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第7回日本オープン

順位
氏名
所属
合計
1回戦
2回戦
3回戦
4回戦
5回戦
1
矢島 亨 協会
110.7
-40.4
-45.1
57.3
73.7
65.2
2
浅見 真紀 最高位戦
92.6
-17.4
63.2
4.7
23.8
18.3
3
石井 一馬 最高位戦
-87.7
6.6
3.7
-19.5
-25.2
-53.3
4
近藤 千雄 協会
-115.6
51.2
-21.8
-42.5
-72.3
-30.2

≪決勝観戦記≫

「攻撃型」「守備型」「門前派」「副露派」「手役派」「速攻派」「デジタル」「アナログ」「オカルト」etc・・・
麻雀の打ち筋を分類するのに様々な表現方法がある。あるひとつの分岐点があったとしよう。
そこで選択したルートにもその後無数の分岐があって、それをすべて合わせると膨大な選択肢の数となり、
同じタイプの打ち筋だとしても何一つ同じ打ち方になるということは考えにくい。

「極めれば正着は一つ」とはいうが、この無数の選択肢から正解が1つしかないなんて筆者には到底そのようには思うことができない。
最初の分岐でこのルートを選んだら次はこっち、違うルートを選んだら次はあっち。
それを繰り返して「正着打」という同じゴールにたどり着く事だってあると思う。

となると打ち筋の差が問題なのではなく、考え方の本筋が「正着打」と大きくずれていない限り、問題となるのはそのルートを選択した後のこと。
自己の戦略に対する打牌精度であったり、実戦でパフォーマンスを発揮できる度胸が重要になってくると思う。

今回決勝の舞台に集いし4人は、今まで歩んできた道のりも、影響を受けてきた出来事も、麻雀を打つ環境ですら何一つ似通うものはない。
雀力形成における重要な過程は人それぞれ全く違うものだ。
4人が強くなって来た過程、成長に至るまでの経験に共感しながら、今回の観戦記を書き進めていきたいと思う。

★1回戦

東3局0本場、矢島リーチに対して11巡目親番近藤の選択。
 ドラ
2列目終盤ターツオーバーのイーシャンテン。現物は
イーシャンテン維持のため落とす候補が全て無筋とあらば、いくら親番とはいえここで現物を抜いたとしても全くおかしくはない。

近藤 千雄
日本プロ麻雀協会所属 12年目

日本プロ麻雀協会は所属数300名を超える大所帯。
その中でも近藤ほどリーチに押す人はもしかしたらいないかもしれない。

ネット麻雀天鳳をやりこんでいて、
そのIDにも「全局参加型雀士」「どんよく」と名付けるほどの自他共に認める屈指の「押し屋」である。

ベタオリ傾向が強い天鳳プレイヤーに対し、一石を投じた戦術ブログが一時期話題にもなっていたほどだ。

 

 

 

 

近藤はプッシュを選択。ここまでは押す人も多かろう。13巡目に持ってきた無スジの
11巡目にを押した人も巡目的に大半は戦線から離脱すると思うのだが、近藤は戦線に留まり続けるべく無スジのをプッシュ。

ツモ切りが続き16巡目の選択。

これは是非とも牌図をご覧になっていただきたい。ネックのは3枚見え、持ってきたも余剰牌のもド無スジだ。
がリーチの現物とはいえ、これだけ押している親に対して無スジである牌を上家の浅見がケアしないわけがない。

「フリー雀荘でもあそこまで押すのは2%くらいだろうな―――」
観戦していた五十嵐がそう呟く。

近藤はをツモ切ったのだ。確かに五十嵐のいう通りこれは尋常ではない。
98%の人はこの絵面だけを見ても条件反射的にオリを選択するのではないだろうか?
ましてこの大舞台、いやこの大舞台だからこその選択か―――

勝者はたった1人、その勝者を目指すべく最大の加点チャンスである親権に執拗にこだわる近藤の対タイトル戦決勝専用の戦略だ。
次巡まんまとを引きいれ、涼しい顔でをプッシュ。更に引いてきた無スジのをまるで安全牌かの如く河に置いた。

近藤「実力以上のものは出せないから、今の自分にできることをやるしかない」

試合前に近藤はそう言っていた。失点は誰だって怖い。でも出来たはずのことをやれずに敗れることはもっと怖い。
できないことをいきなりやろうとするとそこに無理が生じ、今までできていたことまでもが疎かになる可能性だってある。

