最終ポイント成績
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TOTAL
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1回戦
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2回戦
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3回戦
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4回戦
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5回戦
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吉田 基成 |
131.9
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8.9
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29.3
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15.6
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50.9
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27.2
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秋山 昌士 |
-8.0
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22.5
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2.9
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-13.9
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-34.5
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15.0
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赤坂 げんき |
-46.6
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-25.9
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-10.3
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29.8
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-13.6
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-26.6
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土子 貴智 |
-77.3
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-5.5
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-21.9
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-31.5
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-2.8
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-15.6
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9月27日、第3回オータムチャレンジカップの決勝戦が行われた。
この大会は一発裏ドラ無しルールを採用しており、通常の協会の公式戦より仕掛けや手役作りの巧拙が問われる
一層競技性を増した性質の対局となる。
○事件はバーで起きている!?
飯田橋のとあるバー。シックな雰囲気の中、カウンターの席で肩を寄せ合っている中年男性と若い女性。
一見すると不倫カップルのようだが…失礼、五十嵐代表と吉倉万里プロの2人であった。
吉倉「あ〜ん、悔しい〜」
どうやら吉倉プロが五十嵐代表にグチをこぼしているだけのようだ。
肩を寄せ合っているというよりは、椅子からずり落ちそうな吉倉プロ五十嵐代表が支えているという表現がふさわしい。
五十嵐「予選は通過したんでしょ?」
吉倉「そうなんですけど、4回とも全部2着。トーナメントも2着・2着そして最後3着で負けちゃったんですよ。
