6月25日(日) 体育協会本部競技室(日本橋) 決勝進出者 鈴木たろう(協会)、横山明香(協会)、鈴木悟(棋士会)、中嶋龍太(最高位戦)
●四面楚歌 鈴木たろうには勝たなければならない理由があった。 半年ほど前、鈴木は日本プロ麻雀棋士会を脱退。まもなくして、協会に入団する。一からのスタート。 「一番下から一気に雀王位まで駆け上がってやる!」と意気込ん鈴木に与えられたのはB2リーグからの出場権だった。 実力、実績を買っての判断である。
しかし若手プロの中には、鈴木のB2からの出場に納得がいかないというものもいた。 ―鈴木たろうはそれほど強いのか?― 決勝に残った鈴木の背中に、鋭い視線が注がれていた。
また、単に決勝のメンツから見ても、鈴木の実績は群を抜いていた。 「鈴木たろうが若手3人の挑戦に受けて立つ」という、鈴木には嬉しくない図式が成り立っていた。 ―勝って当然― 鈴木の実力を知る打ち手からはこんな評価だっただろう。負ければ、彼らの評価を落とす。 さまざまなプレッシャーのなか、決勝がスタートした。
●鈴木らしい打ちすじ 東場、横山が満貫、中嶋がハネ満をツモあがり、 鈴木(さ)も、親で着実にあがりをものにする。 ひとり出遅れた感のある鈴木だが、動揺は無い。 麻雀とは必ず誰かがリードする、そういうものだ。 バラバラの配牌に正着打を繰り返しながら先手を取れる局を冷静に窺っている。 やっと手が入ったのは南2局2本場。ドラを雀頭にしての−待ち。
無理に染めに走らない、鈴木らしい打ちすじだった。 リーチ後、なかなかツモることができないでいたが、他の3人がおり局は長引く。
そして、17巡目、鈴木は綺麗な放物線を描きながら、を卓に叩きつけた。 この局、鈴木のあがり牌は深かった。 誰かが交わしに行かなければならなかったのかもしれない。
●意地の流局 南4局0本場 親 横山 鈴木(た)37800点 中嶋35200点 横山27700点 鈴木(さ)19300点 僅差で迎えた最終局。 鈴木はこんな修羅場を何度潜り抜けてきたのだろうか。 配牌は重たかったが、決勝進出15回目という鈴木はそれすらも楽しんでいるように見えた。
対局後のインタビューでこのときの気持ちを尋ねると、 『簡単な手来い!』そして、『中嶋さんアガるな!!』って祈ってました。」と笑って答えた。 その言葉を疑いたくなるような落ち着きぶりであった。
さて、対局に戻ろう。 8巡目、鈴木は粘り強く重ねた役牌をたたき、無双位に一歩近づく。 しかし、次巡、親の横山からリーチの声がかかった。横山との点差は10100点。 このリーチに2着目の中嶋が無スジのを静かに押す。 中嶋もこの巡目に条件クリアのテンパイをいれたのだ。 鈴木は大きなため息を一つつく。これでもう降りられない。 後は誰のあがり牌が先に山に眠っているかだった。 この局で優勝者が決まる、誰もがそう思った。 結果は流局。 「絶対に自分が先にあがる!他の人にはあがらせない」 そんな3人の意地が流局にしたのか。 はたまた、手牌に皆のあがり牌を吸収し、決してぬるい打牌をすることのなかった鈴木悟プロの最後の意地なのか。
もちろんあがればトップに立つだけでなく、他とも大きく差をつける。 ダマテンという選択肢もあったが、この局で決めにきたのだ。 同巡、鈴木もテンパイを入れる。 チー 14巡目、一旦まわっていた中嶋もようやく追いつき、リーチ。
2度目の3人テンパイだ。 鈴木のあがり牌はたった1枚。 山にいる枚数では中嶋と横山の勝負だった。
「ロン」 流局間際、誰もが望んだその言葉は鈴木の口から発せられた。 ―無双位 鈴木たろうの誕生―
―鈴木たろうはやっぱり強い― 最後に、若手プロに実力と経験の差を見せつけた鈴木の、対局後のインタビューを紹介しよう。 細い目をさらに細くしてにっこりと笑いながら答える鈴木は、さっきまでとは別人に見えた。 Q1.優勝おめでとうございます!今の気持ちを聞かせてください。 最強位をとった後、決勝には残れど勝つことができなかったので、無双位をとれてほっとしています。 Q2.決勝は勝って当然と思われていたふしもあったと思うのですが、プレッシャーはありましたか? 当然ありました。「こいつまた負けたよ」って思われるんじゃないかと思って…。 Q3.最後、あがりトップで優勝となったとき、どのようなことを考えて打ちましたか? 「簡単な手来い」そして、「中嶋さんアガるな」って祈ってました(笑)。 Q4.ずばり、勝因はなんでしょう。 実力です。 ホントはツイてただけだけど、運も実力のうちって言うでしょ。 Q5.ファンの方に一言。 とれるタイトルは全てとります。あ、もちろん願望です。 応援よろしくお願いします! ―とれるタイトルは全てとる― 鈴木の目はすでに次の日本オープンに向けられていた。 最強位に続き、4つ目のビッグタイトル。 我々は鈴木たろうの伝説の一部を見ているに過ぎない。
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