まだ1回戦だから―――と、放銃したとしてもリスクは然程でもないと思うか、
まだ1回戦だから―――と、無理をする必要はないと思うか、その分岐点ということ。

「攻撃型」というタイプの人は前者の考え方だろう。しかし同じタイプだとしてもここまで押す人は中々いないのではないだろうか?
人によってバランスは全く違う、さしずめこれが「近藤流」といったところだ。
終局後、近藤が開けた牌姿に全員が目を丸くしたのは言うまでもない。
近藤の戦慄のテンパイ宣言、これは対局者全員に対して「我不退」をアピールする強烈な挨拶替わりだ。

東3局1本場は石井リーチでツモアガリ。
次局石井の親番も、
 ツモ ドラ
5巡目にこれをテンパイすると即リーチでツモアガリ。

更に続く東4局1本場。
 ツモ ドラ
4巡目石井の手番。ドラのくっつきと手役の天秤、ここはを切るかと思ったが―――

石井 一馬
最高位戦日本プロ麻雀協会Aリーグ所属 10年目

Aリーグ在籍は今期で5年目、2012年にプロ連盟主催のビックタイトル「麻雀マスターズ」を制覇している。

今年の2月に出版した著書に「麻雀偏差値70へのメソッド」があり、
近年になって頭角を現してきた打ち手の一人である。

村上「ハートが強く、常にベストパフォーマンスを発揮する能力はあると思います。
最高位戦の同年代では最強かな―――」

現最高位である村上は石井を評してこう語った。
同年代といえば最高戦には思い浮かぶだけでも活きの良い打ち手が大勢揃っている。

にもかかわらずその中でも「最強」と―――

その「最強」と称される男はここでを打った。

石井は高校時代、友人とのセットで大敗を喫し、友人を見返してやりたい一心でネット麻雀を打ち込み始めた。
麻雀の魅力に取り憑かれると、高校卒業後は麻雀店で勤務することを選び、今なお現役の雀荘メンバーである。
東風戦の店では年間6000〜7000G、今は東南戦の店で年間1000半荘強をこなしている。
まさに「麻雀=ライフワーク」の打ち手だ。生涯打荘数という点においては間違いなくこの対局者の中では抜きん出ている。
その石井が選択したの意味、それは長い年月をかけて石井が築き上げた勝ちパターン「石井流」の道程でもある。
 ツモ ドラ
7巡目全く躊躇わずにドラをリリース、3局連続となるリーチ攻勢だ。
これを近藤からで討ち取ると裏ドラも

僥倖の満貫ではあるが、そもそも麻雀の結果など偶然の産物であり、手変わり待ちの僥倖に期待するか、一発や裏ドラ、+αリーチの抑止力で他家を制限させ、失点を防ぐ僥倖に期待するか。後者を選び続けてきたのが「石井流」ということだ。
先手受け入れMAX+リーチ攻勢でトップ目に立つ石井。

しかし、この半荘の決定打は南2局1本場。
 ドラ
1人1万点台のラス目近藤のリーチ。ドラも手役も無いピンフだった。

 ポン ツモ ドラ
トップ目まで8600点差。もう親番の無い3着目矢島の15巡目の手番。
ドラの は矢島の目から全て見えており、はまだ2枚見え。
トップボーナスが大きいこのルールでは当然、というか必然の加カン。
新ドラは両者にとって全く関係のない牌だったのだが、
 ツモ ドラ 裏ドラ
このハネ満が決定打となり、近藤が1回戦を制する結果となった。

1回戦スコア
近藤 +51.2
石井 +6.6
浅見 ▲17.4
矢島 ▲40.4

 

★2回戦

東2局0本場 ドラ
南家・近藤の4巡目リーチ。

西家・浅見
 ツモ
浅見はここから3シャンテン戻しとなる無スジのを静かにおいた。

浅見 真紀
最高位戦日本プロ麻雀協会所属 6年目

千葉大学大学院を修了後、内定の出ていた就職先を蹴って最高位戦に入会。
彼女もまた麻雀の魅力に取り憑かれたひとりである。

卒業後は麻雀店勤務を選び、今もなお仕事の麻雀だけでも年間700〜800半荘はこなすという。

しかしながら浅見は、
「仕事の麻雀だけが練習の場では、競技麻雀を勝ちきることは難しいのではないだろうか?」
と常日頃から思っていた。

以来たまの休日も競技麻雀のセット、私設リーグや研究会等にも積極的に参加し、
団体を問わずプロの先輩方からずっとアドバイスを受け続けてきた。

浅見「下手くそ!と尊敬する先輩方に数年間ずっといわれてきたので、謙虚な心と学ぶ気持ちは常に忘れない様、勝ち負け関係なく何があっても反省点を見つける努力だけは欠かさずしてきたつもりです」

 

