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順位
選手名
TOTAL
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
1
鈴木 たろう
97.2
14.4
-16.3
25.2
36.8
37.1
2
綱川 隆晃
-9.5
4.0
0.4
8.9
-12.8
-10.0
3
鍛冶田 良一
-38.0
27.8
-16.3
-30.4
-28.9
9.8
4
矢島 亨
-49.7
-46.2
32.2
-3.7
4.9
-36.9

≪決勝観戦記≫

綱川は激怒していた。

去年のオータムチャレンジカップ(※本年度より名称をオータムチャンピオンシップへ変更)で圧倒的な強さを見せつけ優勝。
その結果は勿論、内容に関しても賞賛を送るに相応しいものだった。
しかし、人の記憶とは残酷なものである。

 ロン ドラ
「ダブリー・メンホン・チャンタ・役牌」
綱川の勝利への軌跡が、たった一つのこの強烈な牌姿に集約されてしまったのである。

この手が入らなくとも95%以上は綱川の優勝であっただろう。
それが99.9%になっただけなのだが、事実この現象によって綱川の麻雀を正当な評価から遠ざけてしまった。

しかし、チャンスは望むべくタイミングで、そして望外の相手を引き連れてやってきた。

◆矢島 亨
2年連続の決勝進出。
昨年は4位と辛酸を嘗めたが、今年の矢島は一味も二味も違う。
Aリーグ所属は昨年と同様だが、昨年の決勝のすぐ後にオータムCSと同じく一発裏なしのタイトル戦『第40期王位戦』の決勝にも進出。
こちらは惜しくも2位という結果に終わったが、今年は待望の初タイトル『第13回日本オープン』を獲得。
戦術本も出し今「ノっている」プロの代表格であろう。
これで勝てる麻雀攻めの常識100 (マイナビ麻雀BOOKS)

◆鍛冶田 良一
同じく2年連続、そして4回目の決勝進出は勿論最多回数。
今期は雀王決定戦の進出も決めておりこちらも2年連続。
実績は言うまでもなく、勢いという意味でも矢島に負けていない。
本人が一番気にしていることは、放送対局という独特の緊張感を放つこの場において普段よりも体力の消費が大きくなるところ。
「5回戦はキツイよ〜」という言葉に、残念ながら嘘偽りはなさそうだ。

◆鈴木 たろう
協会が誇る『ラスボス』の一体。
雀王3連覇中、獲得タイトル多数。
実績でたろうの右に出るものはまずいない。
本年度はディフェンディングの雀王決定戦の他に『最高位戦クラシック』に3年連続の決勝進出、TwinCupにも決勝進出を決めており、最早勢いという言葉を使うのがおこがましいか。
「勝たなきゃ意味がない。」
対局前のインタビューでそう言い切ったたろうは、誰よりもそれを実践してきた。
記載するスペースのない「主な獲得タイトル」の欄を更新することになるのであろうか。

連覇を狙う綱川にとって、これ以上ない舞台が整った。

 

★1回戦★(綱川→矢島→鍛冶田→たろう)

親の綱川が2900を矢島からアガり幸先よく連荘。
しかし、次に迎えたのはラスボスのターンであった。

たろう(北家)
 ロン ドラ

これに捕まったのが綱川。
テンパイ後すぐに出た安目のは当然の見逃し、2人の安牌候補として取っておいたを安牌と入れ替える形で放銃。
もっとも、ツモ切っていてもすでに間に合っていなかったので回避は困難である。
ラスボスとはいえ1ターンに2回攻撃も強力な魔法も使ってこない。
しかし、相手の防御力を無視したダメージを与えてくる『痛恨の一撃』を使用してくる相手だった。

東2局
矢島27100 鍛冶田30000 たろう42300 綱川20600

いきなり大きな痛手を負った綱川だが、反撃のチャンスは早々に訪れた。

綱川(北家)
 ツモ ドラ
これが4巡目、すでにイーシャンテンになっていたところにドラを引き一気に打点が見えた。
一発裏アリの協会ルールであれば素直に切りとするのが好手となりそうだが、このルールでこの手材料ならば2600になるかも知れない手順は踏みたくない。
としドラドラを固定、周りを引けばタンヤオ三色まで付けることも可能だ。
すると次巡すぐにを引きテンパイ。
先にテンパイした場合は素直にシャンポン待ちでリーチ。
でテンパイを外し最高系を目指す打ち方は一部のファンタジスタに任せておけば良い。
すぐにをツモリ2000・4000、先ほど負ったダメージをほぼ回復。

