≪大会レポート≫
「努力は必ず報われる」
これは、第13期女流雀王の豊後葵が常々、口にしてきた言葉だ。
その言葉通り豊後は、幾度と無く決勝の舞台で散っては這い上がり、実に、8度目の決勝で悲願の頂点へと登り詰めた。
今回のお話はそんな、努力を重ねた女の子が一日だけ主役になる、正にシンデレラのような、そんな物語である―――。
2016年の幕も上がった1月11日、チャンピオンロード〜雀王シリーズ〜が開催された。
「こういうところであっさり負けて、『雀王に勝った』なんて言わせない為にも、全員倒すつもりで全力でいきます!」
木原浩一新雀王の見事な所信表明と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。
(尚、木原プロは、予選4回戦であっさりと敗退しました・・・)
今回も2会場での開催となり、会場となった柳本店、協会道場パレットと両会場で熱戦が繰り広げられていた。
そんな中で、準々決勝となる5回戦に駒を進めたある女流プロに注目してみたい。
彼女の名は、竹居みつき。
日本プロ麻雀協会に入会して3年目の若手プロだ。
彼女こそ、今回のシンデレラストーリーの主人公である。
普段は、週の殆どを雀荘勤務に費やす生活を送っている。
それでも、たまの休みにはリーグ戦やこうした大会に参加したりで、麻雀に対する情熱は当会の若手女流プロの中でも群を抜いている。
筆者が彼女と知り合ったのは、矢島亨プロが主催する『やじ研』がきっかけだった。
彼女は入会1年目からやじ研や、その他の勉強会にも足繁く通うほどの頑張り屋だ。
麻雀に精通する方は良くご存知だと思うが、
麻雀というゲームは、勉強したからと言って一朝一夕で成長が結果に表れるほど簡単なものではない。
それでも彼女は、日中は雀荘勤務、仕事が終わればその足で勉強会、休みの日はリーグ戦や大会。
こんな生活を続けてきた。
そんなプロ生活2年目、彼女に初めての大きなチャンスが訪れた。
当時所属していた雀王戦C3リーグでのこと。
最終節を迎えた時点で彼女は、昇級が濃厚な位置にその身を置いていた。
今まで、何度立ち向かっても跳ね返された。
同期達が昇級していく中、どれだけ勉強しても、どんなに毎日麻雀を打っても自分だけが、C3リーグに取り残されていくように感じ始めていた。
だけどこの時は、渇望していたC2リーグのステージがもう、手の届くところまで来ていた。
“この最終節に大敗さえしなければ、C2リーガーだ!”
しかし、終わってみれば痛恨の3ラスを引かされ、手中にあったはずの昇級が、スルリとその手からこぼれ落ちていった。
そして、あろう事か、次のリーグ戦ではDリーグへと降級してしまった。
この時、彼女はプロになって初めて、大きな挫折を味わった・・・。
いつも明るく、周りの人間ともにこやかに接する彼女だか、この時ばかりはその落胆した姿に、掛けてあげられる言葉が見付からなかった。
それでも彼女は、前を向いた。
今まで以上に麻雀と真摯に向き合い、麻雀に対する情熱の火が消えることはなかった。
仕事が忙しい中でも、時間を作っては勉強会に顔を出し、家に帰れば、眠い目をこすりながら自分の牌譜を見返した。
来る日も来る日も麻雀と向き合った―――。
そしてこの日、幾度となくトライしたチャンピオンロードで、自身初となる決勝の舞台に到達した。
2014年から参加し始めたチャンピオンロードもこの日で実に、9度目の参加だった。
過去、準々決勝まではコンスタントに進むも、決勝の舞台まではどうしても辿り着くことが出来なかった。
でも、今回は違った。
自身2度目となる準決勝を見事通過することができた。
決勝進出が決まり、緊張しながらも屈託のない笑顔で喜ぶ彼女を見て、
今までの努力を少なからず知っている筆者としては、どうしても勝たせてあげたかった。
そしていよいよ、彼女にとっての初めての決勝戦が始まった。
開局早々、対面の親のリーチに、完全安牌のあるところから
スジを追った痛恨の降り打ちで、7700点を献上。
東家・嶋田
ロン ドラ 裏ドラ
対局後、この時の事を彼女はこう語っていた。
「緊張し過ぎていて、場が全く見えていなかった」
無理もない。初めての決勝の舞台だ。麻雀に捧げた人生。溢れる情熱。
心が折れそうになっても、それでも麻雀が好きだから牌を握ってきた。
彼女は決して、自分が積み重ねてきた努力の量を周囲にひけらかすようなタイプの人間ではない。
人知れず努力するタイプで、傲慢さの欠片も無いとても控えめな普通の女の子だ。
それでも、心のどこかで、こんな思いも生まれてきた。
『これだけ努力してきて結果が出ないって事は、自分には向いてないのかも・・・』
麻雀のいたずらなのかも知れない。
どれだけ努力しても、熱意を持って取り組んでも思い通りの結果へと導いてくれない。
だけど、心の準備が出来てない時に限って、想定外の舞台が訪れる。
彼女は、緊張という4人目の敵に苦しめられていた。
続く1本場、彼女は皆に気付かれぬように少しだけ深く、息を吐いた。
彼女は、対局者とも、緊張とも戦う覚悟をもう一度、持ち直した。
その気持ちに突如、牌たちが呼応し始める。
柔らかく透き通る、だけどはっきりと芯の通った「リーチ」の発声が重苦しい静寂を切り裂いた。
「この三色は狙い通りだった!」
と、語る彼女。
道中、いくつもの選択肢がある中で、牌譜を採っていた筆者にも、彼女の気持ちは聞かずとも伝わっていた。
西家・竹居
リーチツモ ドラ 裏ドラ
すっかり、緊張すらも楽しんでいた。それからは展開も味方した。
東4局1本場、国士無双の一向聴(・受け)の上家の名波から切り出されるをチーして以下のテンパイ。
チー ポン ドラ
直後に、下家の親からリーチ。
しかし、リスクを冒すことなくをツモ。
しかもこの、名波が一向聴から打ち出される牌がでなければ彼女はチーテンが入らず、ツモ牌のが名波に入り、山に2枚生きていた待ちの国士無双テンパイが入っていたのである。
もはや牌たちまでもが、彼女の優勝を祝福するかのようだった―――。
こうして2016年最初のチャンピオンロードは、協会の女流プロとしては3人目となる快挙を達成した竹居みつきプロの優勝で幕を閉じた。
大会からの帰り道、彼女とこんなLINEのやり取りをした。
「今日は、本当におめでとう!」
『ありがとうございます!いつか、藤井さんが「決勝に残ったら採譜してやるよ!」って言った約束、叶いましたね!』
他愛もない会話の中で交わした約束を覚えていてくれたことを嬉しく思いながら、こんな返事をした。
「次は、来期の女流雀王決定戦での牌譜を採らせてくれよ!」
(文・藤井 真人)
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