我以外皆我師の精神、試合前に浅見はこう言っていた。

吉田「麻雀は門前主体。リャンハン(リーチ+1役)を作ってのリーチ構成が的確です」

メイン勤務店のオーナーである吉田光太プロは浅見を評してこう語った。
なるほど、手牌構成のフォームがしっかりしていて選択に違和感がない。観戦していると吉田の評価がよくわかる。
おそらくは先輩方に相当揉まれてきたのだろう。何事も基礎は本当に大事だ。
しっかりとした土台なくして「○○流」とかいうひとつの考え方に傾倒するのは、強くなるための本筋からズレていると思う。
その浅見がまだ4巡目とはいえ現物2枚持ちの3シャンテンから押した。

「ドラは凶器」赤の無い競技麻雀においては特にそうだ。2枚以上組み込まれた手牌からこの早い巡目で簡単に諦めるわけにはいかない。
赤有りのフリー雀荘だけが練習の場では、ここまで腹を括ることはできなかったかもしれない。
とはいえまだまだ遠いのも事実、少しでも速度を上げるために仕掛けが利くタンヤオも見据えての一打といったところだろう。

 ツモ ドラ
7巡目、現物はと増えた。素直に行くならツモ切りか。だがは既に場に枯れている。浅見は捻って打とした。
ほう、これはタンヤオとアレの天秤か―――
8巡目以降は生牌のをツモると丁寧に現物を並べた。
巡目は大事な判断材料、ここで攻防一体の七対子に切り替えるのが「浅見流」の押し引きバランス。
これも人それぞれ全くタイミングが違う間合いだ。

 ツモ ドラ
13巡目にテンパイすると無スジを勝負、次巡場に1枚のを持ってくると、躊躇わず無スジのを横に置いた。

吉田「たまに小さめの龍を出せます。ツモの輝きは中々のもの。そして、牌に愛されています」

吉田の浅見評、このあたりから理解するのが難しい単語が並んだのだが、筆者なりに吉田の言葉はこう解釈した。
「小さめの龍」「ツモの輝き」「牌に愛されている」とはトライした結果の現れだ。何事もそれなくしては栄光も成功もありえない。

「誰々は太いから―――」というのは、トライすることができなかった者の負け惜しみに過ぎないと思う。
浅見は日々の練習の成果を発揮すべく、この局面でトライできたからこそツモが輝いているように見え、牌に愛されているように見えるのだと思う。最初からベタオリだと、せっかく引いてきた有効牌だったはずの牌も輝いて見えることはない。

「4000・8000―――」
一発ツモで裏が乗る。筆者にはこのチートイツは成就できない。これには素直に感服した。
浅見はこのリードを攻めすぎることもなく、守りすぎることもなく落ち着いて守りきった。浅見真紀「小さな龍」か―――

2回戦終了 ※()内はトータル
浅見 +63.2(+45.8)
石井 +3.7(+10.3)
近藤 ▲21.8(+29.4)
矢島 ▲45.1(▲85.5)

 

★3回戦

東1局はトータルトップ目に立った浅見が8000点のアガリ。
これに飛び込んだのは1回戦、2回戦連続ラスを喰らった矢島だった。
決勝はトータル5回戦、もう後が無い矢島は3回戦でも負債を背負う苦しいスタートとなった。

東2局、その矢島が3巡目に役牌を仕掛け、9巡目に300・500のツモアガリ。
こういったアガリが矢島の真骨長だと思う。所謂「局収支MAX打法」だ。

「局収支MAX打法」とは、与えられた手材料の中でその1局における期待収支を最大限にしようとする選択のこと。
 ドラ
この局、矢島の配牌はこうだった。1、2回戦目連続ラス、3回戦も満貫放銃スタートとあらば、
「何とか門前で進めて満貫クラスを―――」と思ったとしても、人間の心理的には普通のことだと思う。

3巡目の、これを仕掛けてアガリ率が40%あるとして、残りの40%が放銃、被ツモなどの失点や横移動。20%が流局だとしよう。
仕掛けずに門前テンパイを狙った場合、仮にアガリ率が20%に下がり門前テンパイが成功したとしても打点上昇はどうだろうか?
MIN1300点、MAX12000点だが、この手牌では8000点以上になる分布はかなり少ない。
ならば仕掛けた時と仕掛けなかった時のアガリ率差間で生じる失点の可能性を無くしたほうが、この1局の期待収支は上回るといった考え方だ。

鈴木「矢島は論理的思考力が高くて、変な固定概念や慣習みたいなものにとらわれず麻雀というゲームを正しくとらえているイメージ」

現雀王の鈴木たろうは矢島の麻雀を評してこう語った。
固定観念や慣習で、「トータルダンラスが3巡目に仕掛けて1000点かよ―――」と思う人は、非仕掛け時のアガリ率差間で生ずる失点の可能性を軽く見積りすぎる傾向があるのではないかと思う。

