≪大会レポート≫
チャンピオンロード、協会員の中でもっとも参加回数の多い一人であるTクンはまたも6回戦(ベスト12、実質的な準決勝)の卓にいた。
もう何度目だろうか?数える気もしないくらいに多い。
しかし決勝進出を数えるのは簡単だ。たったの1回だけだから。(4位)
この半荘ラス目だったTクンに乾坤一擲の手が入った。
の形からを掴んでシャンポンを選んだ。
当然だ、ツモり四暗刻なのだから。
「リーチ」の声に下家の「ロン」の声がかぶった。
下家は喰いタンのイーシャンテン時にとあり、がノド手の形だった。
ここでTクンは対子選択で2枚切れのを切らざるを得なかった。
下家は本来枯れていたをチーテン取れたわけである。そのときから決まっていたシナリオだったのである。合掌。
そんな悲喜こもごもがあちらこちらであった末に選ばれた決勝メンツは、
岩崎 殊男さん(+274.9)
島方 武司さん(+255.4)
寺本 喜一さん(+244.3)
山中 直人(+221.7)
の4人。(カッコ内は6回戦までのポイント)
岩崎さんだけ、山中トップの場合に13.2ポイント差以内の2着でも優勝があるが、それ以外はトップを取った人が優勝というわかりやすい図式。
こうして始まった、決勝となる最終7回戦。
座順は、岩崎さん→寺本さん→山中→島方さん。
東1局、山中が、
ドラ
に絶好のカンを引いてリーチ。
これを受けて親の岩崎さんが、
マンズがまったく切れていない山中の河に対し、堂々と3枚持ちのを切り飛ばしてリーチ。
これをツモッて4000オール。もともとリードしている岩崎さんのこのアガリはでかい。
東1局1本場はまたも山中リーチ。
これにピンフのヤミテンを入れていた寺本さんがツモ切り放銃。
2600は2900。岩崎さんの親が落とせるなら安い買い物か?
東2局、寺本さんが6巡目リーチ。
ドラ
一発ツモで6000オール。やはり自力(?)で持ってきた親は強い……のか?
ノーテン罰符のやりとりが続いた東3局3本場、山中がリーチ。
ドラ
自分でマチを3枚消していて好形とは言い難いが、そんなことは言っていられない。
親で主導権を握るためにもリーチだ。
すると、これが一発で島方さんから出て、裏ドラがで親ッパネ。
山中、このひとアガリで寺本さんを躱してトップ目に立った。
流局が2局続いた東4局は寺本さんが400・700ツモ。
だが、6本場で供託が2本あって大きい。寺本さん再びトップ。
南場を迎えて寺本さん37900、山中36300、岩崎さん26500、島方さん△700という並び。
東パツに親マンをアガッた岩崎さんのリードはどこへ行った?
そのため岩崎さんは南1局の親を簡単に流すわけにはいかずに前に出て、寺本さんの満貫に打ち上げてしまう。
若い山中にベテラン3人の戦いだが、その中でも寺本さんはあちらこちらの大会でその名を耳にし、実績もある超ベテラン。
間近で見た印象は「背筋の伸びた麻雀」である。
リードしていても、リードされていてもあわてない。
近視眼的に前のめりになることはなく、常に背筋を伸ばして自分の間合いで戦っている。
ある1局では翻牌2組対子、ダブルバックの手で、のターツを抱えていた。
上家が切り。
がすでに3枚出ていたので喰ってもいいかと思う。ならともかくなら手もばれにくい。
協会員なら過半数が喰うだろう。しかし、寺本さんはまったく動じず。
すぐに山中が4枚目のをツモ切り、結局このターツを払うことになる。その後、オリを選択。
「遅い」ともいえるが、ここで手牌を短くしたために戦いに巻き込まれる危険も否定できない。
それに比べて寺本さんは無理なくオリられた。なによりこれが寺本さんの長年培った自分のペースなのだろう。
私も還暦過ぎたらこういう枯れた麻雀打ちになってみたいものだ。
満貫ひとつ分以上のリードを持った寺本さんはここからしばらく防戦一方になる。
もちろんそれが寺本さんのペース。一方、山中は追い掛け続けなければならない。
自身の親番である南3局1本場、岩崎さん、島方さんの2軒リーチを受けて形テンで親番維持。
淡々と3000点を払う寺本さん。
2本場、のポンテンを入れた山中が島方さんから2900+600をアガる。
供託も3本あって、ついにトップ目に。
しかし、山中42800、寺本さん41900と、わずか900差。まだ働かねばならない。
3本場は、島方さんのリーチ、
ドラ
もはや安い仕掛けのわけがない岩崎さんの3フーロ、
暗カン ポン ポン
に挟まれ、
のメンホンテンパイを入れてオリるわけにもいかずツモ切り続けた。
結果は岩崎さんが島方さんへ放銃。
最年少と最年長の間は900点差のまま迎えたオーラス、オカルトめくが、シャカリキに攻め続けた山中の配牌は疲弊していた。
対して姿勢を崩さずペースを守っていた寺本さんは好配牌。4巡目にして中張牌であふれた。
ドラ
七対子のイーシャンテンだがどうするか?と見ていたら、の出に「ポン」
アガれば優勝の直線で、ついに前傾姿勢となってムチを入れた。
優勝条件が三倍満ツモか役満となっている上家・岩崎さんの捨て牌が国士気配なのも仕掛けの理由のひとつだっただろう。
途中、にがくっついて切り。スリーヘッドは不利ですもんね。
9巡目、すでにをアンコにしていた寺本さんは興奮することもなくいつも通りにを手牌の右に静かに置いた。
対抗馬は何もできないリャンシャンテンのままだった。
寺本さんおめでとうございます。観戦していて私も色々勉強になりました。
その優勝コメントは、
「今年はあまり大会に出られないので、丁寧に打ちました」
というもの。
あれっ、どこかで聞いたぞ。日本オープンで優勝した坂巻稔永さんもそんなセリフを……。
やっぱり丁寧に打っているといいことあるんだな。
最後まで喰らいついていた山中だったが、2度目の優勝を逃した。
実はその優勝は協会入りする前だった(優勝したためにその気になって協会入りしたというのが正確か?)。
あのときはノビノビと打って勝ったという印象だったが、今回は色々プレッシャーを感じて打っていたような気がする。
まあ、チャンピオンロードとの相性は、何度も準決止まりのTクン(弟のほう)よりはいいと思うので、次回頑張ってください。
(文・五十嵐 毅)
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