家) ツモ ドラ 裏
この日の小倉は仕掛けのバランスを崩しているように見えた。
しかし、このまま石野にトップをとられるわけにはいかない他三人も粘る。
南4局3本場。
「リーチ」
気合のこもった発声。
ここまで全く出番の無かった井本だ。
井本(東家) ドラ
気合を込めて牌をツモる井本。
井本は、仕事の都合で今期限りの引退が決まっており、 この雀竜位戦が彼の最後の公式戦であった。
彼らしい迫力ある摸打を、この決定戦で初めて見せた瞬間だった。
普通の手順では、残せないを暗刻にしてのリーチ。
大阪から応援に駆けつけたギャラリーも固唾を飲んで見守る。
しかし、山に2枚とも残っていたは掘り起こされること無く、流局。
南4局4本場。
前局強引に聴牌をとって、トップの石野まで12000条件にした、南家の藤田。
藤田(南家) ドラ
8巡目のは取らずのツモ切り。
10巡目に引いて闇聴。
次巡引きの待ち替え。
藤田(南家) ドラ
井本から出たをスルーして、14巡目にを引いて執念のリーチ。
藤田(南家) ドラ
はどこからでもOK。
勿論は見逃すつもりであろうが、ツモと石野から出た時はどうか。
裏裏ならば捲れるのだが、おそらく和了る気は無かっただろう。
同巡に追いついた小倉も曲げる。
小倉(西家) ドラ
こちらは石野からの直撃か、ツモって裏1枚以上が条件。
井本も追いついてリーチ。
井本(東家) ドラ
17巡目、手牌を開いたのは小倉であった。
小倉(西家) ツモ ドラ 裏
裏ドラを見てほっとした表情の石野。
12回戦終了時
石野 +368.0
藤田 + 97.9
小倉 + 30.6
井本 −496.5
13回戦
今日の開始時よりポイントが離れてしまった藤田だが、諦める素振りは全く無い。
先ほどのオーラスに見せた手順は、我々の知っている藤田とは別人のようだ。
ここからは石野をラスにしてのトップが、藤田にとっての絶対目標になる。
東2局0本場の藤田の9巡目。
藤田(南家) ツモ ドラ
聴牌取らずの切り。
小倉のリーチを掻い潜って、16巡目に石野に親被りさせる3000−6000。
藤田(南家) ツモ ドラ
東3局1本場。13巡目に藤田がリーチ。
藤田(東家) ドラ
14巡目、井本の手が止まる。
井本(南家) ツモ ドラ
ドラのは藤田の宣言牌。は2枚切れ。
普通ならツモ切りだろう。
ポイントのビハインドがを河に押し出した。
が、藤田から何の声もしない。
「ポン」
声を出したのは小倉。
小倉(西家) ポン ドラ
仮に井本がツモ切りだったら、小倉はチーしてを切っただろうか。
しかし、それでも石野以外から藤田が和了することは無かったろう。
ただ、自身のトップの確定してないこの場面では、倒牌した方が良いように思えたが…
この局は小倉が和了して、藤田の親は流れてしまった。
その後、捌きに勝る小倉に捲られて、藤田は二着。
並びを気にするあまりに、自身のトップを逃す結果となった。
13回戦終了時。
石野 +346.9
藤田 +102.4
小倉 + 94.8
井本 −544.2
14回戦
激しい打撃戦を制して、井本が意地を見せて初トップ。
煽りを食った小倉が箱下のラス。
14回戦終了時。
石野 +359.1
藤田 + 90.2
小倉 + 27.5
井本 −477.8 (供託 +1.0)
最終戦
トータル二着の藤田でも、石野とのトップラスで素点で約190000点差が必要。
誰もが消化試合と思っていた。
ただ一人を除いて…
東2局0本場。安手での連荘にほとんど意味の無い石野だが、2枚目のをポン。
石野(東家) ドラ
2枚目もふかすものだと思っていたので、少し驚いた。
次巡にを引いてすぐに聴牌。
石野(東家) ポン ドラ
だが、同巡小倉からリーチ。
小倉(南家) ドラ
多少の失点は構わない石野。でシャンポンに待ち替え。数巡無筋も押すが、14巡目。
石野(東家) ポン ツモ ドラ
小倉の待ちが見えているかのように、切り。
10巡目に小倉の切ったをスルーした藤田が、同巡井本から出た2枚目をポン。
そして藤田の13巡目である。
藤田(西家) ポン ツモ ドラ
既に石野が通していたを河に叩きつける。
16巡目に小倉から出る。
藤田のツモ切りを見てを合わせ打つ井本。
何の反応もしない藤田。
役満を直撃しても、あと十万点以上差をつけなければいけない。
1枚目はともかく、2枚目は当たる一手だろう。
万一、当たらないとしても、ポンして単騎待ち替えの直撃狙いすべきところだったか。
大勢のギャラリーの前での闘牌。
大舞台で平常心を保つことは難しい。
決定戦に残ることすら出来なかった我々が批判すべきではないだろう。
彼はベストを尽くしたはずだし、彼の強固な意志は痛いほどに伝わってきた。
最終成績。
石野 +313.0
藤田 +104.3
小倉 + 4.6
井本 −422.9 (供託 +1.0)
「8年目のシーズン、6回目の決勝でやっと勝つことができました」
「麻雀界には獲りたいタイトルがたくさんあるので…」
―最終戦の東2局ですが…
「小倉のリーチは掛かった時点ではわからなかったけど、
ほぼカンの一点だったよ」
「藤田の大三元はわかってなかったけど、掴んでも切らないよ」
終ってみれば、格上の石野の圧勝であった。
2007年3月31日
文:佐久間弘行
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