矢島は現状1人沈みのダンラス状態、この状況では期待できる横移動などさしてありやしないのだ。
ならばここは「誰にもアガらせない!」くらいの気構えで勝機を待つ。
まだ折り返しも迎えていない3回戦の東場、諦めるにはまだ少し早すぎる。
もしもこの時点で矢島の心が折れていとしたら、このはきっと鳴けなかっただろう。

東4局1本場
後から振り返るとこの局は非常に大きな1局だった。このシーンは牌図をご覧になっていただきたい。

近藤の選択、マンズの染めを意識した手組から道中にドラのを重ねて切り替え、この巡目にテンパイを果たした。
ここで2回戦までのトータルポイントを。

浅見+45.8 近藤+29.4 石井+10.3 矢島▲85.5

まだ3回戦とはいえ、この半荘のトップ目は浅見。ここで浅見に走られると今後がかなり厳しくなる。
その浅見は親である矢島の染めを警戒し、明らかに牌を絞っている様子だった。
いくらマンズが高い場況とはいえ平素なら打-の待ち取りで何も問題ない。
しかし4分の1を争うこの決勝戦の舞台なら―――

近藤は打を選択した。ツモや矢島から溢れるかもしれない-よりも、マンズ以外の単騎で浅見、または石井からの直撃狙い。
そして持ってきた単騎に受け変える。
近藤の河2巡目、3巡目に置いてある、場に4枚見えの、場に3枚見えの、これ以上にない絶好の単騎待ちだ。

石井の手にはが浮いていた。近藤の押し、手出し後にもツモ切っている。この状況においてあれがテンパイしていないわけがない。
その後にの手出しである。この時石井の目からはが4枚、が2枚見えていた。

仮説、元々テンパイだとすると石井が持っている情報。
矢島の打ったに反応が無かったことを考慮するとが手の内でターツとして使われていたパターンは、
の3通り。
その後が全て見えてそれらの可能性を全て否定。とすれば一体あのは何だったのか?

こういった仕掛け読みのスキルは、東南戦よりも仕掛けの多い東風戦で培われたものだと思う。
石井は近藤の単騎待ちを読み切り丁寧にオリた。凡庸な打ち手なら道中でが出ていくシーンもあったかもしれない。

近藤「まあ、あれは悔しかったですけどね―――」

15巡目、近藤が引いた牌はだった。
これがタイトル戦の決勝じゃなかったら、このようなポイント差になっていなかったら、このは満貫のツモアガリに当選していたはずの牌だった。

 加カン ツモ ドラ
この局は矢島にも紆余曲折あったのだが、石井のファインプレーによって、近藤の戦略的思考の裏目によって、このアガリは成就したといってもいいだろう。これがなければ矢島の日本オープンはここで終了していたかもしれない。このアガリでラス目だった矢島がこの半荘のトップ目に立ち、首の皮1枚繋げたのであった。

3回戦のハイライトは南2局0本場。
浅見の先制リーチに対して矢島の選択。

四暗刻単騎テンパイ。かと思いきや、矢島はスジのを打ち-のリャンメン待ちに受ける。
矢島「アガれないテンパイに価値はないでしょ?」
とはいうものの1、2回戦連続ラスの矢島にとって、32ポイントの加点は喉から手が出るほど欲しいはず。
これもピンズの放銃リスクを加味した「矢島流」の局収支MAX打法といったところか。

矢島「リーチを掛けると石井はオリてしまうかもしれないから―――」

 ドラ
幸か不幸か、いやこの場合は明らかに不幸だったと言っていいだろう。石井はこの時ドラ3のイーシャンテンを入れていた。
リーチに対する丁寧な対応が持ち味の石井も、親番でこの手牌をもらっては出るに飛びつかないわけにはいかない。

2軒リーチなら―――この手牌なら石井といえどを勝負したかもしれない。
しかしそれはわからないことであり、結果的には思惑通り矢島は石井からで満貫を討ち取った。

浅見の待ちはであり、単騎に受けていれば矢島の放銃まであった。
「捲り合いは打点よりも広い待ちで」というのは麻雀の基本だが、役満テンパイでも基本に忠実にだった矢島。
実はこの時矢島にはもうひとつの考えがあったのだ。

本来なら守りきれるかどうか微妙なリードだが、2ラススタートの自分がトップ目ならこのまま逃がしてくれる可能性もある―――。

これも完全に矢島の思惑通り、オーラスは石井が無理せず1000点で局を終了。3回戦目を矢島が制する結果となった。

 