やっぱトップ取れないとダメなんですね〜」
五十嵐「そんなことないよ。協会ルール(トップオカ有り・順位ウマ1−3)と違って、オータムチャレンジカップのルールはオカ無し、ウマも5−15だから、トップと2着の差はそんなに無いし」
吉倉「でも〜やっぱり2着よりトップのほうがいいんですよね?」
五十嵐「そりゃそうだけど…でも協会ルールはトップと2着の差は4万点。オータムカップだと1万点だけだし」
吉倉「でも1万点分有利なんでしょ?」
五十嵐「う〜ん…」
プルルルルー♪ プルルルルー♪
吉倉「あっ、代表。電話鳴ってますよ」
五十嵐「ん、もしもし…あっ、鈴木たろうか。ちょうどいいや、今から来なさい。えっ? わかったわかった、とりあえず来てくれ、じゃ」
吉倉「たろうさん、来るんですか?」
五十嵐「ああ。ちょうどいいや。たろうのほうが、こういう話は得意だからな」
○鈴木たろうプロの、ためになる説明
たろう「…というわけで協会ルールはトップ2着の差は4万点、でも2着3着の差は2万点だから、2位のときは3位落ちのリスクよりもトップを取るメリットが大きいんだよ」
吉倉「うんうん」
たろう「だけどオータムカップの場合は2着からトップでも3着でも同じ。しかもたった1万点だから、満貫放銃のリスクを背負ってまでトップを取りにいくのは分が悪いよ」
吉倉「なるほど、そうだったんですね。全然知らないで打ってた〜」
たろう「そ、そうなんだ…」
五十嵐「あとオータムカップは、一発裏ドラ無しルールというのも独特だな」
吉倉「一発裏ドラ無しだと、リーチかヤミテンかの判断ってよくわかんないんですよ」
五十嵐「一発裏ドラ無いから、リーチのメリットが少ないもんな」
たろう「でも、点数が必要な時はリーチでいいんじゃないですか」
五十嵐「どのルールもそうだけど、頭で覚えるよりも、何度も打ち込んで自分で加減を覚えるのがいいと思うよ。自分の判断で決めて失敗したとしても、その失敗が糧になるし」
吉倉「じゃあ、1年かけてこのルールとシステムを完全にマスターして、来年また挑戦します」
たろう「そうだね。まあ決勝までは無理しなくても普通に勝てると思うから」
五十嵐「いやいや。普通には勝てないと思うけど」
たろう「そうですか? トーナメント戦って、自分で不利になる打ち方してる人から負けていくじゃないですか?」
五十嵐「(なんか面倒臭くなってきたな…)ところで、決勝はどうなったんだ?」
たろう「そうそう、これなんですけど…」
吉倉「あ、決勝戦の牌譜だ」
○2度目の決勝進出
五十嵐「ん〜と、決勝メンツは…ほぅ、土子がまた残ったか」
たろう「土子くんは2年前の第1回大会でも決勝に残ってましたね。その時は残念ながら4位でしたけど」
吉倉「でもまた決勝残るってすごいですよね」
五十嵐「意外とこのルールに向いてるのかな」
たろう「アガリ牌に対する嗅覚は優れてそうですね。例えば…1回戦の東2局16巡目で」
ツモ ドラ
五十嵐「チートイツのイーシャンテンか」
たろう「場況はが1枚、が1枚、が0枚。ただしマンズは全体的に安くピンズは下が安い。
土子くんの序盤の捨て牌は」
吉倉「は鳴かれるとヤダから切りですか?」
五十嵐「この巡目だからな。かあるいは安全牌を切ってオリてもいいんじゃないかな」
たろう「でも土子くんはを切りましたね。そして次巡のツモは」
五十嵐「ほぅ、いいヒキだ」
たろう「そしてとのタンキ選択でタンキに受けてます」
吉倉「待ちにしなかったんですね」
たろう「待ちのほうが山に残ってそうだからね。しかもリーチだし」
五十嵐「え、リーチ!?」
吉倉「1巡しか無いですよね?」
たろう「まあ、この巡目ならヤミにしても出ないとみてのリーチじゃないですか。ツモればハネ満になりますし」
五十嵐「う〜ん、俺にはそのリーチ打てんな」
吉倉「これアガったんですか?」
たろう「さすがにアガれてないね。ラストツモは…」
五十嵐「なるほど、のスジトイツだからな。ある意味惜しかったわけだ」
たろう「その理屈は、僕には意味わからないですけど…」
○雀王決定戦の前哨戦?
五十嵐「赤坂げんきが唯一のAリーガーか」
たろう「ええ。げんきくんとはリーグ戦で同卓してますけど、わりと仕掛けを多用するタイプですね」
五十嵐「そうなんだよ。しかも一見高そうな仕掛けするからな」
たろう「明らかに安い仕掛けは警戒されないですからね。この決勝でも面白い仕掛けしてますよ。1回戦東3局1本場5巡目で…」
ドラ
たろう「ここから1枚目のをポンして…ション牌の切りですね」
吉倉「私は…鳴かないかな? チートイドラドラ狙うかも」
五十嵐「ポンでもいいけど、切るならじゃないかな?」
たろう「ドラのが重なってもいいように、一応待ちを残したんでしょうね。
仕掛けてからの臨機応変さが、げんきくんの持ち味ですから」
吉倉「この局はどうなったんですか?」
たろう「3フーローしてるけど…」
ポン ポン ポン
五十嵐「まだテンパってないのか」
たろう「それでもこの仕掛けにははもちろん、ソーズもション牌も切れないですよね」
吉倉「その後は…13巡目にツモってトイトイテンパイしてますね」
五十嵐「…協会ルールより、一発裏ドラ無しのほうが向いてるかもな」
たろう「僕はこういう打ち方けっこう好きですけどね」
○期待の大型新人?