東3局
鍛冶田28000 たろう40300 綱川28600 矢島23100 

たろうの仕掛けから局面が動く。

たろう(南家)
 ドラ

ここからを仕掛けるとと引き6巡目にして8000のテンパイ

たろう(南家)
 ツモ ポン ドラ

後の変化を見て打のカンに受ける。
その直後、綱川の手もタンピンドラ1のイーシャンテンとなる。

綱川(西家)
 ツモ ドラ
詰んでいた。
たろうがマンズのホンイツに向かっているのは一目瞭然なので、攻めを意識するならばここで後に危険になりそうなを切っておきたいところ。
しかし綱川はドラのの重なりもみて打としピンズの三面張を固定。
その強欲さが延命を呼び込み、綱川の綱渡りは継続された。
しかし今回手が入っているのはこの二人だけではない。
親の鍛冶田も同巡テンパイ。

鍛冶田(東家)
 ツモ ドラ
待ちも打点も不満はない。
当然のリーチと打って出る。
無スジのを掴まされた綱川だが、これをツモ切りで綱渡り続行。
そしてこのをチーした矢島が4人目の参加者として名乗りを上げる。

矢島(北家)
 チー ポン ドラ

今後の展開を占うことになりそうなこの戦いを制したのは鍛冶田。
2000オールの収入もさる事ながら、何より3者の勝負手を潰しきったのが大きい。

東3局1本場
鍛冶田34000 たろう38300 綱川26600 矢島21100 

しかし鍛冶田ですら簡単には致命傷を与えられないのがたろうという男。
2000・4000をツモりすぐさま点差を引き離す。

南2局
矢島17200 鍛冶田24200 たろう44900 綱川33700

ここまで今一つ参加出来ていない感のある矢島。
それもそのはず、この南2局まで一度も点棒の収入がない。
現状を打破するべくこの親で先制リーチを敢行。

矢島(東家)
 ドラ
リーチのみだが必然のリーチ。
事実これによってイーシャンだったたろうの手が止まる。

はずだった。

たろう(西家)
 ツモ ドラ

現物はのみだがスジを頼ればひとまずなんとか乗り切れそうな手牌。
しかしたろうの選択はイーシャンテンを維持するのツモ切り。
ツモで今通った切り、ツモで自分で通した切り、当たり牌でもあるツモでチートイツに決める
そしてツモで立派なチートイツ・ドラ2のテンパイに行き着いた。

たろう(西家)
 ドラ

こうなってしまえば進撃のオータムプッシュが見られるかに思えたが、すぐに矢島の切ったを捉えまたの機会に持ち越し。

たろうの半荘になると思えたこのアガリであったが、鍛冶田も迎えた親番で2600オールをアガり射程圏内へ入る。

南3局1本場
鍛冶田32000 たろう51300 綱川31100 矢島5600

「麻雀は対人ゲームなんだから、相手の嫌がることをやればいいんだよ」
たろうが常々口にする言葉だ。勝手読みし自滅してくれるのが一番、相手の出方がわかるだけでも十分効果を発揮するたろうの仕掛け。
さらに言えば、一発や裏ドラなどの不確定要素が少なくなるこのようなルールの方がその効果は増す。
一回戦、ここまで大人しくしていた黒いたろうが顔を覗かせる。

たろう(南家)
 ドラ
この形から鍛冶田の切ったをチー、そして打とした。
たろうの捨て牌は、となっており、役牌もとドラのしか残っていない。
『ドラ持ってる早い手だから、じっくり手を作ってる暇はないよ〜』
牌で言葉を交わすというのは、まさにこんな光景なのではないか?
そこにはたろうの思考が色濃く映し出されていた。