★4回戦

3回戦終了時のトータルスコアは
浅見 +50.5
石井 ▲9.2
近藤 ▲13.1
矢島 ▲28.2

だいぶ上下の差が詰まったとはいえ、トップボーナスの大きなルールだ。
4回戦で浅見にトップを取られようものなら最終戦は残りの3人にとってかなり厳しいものとなる。
浅見にだけは何としても―――というのが3人の利害関係が唯一一致するところ。

石井「浅見さんの親は光速で蹴ろうと思いました。でも実際は威圧的な仕掛けしてしまって、あれはミスかなと思いました。1000点にすべきなのでしょうけど、トップが欲しくてああしてしまいました。今思えばこれが一番後悔しているかもしれません」

石井が後にそう語った局面は東4局0本場、浅見の親番。
 ドラ
南家の石井は上記配牌から浅見の第一打に食いつき打とした。
その結果は牌図を参照して欲しい。

手牌4枚になった後、石井の最終手出しはだった。
いかにも満貫以上を主張せんばかりの捨て牌相、これでは近藤、矢島もおいそれとピンズを打ち出せない。
石井は現在29200点の2着目、トップ目矢島は32900点。浅見は20900点持ちの3着目、だからといって決して油断したというわけではない。
石井とてこの半荘、トップを獲れば最終戦は浅見をまくり、トータル首位で迎えられる可能性がかなり高い。
共闘という考え方もあるが、何よりも優先すべきは自分の利。
更にこの仕掛けは上家の浅見を牽制できる可能性もあり、まさに一石二鳥の戦略だったと思う。

誤算だったのは浅見の手牌が想像以上に良かったこと。
浅見は牌図の手牌に次巡を引き入れテンパイすると、ホンの少しだけ体を震わせた。
待ち取りで悩んだわけでもなく、リーチを躊躇ったわけでもない。

浅見「4人の中で私が1番劣ると思います」
実際のところはどうかわからないが、浅見は自分に対してとても謙虚に向き合ってきた。
その弊害といったらいいか、4回戦をトータルトップで迎えても、今一つ優勝できるという実感が湧かなかったのではないだろうか?

「麻雀のためにあんたを今まで進学させてきたんじゃない―――」
浅見がこの道を選んだとき、両親には当たり前のように猛反対された。しかし6年経った今となっては、浅見が近代麻雀の紙面に載ったり、モンドTVに出演した際には、わざわざ親戚中に報告して回るほどの大の浅見真紀ファンだ。ファンといえば雀荘に足を運んでくれるお客様だってそう。それ以外にも面倒を見てくれた先輩たち、自分を慕ってくれる後輩たち。

そして何よりも自分のため。この選択に後悔は微塵もない。だからこそ歩んできた道筋には軌跡を残したい。
麻雀プロの評価はタイトル獲得数で決められることが多い。
「日本オープン優勝」という実績は是が非でも欲しいのだ。
麻雀に人生を賭けてきた浅見だからこそ、勝ちたい気持ち、勝ちたい理由はこんなにもたくさんある。

ツモ時の震えは、あまりの好感触に鳥肌が立ったのか、あるいは武者震いだったのか。
とにかくここにきて初めて「優勝できるかも」と予感させた瞬間には違いない。

浅見は丁寧に、普段と全く変わらないフォームでを横に曲げた。
 リーチ一発ツモ ドラ 裏ドラ
そして普段と変わらないフォームでを一発で引き上げ6000オール。

この時筆者の脳内で―――

吉田「見たかい?あれが小さな龍だよ――」
吉田がまたしても難しい言葉を語りかける。いやいや吉田よ、今はいいからそういう話は。黙ってこの後の展開を見守ろうや。

浅見は南1局に2着目である矢島から5200を加点、南2局を迎えた頃には2番手以降を2万点以上離したトップ目に立つ。
これは決まったかと思いきや、ここから反撃の狼煙を上げたのは南1局に痛恨の放銃をした矢島。
このシーンを牌図でご覧になって欲しい。

これは浅見視点である。近藤の親リーチ、石井の追いかけリーチ。
丁寧に打ちまわしていた浅見がこの巡目にテンパイ。テンパイ打牌は、親近藤に対してリスクの高い牌だ。
普段打っているプロリーグ戦、もちろん勤務しているフリー雀荘でも、この点数状況からリスクを負ってまでテンパイに取ることはほとんどないだろう。

今だって圧倒的優勢の立場だ。ここでわざわざ親リーチに突っ込むような真似はしないほうがいいようにも思える。
しかしタイトル戦の決勝は、特に後半になればなるほど本当に親が落ちにくい。
局収支MAX打法とはいったが、その矢島でさえもここまで来ると自身のアガリよりも近藤の連荘に期待するシーンがあったほどだ。
誰もが浅見のトップを望まない状況、とあらばここは自力で1局潰しにいったほうがいいのであろうか?