五十嵐「この秋山昌士ってのは…新人か?」
たろう「ええ。この夏に入ったばかりですね」
吉倉「後期のC3リーグでいきなり首位だったみたいですよ」
五十嵐「ふ〜ん。じゃあ相当見所あるかもしれんな」
たろう「押し引きがハッキリしている上に、手牌を横に伸ばすタイプですね。これは1回戦南1局の1巡目。
ツモ ドラ」
吉倉「いい配牌。うらやましいな〜」
五十嵐「ほんとだよ。この1年、こんな配牌もらったことないよ」
たろう「…雀頭ない形なので、を切る人も多いとおもいますけど、秋山くんはを切ってますね」
吉倉「私は切っちゃいそうだな」
五十嵐「俺は…切るならだな。まさかの678もあるし」
たろう「秋山くんの場合、とにかく愚形よりは連続形を大事にする打ち手みたいなので、結構3メンチャンのリーチが多いですよ」
吉倉「ほんとだ。いいな〜」
五十嵐「残念なのはちょっとパンチ力不足かな。一発裏ドラ無しルールで手役を追わないのはちょっとひ弱さを感じるけどな」
たろう「でも最初に点数を持たせると厄介なタイプだと思いますよ」
○現役タイトルホルダーの意地
五十嵐「ほぅ、吉田基成も決勝残ってるのか」
吉倉「現雀竜位で、しかも最強戦のプロ選抜戦も勝ってますよね」
たろう「相当しっかりした打ち手だと思いますよ。これは…1回戦のオーラスですね。点数状況が
赤坂:31100
土子:29500
秋山:37500
吉田:21900
で7巡目に吉田くんにテンパイ入りますね。
ツモ ドラ」
吉倉「すごいいいところ引きましたね」
五十嵐「タンピン三色ドラ1…ヤミでもリーチでもツモればハネ満で2着。
出アガリでもヤミで満貫なら…土子からなら3着、赤坂・秋山からなら2着」
吉倉「でもリーチなら確定ハネ満で、するとどっから出ても2着以上確定ですよ」
五十嵐「まあリーチなら出ないだろうからヤミテンだな」
たろう「だけど吉田くんは、ノータイムで切りリーチをかけたみたいですね」
五十嵐「ほぅ。空振って親ノーテンで流局ってのが一番痛いけどな」
たろう「結果は…げんきくんの通らばリーチの宣言牌がですね」
五十嵐「げんきはラス親か…オリてりゃ2着だったんじゃないの?」
吉倉「でも吉田さんに満貫ツモられたら親カブリでラスに落ちちゃいますからね」
たろう「まだ1回戦ですからね。先手は取りたいところだと思いますよ」
○突き放す者たちと追う者たち
五十嵐「ということは1回戦トップは秋山、吉田が2着か」
たろう「2回戦は…トップ吉田、2着秋山ですね」
五十嵐「この2人が調子良かったのか」
たろう「ですね。負けてるげんき・土子は、3回戦ではこの2人より上に行く打ち方をしないといけないですね」
五十嵐「だよな。それで条件戦のプロフェッショナルから見た彼らの打ち方は?」
たろう「土子くんは…まだ普段通り打ちすぎてますね。これは3回戦東2局、親番の11巡目で
ツモ ドラ」
吉倉「あ〜あ、123の三色にならないほう引いちゃった」
たろう「ちなみにこの時の場の捨て牌は
南家・赤坂
西家・秋山
北家・吉田
で、土子くんはを切ってテンパイを取ったんですけど…」
五十嵐「ターゲットの吉田が北家で、しかも変則的な捨て牌だな。
一発裏ドラ無しルールの上点数も必要だから、親番でもツモ切るべきなんだけどなぁ」
吉倉「このは誰か鳴いたんですか?」
たろう「五十嵐さんの予想通り、吉田くんがポンしてますね」
五十嵐「ほらな。で、この局の結果は? 吉田のアガリか?」
たろう「17巡目に土子くんがそのままの形でツモ。500オールですね」
五十嵐「ポンされてからずっと仮テン維持か」
たろう「普通なら仮テンで危険牌掴んだらオリですけど、トータルポイント考えるとカンでリーチに行くべきなんですけどね」
吉倉「へぇ〜、私はリーチ無理だな〜」
たろう「どっちみち不利な状況なんだから、少しでも状況を有利にするにはリーチかけて出アガリできるようにしておかないと。
フリこんでもツモられてもそんなに大差ないしね」
五十嵐「う〜ん、俺はそれ以前に三色狙いかタンキの手順だからな」
たろう「ただ、結局次局に吉田くんが満貫ツモってますね」
五十嵐「よく手の入るヤツだな〜」