しかし、そんな会話も長くは続かなかった。

鍛冶田(東家)
 ツモ ドラ

たろうの鳴いたは、上記の手牌から切り出されたものだった。
さらにこの鳴きでを引き込むとドラ切りリーチと真っ向勝負。
他家が安牌に困る間もなく、すぐに鍛冶田の3900は4000オールのアガリとなった。

鍛冶田(東家)
 リーチツモ ドラ

鍛冶田の麻雀を一言で表すならば『王道』という言葉がしっくりくる。
とにかく腰の重い打ち手で、分の悪い勝負は好まず門前でのリーチを好む。
そんな鍛冶田のリーチは、打点は勿論アガリ率も非常に高い。一発裏なしの方が打点が高いと言わせるのは、おそらく鍛冶田くらいだろう。
決勝メンツの他3人が手数の多いタイプなだけに、余計に鍛冶田の手組は目立つ格好になっている。

そんな王道対邪道の対決はひとまず鍛冶田に軍配が上がった。
綱川もオーラスに2000・4000をツモり、着順こそ変わらず3着のままだったが素点で大きくプラスすることができた。

【1回戦スコア】
鍛冶田+27.8 たろう+14.4 綱川+4.0 矢島▲46.2

 

★2回戦★(綱川→鍛冶田→矢島→たろう)

1回戦でノーホーラの一人沈みとなった矢島。
早くも黄色信号が灯ったようにも見えるが、日本オープンを獲った時はなんと2ラススタートであった。
それに比べたらまだまだ射程圏内であることは間違いない。
とはいえここで大きく沈むようなことがあれば、そのポイント差は赤信号となって目の前に現れることになる。

その2回戦、東1局から鍛冶田と手がぶつかることになったが、ここは矢島が鍛冶田から打ち取る。
さらに鍛冶田の親で綱川の2000・3900のアガリ。
意図せず鍛冶田包囲網が敷かれた形になった。

南1局
綱川43100 鍛冶田23500 矢島29600 たろう23800

ここまでうまく鍛冶田とたろうを押さえ込み、綱川・矢島としては申し分ない並びになっている。
しかしそう簡単にいかないのが鍛冶田であり、決勝であり、麻雀なのである。
ドラドラの手を難なく仕上げ2000・4000のアガリ。
その手はやはり高く、やはり仕上げてくる。

鍛冶田(南家)
 ツモ ドラ

道中、の形にツモで悩むのが実に鍛冶田らしい。
とにもかくにもこのアガリで鍛冶田が2着目に。
トップ目だった綱川も親っかぶりで点棒を削られ、所謂まずい展開になった。

南2局
鍛冶田31800 矢島27500 たろう21700 綱川39000

これ以上鍛冶田に加点させるのは好ましくない。
そんな思惑を他所に打点を作りに行く。

鍛冶田(東家)
 ドラ
この配牌からを重ね、それを鳴くと一気にマンズのホンイツへ向かう。
対するたろうも実に趣深い手組で進行する。

たろう(西家)
 ツモ ドラ
ここからターツを断絶させる
この手でカンを引いても打点に不満が残るだけ。
ならば字牌の重なりやチャンタをメインに見た打点重視の構え。
ツモで打とした後、ツモで打と完全に高みを伺う手筋。

【価値のないテンパイを嫌い、押し返す意味のある手組を目指す】

奇抜な仕掛けのイメージばかりが先行しているたろうだが、この打ち方こそ競技麻雀で勝ちきれない選手たちに最も参考にして欲しいところである。
その意志が結果に現れるかは時の運かも知れない。
だが、意志があればこそ行き着く最終形があることも確かなのだ。

たろう(西家)
 ツモ ドラ

綱川も打点充分のテンパイを入れる。
綱川(北家)
 ポン ドラ

そんな中、鍛冶田が13巡目にして長考に入った。

鍛冶田(東家)
 ツモ ポン ドラ
綱川の仕掛けもあり難しい局面であることは間違いない。
しかしここでの長考はテンパイしていないことが明白になってしまうので、大分傷になってしまう。
この長考から打としたものの、たろうにドラ表示牌のを通されてしまっている。