浅見は勝負せずに通ったばかりのを抜いた。次巡矢島はを引き入れを真横に叩きつける。
浅見がを勝負していれば、近藤に通っていれば、この局を制したはずのだ。
丁寧なリーチ宣言の浅見とは対照的な矢島の一擲乾坤を賭さんばかりの荒々しいリーチ宣言。
この結果は一発で近藤がを掴み、矢島に12000点の放銃。
次局の矢島の親は案の定簡単には落なかった。連荘に連荘を重ね、ついには浅見を抜き去り矢島の逆転トップで4回戦を終えたのだった。

4回戦終了
矢島 +73.7(+45.5)
浅見 +23.8(+74.3)
石井▲15.2(▲34.4)
近藤▲72.3(▲85.4)

 

★最終戦

逃げる浅見、追う矢島。その差は28.8P。矢島がトップを獲れば矢島の優勝。
浅見が3着だと矢島は2着でも8800点以上の差をつければ優勝。
浅見が4着なら矢島2着で優勝。矢島3着、浅見4着だとトップが石井で或いは大逆転も―――
といったところだったのだが全くそうはならず、奇しくも最終戦はこの2人のマッチレースとなった。

座順は起家矢島、北家浅見のスタート。
矢島の上家に座した浅見が有利かといえばそうでもない。下家である矢島にもできることは十分にある。

東1局0本場
 ドラ
矢島は自分の麻雀を「脅迫と恫喝の麻雀」と自称している。
開局早々配牌に「脅迫と恫喝」の素材が揃う。マンズから打ち出すとすぐにを暗刻にしを切り出す。
「脅迫と恫喝」は捨て牌作りから始まる。3巡目オタ風のをポンとすると矢島の河はこうだ。

上家の浅見は、役牌はおろかソーズの不要牌を安易に切り出しにくくなる。
 ツモ ドラ
矢島がを仕掛けた同巡、浅見は絶好ともいえる役牌のを暗刻にすると、矢島の河を一瞥してを河に放る。
一見何の変哲も無い一打だが、例えば矢島をよく知る近藤あたりが同じ状況でこの選択を迫られたら、ここでをパンとリリースしたのではないだろうか?

準決勝、決勝と同卓しているとはいえ、「脅迫と恫喝」は活きている。
次巡を引き入れた浅見はここでをリリース、その1巡の間で重ねたを矢島がポン。

浅見「べ、別に恫喝に屈したわけじゃないんだからねっ!自分の打点アップも見ただけなんだから!」

浅見はそう言うかもしれないが、1巡の後先で勝負が決してしまうことがあることも知らぬわけではあるまい。
結果的にはこの逡巡が矢島に好機をもたらすことになったのだが、矢島にトップを獲られると負けるといった状況下。
だとしたら浅見の考えるように簡単に親を流すだけでは相手のチャンスを摘んだことにはならず判断が難しいところだ。

次巡浅見はを引き入れカンのヤミテン。
うまく手変わればリーチの構えも矢島が即掴んで1300点のアガリ。何はともあれ東1局は浅見に軍配が上がる

東2局0本場
北家・矢島
 ドラ
西家・浅見
 ドラ
お互い好牌姿、何かこの後の接戦を予感させるような雰囲気が伝わってくる。
矢島は4巡目にを引き入れリーチ。浅見もリャンシャンテンながら応戦する構えだったのだが、
親の近藤からをアガリ、裏は乗らずで3900の加点。浅見を僅かではあるが逆転する。

東3局0本場
浅見が丁寧に5ブロックに寄せ7巡目にこのイーシャンテン。
 ドラ

しかし先制リーチは同巡矢島。
 ドラ
浅見も当然ここは戦う構え、3巡矢島の捨て牌に目もくれずツモ切ったのだが、追いつく前にツモアガリは矢島。
価千金の裏ドラを乗せて浅見に10000点以上のリードをつける。

東4局0本場
東家・浅見
 ツモ ドラ
2巡目に浅見はを切る。最終戦は2人の真後ろで観戦していたのだが、本当によく手がぶつかる。
南家・矢島
 ドラ
ここから当然のポンで打。次巡浅見は絶好のペンチャンを引き入れ早くもリャンメン×2のイーシャンテン。
余剰のを重ねると矢島の河を一瞥し暗刻のに手をかける。
矢島の牌姿は7巡目にこうなった。
 ポン ツモ ドラ
これは牌図を参照して欲しい。