たろう「その頭1つ抜けた吉田くんを追うべく、東3局親番のげんきくんが7巡目に
ドラ
でヤミテンしてますね」
吉倉「へぇ〜リーチしないんですね」
五十嵐「一手替わり234の三色だけど、これはリーチでいいと思うけどな」
たろう「多分が出た場合、吉田くんからだけアガるつもりだったんでしょうね」
五十嵐「なるほどな。2900の直撃でも効果はあるからな」
たろう「結果はをツモって2600オールですけど、こういう普段と違うことをやるのが条件戦の面白いところですよね」
吉倉「そこまで考えて打たなきゃならないんだ。難しいなぁ」
たろう「そんなこんなでこの半荘はげんきくんが44800点のトップですね」
五十嵐「でも吉田も40600点の2着か。そんなに差は縮まってないな」
たろう「でも上の着順取っただけでも大きいですよ」
○そして4回戦で…
吉倉「なんか吉田さんってアガリ点が高い気がするんですけど…」
五十嵐「…3半荘で6回アガってるけど…最低アガリ点が6400、あとは全部7700や満貫、ハネ満か。たしかにすごいな」
たろう「一発裏ドラ無しルールだと、手役やドラが重要ですからね」
吉倉「そうかぁ。私、すぐ手役とかドラとか捨てちゃうからな」
五十嵐「でも4回戦で、吉田が2000点のアガリをしてるぞ。
チー チー ロン ドラ」
たろう「これは…先にげんきくんが7巡目にテンパイ入れてるんですね。
チー ポン」
五十嵐「ダブ東のみだけど3本場と供託リーチ棒が1本か。アガれば大きいな」
たろう「結果は秋山くんがを切って吉田くんに放銃してますね」
五十嵐「う〜ん、ポンカスの持ってるのに、わざわざ2人に無スジの切ることないのにな」
たろう「ギリギリ間に合うと思ったんじゃないですか?」
五十嵐「それで次局以降は…何だこりゃ、65900点のトップ!?」
吉倉「すご〜い、一発裏ドラ無いんでしょ?」
たろう「東場南場両方で、ヤミテンの親満をアガってますね」
五十嵐「そして子では安手で人の親を流すか。完璧なゲーム回しだな」
たろう「事実上4回戦で決着がつきましたね」
○吉田の勝因は?
五十嵐「それにしても強いな。雀竜位獲って、最強戦プロ選抜戦勝って、それで今回のオータムカップだろ」
たろう「たしかに勢いはありますね」
五十嵐「だな。やっぱり1回戦のオーラスだ。あの状況でリーチをかけられるヤツは少ないよ」
たろう「まあ僕も多分ヤミテンにしてますからね」
五十嵐「それが普通だよ。でもあそこでリーチをかけてアガり切るくらいじゃないと、タイトルは取れないってことだな」
吉倉「私はリーチする〜」
たろう「僕もアガれるとわかってたらリーチしますよ」
五十嵐「(だんだんコイツら酔っ払ってきたな…)ん〜そろそろ帰るか」
たろう「そうですね。ほら、吉倉さん。五十嵐さんに言うことは?」
吉倉「ごちそうさまで〜す」
たろう「御馳走様で〜す」
五十嵐「わかったわかった」
たろう「あ、ところで五十嵐さん。この牌譜渡しておくんで、明日までに観戦記お願いしますね」
五十嵐「わかったわかっ…ってオイ! なんで俺が!? しかも明日までって?」
たろう「いやあ、観戦記引き受けるって条件でこの牌譜もらってきたんですけど、よく考えたら明日仕事だから無理なんですよ」
五十嵐「だからって何で俺が?」
たろう「だって最初電話したときに『わかったわかった』って言ってたじゃないですか。あの時僕は『観戦記お願いできませんか?』って言ったんですよ。まさか聞いてなかったんですか?」
五十嵐「う…たしかにそんなこと言ってたかも…」
たろう「でしょう? というわけでお願いしますね。じゃあ吉倉さん、帰ろうか」
吉倉「はい。五十嵐さん、お疲れ様でした〜」
五十嵐「ハァ〜。…俺も明日忙しいからな…。こういう時は…」
ピッ、ポッ、パッ
プルルルル〜♪ プルルルル〜♪
五十嵐「もしもし五十嵐です。ケネスか? ちょっと話があるんだがとりあえず飲みに来ないか…」
注:この観戦記は『第3回オータムチャレンジカップ』決勝戦を題材としたフィクションです。
文:ケネス徳田
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