実は鍛冶田の長考の同巡、綱川も上記の形にドラのを引かされ長考している。
綱川の場合は鍛冶田がノーテンだと思っていても上家なのでマンズは相当切りづらい。
結果を抜いて回るのだが、ここもある程度決めておいて欲しかったところではある。

結局誰も復活することは出来ず、たろうの大きな一人テンパイとなった。

南3局1本場
矢島26500 たろう24700 綱川38000 鍛冶田30800 

ここまで元気のなかった矢島が2局連続でリーチ対決を制する。
まずは鍛冶田から5800は6100を、2本場では綱川から12000は12600をそれぞれリーチ棒付きでのアガリ。
一気に息を吹き返した。

南4局
たろう27600 綱川21500 鍛冶田23700 矢島47200

ほんの数局前までは悠々自適のトップ目にいた綱川であったが、オーラスを迎えてまさかのラス目に転落していた。
最低でも鍛冶田を捲って3回戦を迎えたい綱川の仕掛けが面白い。

綱川(南家)
 ドラ
ここからたろうの切ったに声をかける。
純チャン・三色かチャンタ・ダブ南などを睨んだ仕掛け。
かなり遠く思えるものの、完成すれば条件を満たすことは間違いない。
そしてこの手が最高の形で仕上がることになる。

綱川(南家)
 ロン ポン チー チー ドラ
これをたろうからの直撃でなんと2着に浮上。
鍛冶田を捲れれば上出来であった綱川にとっては僥倖とも言える結果だろう。

一方のたろうは若干前のめりになり過ぎた感が否めない。
を切った時には当然テンパイであったのだが、綱川が打点を作る上で残されているものがダブ南とドラののほぼ二択になっていた。
仮にこのを切ったところまでは、たろうの厚かましさの許容範囲内であるとしても綱川の最終手出しがなのでテンパイは明白。
降りても綱川はまず間違いなくテンパイを維持し続けるので、仮に鍛冶田が追いついたとしても流局は2着を維持できる。
鍛冶田が2着になるアガリを決めることが最悪のシナリオであることは間違いないが、この放銃で鍛冶田と同点のラスになったこともバッドエンドの1つ。
たまに見せる、危ういたろうの一面を覗かせた一局であった。

【2回戦スコア】
矢島+32.2 綱川+0.4 鍛冶田▲16.3 たろう▲16.3

【2回戦終了時トータル】
鍛冶田+11.5
綱川 +4.4
たろう▲1.9
矢島 ▲14.0

 

★3回戦★(鍛冶田→たろう→綱川→矢島)

何はともあれ視聴者としては理想的な並びとなった。
そしてこの3回戦も激しい乱打戦で幕を開ける。

たろうが鍛冶田からメンホンをアガれば、鍛冶田がたろうからすぐにリーチ三色をアガリ5200を取り返す。
綱川・矢島も細かいアガリで食い下がる。
東ラスを迎えた時点で結局大きな点差なく迎えていた。

東4局
矢島29800 鍛冶田27800 たろう31200 綱川31200

先程も述べたように、意志のある手順が必ず実るなんてことはない。
むしろ実ることのほうが少なく、成功した時のイメージを強く持ち続けてしまうがゆえ闇雲に手役を深追いすることも少なくないだろう。
鍛冶田のこの局の手順もまさにそう思えた。

鍛冶田(南家)
 ツモ ドラ
ここから唯一のリャンメンターツであったを破壊していく。
それが7巡目には贅沢な二択を迫られる手牌になっているのだから麻雀とは不思議なものである。

鍛冶田(南家)
 ツモ ドラ
ここで三色に照準を定める打を選ぶと、同巡綱川からリーチが入る。

綱川(北家)
 ドラ
が間に合っている鍛冶田、さらにツモで待望のテンパイを入れる。
この手順を踏める者が何人いるだろうか?
闇雲などではなく、己を信じそれを正着にする自力である。
鍛冶田はこの後さらに持ってきたドラをスライド、次に通っていないを持ってくると現物のと振り替えリーチと打って出る。

鍛冶田(南家)
 ドラ
実にバランスの取れた好手に思えたが、簡単に一騎打ちにならないのが今日のメンツ、もといいつもの鈴木たろうである。
早々に仕掛けていたたろうが、綱川のリーチと鍛冶田の追撃に押し切り鍛冶田から3200のアガリ。