現在のリードは11300点。ここで軽く流したとしても、浅見にはもう一度親番がある。
浅見が2度目の親番を迎える頃には、近藤も石井も親番を残しておらず、他力決着の可能性はほぼない。
ここで点差を広げておくに越したことはない。ホンイツ狙いで間違いないが―――

矢島は浅見を評して、「門前志向、リーチを主体のオーソドックスな打ち手」と評していた。
オーソドックスな打ち手である浅見の河、はツモ切りだったがと手出しされたあの河を矢島はどう見ただろうか?
浅見から打たれにくそうな受けを避け、打たれやすそうなを拾いに行く。そんな発想も一瞬頭をよぎったことだろう。
しかしその考えを振り払うかのように矢島は打とした。
ここは躱すのではなくねじ伏せてやる―――これは気合の入った一打だったと筆者は思う。

浅見からツモ切られた牌はではなくだった。矢島はすかさずチーして-テンパイを入れる。
 ドラ
浅見はこのイーシャンテンだった。筆者の目からはが全見え、-は絶好の受けに見える。
矢島が何かの気の迷いで待ち変えをしない限り助かる可能性は極めて低い。
しかし、あの受けを残した今の矢島に気の迷いは期待できそうにない。浅見は生牌のも押した。
ああ、やはりこれは行く気なのだ。助かる道はを引くかテンパイしないかの2通りなのだが―――

浅見のリーチ宣言牌を矢島が捕らえる。
価千金の5200直撃、これで矢島と浅見は21700点差。
いよいよ矢島大逆転優勝の可能性が相当濃くなってきた瞬間だった。

タイトル戦決勝の卓上には魔物が住んでいる。

その魔物の正体は「プレッシャー」だ。
現に浅見はこれだけの大差をつけられながら、魔物から解放されたかのように表情は晴れやかだった。
逆にこれに取り憑かれかれたのは矢島のほう。少しばかり表情が固くなってしまったような気がする。

南1局2本場
点差は29900点まで広がった。浅見は10巡目カンをチーして打
 チー ドラ
この超ド級テンパイ。これを矢島から討ち取れば一気に5000点差まで詰め寄ることができる。
矢島は浅見の打ったそのに、
 ドラ
ここからチーして形式テンパイを狙う。矢島はプレッシャーに強いタイプの人間ではない。
どちらかというと自らを鼓舞することによって、その重圧をはねのけようとするタイプだと思う。
もしかしたら矢島にとって仕掛けるということは、重圧を振り払わんとする行為のひとつなのかもしれない。
これは矢島放銃あるかも―――と思ったが、石井がを掴んで12000。供託、本場込みで13600点の浅見の加点となった。

矢島の親が落ちた。
矢島優勝まで後3局、浅見優勝まで後16300点―――

南2局1本場
動くことによって勝機を求める矢島に対して、動かないことによって勝機を求める浅見。
全く対照的な2人の麻雀だが、それが顕著に出たのがこの1局
西家・浅見
 ドラ
ドラのが浮いているが役牌×2のチャンス手だ。
ここで6巡目に打たれるをスルー。おそらく矢島ならトイトイも視野に入れて仕掛けたのではないだろうか?
その選択の優劣は不明だが、浅見は仕掛けなかった次巡にを重ねると場況的に良さげなを残して打
9巡目場況的に絶好に見えるを引き入れると打とし、メンツ手と完全に決別する。
13巡目に待望のドラを引き入れ、チートイツ・ドラ2のリーチ。
これは・・・本日3度目の龍降臨演出なのか―――と思わず期待してしまったのだが、親の近藤から出アガリ8000は8300点を加点する。

ん?私、いま龍っていいましたか?

矢島優勝まで後2局、浅見優勝まで後8000点―――

南3局0本場
南家・浅見
 ドラ
浅見の6巡目、打たれたをスルー。追う立場とすれば何とかしたい、矢島なら秒速でポンと動きそうな牌姿だが、浅見はじっと機を待った。

南3局1本場は浅見が近藤から2000は2300のアガリ。
そして迎えた最終局、矢島優勝まで後1局、浅見優勝まで後4700点―――

いよいよ大詰めだ。
浅見11巡目の選択は牌図を参照して欲しい。

浅見「わたしが今まで見てきた村上さんとか新井さん、石橋さんとか鈴木達也さんは本当に強い打ち手で、手牌におごらず焦らず勝ち切る人ってあのテンパイを取らないメージがすごく強くって―――」