この後のたろうは繊細な一面を前面に押し出し、セーフティーリードを保ったままオーラスへ。

南4局
矢島26800 鍛冶田17700 たろう43300 綱川32200

たろう、綱川としてはこのまま終わらせたい局面。
その思惑が一致しているが明らかであるからこそ出来ることがある。

綱川(北家)
 ドラ
門前での進行が厳しいとみるや、ここからをチー。
この仕掛けをするからには、当然上家にはたろうが座っている。
も鳴かせてもらえると自力でを引きテンパイ。

綱川(北家)
 チー チー ドラ
後はマンズのホンイツ仕掛けの矢島も含め3人で残る2枚のをツモるゲーム。
しかしこのが中々どうして掘り起こせない。
唯一使える鍛冶田に吸収され残り1枚になったところで、ついに親の矢島に追いつかれてしまう。

矢島(東家)
 ポン チー ドラ
さらに綱川がドラのを掴まされ当然の迂回。
と同巡に矢島からツモ切られる
麻雀とは本当に面白い牌の巡りになっているものだと思わざるを得ない。
もっとも当の本人は1ミリも面白くは思っていないだろうが。

一人テンパイでオーラスを続行させた矢島が続く1本場で2000は2100オールで一気にたろうまで近づく。

南4局2本場
矢島37100 鍛冶田14600 たろう40200 綱川28100

矢島の手が良い。

矢島(東家)
 ドラ
これが2巡目だ。
これが決まれば1回戦の大きな負債を早くも返済し一気に暫定首位まで躍り出れる。
日本オープンの再現かと自他ともに思い始めたのも束の間、上には上がいることを思い知らされる。

綱川(北家)
 ツモ ドラ
これも2巡目だ。
タンキに受けてたろうと矢島どちらから出ても2着になれる選択もあったが、ここはツモでもOKなので枚数重視に受ける切りリーチ。
矢島からしてみればこの巡目でそんな都合よく手が入っているとも考えづらく、そもそも自身の手が十分な形を保っている。
しかしこのリーチによって、通常の進行さえ出来ていれば打たなかったかも知れない牌で放銃することになる。

矢島(東家)
 ツモ ドラ
リーチがなければ、のくっつきにそれほど魅力もないので、三色の目を残す打とするだろう。
しかし綱川のリーチを交わすことが最優先となってしまったことと、単純に当たるパターンを考慮しここで打とせざるを得なかった。
矢島の光り輝く未来が一瞬にして灰色に染まった瞬間であった。

その矢島とは対照的に、綱川は3戦連続でオーラスにポイントを大きく上乗せ出来ている。
単純計算で47.7ポイントをオーラスだけでプラスしている。
当然道中の不幸な展開もあるのだが、それを差し引いても気分の良さはトータルトップ目になったたろう以上であるだろう。

【3回戦スコア】
たろう+25.2 綱川+8.9 矢島▲3.7 鍛冶田▲30.4

【3回戦終了時トータル】
たろう+23.3
綱川 +13.3
矢島 ▲17.7
鍛冶田▲18.9

 

★4回戦★(矢島→たろう→綱川→鍛冶田)

残すは後2回。
たろう・綱川はほぼほぼ最終戦を条件の残るポイントで迎えられそうだが、矢島と鍛冶田はここでのマイナスは許されない。
さらに言えばたろうより下の着順を取ることも事実上の降伏宣言になりかねない。
大事な一戦の始まりは鍛冶田から綱川への5200で、早速たろう追撃の狼煙を上げる。

東2局
たろう30000 綱川35200 鍛冶田24800 矢島30000

3者の思惑は当然この親を早急に流すこと。
贅沢を言えば親かぶりで点棒を減らすことだがそこは捕らぬ狸の皮算用。
しかしその3者の手が重い。
一方親のたろうは1巡1巡進化を遂げていた。

たろう(東家)
 ドラ
この配牌が8巡目にはこの形に。

たろう(東家)
 ツモ ドラ
が自分の目から4枚見えているため、一旦に受けダマにする。
しかし12巡目にを引くと、絶好に見える待ちでリーチ。
メンホンのイーシャンテンになっていた綱川が一矢報いようと攻め返すも、17巡目のたろうツモ牌はまたもであった。

たろう(東家)
 リーチツモ ドラ
決して難しい手とは言えなかったが、最初のテンパイの時点でに受けていると、すぐに出る鍛冶田ので5800と言っていた可能性が大きい。
その結果、山にいそうな待ちに変わると勝負を決めんとするリーチを放つ。
天運と自力のコラボレーションがたろうの点箱を潤した。

しかし簡単には顔を上げる者はいなかった。
1本場は矢島が2000・4000は2100・4100のアガリでたろうの点棒を削る。
東3局の綱川の親番では、たろうのチャンス手を潰すとともに2400と少ないながらも直撃を成功させる。
さらにしばらく参加出来ていなかった鍛冶田も1000・2000で戦いに参戦を果たす。

『全員でたろうを苦しめる』
去年の雀王決定戦でも、このような光景がよく見られた記憶がある。
そして、その記憶ではこのような状況から絶妙なタイミングで心を折るアガリを決めていた。

東4局
鍛冶田21000 矢島31200 たろう40400 綱川27400

結果から言ってしまうと、この局でたろうが鍛冶田から6400をアガる。

たろう(西家)
 ロン ドラ
一見なんてことのないチートイツに見えるが、切り順や残す牌に流石と言わざるを得ない。

たろう(西家)
 ツモ ドラ
3巡目でメンツ手としての魅力が乏しいと考えチートイツに絞る。
ここでは捨て牌の強さを意識して単独のを残しペンチャン落としから入る。
1巡ごとに変化する状況を捉え、最速でのテンパイを果たす。
そしてフィニッシュを残し続けたで決める・・・打つ者と観る者に深い溜息をつかせる濃厚なアガリとなった。

このアガリでも十分決め手となったはずだが、ここからさらに2局連続でアガリを重ねさらに磐石に。

南3局
綱川26300 鍛冶田8700 矢島28600 たろう56400

誰が見ても綱川にとって今日一番の大事な局面である。
ここで親が流され3着以下で4回戦を終えるようなら、優勝は遥か高見の目標になってしまう。
しかしその配牌は決して良いとは言えるものではなく、それは5巡目になってもさほど成長は見れない。

綱川(東家)
 ドラ
その運命に抗うべく、ここからをチーし打、ホンイツへ向かい打点を作りに行く。
だが上家は天敵たろう、綱川を抑えることに対して自己犠牲を厭わない唯一の存在である。
このチーを見て、ターツ落としの最中でが浮いていたたろうだが当然打たれることは無かった。
何一つ鳴くことが出来なかった綱川であったが、自力でイーシャンテンまでたどり着いた。
それも束の間、もう一人の天敵矢島からリーチが入る。
そして綱川の手も難解なパズルと化していた。

綱川(東家)
 ツモ チー ドラ

矢島の河のは手出しとなっており、メンツ手と見るならば単純により優秀なターツが残っていると考えるのが妥当。
当然宣言牌のそばも切りづらい牌である。
ここで本日一の長考に入る。
この一打からの手順が今日の明暗を分けるであろう綱川、当然の熟考。

13巡目、残り最短2局+1回戦のビハインドを背負っている決勝戦。
一体何を選ぶのが正解なのだろうか?
1つだけ確かなことは、ここで綱川が選んだ牌がだったということ。
そしてそれが唯一親番を継続させる選択肢だったということだ。

この巡目でリャンシャンテンに戻すことは相当勇気がいることだろう。
追う立場でこんな弱気でいいのか?
負けているかといってをただ並べることが勇敢と称されるのか?
しかし綱川はすべての情報と条件を加味してこのを選び抜いた。
そしてそれは明確な正着となって体現された。

『やはりたろう追撃の1番手は綱川か』
そう思わせるに相応しい1局を作り出した綱川だったが、ここでも希望を打ち砕いたのはたろう。
綱川にとって大事な大事な親番を流される。
オーラス、矢島とリーチ合戦になるもたろうが綱川の現物を抜き矢島へ2着をプレゼント。
死力を尽くしても尚遠い漢の背中がそこにあった。