後に浅見はそう語った。
この時矢島は7巡目打-待ちのピンフテンパイを入れていた。矢島は摸打がややオーバーアクションだ。

それを見た浅見は、

浅見「雰囲気的にテンパイしていそうだったのでリーチしたほうが良かったのかなぁ―――」

もちろん逡巡はあった。しかし迷ったら浅見の場合は自分が師と仰いできた強者達が打牌するイメージを重ね合わせて選択するものだろう。

矢島は矢島流、浅見は浅見流。
たとえ選択が真逆だったとしても、ここまで勝ち上がってきた過程においてどちらが正しかったかなど誰にもわからない。
浅見はをツモ切りテンパイに取らず、その直後矢島に力を込めてツモ切られる

浅見がリーチをしたとしても矢島が絶対に止めることが無い

「うわっ―――」
筆者はこのシーンを両者の真後ろで見ていて、表情に全く変化を出さなかったかどうか自信がなかった。

こんなことを話しても全く意味のないことかもしれない。
曲げていれば裏ドラも乗って7700点を直撃、浅見が矢島を10700点まくってもう1局だった。
しかしながら山にはが2枚、が1枚、も1枚と、希望の手変わり牌だけでも倍残っていたのも事実。
は山に2枚、偶然矢島が掴んだが、浅見リーチで石井、近藤からは一生出ることの無い牌であることは間違いない。

麻雀は選択と抽選ゲームだ。
選択の機会では判断力を問われるものの、抽選の機会では想いだとか心意気、気合とか執念、技術とか全て何もかも無関係に選ばれる。
麻雀の神様は2人の健闘を称えるといった粋な計らいは絶対にしない。
ただただ無慈悲に抽選の結果を淡々と突きつけるのみ。

――― ツモ!
この運命のクジ引きは矢島が当選、日本オープン優勝者が決定した瞬間だ。

矢島 亨
日本プロ麻雀協会Aリーグ所属 7年目

矢島は普段薬品会社の営業をしている普通のサラリーマンだ。割と忙しくて退勤時間もいつも遅い。
麻雀に接する機会は他3人に比べて圧倒的に少ないであろう。

この実戦不足というハンデをどうやって克服するか?
矢島は4年前Aリーグに上がったときにこう考えた。量が不足しているのなら質で勝負したらどうだろうか?

以来4年間、毎週1回ほぼ欠かすことなく、
平日の21時より「矢島研究会」と称する麻雀の勉強会を開催している。

4年間、週1回をずっとだ。研究会と称される場は他にもあるが、
筆者はここまで定期的に継続して行っているものをこれ以外に知らない。

武中「自分のスタイルを信じながら常に疑いを持って研究している健全な懐疑心が彼の強みですね」

発足当初からこの研究会に参加している現雀竜位である武中進は矢島を評してこう語った。

 

矢島は主催者でありながら会場の貸卓代も参加者と同様に支払う。
そういった麻雀に対する情熱や、飽く無き探究心が、参加メンバーの共感を得ているということ。
平日の遅い時間にもかかわらず毎回10人前後の人が集まる。
矢島の人徳もさることながら、4年間も継続的に開催できた裏付けとなる何よりの理由は、努力の結果に他ならない。

「時間が無いからできない」というのはただの言い訳に過ぎない。
やる気さえあれば上達の方法はいくらでもある。
「継続は力なり」その方法を見つけたら継続してやり続けなければ意味がない。
「やる気」「継続」矢島はその2つを愚直なまでに実践してきた。
今回の戴冠にも裏付けとなる理由は十分にあるのである。

今年も雀王戦Aリーグが開幕した。矢島にとっては4年目のAリーグとなる。

矢島「性格上オリて負けると後悔するので、倒れるなら前のめりに倒れるって決めています」

局収支MAX打法+矢島のこの気性だ。
これは内緒ですが、筆者は矢島流の麻雀を「オレが!オレも!オレだ!打法」と心の中で勝手に名付けていた。

時に衝撃的な放銃もすることはあるが、自身の決定打を捌かれることも少なくはなかった。
2年前雀王決定戦で同卓した際、優勝は鈴木たろうだったのだが、筆者はどちらかといえば矢島にしてやられた感が強かった。

今年も1年あれに付き合わないとならないのか―――と思うと、面倒くさくて仕方のない気持ちになる。

奇しくも第1節は同卓になった。

「よし!ここで絶対に叩き潰してやる―――」
と意気込んで挑んだのはいいが、5万点オーバーのトップ目から、なぜか箱下の矢島にまくられてしまったのですが??

矢島「優勝して満足?いやいや、今年も全部獲るつもりだよ(笑)」

今期のリーグ戦も「オレが!オレも!オレだ!」と、点棒を大移動させる男は、きっとこの男に間違いないだろう。

(文・木原 浩一)

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