【4回戦スコア】
たろう+36.8 矢島+4.9 綱川▲12.8 鍛冶田▲28.9

【4回戦終了時トータル】
たろう+60.1
綱川 +0.5
矢島 ▲12.8
鍛冶田▲47.8

 

★5回戦★(矢島→鍛冶田→綱川→たろう)

たろうと綱川の差は59.6ポイント。
同ポイントで終了した場合、オータムCSの規定は先行有利のため、優勝するためにはトップラスで29700点差をつけなければならない。
現実的な数字の差ではあるものの、厳しい条件なのは間違いない。
矢島・鍛冶田はさらに加点が必要になる。
ましてや天下の鈴木たろうを追うということ自体が至難の業であることは想像に難くない。

と前置きはしたものの、結果はこのままたろうがさらに下との差を引き離し完全勝利となる。

各半荘ごとに勝負を決めるアガリというものが存在する。
さらにこのような短期勝負の決勝であれば、優勝を決めるアガリというものもまた存在する。
去年の綱川で言えば、冒頭のアガリではなく3回戦東3局4本場でトータル2位だった矢島から直撃した7700であろう。

そしてそれをこの決勝で挙げるとすれば、間違いなく東4局のたろうのアガリである。

東4局
たろう28300 矢島21100 鍛冶田37600 綱川32000

たろう(東家)
 ドラ
この配牌にを重ねると、場に放たれたをポン。
すぐにも鳴け、たろうの河にと並んだこの瞬間に7700のテンパイが入った。

たろう(東家)
 ポン ポン ドラ
ここまではいつものたろうである。
そして他の3者も通常の進行で手進めていく。
矢島は2枚目のを仕掛けるとも鳴けたろうと同じくトイトイへ。

矢島(南家)
 ポン ポン ドラ
綱川も矢島のテンパイと同巡に大物手のテンパイ。

綱川(北家)
 ツモ ドラ
少しわかりづらいが、れっきとした待ちのチンイツテンパイだ。
現状の待ちこそ良くないものの、十分な手変わりと何よりたろうからの直撃を狙うチャンスでもある。
しかし綱川はここで長考に入る。
それは待ちに悩んでいるわけではなく、ドラのを切るかで悩んでいた。
そして綱川が悩み抜いた末、下した決断は切りだった。
このは鍛冶田が配牌からトイツで持っており、これを鳴ければ鍛冶田もやる気を見せれるところだったがそれも保留。

これでひとまずは矢島との一騎打ちと感じたであろうたろう、ツモってきたをアンカンし打点を9600へ上昇させる。
しかし終盤に入らんとするところで、最後のがたろうの元へ訪れた。

たろう(東家)
 ツモ 暗カン ポン ポン ドラ

解説の五十嵐もすかさず言葉を発する。
「これはもうさすがに待ち変えですね」

しかしたろうは考えていた。
考えているフリではない、この局面でを切る理由を見出そうとしているのだ。

そしてその間は、たろうの一打を予測するには十分な時間だった・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――

表彰式のインタビューでたろうは五十嵐にこう問いかけた。
「あの切っていいんですか?(笑)」
それに対し、五十嵐はこう即答した。

「あなたが切るのはいいんです!」
そう、たろうはこのを選択し続け結果を残してきたのである。

人知を超えた『厚かましさ』と『繊細さ』から繰り出されるその選択を、人はこう称えるのである。
―――ゼウスの選択、と。

とあるカリスマブロガーのK氏は、かつて自分がタイトルを獲得したときにこんな言葉を記していた。
『タイトル戦は「勝者」を決めるけれども「強者」を決めるわけではない』
麻雀荘メンバー語録 version2.0より抜粋
奇しくもその決勝にはたろうも残っており、そのたろうに競り勝ったのがこのK氏である。

実にらしい考え方であり、麻雀の本質を捉えている言葉だと思う。
それでもこの決勝を見たものは口を揃えてこう言うだろう。
「鈴木たろうは強かった」

第10回オータムチャンピオンシップ、それは紛れもなく『強者』を決めたタイトル戦であった。

(文・橘 哲也)

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